第7話心

「豊和…さっきも言ったけど俺がこんな風になれたのはお前のお陰なんだよ…」


「ボクが君に何かをしてあげた覚えが全く無いんだけど?」


「戯言…戯れ言…似たようなもんか?まぁ、とにかく最後迄俺の話を聞いてくれ」


「…うん」


「俺はこんな強面の顔だし昔はこんな風に喋る俺ではなかったんだよ。だからか…クラスの1人の給食費が無くなった時真っ先に俺が疑われたんだ。まぁ、別に疑われてもどうでも良いと思っていたんだけど助けてくれた奴が居たんだ。これっぽちも俺の事は疑わずに…」


「そう…なんだ。その人も君と同じ様に強い人なんだね?」


「…憶えていなくても俺を助けてくれたのは豊和…お前なんだぜ!」


「はっ!?…ボク?」


「そんなの記憶に無いと思ってるだろうが事実だ。しいて言うならもう1つの世界…パラレルワールドの豊和だけどな」

「…からかってるのか?」

「大真面目だよ。お前には嘘はつかない」

「…そんな突拍子もない話…普通信じられないけどね?」

「でも信じてくれるんだろ?」

「…君の目が嘘を付いてる風には見えないからね…にわかには信じられない話だけど…そういう世界があるのならボクも行ってみたい。ホントそう思うよ…」

!」

「…そういう世界なら…ボクも幸せになれるかな?」

「なれるさ。お前の事なら。アイツ等が幸せにしてくれるだろうよ!」

「アイツ等?」

「ああ、お前を慕う奴等さ…」


「…羨ましいね。もう1人のボクは…」

「羨ましがらなくても良いんだ。豊和自身の事なんだぜ!」

「…聞いてくれるかい?」

「勿論だ!何でも聞かせてくれ」


「……幼い頃の話さ。母はボクが五歳の時事故で亡くなってしまった。運転ミスで歩道に突っ込んで来た車からボクを庇ったんだ。母が亡くなったのは俺のせいだと父はボクに暴力を振るうようになった。そんな生活が続いて母が亡くなって一年後、突然父が再婚したんだけど再婚相手には子供が居たんだ。出来が良い2つ上の義兄。父は義兄は可愛がった。父、義母、義兄からしたら俺が邪魔だったんだろうな。だからボロアパートを宛がわれた。そこで生活する様になってからはやっと暴力から逃れられ自由だと思ってた。でも義兄は毎日の様にさっきの奴等や仲間を連れてボクの所に来るようになった。ていのいいオモチャだったんだろう。だから自由なんて事はなかったんだ。より酷くなったかな…」


「何て事を…アイツ等!」


「…そんな俺にも何でも話せる友達が出来た。そう思っていたけどソイツも結局俺が家を出ている事を知ったら離れて行ったよ。俺の家が金持ちだから金目当てで近付いて来ただけだったんだろう…」


「俺は違う!俺はちゃんとお前自身を見てるからな!」


「…そういう台詞を良く照れずに言えるよな…」


「本心だからな!」


「でももう1人…アイツだけは違ったんだ。家を出てから偶然出会って…ゲームが大好きで俺も良くゲームさせて貰ったし何より表裏無い奴だった」


「…だった?」


「病気で彼女は亡くなったんだ。付き合ってたとかそういうのは無いよ。ただアイツが居なくなってからはどうでも良くなったけど」


「その気持ちは痛い程分かる。俺も先日迄はそうだったから…」


「…そうなんだね。まぁ、ボクの話はこんな所さ。しょうもない話だったよね?」


「そんなことは絶対に無い!俺に話してくれてありがとうな!俺がこれからはお前を支えるからマジで何でも言ってくれ!」


「…ありがとう」


「おう!」


 そしてこの直後豊和はベンチから立ち上がろうとして前のめりに倒れ込んだ。俺は救急車を呼び、豊和は病院に運ばれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る