【ミチノサキの日】バーチャルYouTuber3人で修業すっぞ!【コラボ企画】

 白い待合室のような部屋に、青薔薇のシュシュをしたツインテールの少女がいる。


「イェ~イ! みんな、見てる~!? ミチノサキだよ!」


コメント:見てる~!

コメント:見てるぞ!


 サキは右手の指を3本、左手の指を1本立てる。


「3月1日は~? みっつと~、いちで~、み~ち! ミチ!」


コメント:かわいい

コメント:くぁわいい

コメント:ウッ


「その一日前は? 先? そう! ミチノサキ! 2月28日は、ミチノサキの日に、決っ定~! イェーイ! ドンパフドンパフ!」


コメント:ミチノサキの日!

コメント:めでてえ!

コメント:なるほどね

コメント:セルフSEたすかる


「というわけで記念すべき第一回のミチノサキの日は! 素敵なゲストを呼んでコラボ動画を撮影することになりました! やったー! イェー! というわけで、さっそく! ゲストを紹介したいと思います! おねがいしま~す!」

「は~い」


 ややがに股になって、角としっぽの生えた少女が歩いてやってくる。


コメント:出たwwww

コメント:おじさん!

コメント:がに股で草


「おはようございまーす。バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんのドラたまです」

「ドラちゃんやったー! 久しぶり!」

「あっ、は、はいー、お久しぶり、そう、お久しぶりですね、こうやって会うのは。あの、ミチノサキの日、おめでとうございます」

「ありがとうございます!」

「こういうね、記念すべき日に呼んでくださって、ほんと名誉なことっていうか」

「ンフッ、ねえちょっと待って、それ、それー大げさだよ~」


コメント:腰の低いおじさん

コメント:サキちゃん楽しそう

コメント:まるでミチノサキの日がすごい日みたいなwww


「いやーでも、3月1日の一つ前が2月28日になるのって、だいたい、ざっくり言うと、4年に3回しかないじゃないですか。4年に3回しかない貴重な記念日ですよ」

「あ~、そっか。んー、じゃあ2月29日もミチノサキの日だね! 決定ー!」

「お、おお。なるほどね? うるう年覚悟しておけよ~お前~」

「お前~!」


 サキはケラケラと笑って膝を叩く。


コメント:おじさん細かい

コメント:おじさんはさあ

コメント:楽しそう


「あのあの、ぶっちゃけると、『チ』って、ナナのシチとか、ハチとかあると思うんですけど、あえてイチを取った理由ってなんなんですかね?」

「早く記念日を迎えたかったから!」

「あ、ああ~、なるほど、なるほどね?」

「だってだって!」


 サキは地団太を踏む。


「トーカは毎月10日がトーカの日で盛り上がっててズルイじゃん! あたしも記念日欲しい!」

「あぁ~、確かに。名前がね、強いですよね」


コメント:草

コメント:なるほどね

コメント:トーカの日好き

コメント:サキちゃんかわいい


「だから3月1日の前の日はミチノサキの日! 決定!」

「あ、でもそういうことなら毎月31日の前の日なら……」

「あ、ああー!? ドラちゃん天才!?」

「あーでも、ニシムクサムライの月は31日ないんで……」

「ん??」


コメント:サキちゃん分かってないぞ

コメント:おじさん話がむずかしいよ!

コメント:サキちゃん……

コメント:やめてやってくれ、もうサキちゃんには限界だ


「あっ、えっと、プレミア感! 年1の方がプレミア感あるな~!」

「それもそっか!」

「はい、というわけで3月1日の前の日に決定でーす」

「でーす!」


 おじさんが画面に向かって手を振るのを、カメラがアップにする。


コメント:かわいい

コメント:おじさんにガチ恋してもええか?

コメント:このメスドラゴンはよぉ……!


「ところでサキさん。もう一人のゲストは?」

「あ! ごめん! ドラちゃんと会って楽しくなっちゃって忘れてた! ご、ごめ~ん! 入ってきて!」

「あ、はい」


 兎頭にスーツ姿の男が歩いてくる。


コメント:忘れられていた男

コメント:静かなる兎

コメント:静止した空間の兎

コメント:いたのか


「はい、自己紹介!」

「はい。みなさま、ごきげんよう。世界初男性バーチャルYouTuberのマネージャー、アバタです」


 アバタが胸に手を当てて腰を折る。


「ミチノサキさんのマネージャーをしております。今日はよろしくお願いします」


コメント:出番終了

コメント:宣伝乙

コメント:いつもの


 そして間が空く。


コメント:なにこの間wwwww

コメント:オイ    オイ


「いやっ、いやなんか言ってよ! もう!」

「え?」

「いや~、伝統芸いただきました、はい」


コメント:虚空芸あいかわらずだな

コメント:久しぶりに姿を見れて嬉しいぞ兎ィ!

