第8話アタック

「…遅かったな…遥?」


「えっ…ああ…ぅん、仲良くなった皆と一緒にカフェとかにね」


「そうか…」


「…それよりもどうしてここに?護衛官の人が見当たらないけど?」


「護衛官は今は付いて来て無い。1人だ。遥と話したかったんだ…」


「…危ないよ。男性が1人で彷徨いていると…」


「別に…女なんて怖くないからな」


「そ、そうなんだ。もうすぐ暗くなるし、は、早く帰ろうか?」


「遥…お前は俺の正妻になるんだよな?」


「えっ!?」


「幼い頃からお互いに知ってるし俺はそのつもりなんだけど?」


「わ、私は…」


「お前以外正妻は考えられないんだ!俺と今日を機に付き合ってくれ!頼む!」


「……ごめんね隆弘君。私は…」

「あの男か?」

「…そうだよ。一目見た時からドキドキが止まらないの。隆弘君には悪いけど一度も私の心は動かなかった。だから隆弘君とそういう関係にはなれない…彼が好き…」

「何で…おかしいだろ!俺の方がアイツよりも付き合いも長くし、何より俺の方がカッコいいだろ?それに男の俺が女に付き合ってやると言ってるんだぞ!それを断るって言うのかよっ!」


「ごめんなさい…」


「…そうかよ。だったら俺にも考えがあるぞ!男の俺様に恥をお前は掻かせたんだからなっ!」


「…考えって何なの隆弘君?」


ブチブチッ!ブッ!ビリッ!ビリッ!


─唐突に隆弘君は自分の着ているブラウスのボタンを無造作に引きちぎると続けて袖を力一杯破り始める。


「た、隆弘君何を…」


「…選べよ、遥。


「何でそんな事…」


「お前が他の男にヤられるのは我慢ならないからだ!ずっとお前とヤりたいと思っていたんだ。なのに…お前はいつからか部屋には俺を上げなくなって俺の部屋にも来なくなった。だから俺は…」


「…だから……だから他の女の子を抱いたって言いたいの?」

「…っ!?」

「…知ってるよ。隆弘君の事。今日も入学式の途中迄女の子と一緒に居たんだよね?」

「なっ…」

「それに…中学生の頃ここで…妊娠させた女の子を脅して捨てたのも知ってる…」

「……何で…知って…」

「私はそんな人と…付き合うつもりは無いから…」

「……そうかよ!じゃあ…」

「叫ぶなり好きにすれば良いよ。私は何もしてないんだから。それに…」


「何だよ!早く言えよ!」


「…彼は…彼なら貴方と違ってどんな事があっても私の話を聞いてくれて私を信じてくれる筈だから!貴方と違って!」


「何を馬鹿な事を…。今日会ったばかりの男がそんな事分かるわけ「分かるよ!今日会っただけでもそれだけは私には分かる」……」



「だったら…せめて…せめて俺に処女位捧げろよ!捧げたって構わないだろ!ずっと夢に見てたんだ!今更他の男に捧げさせる訳ないだろぅ!俺がヤった後にアイツとヤれば良いだろ?」


「私は、初めては好きな人と…そういう事はすると決めているから、絶対に貴方には捧げない」


─ナイフを取り出す彼…。


(前々から私に好意を持ってるとは思っていた。でも私はそれに応えるつもりはなかった。もっと早く彼に伝えれば良かったかな?でも怖くて出来なかった。豹変した彼を知っていたから。でも、今なら言えた。思った事を言えたのだ。悔いはない…)


彼がゆっくり近付いて来る。私は後退りながら距離をとる。


(……違う、悔いはあるよね。彼とデートしてみたかったし、仲良くなった皆ともっと色々話したかった。全てが初めての思い。幼馴染みが彼だったらどんなに良かったかな?幸子ちゃんや深雪ちゃんみたいに中々好意に気付いて貰えずヤキモキしてたかな?フフッ…彼を思うと自然と笑みが溢れちゃうなぁ…)


「何笑ってんだ!馬鹿にしてるかぁ!」


─彼が私を突き刺そうとして私は目を瞑り


ガシャ──ン!!「がっ…!?」カラカラカラ!


