第8話時間切れ
「折角心を開いてくれたのに…まだまだ話足りないっていうのに…」
こんなに急に豊和が倒れるとは思っても居なかった。これからという所だったのに…。豊和は緊急治療室に入ってる。もう少しだけ…頼むからもう少しだけ時間が欲しい。まだ豊和は生きたいと心からは思っていないだろう?誰も居ない病院の待合室で必死に願う。何でも看護婦さんの話では元々心臓に異常があって手の程こしようは無いと言っていた。
「一緒に暮らしてそんな事にも気付かないなんて…もっと色々聞いておくべきだった…」
悔やんでも悔やみきれない。何の為に俺はここに来たんだ…。時間だけが刻一刻と過ぎ去って行く。どれだけ待っただろうか?看護婦さんから来るように言われた。豊和が居る病室へと通される。ベットには息苦しそうに酸素マスクを付け呼吸が荒い豊和。
「やぁ…話の途中…だったのにはぁ…はぁ…ゴメン…」
「馬鹿!話なんかこれから幾らでも出来るだろ?」
「ふぅ~…もっと…直弘と早く話…すれば良かったよ…はぁ…はぁ…」
「頼むから豊和!もう少しだけ…もう少しだけ頑張ってくれ!俺はまだお前に生きる事を諦めて欲しく無い!自分から生きたいと思う様になる事も全然伝えきれて無いんだ!頼むぅ!」
「…充分伝わった…よ。直弘ともっと…話したいとちゃんと思ってるし…ね…。最期に直弘に…心友と言ってくれた君に…会え…て……………(嬉しかったよ)………………」
「駄目だ!豊和ぅぅー!!!」
Pi───────────────!
嫌な機械音が静かな病室に鳴り響く…。それを聞くと同時に俺の意識も無くなった。
******
────「ここは?」
「やぁ、久しぶり…」
「…君に会えたという事はボクは死んだのか?」
「どうだろう。君は最期の瞬間どう思ったの?」
「どう思ったって?」
「そのままの意味だよ…」
「…最期の瞬間……君は知らないと思うけど直弘って友達が出来たんだけど…」
「知ってるよ。見てたから」
「もう少し直弘と話したいと思ったかな」
「それじゃあ駄目だよ」
「駄目?」
「そうだ。足りない」
「足りない?君はさっきから…何を?」
「親に暴力を振るわれる事無く愛してくれる親。何でも話せる心友が居る。君を愛してくれる女性が居る。そんな世界を望みなよ?君なら行ける!そこにはボクも勿論居るのだから…。皆待ってる…」
それだけ伝えると君はボクに背を向けて歩きだした。ボクと距離がどんどん離れて行く。
「待って!待ってくれ!」
必死に走って追い付こうとするが追い付けない。折角会えたのに行かないでくれ!君はどんどん光輝く場所へと向かって行く。どうかボクを置いて行かないで!君が…直弘が居る世界が心に拡がる。そんな世界ならボクは生きたい…。そう願った瞬間光がボクを飲み込んだ。
******
『…どうやら生きたいと思ってくれたのだな…。駄目かと思ったが。ホントに最期の微弱な力…。せめてお主達がまた出逢いやすくなる様に使おう…』
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