【年末大コラボ】チームで格に差をつけろ【格付けチェック】(下)

「それでは四問目。先ほどは一流ならではの味覚をチェックさせていただきました。四問目は──私からではなく、別の一流のVtuberから出題いただきましょう。問題はVTRとなりますので、解答者には一斉に視聴していただきます」


 解答者がそれぞれ個別の空間に移動し、ワイプ画面上に表示される。


上位チャット:映像問題か

上位チャット:面白そうじゃん


「それでは問題VTR、スタートです」


 ぱっ、と別の動画が再生される。映ったのは巨大なニワトリと、白いワンピースのドレスに、赤や黄色、緑の星をつけた全体的に白い女の子。


「オッス! オラ、一流のニワトリのトッポリだ!」

「食卓の上からこんにちは! 一流お料理Vtuberの、ポテト☆サラでーす!」


上位チャット:トッポリwwwww

上位チャット:なんだこのデカいニワトリ

上位チャット:ポテサラちゃん!

上位チャット:やばい嬉しい


「今日は一流のVtuberさんたちがお集まりと聞いてます! そこで! いちちゅう……んんっ。……そこで! 一流のVtuberたる私たちからも出題です!」


上位チャット:噛んだ

上位チャット:噛んだな

上位チャット:編集点作ったのに無視されたwwww


「オラたちの出す問題は? そう、じゃげえもだ!」

「ポテト、だー! ひゃっはー!」


上位チャット:じゃげえもwwww

上位チャット:草

上位チャット:ポテトサラって誰?

上位チャット:超美麗3Dモデル(棒)で料理配信してる子


「これからAとB、ふたつの画面で、それぞれ別のポテトの育成シーンを作付けから収穫までをお届けします! どちらかが高級ポテト、もう一方は普通のポテトです」

「オラもとっても勉強になったぞ! それじゃあ、一緒に見ていこうな!」


 画面が二分割され、ジャガイモの育成シーンが開始される。トッポリとサラは画面をうろちょろしてリアクションしていた。


上位チャット:ウロウロしてるのかわいい

上位チャット:教育番組っぽくなってきた

上位チャット:どこだこれ


『えっ、何これぜんぜん分かんない!』

『とりあえず見比べて違いを見つけるしかないッスかねー』

『えっ、狭っ。ねえ狭くない?』

『Bは明らかにビルの間とかだな……』

『え、Bすごい都会じゃない?』

『Aは……海外のようですね。今チラッと顔が』

『Aは空が見えるねー。Bはビル街?』

『土地代で考えろとかそういうことか……? でもどっちもたいして広くないぞ?』


 空の見える畑で外国人が作業しているAの動画に対し、Bはビルの間の狭い土地を日本のおじさんが作業していた。


上位チャット:Aは海外でBは日本?

上位チャット:海外で小さい畑って珍しいね

上位チャット:農業機械でドガガガーッってイメージしかない


『へー、じゃがいもってこんな花が咲くんだ!』

『品種の違いとかぜんっぜん分かんない……』

『クッ……難問すぎるぞ』

『待てよ、高級じゃがいも……?』

『全然分かんないッスねー』

『ああ、そういえば……』

『………?』


上位チャット:おや?

上位チャット:え、これで何か分かるの?

上位チャット:ガチで品種問題?

上位チャット:そもそも高級じゃがいもってなんだよ。インカのめざめとか?


 やがてじゃがいもが収穫され、畑の全景が空撮される。


『AもBも手作業で収穫するんスねー』

『あっ、海だ』

『Aは……島?』

『Bって東京じゃないか』

『なるほど、分かりましたわ』

『ああー、アレか』


上位チャット:リリアちゃんと兵士長がわかったっぽい

上位チャット:島だからなんだよ……

上位チャット:塩害とかないの?

