第5話傷痕
今日は豊和が退院する日だ。豊和に残された時間がどれ位あるのかは分からない。でも焦ったらいけないと直感が告げている。それ程豊和の傷は深いと思っている。俺に出来る事といえばいつも通り接するだけ。あの日俺を助けてくれたお前の様に俺はお前を助けてみせるから!
******
「よぉ~豊和迎えに来たぞ!」
「君もホント律儀というか何というか…」
「ほれっ、これがお前が着る服だ。絶対に似合ってるから着替えろよ!」
「君の前で着替えるのか?」
「何言ってんだよ!男同士だし心友だからな」
「はぁ~…親友になった訳では無いけど、まぁ、良いか!服も用意してくれたし、入院費迄都合つけてくれたし、借りはどうにかして返すから待って欲しい」
「良いから良いから!気にするな」
「今から着替えるけど…気にしないでくれ」
「んっ?」
病衣を脱ぎトランクス一枚になった豊和の体。痩せ細り骨が浮き出て無数のアザや火傷の跡が痛々しい程刻まれている。
「…お前その体…」
「見ない方が良いよ。気色悪いだろ?自分でも分かっているよ。この傷が気になるかい?」
「お前に…俺の心友にそんな事をした奴は誰だ?」
「君はホントに変わっているね?これを見たら気色悪がるか新しく傷を刻むかのどちらかなのに…」
「新しく刻む?」
「そうさ。面白がって自分はこんな傷つけてやれるんだぞって感じかな…人間ってホント不思議だよ。1人がやり始めたらまた1人また1人と集まってやり始めるのだから。群れになれば強くなったと錯覚するのかもね…」
「…もういい。これからは俺がお前を守ってやるしこれ以上傷なんてつけさせない!俺にお前が負った心の傷を分けてくれ!」
表情を変えず淡々と話す豊和が痛々しく俺は駆け寄り抱き締める。
「お、おい…俺はまだズボンしか履けていないんだぞ!」
「良いんだ!」
「良くねぇーよ!お前ホントのホントは同性愛者だろ?マジにで俺を狙ってるだろ?」
「良いから俺を頼ってくれ!そんで何でも俺には打ち明けてくれ!俺がお前を支えてやるから!」
「気が重い重すぎぃ!とにかく離れてくれっ!」
(何なんだよ、コイツは…ホント。調子が狂う。今迄ゴミ扱いしかされた事ないのに…)
******
─「で、何故俺は動物園に連れて来られたんだ?」
「お前と来たかったからに決まってるだろ?」
「男同士で来る所か?」
「良いじゃねぇか!可愛い動物を見て癒される。これ以上の癒しがあるか?」
「だからって…」
「んじゃあ、ナンパでもするか?」
「しねぇーし、お前彼女居るんだろ?」
「冗談だよ冗談」
「はぁ…」
「タメ息なんて似合わないぞ」
「誰のせいだよ誰の…」
「よし!まずはパンダからだな!ここに来るのは初めてだから楽しみだな?」
「…ああ」
こうして男同士動物園を見て回ったんだ。最初は何でこんな所にみたいな顔してたけど少しだけほんの少しだけ俺の心の中にあるいつも笑っていたアイツの笑顔と重なった。動物園を後にするとまた無愛想になったけどな。そしてホテルでの俺と豊和の生活が始まった。
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