第29話亀裂

「それと光莉にもう一つ言って置かないといけない事があるの…」


「何ですか真冬先輩?」


「豊和君の左手…なんだけど」


「?」


「左手が今は動かせない…違うわね、動かないから一緒に居る時はサポートしてあげて欲しいの。言わなくても皆率先してするとは思うけど」


「…何を言ってるんですか?左手が動かない?」


「豊ちゃん怪我したの。それでリハビリ次第では元に戻ると豊ちゃんからは聞いてるよ」


「……怪我の原因は?」


「それは…」


「私が襲われそうになった時に、私を助けに来てくれて怪我したのよ」


「そ…うですか。先に謝って置きますね。すいません真冬先輩…」


「光莉何を言って…」


パァ──ン!


「光莉!アンタ何をっ!」


「美麗先輩、敢えて言わせて頂きますけど貴女達先輩方が付いていながら何をなされてるんですか?」


「どういう意味よ?」


「そのままの意味ですよ。生意気と思われても仕方無いけど言っておきます。豊和先輩が万が一死んでたらどう責任を取れるんですか?取れませんよね?」


「それは…」


「メインヒロインの先輩方5人は?」


「そうだね、光莉の言う通りそういう設定があったね」


「他の男性の好意なんていらないけどね」


「確かに今でも恋文を頂く事はありますけど」


「先輩方には危機感が全く無いみたいですね!人間の嫉妬や妬み、怒り等の負の感情は時に恐ろしいモノになりますよ」


「…光莉の言いたい事は分かったわ。確かに思えば思う程私は愚かね」


「真冬どういう事よ?」


「真冬先輩は分かられたみたいですけど本当に分からないのですか美麗先輩?」


「何よ、さっきから。偉く今日は突っ掛かって来るじゃない!」

「当たり前じゃないですか!先輩は1人しか居ないんですから!美麗先輩は豊和先輩に出逢ってからモデルの仕事はどうしました?まだ続けているんですよね?恋愛がバレたらどうするんですか?」

「それが何!別にバレたらバレたで…」


「色んなファンが居るんですよ?中には応援してくれる人もいるかも知れませんがいわゆるガチ恋勢とか狂った感情を持つ人を居るんですよ?豊和先輩が襲われる可能性を考え無いのですか?」


「アンタだってアイドルやってるでしょ?」

「先程辞める連絡は済ませましたよ!先輩に出逢えたら辞めるつもりで事務所にも前々から伝えてましたし先輩にもう一度…もう一度こういう風に出逢えたんですよ!何の為に誓約を結んだんですか?」

「!?」

「何に驚いているんです?当然の事ですよ!美麗先輩は豊和先輩の事を本当に愛しているんですか?」

「そんなの当たり前じゃない!」

「なら何でモデル辞めて無いんです?豊和先輩が悪意に晒されたらとか考え無いのですか?」

「そ、そんなの…そんなのアタシの勝手でしょう!」

「はぁ~、ならハッキリ言います。豊和先輩から離れて下さい!そんな事も分からない人に先輩の傍は相応しくありませんので!先輩が危険に晒されるのは目に見えていますので。誓約はどうにかして結び直す事を考えましょう」

「っ!?」

「光莉さん言い過ぎではありませんか?」


「愛美先輩も何の為に以前より力を付けたのですか?」


「…それは力が無いと何も守れ無いからですわ」


「何を守るのですか?私ならSPでも護衛でも何でもいいから大事な人達には付けますよ」


「…確かにそうですわね。返す言葉もありませんわ。私が真冬さんにも護衛なり付けておけばと悔やんでおりましたもの…」


「私も不用意にあの時にアイツらに付いていかなければ…豊和君が怪我をする事は無かった訳だもの…」


「確かにボク達は豊君にまた出逢えて浮かれすぎていたのは否めないね」


「私も幼馴染みのあの人が私を狂気染みた思いで思っていたのには気付けなかったもん。あの時茜ちゃんが守ってくれたから良かったけど居なかったら豊和君が怪我してた可能性を考えると怖くなってくる…」


「先輩方が浮かれるのは痛い程気持ちは分かりますがもう少しだけ考えて下さい。私は先輩と2度と離れたくないので」


「それは皆同じよ」


「何よ!アタシだってアイツの事は誰より考えてるわよ!離れるな…んて…」


ダッ!…ガヂャッ…バタン!!


「「「「「「「「「美麗(さん)(ちゃん)(殿)(先輩ぃ)!!!!!!!」」」」」」」」」





──時刻は夕暮れ時、自室に戻っていた俺は左手のマッサージをしていると美麗先輩が家を飛び出したと聞いたのだった。

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