コメント:虚無が発生してたか


 一回仕切り直して、三人がしっかり並んだ画面になる。


「はい! というわけでミチノサキの日コラボを! このメンバーでやっていこうと思いま~す! イェ~イ!」

「はいはいはい! サキちゃん、いったいコラボでは、何をするのかな~?」

「うぉっほん! お答えしましょう! 今日はこの三人で! バーチャルラウンジのいろんなスペースに行って遊びます!」

「おぉ~」

「ここも、すでにバーチャルラウンジなんだけど」

「そう、なんと無料の! バーチャルラウンジに集まっているんですよね~」

「んふっ、そうそう。バーチャルラウンジは無料! ぜひダウンロードして体験してくださいませ? ――だっははは!」


 何か高飛車なポーズをとって言って、サキは自分で爆笑する。


コメント:なんだって、無料!?

コメント:そんなすごいソフトが無料だって!?

コメント:リリアちゃんここです

コメント:露骨な宣伝乙


「サキさん、怒られる怒られる」

「あっはっは、うん、はい、はい! じゃあね、スペースに移動したいと思います! 事前にね、3人で選んだので! テーマはね、サキが決めました! 『修行』、ってテーマでね、選んでいきました!」


コメント:修行?

コメント:修行するぞ修行するぞ

コメント:ジャンプ漫画みたいなテーマ

コメント:どうして修行なの


「やっぱりね、Vtuberとして、まだまだ修行が足りないなって思ったので!」

「なるほど~。サキちゃんは向上心があるなあ!」

「んふー、そうでしょ? で、順番をクジで決めておきました! あたし、ドラちゃん、アバタさんの順に選んだスペースにお邪魔しまーす!」


コメント:オチがアバタなのか……

コメント:オチと決めつけるなよ落ちないかもしれないぞ

コメント:オチたらいい方でしょ


「まずあたしだね! あの、修行っていうとやっぱりね、中華って感じしない?」

「あ~、しますします。仙人というか、ドラゴンボール」


コメント:言っちゃった

コメント:まあ修行と言えばなあ

コメント:おじさん古いよ


「そうそう! ということでね、それにピッタリのスペースを見つけてきたの! それでは、移動! あ、移動するときあれやりたい! ジャンプするやつ!」

「ああ~、編集で」


コメント:編集言うなし

コメント:お決まりのやつ!


「はい、こっちきてこっちきて。アバタさんも! それじゃせ~のでジャンプするよ! せ~の!」


 ジャンプした三人が、濃い霧の中、白い岩山がそびえたつ場所に移動する。岩山の頂上や横合いからは松の木が生い茂っていた。


「はい来ました! 中国の尖った山!」

「ああ~、それっぽいそれっぽい」


コメント:お~

コメント:こんなスペースあるんだ

コメント:めっちゃ壮大だな

コメント:それっぽいとこだ


「でしょ! ね、アバタさんもそう思うよね!」

「これは中国の黄山こうざんですね」

「……鉱山?」


 サキとおじさんがそろって首をかしげる。


「世界遺産に指定されている景勝地ですよ」

「ええ!? これって本当にある場所なの!?」


コメント:意外! 兎が知ってた!

コメント:わりと物知りな兎

コメント:え、これって水墨画で見たことあるけど想像上の場所じゃないんだ

コメント:ケーブルカーに乗って観光できるぞ


「え、はい。まあこのスペースは多少誇張しているかもしれませんが」

「ええー、そうなんだ! 知らなかった! アバタさん頼りになるぅ!」

「はあ、どうも」


 アバタはぽりぽりと頭を掻く。


コメント:もっと喜べ兎

コメント:照れてるのかわいい


「で、で! ここってすごく『修行』のイメージにピッタリだと思わない!?」

「確かに、仙人とか山の上に立ってそう」

「そうそう、それ! というわけで! 修行ゲーム! イェーイ!」

「い、いぇーい!」


 急に叫んだサキに釣られて、おじさんが手を突き上げる。アバタは直立不動でいた。


コメント:急に始まるゲーム

コメント:反応できない兎


「実はこのスペース、山の頂上に立てるの!」

「おお!?」

「ってトーカに教えてもらった!」


コメント:なるほどね

コメント:てぇてぇ

コメント:トーカちゃんありがとう


「でね、三人で一斉にそこに立って、片足バランスして、最後まで立っていた人が勝ち! ってゲームをやろう!」

「あ~、修行っぽい」


コメント:DBの表紙っぽい感じする

コメント:仙人っぽいな

コメント:こんなえっちな格好した仙人はいないよ!


