第6話妹が俺の存在を隠していた
「ただいま~!」
─パタッ!パタッ!パタッ!パタッ!パタッ!…慌てて玄関に向かって走って来る誰かのスリッパの音。えらく慌てているみたい。見慣れない靴があるしお客さんでも来ているのか?
「お、おおおおお兄ちゃん!?今日はどうしてこんなに早いの!?」
「んっ?高校は昼迄だったし、直弘と一緒に今日は真っ直ぐ家に帰って来ただけだけど」
「そ、そそそそうなんだ…アハハッ!?」
「…どうした渚?今日はおかしいぞ?キャロルお姉ちゃんと母さんは?」
「ふ、2人共出掛けてるよ」
「そうか、それと玄関の靴誰か来ているのか?」
「べ、べべ別に誰も来て無いけど…」
「今日は本当に変だな?あっ…もしかして彼氏なのか?」
「あるわけないからそんな事!!!私はお兄ちゃん一筋だからっ!」
「お兄ちゃん一筋って宣言されても…」
「どうしたの渚ちゃん大声出し…て……?」
─玄関に続く廊下にヒョコッと現れたのは可愛い女の子。何かビックリしているけど、渚の友達かな?
「こんにちわ。渚の友達かな?渚の兄の豊和です。宜しくね!」
「あばばばばばば…お、男の…人…」
「あちゃあ~!?」
「お、おい渚。この子かなり動揺してるみたいだけど大丈夫か?」
「…光莉ちゃんは男性への耐性なんて無いから…まぁ、こうなるよね…」
「ね、ねねねねねぇ、渚ちゃん?あああああ、兄ってどういうこと…?渚ちゃんお兄ちゃん居たなんて知らなかったんだけど!?」
「あ~…ばれちゃったね!ほらっ、男性が家族に居ると知られると色々問題が出てくるから…」
「渚ちゃん…そこは親友の私には話して欲しかったんだけど?」
「ゴメンゴメン光莉ちゃん!(テヘペロッ)」
「テヘペロッじゃないよ!だ男性が居るのならもっとお洒落してきたのにぃ!」
「…だから教えなかったんだよ」
「も~渚ちゃんの馬鹿ぁー!は、はは初めまして渚ちゃんのお兄さん。種村光莉です。光莉って呼んで下さい!」
「あ、嗚呼宜しくね、光莉ちゃん」
「はぅ~…男性から初めて名前呼びされた…コレッて結婚よね!」
「それは違うからね光莉ちゃん!?」
─騒がしい子だなと笑っていると…アレッ、よく見るとこの子の顔と名前どこかで…アイドルの光莉ちゃん!?馬鹿な…
「ひ、光莉ちゃんに聞きたい事があるんだけど…「何でも聞いて下さい!(ズイッ!)」…嗚呼、光莉ちゃんってテレビでよく見るあの種村光莉ちゃんでは無いよね?」
「私ですけど?」
来たぁ───────────っ!!?
何を隠そう俺は彼女のファンなのだ。ポスターから写真集迄全て買っている。くっ、一目で分からなかったとはファンの名が泣く。
「ファンです」
「「…えっ!?」」
「どうかサイン下さい!」
─必殺技ジャンピング土下座でお願いする。
「お、お兄さん!?ど、どうか土下座は止めて下さい!男性に女性が土下座なんてさせたなんて聞いた事ありませんから!」
「サインお願いしやっすぅぅー!!!」
「い、いくらでもサインしますから!だからどうか…」
「…約束ですよ?」
「も、勿論です!男性に頼まれれば断るアイドルなんていませんよ!したこともないので私の初めて…どうか貰って下さい…」
「言い方…素晴らしいです。助かります!」
「お兄ちゃん?」
「どうした渚?」
「私…光莉ちゃんのファンなんて聞いた事無いんだけど?」
「…誰にも言って無いしな。それにもう少しだけ邪魔しないでくれ!今、俺は…一ファン、彼女のファンの1人として出来うる限りの事がしたいんだ!」
「そんなキメ顔で言われても私が嫉妬するだけだよ!」
「はぅ~…う、嬉しいです。アイドルしてて初めて良かったと思えました。男性と話せるだけでなくこうしてファンと宣言して貰えて…」
「あっ、握手も良いでしょうか?」
「ふぇっ!?あ、握手迄…良いんですか?」
「勿論です!どうか宜しくお願いします!」
「…や…優しくして…下さい…ね?」
「当然です!」
この世界のアイドルは少し特殊。勿論なりたい職業ランキングでは現世と同じく上位に位置するがその理由が特殊。男性と出会う機会が訪れる可能性があるからだ。男性アイドルや男性の俳優が居る場合役だけでも触れ合いたいと思うらしい。何年か前に居た男性のアイドルと女性アイドルが結婚した時なんかは自分も自分もとアイドルを目指す者が殺到して大変な騒ぎになった。現在は芸能界に男性が居ない為、男性役は女性が男装して演じている。
まぁ、そんな感じで光莉ちゃんに夢中になっていると、妹が少し…かなり怒った表情?でこちらを見ているが光莉ちゃんのファンとしてはこの機会を逃す訳にはいかないのだ!推しがいる人には分かるよなぁ?ちゃんとサインに握手迄しっかり頂く事が出来て俺はホクホク満足感。
この時の俺は考えもしなかった。
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