上位チャット:土地的にはBの東京の方が高そう

上位チャット:Bは東京だな


「動画は以上だ! オラ、めっちゃワクワクしたぞ!」

「ポテトポテト! ポテトひゃっはー! いやー、トッポリさん、ポテトっていいものですね!」

「ちげえねえな! 高級なのも、普通のも、どっちもうめえぞ!」

「そこは調理次第ですからね! でも一度は食べてみたい高級ポテト! さあAとB、いったいどちらでしょうーかっ!」


 動画が終了し、アバタが直立する画面に戻る。


「それでは一斉に解答を選んでいただきましょう」


 アバタが手を伸ばすと『パチン』という効果音がし、各解答者の目の前にAとBの扉が現れる。そしてAとBの部屋の中には、解答者分の──7つの扉が出現した。


上位チャット:おお

上位チャット:なるほど、うまいな

上位チャット:バーチャルならではの仕組みだ


『ええ、ええー! どっちだろう。でも海外で作ってる方がきっと高いよね!』

『わかんない……でも、わざわざ都会で作ってるし、量もなかったし、手作りだし……』

『A、いやBか……しかし……クッ……Bはフェイントじゃないのか……?』

『いや別に東京で作ってるからって高級なわけじゃないッスよね……?』

『最後の遠景を見て確信しましたわ』

『まあ、ここでひっかけはないでしょう』

『……わからんわよ。クソわよ』


上位チャット:シビアwwwww

上位チャット:クソわよは草わよ


 解答者たちは悩みながら、それぞれの扉に手をかける。


「それでは一斉に移動していただきましょう」


 再び、『パチン』という効果音の後、二分された画面で──天国と地獄が繰り広げられた。


「えっえっえっ、嘘!? 嫌!? 開けて! 帰る! 帰るー!」


 Bの部屋で──クヌギは反転し、消えた扉を叩き続けた。その背中を見るものは──いない。


上位チャット:あっ

上位チャット:局長……さよなら……

上位チャット:これはやらかしましたなあ


「おっ……多いなッ!」


 一方、Aの部屋はごちゃごちゃとしていた。


「これは当たりッスかね」

「やったー! リリアちゃん!」

「あー、分かりました?」

「ええ、心当たりがありましたから。で……」


 アサカラに問われて頷いたリリアは、入ってきてからずっと動かないシビアを見る。


「……どうやら運はいい方のようですわね?」

「……とっ、当然わよ。ワテクシこそがお嬢様わよ」

「ふふ、いいでしょう」


上位チャット:やるやん

上位チャット:これで二人そろって間違ってたら面白いんだけど

上位チャット:分かってて選んだのは二人だけっぽいな


「それではこれより正解の部屋へ一流Vtuberの方々をお迎えに参ります」


 (テロップ:果たして高級じゃがいもは、Aのじゃがいもか? Bのじゃがいもか!?)


『お願いお願いお願いお願い!』


 Bの部屋でクヌギが必死に祈る中、ほのぼのとするAの部屋。そしてアバタは──やはり溜めも何もなく、Aの扉を開いた。


「こちらが正解です」

「やったー! やったよトーカ!」

「よォッシ!」


 Aの部屋の中で歓声が上がる。


上位チャット:はい

上位チャット:やっぱりね

上位チャット:サキちゃんかわいい

上位チャット:オウマくんのヨシ好き


「今回は正解を解説するVTRがございます。それではこちらをご覧ください」


 アバタが言うと、再びトッポリとサラの動画が再生された。


「みんな、わかったか? 一流のみんなには簡単だったかもしんねえな!」

「正解は~! Aのポテト! わっかりましたか~!?」

『わかんないけど当たった~!』


上位チャット:草

上位チャット:サキちゃん正直で草


「トッポリさん、Aのポテトはお値段いくらぐらいなんですか?」

「ふつうのじゃげえも、男爵が、スーパーで高くてもキロ350円ぐれえかな? でもAのじゃげえもは、キロ3万から6万円ぐれえだな!」

『高いな!?』

『は!? じゃがいもッスよ!?』


 オウマとケイがざわつく。一方、リリアとアサカラは納得したように頷いていた。


上位チャット:たか

上位チャット:たっっっか

上位チャット:あー、アレかぁ

上位チャット:じゃがいもでキロ6万!?


「100倍以上値段が違う! いったいどうして! ポテトに身分の差なんてないというのに!」

「このじゃげえもの名前は、ラ・ボノット、っちゅーんだ。フランスのノワールムティエ島って島で作ってる春植えのじゃげえもで、年間200トンしか作られてねえ。デリケえトな品種だから、全部手作業で収穫してんだ。しかも5月1日から10日までしか販売されねえんだぞ」

「希少、手作業! それは高くもなる!?」

「まあ島以外で作ってる同じ品種は、テスコっちゅースーパーじゃキロ350円で売ってるらしいな!」

「あれ、普通!? うーん、島のブランドの力ってことですね!」


上位チャット:へえー

上位チャット:なんかテレビでやってたわ

上位チャット:なるほどね

上位チャット:って普通に売ってんのかーい!


