第33話よくも…

「よくも…よくも…ボクの耳をっ!よくも…ボクを殴ってくれたな美麗!今日はグチャグチャに犯し尽くしてヤル!二度とボクに逆らえない様にな!後は…そうだな…ボクが作った焼き印を帰ったら君の肌に刻んであげるよ!ボクのモノだという証を幾つもつけてあげる!」


「…死んだ方が…マシ…よ」


「さぁー!ボク達の愛の巣へと戻るとしようか!その前に唇は貰っておいてあげるよ。耳を噛み千切ってくれたお礼にね!今度は余計な事するなよ!余計な事すれば美麗の交友関係に?」


 アタシはその言葉を聞いた途端何も抵抗してはいけないと思った。アタシのせいで他の人に迷惑掛ける訳にはいかないものね。特に豊和を危険な目に合わせる訳にはいかないもの。あ~あ、こんな事なら早くモデル何て辞めて豊和とイチャイチャしてればよかったなぁ…。豊和…ゴメン…ね。


「ボク達のファーストキスの瞬間だよ…」


バキャッ!ドッ!


 もう終わりだと思った瞬間乾いた音が鳴り響き男がアタシから少し離れた所に吹っ飛んだ。人影。そして涙で滲みながらも人影の方に目をやるとアタシが見たのは…


「ゴメン!はぁはぁ…美麗先輩遅くなった…はぁはぁ…」


息を荒だげ汗を流しながら持っていた警棒みたいなモノを地面へと投げ捨て私の頬にソッと右手を添える。


「俺が遅かったばかりに殴られて怖かったよね。はぁはぁ…。ホントに遅くなってゴメン美麗先輩」


 アタシが恋い焦がれて止まない人…。豊和。来てくれた。間に合ってくれた。一番見たい…愛してる人が傍に居る。アタシは子供の様に豊和に頬と頬を寄せ泣きじゃくった。


「ごわかっだぁ…ヒック…ごわかっだぁ…よぉ豊和!豊和!ふぇ───ん…」

「もう大丈夫です美麗先輩。今、愛美先輩にもメールしましたから。直ぐに来てくれます。大丈夫ですよ」


 優しく豊和は泣き止む迄アタシの頭や背中を擦り続けてくれた。声を掛け続けてくれた。大丈夫…大丈夫だよと。豊和の傍に居るだけで私の心はやがて落ち着きを取り戻した。でも今度は別の意味で落ち着かなくなった。大好きな人の匂い…体温…人柄…。抱きついているだけなのに色々なものが溢れてくる。心地よい心の音色。ふと耳に、


カン!カン!カン!カン!カン!


鉄製の階段を急ぎ誰かが登って来る音が聞こえる。気のせいかしら…とても人が階段を登る速度では無いような速さに感じるわ…。


「茜先輩かな?」

「多分…ね」


ジャリッ!


「美麗は…渡さない!誰かのモノになる位な…ら」

─ダッ!


トン!?


な…に?豊和から…離れて行く。何で?何で?豊和の手がこちらに伸びている。突き飛ばされた?どうして?こんなに動きがスローモーションに感じる…の。視界には豊和…とあの男が映り込む。あの男は豊和に接触。…豊和が崩れていく。男の手には何か光るモノが握られており何か垂れている?何、何なの…?


「豊和どのぅおおおぉぉ!!!」


 茜が吠えると木刀らしきモノで男の意識を刈り取ったのだろう。男は倒れ込み一瞬で縛り上げられると、茜は豊和に駆け寄り何処かに慌てて連絡して手を添え押さえている様に見える。


「しっかり!しっかりするでゴザルよ!お願いだから…頼むからでゴザル!」


 アタシは震える体を引きづりながら豊和の元へ。うつ伏せに倒れている豊和の腰に手を添える茜の手は赤く染まっている…。



「…ゃあ…、い…や、…嫌ああぁぁぁ!」


豊和が刺されて倒れてしまった…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る