 場面が切り替わり、尖った岩山の頂上に三人が立つ。


「はーい! 準備できたー!?」

「うわこれめっちゃ高……あ、は、はいー!」

「それじゃあ、片足バランス修行! スタート!」


 スッ……と三人が揃って片足を上げ――


「とっと……あぁぁー!」


 速攻でおじさんがバランスを崩して落ちていく。


コメント:草

コメント:速攻で草

コメント:草

コメント:落ち方wwww


「ああっ、ドラちゃーん! ってあれ? アバタさんは? いない? 落ちてた!? 早い! せめて何か言って!」


コメント:草

コメント:兎はさあ

コメント:スッと落ちていったわあの兎


 一人、岩山の上で片足立ちするサキ。カメラの方を見て――


「ちょあっ!」


 と拳法っぽいポーズをとってジャンプし、落下していく。


コメント:かわいい

コメント:それっぽいポーズかわいい

コメント:かわいい


 場面切り替わり、竹やぶや石垣の中に敷き詰められた石畳の上に立つ三人。


「はーい、というわけで! 先程の修行はサキの圧勝でしたー!」

「負けましたー」

「んふっ。というわけで、今度はドラちゃんの選んだスペースに来たんだけど、ここは?」

「はい。えっと、ここはザゼンレースサーキットっていうスペースでぇ、レースゲームが楽しめるんですよ」


コメント:あっ

コメント:ここかぁ……

コメント:ザゼンレース……?


「レース! いいね、サキ、レースゲーム得意!」


コメント:(いぶかしむ顔文字)

コメント:得意……?

コメント:まあ本人的には……


「で、これカートとかじゃなくて自分が走るんですよ。あのーレースゲームって普通ハンドルとかアクセルボタンとかあるじゃないですか」

「あるある! あたしハンドル回すの好き!」

「でもここではね、ガソリンの代わりに徳を燃やして走るんで」

「トク……?」

「座禅を組んで、その状態で静止していれば静止しているほど、体が宙に浮いて勝手に走り出すっていう」

「え、なにそれ。じっとしていれば速くなるってこと?」

「そうそうそう」


コメント:徳を燃やして走るwwwww

コメント:どういう設定だよwww

コメント:草

コメント:なにそれ


「えー面白そう! はやくやろっ! ほらほら、アバタさんも!」

「あ、はい」


 カメラ切り替わり、三人がスタートラインの前で座禅を組む。


「それじゃ、スタートボタン押しまーす」

「うおっしゃー! バッチコーイ!」


 おじさんがボタンを押す仕草をすると、上空に「3」とカウントダウンが表示される。その途端――


「ちょっ、アバタさんっ! めっちゃ背中光ってる!」

「うわスタートダッシュやば」

「はい?」


コメント:草

コメント:草しか生えない

コメント:神々しくて草

コメント:翼を授かった兎

コメント:ひどい絵面wwww


 カウントが0になった瞬間、アバタが光の尾を引きながらものすごい勢いで加速し、あっという間に二人から遠ざかっていく。


コメント:消えたwwwwwww

コメント:アバタ、虚空へ!

コメント:これ普通動揺して動いてスピード落ちるんだけど


「ふはっ、ぶははは! やば……ひっ、ひいっ……! あばっ、アバタさんがっ……!」

「お先で~す」

「あっ、まっ、待ってドラちゃん! ええなにこれ全然動かないー!」


 スィーと進んでいくおじさん、ジタバタともがくサキ。その横を座禅で静止したまま高速移動するアバタが周回遅れにしていく――


コメント:知ってた

コメント:サキちゃんに座禅は無理やろ……

コメント:サキちゃんルール分かってなくて草

コメント:アバタwwww


 暗転し、場面転換。


 青空に桜の花びらの舞う、学校の校門に三人が並び立つ。


コメント:!?

コメント:学校……?

コメント:ここは?


「はい、ということで最後! アバタさんが選んだスペースにやってきました! けど、これは?」

「全然修行、って感じじゃない気が~?」

「アバタさん、これはいったいどういうことなの!?」

「えっ」


 きょろきょろするアバタ。サキに小声で「もう一回、もう一回言うの!」と言われて、ようやく頷く。


コメント:撮り直したのかwww

コメント:兎君さあ

コメント:フリを虚空に送るな


「すいません。修行ではなく修業がテーマだと勘違いしまして、卒業式のようなスペースを探しました」

「もー、アバタさんのうっかり~!」


 サキがツッコミを入れるがアバタは動じない。


コメント:テーマを虚空に送った兎

コメント:てことは声でやり取りしてたんか

コメント:普通、修業がテーマと思わなくない……?


「申し訳ありません」

「んー、許す! だってすっごくキレイなところだし! よーし、こうなったら、ここのスペースも楽しんじゃお!」

「お~!」


 唐突にサキによる蛍の光の独唱が始まる。そのBGMを背景に、三人がスペースを回って遊ぶところがダイジェストで流れていく。教室で鬼ごっこ、黒板に落書き、屋上で紙飛行機を飛ばし、体育館で卒業証書授与式ごっこをし、最後に集合写真を撮り、その写真が映し出される。


コメント:エモい

コメント:泣く

コメント:いいこと風にしてまとめようとしてるの草


「卒業してもよろしくね、ドラちゃん!」

「いや入学もしてないですけど!?」


 ◇ ◇ ◇


「ああぁぁぁあああああ!」

「うるさ。って、えぇ……泣いてるの君」

「だっておま、おまおまこれはさあ……ズッ……これは駄目なんだって!」

「中身はヴァレリーだよ?」

「サキちゃんとヴァレリーは違うんだよ! 分かれ!」

「えぇ……」

「とりあえずファンアート描くしかねぇ! うおおおおお!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る