『テスコって何?』

『世界でも上位の小売りですね。イギリスの会社です』

『日本にも出店していましたよ。今は名前が変わっていますが』


 サキの問いに、アサカラとリリアが答える。


上位チャット:そういえば昔見かけた気がする

上位チャット:今はマックスバリュとかまいばすけっと

上位チャット:リリア様は株で知ってそう

上位チャット:エリートリーマンの知識が出たな


「できれば土づくりのところから見たかったな! 海藻を混ぜてるらしいから、より分かりやすかったかもしんねえぞ!」

「へえー、海藻を? いったいどういう味がするんでしょうね?」

「レモンの風味がするとか、栗の味もするとか言われてっけど、わかんねえな! 食ったことねえから!」

「このポテト☆サラ、いつか手に入れて潰してやりたいですね! ううぅ~、ポテトは皆潰しだ! ひゃっはー!」


上位チャット:潰せ潰せポテトは皆潰しだヒャッハー!

上位チャット:えっ何この子こわ

上位チャット:ポテサラちゃんのコロッケ動画だけでいいから見てくれ……!


「ちなみにトッポリさん、Bのポテトは?」

「スタッフの親戚がやってる趣味の家庭農園だって聞いたぞ!」


上位チャット:草

上位チャット:家庭農園かぁwwww

上位チャット:局長……


「それでは、このポテト☆サラと!」

「トッポリが正解をおつてえしたぞ! じゃあな!」


 動画が終わり、カメラがAの部屋を映す。


「へえー、食べてみたい! リリアちゃんは食べたことあるの?」

「わたくしは話に聞いただけですわね。アサカラさんは?」

「俺も食べたことはないですね。ラ・ボノット自体は知ってるんですけど」

「ソルジャー意外と物知りだよね」


 ほのぼのとしたAの部屋。そして。


『……はぁ』


 ぐったりと空中で椅子にもたれかかる、Bの部屋のクヌギの姿が一瞬映された。


上位チャット:草

上位チャット:局長……

上位チャット:死んでるwwwwww

上位チャット:空気椅子ポーズで草


 そしてカメラがメイン会場に戻る。


「四問目の結果、みなさまの格はこのようになりました」


 アバタが言うと、各出演者の頭上に文字が表示された。


 一流:東京市民戦線

 本物:人類案内人 北方神話

 そっくり:局の癒やし組 局の狂犬 平時でいこう! 辺獄からの使者(略)


「今回アバターチェンジされるのは、局の癒やし組のクヌギさんとアキラさんです」

「やだ~~~!」

「局長……」


 机に突っ伏すクヌギを、アキラがバーチャルに支える。しかしアバタは構わず手を上にあげた。『パチン』という効果音と共に、二人の姿が変わる。


上位チャット:おっ

上位チャット:そっくりだ

上位チャット:むしろなんか現パロ感出てきたぞ


「あっ、ほら、あんまり変わらないですよ! そっくり!」

「うぅ……アキラ君は私の作ったアバターが嫌いなの……?」

「え!? あ、いや! そんなことは……」

「あー最低」

「今のはアキラが悪いぞ」

「ねえそこは助けてよ!?」


 横から口をはさんだミサギとオウマに、アキラは悲痛な叫びをあげるのだった。


上位チャット:今のはアキラ君が悪い

上位チャット:帝都組のアバター作ってるのクヌギちゃんだからなあ

上位チャット:味方がいなくて草


 ◇ ◇ ◇


「これ、もう終わり? 四問で終わりですか?」

「次が最終問題です」

「ウワ~~~!」

「局長、し、しっかり!」


 悲鳴を上げるクヌギをよそに、アバタは淡々と進行をする。


上位チャット:局長wwww

上位チャット:残念あと一問

上位チャット:もう終わりか……


「最終問題は一流の絆を見せていただきます。この問題にはペアで挑戦していただきます。ところで今日、皆様には個別に、意気込みの動画を撮影させていただきましたね?」

「え? うん」

「しましたね」


 サキとヨウセイが頷く。


「申し訳ありません。そちら、実は冒頭で流すのではなく、これから使用する動画となっております」


 参加者たちがざわつく。


上位チャット:おっ?