 何かが当たった音と微かな悲鳴。何かが空回る音?恐る恐る目を開けると…車輪が曲がった自転車。それに股がって倒れているフードを被った人。そして、その数メートル先に倒れてジタバタしている幼馴染みの姿。


「いぎゃあー!救急車ぁ…誰か救急車呼んでくれっ!腹にナイフがっ…」


─叫ぶ幼馴染み。持っていたナイフが刺さったみたいで悲鳴を上げている。自転車と一緒に倒れている人が起き上がる。この人私を助けてくれた?自転車で体当たりしてくれたんだよね?


「いつつっっぅ!…ナイフとか何考えているんだよ主人公は…」


 立ち上がりつつそんな事を口にする男性?声は男の人の声に聞こえたけど男性が居るわけ…


「「勝手に先々さきさき行かないでと言ってるでしょう??」」


(…えっ!?補助輪付きの自転車に乗った2人の女の子。この2人…学校で見た様な…)


「悪かった!でも何か緊急だったし?」

「「緊急だからこそ駄目なんでしょ!!貴方が怪我したら…」」

「俺は大丈夫!膝擦りむいただけだから…多分…」

「「…怪我してるぅぅーーー!!私達の責任だぁぁー!うわぁー!どうしよう!??」」

「まぁまぁまぁ、それよりも救急車呼んでくれっ!ホラッ、あっちの彼、自分が持ってたナイフが俺が体当たりかましたからその拍子に刺さってるみたいだから!」

「それよりもって…男性が怪我しているのは大ごとなんですよぉ!?」

「ナイフ持ってたって…凶器を持ってる相手に向かって行った貴方が信じられませんよぉー!」

「リトルシスターズは取り合えず置いといて…「「置いとかないデェー!!」」…良いからそっちを宜しく!」

「後で御褒美下さいよ!」

「お姉ちゃんズルい!私も私も!」

「はいはい、俺が出来る普通の事ならね」

「「約束だからね!!」」


─そう2人に言って近付いて来る話からして多分男性。


「大丈夫?怪我してない?」


優しい声。


「わ、私は大丈夫です。それよりも貴方の方が怪我を…」

「あ~大丈夫大丈夫!問題無いよ」

「男性が怪我しているなら問題になるんですよ?」

「…そうなの?」

「し、知らなかったんですか?」

「まぁ…良いという事にしようぜ遥!」

「…ど、どうして私の名前…」

「あ~、出掛けるからフード被ってたっけ。ほらっ、これで分かるかな?」


 深く被っていたフードをとるとそこにはいる筈のない彼の顔。さっきまで恐怖で支配されてた心は彼の優しい微笑みに霧散してしまう。


「どうしてここに?」

(ヒーローみたいに助けてくれた…)


「あ~今日学校終わってから色々合って妹の機嫌損ねたから、お菓子で機嫌直して貰おうと思って…そこの道通り道だったし…」


「相手はナイフ持ってたん…だよ…」

(助けて貰ったのに上手く言葉が出てこない)


「遥が危なかっただろ?遥に怪我がなくて良かったし助けられたんだからWin-Winって奴じゃね?」


「ぷっ…どこがWin-Winなの?私だけじゃん得したの…助けられたんだから…」

(自分の身より私の心配…こんな男性ひと他には居ない…)


「取り合えずもう…大丈夫だから…なっ!」


「うん…ありがとう…大好きだからね」

(心からそう思える素敵な人…)


「はっ!?」


「はっ!?って今日伝えたよ!」


「あ~…うん…そうだ…よね/////」


「ぷっ…何よそれ~」



─神様…素敵な恋を授けてくれてありがとうございます。頑張って大事に育てます…







「お姉ちゃん…あそこだけ甘いんだけど…」

「しっ…言わないの!悲しくなるでしょ!」

「いつか私達もああいう風に扱って貰えるかな?」

「補助輪とれたらね…」

「お姉ちゃんこそ…」

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