第28話side光莉回想

 サブヒロインという立場は自我が目覚めた私からすると都合が良かった。メインヒロインに比べるとされる回数は少ないからだ。選ばれた時は苦痛しか無いけど。


 あの日いつもの様に攻略相手に選ばれた私は嫌々ながらもまたいつものシナリオが始まったかと半ば諦めながらを待つ。胸糞悪い事に私のシナリオは在り来たりも在り来たりな暴漢に襲われる所から物語が始まる。初めからバッドエンドも用意されており悪趣味な奴はわざとそちらに進む奴もいる位。


 うんざりしながら私はいつもの様に用意された台詞を口にする。


「だ、誰か…誰か助けてぇぇ!」

(この台詞は私の心の叫びだ…)


 いつもの様に主人公が現れいつもの選択肢


『おい、警察には連絡済みだぞ!』

『俺も混ぜてくれよ!』


のどちらかの台詞を発する事だろう。


 主人公が現れた。今回はキャラメイクしている奴かと心で思う。黒髪で眼鏡を掛けている。陰キャかな?まぁ、どうでも良い事か。早く選んで、少しでも早くシナリオを終わらせて欲しいと願う。




─「こっち!」

 私を囲む3人の男の1人に体当たり。バランスを崩した男は仲間の1人にしがみつく。その隙に彼は私の手を取りその場から駆け出して一緒に逃げる。


(こんなのシナリオに…無い)


 上手いこと男達から難を逃れた私達はへと辿り着く。私はふと心の中で思った言葉のつもりだった。


「はぁはぁ、疲れたね!大丈夫?シナリオに無い事したら不味かったかな?はぁはぁ…」


「えっ?」

(ヤバっ!?声出てた?って何でこの人シナリオ無視出来るの?ただの陰キャじゃ無かったの?眼鏡掛けて目に前髪が被さっているのに?偏見だったらゴメンね!でも第一印象はそう思ったんだもん)


「この眼鏡はただ単純に目が悪いから掛けていて前髪は忙しくて散髪に行けて無いだけだよ」


「…私、声に出てました?」


「う~んと何となくそう感じただけ」


 ニィ~と笑う彼の笑顔が心に入ってくる。今迄感じた事が無い不思議な…それでいて心地よい感情。男達から逃げた時から掴まれたままの手が異様に熱い。私が掴まれた手を見つめていると、


「ゴメンね!いつまでも掴んでて!」


彼の手が離れていく…


「ぁ…」


 手の温もりが名残惜しく感じてしまい声が漏れる。何考えたの私ぃ!いけないいけない!そんな事より大事な事を聞かないと!


「えっと、さっきはありがとうございます。どうしてあんな助け方を?選択肢ありました?」


「選択肢なんて無かったし、君が選択肢以外を望んでいたと強く思ったからかな。助けてって君の心の声が強く俺には聴こえたんだ。勘違いだったら恥ずかしい事この上無いけど…」


 私の声が聴こえた?私は変える事が出来ないと思っていた。でも彼は会って直ぐに全てを覆してくれた。初めての事ばかりに戸惑いながらも私は彼と色んな話をした。


この河川敷想い出の場所で。






──クスクス。先輩との物語を思い出すだけでも自然と笑みと幸せが溢れる。先輩は恋愛ゲームをしている筈なのに奥手で関係が進まない。いつも私がリードしていた。後に聞いた話では皆が皆、同じ人に恋をしていた。最初に出逢ったのは遥ちゃん。でも先輩は覚えていない。ゲームで例えると先輩がこのゲームを始める度まるで先輩自身がリセットされているかの様だった。そのお陰で皆が皆先輩との恋を楽しめた訳だけど。漸くまた巡り会えたんだ。今度こそ離さないからね!・せ・ん・ぱ・い♡


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る