上位チャット:ドッキリか?

上位チャット:どういうこと?


「最終問題は、お互いのペアの意気込み動画を見ていただきます。しかし画面に映るのは二つの動画。ひとつは本物。もうひとつはアバターこそ本物ですが、動かしているのは『音声のみを聞いて合わせている』スタッフです」

「ええ!?」


上位チャット:なるほど中身当てクイズか

上位チャット:難しくない?

上位チャット:いや俺は絶対分かる自信がある


「あー、なるほど。だからアバターの権限を……はーい」


 ぽつりとトーカが呟き手をあげる。が、同時に「あのー」と手をあげたドラたまとかぶってしまう。


「あっ、あー、トーカさん先にどうぞ」

「あ、いいですか? たぶんリップシンクのことですよね?」

「あ、そうそうそう。あの、リップシンクがね、ニセモノの方はどうなっているかっていう」

「あ、はい。えー……どちらの動画でも同期しているということです」

「なるほどー! 口の動きでは区別がつかないってことですね。わかりました。続けてください!」


上位チャット:技術勢の視点たすかる

上位チャット:口の動きは音声の通りなのね


「どちらが本人の動きか? それを当てていただきます。なお、必ずしも本物を選ぶ問題ではございません。ペアの解答が一致すれば、本物の動画でも、ニセモノの動画でも、正解といたします」

「え、二人ともニセモノを選んでもオッケーってこと?」

「はい」


 ミサギの問いに、アバタは頷く。


上位チャット:へえ

上位チャット:両方が正解を選ぶか、両方が不正解を選ぶかか

上位チャット:成功パターン2に対し失敗パターン1か、勝ったな

上位チャット:誰か失敗してくれないかなあ

上位チャット:ニセモノ見たいよね


「それではよろしいでしょうか? 14人それぞれ一斉に動画を視聴していただきます」


 効果音と共に画面が14に割れる。そしてひとりずつズームしてコメントを拾っていった。


『こんにちは、バーチャル帝都所属の七見屋アキラです。いやー、格付けチェックってボクよく見るんですけど……──』

「えぇ……全然分からない。アキラ君ってこんなに動くっけ……? ううぅ……」


 頭を抱えブツブツとつぶやくクヌギ。


『チーッス。内弁慶系Vtuberの武蔵野ケイでーす。パイセンと出場ってことでね、まー俺は自信あるんだけど、あの三鷹市民が格を落とさないかどうか』

「うるさいな武蔵野市民!」


 動画に突っ込みを入れるヨウセイ。


『ごきげんよう。みなさまを天に導く、神望リリアですわ。格……そうですね。意識したことはないのですが、やはり自然と伝わるものがあるのではないでしょうか』

「こっちの動き、不自然。余裕……でも」


 モチは腕を組んで考え込む。


『おはよう、諸君! バーチャル帝都所属の、枉王院煌真だ! ハーッハッハッハッ! まぁ? 格付けというからには見せてやろうじゃないか、王者の格というものをな!』

「うわー……動きが分かりやすすぎて、めっちゃ真似されてるじゃん……」


 ミサギは若干引きながら動画を見比べる。


『どうも。大調和弊国の兵、アサカラ兵士長です。陛下の足を引っ張らないよう、頑張ります』

「兵士長には苦労をかけた。余もベルトの緒を締めなおさねば」


 ヨルニナルトはキュッキュッと腰に手を回す。


上位チャット:草

上位チャット:陛下その動きやめてw


『辺獄からごきげんよう。辺獄シビアわよ。今日はワテクシが一番のお嬢様であることを証明してみせるわよ』

「あっ、どっちだろうこれ。動いてない方がそれっぽいけど、え、あー、でもなあ~」


 ドラたまは首をひねる。


上位チャット:この動画だけ静と動が違いすぎる

上位チャット:いやーまあ分かりやすいでしょ


『こんにちは、人類。彩羽根トーカです。いやーついに来ましたね豪華コラボ! 格付けですよ格付け。私は知ってるんですよ人類。人類が妄想の格付けチェックイラストとか描くの好きなの!』

「わ、動きがそっくりだー! えー、スタッフさん、トーカのことよく見てるね!?」


 サキは二つの画面を見比べてはしゃぐ。


『はいこんにちは、九から飛んで六と書いて九六曜星です、よろしくお願いします! もう格付けとかね、どうでもいいぐらいメンバーが豪華すぎる! 自分がここにいていいのか!?』

「これ本物の方選んで正解したら、なんか嫌ッスね~。パイセンと通じ合ってるってことになるじゃないッスか」


 頭の後ろで手を組んで、ケイはブーブー言う。


上位チャット:言い方ァ!

