第31話モデルを続ける理由

 最初は一週間に一度。まだ話してたいと思い始めると5日に一度。もっと一緒に居たいと思い3日に一度。アイツに逢いたくて逢いたくて堪らなくなり毎日でアタシ達は逢う事になった。アタシが逢いたくて我慢出来ない!ホントアイツったら…ここは恋愛ゲームの世界で私は攻略されるがわなのにアタシがアイツを攻略しているみたいになってるじゃない!納得いかない!…でもアイツの傍に居ると心が心地よく音が弾む。これってそういう事よね?ドキドキするしアイツの傍に居るだけで体温が熱くなる。


 それなのにアタシだけなの?ドキドキするのは?体温が熱くなるのは?あの時出逢ってから目の前の豊和ばかは半年以上もこの世界の時が立つのに…


「美麗先輩は…」


「美麗!み・れ・い・って呼べといつも言ってるでしょ!特別に名前で呼んで良いとアタシは言ったわよね!」


「いや、付き合ってもいない女性の名前を呼び捨てにするのはどうかと…」


─いまだにこんな調子だ。ゲームの舞台は一年間。時間がどんどん無くなる。あ~もう!何でコイツは、コイツは…。いいわ!美麗の本気魅せてあげるわ!


「少しは考えなさいよ!毎日こうして逢うのは何でだと思っているのよ!」


「え~と相談とか…雑談?」


「…アンタ馬鹿なの?」

(そんな事で毎日逢う訳無いでしょう!コイツの恋愛脳はどうなっているのよぉ!)


「美麗先輩酷い…」


 もういいわ。アタシはアイツとの距離を縮める。顔が熱い…う~、全部コイツのせいなんだから!アイツの後ろにはフェンス。アタシはアイツを逃がさない様に両手で壁ドン。この場合フェンスドンかしら?とにかくアイツをアタシとフェンスの間に挟み込む。フェンスを握る両手に力が入る。


「ちょっ、み、美麗先輩距離が近い!近いですって!」

「黙って!」

「!?」

「み・れ・い・と呼べと…言ったでしょ?」


「分かりました分かりましたから…美麗。これで良いでしょ?距離が近すぎますって!」


 名前を呼ばれるだけでこんなに嬉しいなんて…。アタシは今どんな顔をしてるの?分からない。豊和は顔を赤くして焦っているわ。フフン!良い気味。お互いに吐く息がかかり合う。


「…もう一度」


「えっ…」


「もう一度…名前を呼んで?」


「美麗…んっ!?」


─チュッ♡


─ってアタシ何してるのぉ─!ここまでするつもり無かったのにぃぃ!チュク♡止まらない!止まらないんだけどぉ?お互いの唇が重なり合うだけなのに…んっ…チュッ♡


 夢中になって唇を重ね合わせた。幸せな時間。どの位重ね合わせたのか何回重ね合わせたのかは知らない。想いが止まらなかったのぉ!


「ふん、御褒美よ。有り難く思いなさい!アタシの…アタシのファーストキスなんだから…」


「……」


「何か言いなさいよ!何で何も言わないのよ!もぉー!恥ずかしいでしょう!」


「恥ずかしいのは美麗のせいだからね!」


「んなっ!そうじゃないでしょ!アタシの唇の感触とか唇の感触とか唇の感触とか言う事いっぱい色々あるでしょう!」


「唇の感触しか言ってませんけどね?」

「うるさい!」


「酷いな美麗は」

「アンタが余計な所を突っ込むからよ!」


─不意に身体が引き寄せられる。


「…柔らかかったですよ…とても。そして嬉しいですよ。美麗のファーストキスを貰えて」


「っ!?………そう………」


 アイツはたまに不意打ちの様にこちらが照れる事を言ってくるし行動してくる。耳元で囁かれた言葉を聞いて私はアイツの胸元に顔を埋めるしか無かった。





******


「懐かしいなぁ…アタシと豊和のファーストキス。ここで交わしたんだよね。その後もここで色々話したり…色々したりして…」


そしてあの時アイツが言ってくれた言葉。




******


「モデル…辞めようかなぁ…」


「どうしたの急に?嫌な事でもあった?」


「別に……って違うわね。最初は好きでこの仕事してたけど、いつ頃からかは忘れたけど何でしてるのか分からなくなっただけよ」


「…そうなの?」


「それに水着の写真が雑誌に載る度、男共がイヤらしい目線で写真を見るでしょ?」


「嗚呼~っ。そうだね」


「アンタも彼女のそんな写真…見せたくないでしょ?」


「確かに…ね」


「アタシもアンタだけにしか見せたく無いし。って勘違いしないでよね!アンタの方がアタシを好きだから言ってあげてるだけなんだから!」


「プッ!」


「何よ!文句あんのぉ?」


「無い無い!美麗は相変わらず美麗なんだなぁと思っただけ」


「…馬鹿にしてるのアンタ?」


「真面目な話、後悔しないの?モデル辞めたら。小さな頃からの夢だったんだよね?」


「そうだけど…」


「そりゃあ彼氏としては見せたく無いし俺の美麗をそんな目で見るなとか嫉妬するけど…」


「そうなの?嫉妬するんだ。ふ~ん♡」


「茶化さないし、そんなに嬉しそうにしないの!」


「べ、べべ別に嬉しくなんてしてないんだから!」


「ゴホン!とにかくそんな感じだけど俺はモデルしてる時の生き生きしてる美麗の表情がとても綺麗だと思うし輝いてるとも思っているよ。自慢出来るし!こんな輝いてるが俺の彼女だって!」


「そ…そっかぁ//////」


「それに小さな頃からの夢だったんだよね?夢を叶える人ってどれ位居るのか分からないけど俺は凄いと思うし尊敬する。最終的に決めるのは美麗しか出来ない事だけど俺は美麗の道を応援するよ」




******


「あの時言ってくれた言葉とアタシの事を想ってくれてる表情がとてもアタシの中に残ってるんだよ…豊和…」


 小さな頃からのアタシの夢。設定とはいえそれはアタシの中に深く刻まれたモノ。自分自身憧れも誇りもあった。


「どうすれば良いんだろ…豊和…教えてよ?アタシ…アタシ…」



「こんな所で何してるの?美麗ちゃん♡」


─「!?」


 声がした方に振り返ると体格が良い眼鏡を掛けた男性が何ともいえない目つきでこちらを見つめていた…。






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