上位チャット:確かにw

上位チャット:ええんやで?


『弊国民よ、好調であるか。余はヨルニナルト・ヘガデル。大調和弊国の長である。高貴なる余の格がどれほどのものであるか、アサカラ兵士長とちょう戦させていただく』

「陛下……いつもの動きすぎて完コピされてる。いや俺も別に特徴ないからなあ……うーん」


 アサカラは腕を組んで唸る。


『おはようございまーす。バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんのドラたまです。いやーテレビとかあんまり見ないんですけど、テレビないので、でも格付けってこう、だいたい見てなくても知ってる一大コンテンツじゃないですか。それをバーチャルラウンジで再現するっていうのは……──』

「話が長いのわよ……ぐぐぐ」


 シビアは絞り出すように呻く。


上位チャット:言われてて草

上位チャット:おじさんにブレーキはない

上位チャット:もっと雑談配信やってほしいな


『ズドラーストヴィチェ。北方少女モチです。今日は、格付け。トーカより格が上というところを見せる』

「モチさんは相変わらずですわね……あと、やはり本物は動きが違いますね。あとはモチさんがどう判断するかですが……」


 リリアは頬に手を当てて悩む。


上位チャット:これは分かる

上位チャット:kawaiiムーブできてないぞスタッフ!


『こんにちは! バーチャル帝都所属、穂之木クヌギです! もう今日の企画すっごく楽しみにしてて! 勝ち負けこだわらず、頑張ろうと思います!』

「局長……勝ち負け……」


 アキラは短くつぶやく。


上位チャット:勝ち負けにはこだわらない……?

上位チャット:一番こだわってるんだよなあw

上位チャット:こうなるとは聞いてなかったんやろwww


『はーい、バーチャル帝都所属、七見屋ミサギです! 今日は格付けチェックってことでね、まぁ相方の組み合わせにはちょっと不安なんだけど、応援してくれるみんなのために頑張ります!』

「結果がふるわなかったようだけどな? まあいい、言わせてやろう。さて、どっちが本物か……この王の目に狂いはないッ!」


 オウマは痛々しいポーズを決めて宣言する。


 そして。


『みんなー! 見てるー!? ミチノサキだよ! 聞いて聞いて! 今日はね、格付けチェックっていうのをやるんだけど、あたしとトーカがペアなの!』

「秒でわかりました」


 トーカは頷いて──悩む。


「あーでもどうしようかな。見たいんですよね、私の『そっくり』アバター。せっかくスタッフさんが作ってくれたわけじゃないですか? 人類も見たいですよね? ……うーん、でもなぁ」


 トーカは画面に目を戻す。


『──……ね! あたしはあんまり自信ないんだけど、得意分野だったら行ける気がするし! みんなの期待に応えて、トーカと一位になってみせるから、見ててね! あたしとトーカならできる!』

「……うん、決めました」


 トーカは、解答の扉に手をかける。


上位チャット:確かに見たい

上位チャット:サキちゃん……

上位チャット:これは失敗できないよな


 そして画面にはアバタの姿が映り、ワイプで14人が表示された。


「それでは、一流の絆が参加者の皆様にあるかどうか。選んだ扉を一斉に開けていただきます。ペアが同じ解答を選んでいれば、扉の先には相方が待っています。別々の解答の場合は、ちょっとした罰ゲームが待っています。それでは、お進みください」


 14人の手が表示され──扉が開くエフェクトが入り──


上位チャット:どうだ!?

上位チャット:いけええええ!


「いやったあぁぁぁー!」

「わっ、局長!?」


 クヌギがアキラに抱き着く。


上位チャット:ウッ

上位チャット:てぇてぇ


「……なんだ、わかってるじゃん」

「フッ、この王の目に狂いはない。ハーッハッハッハ!」


 ぽつりと言うミサギに、オウマが哄笑で返す。


上位チャット:この二人好き

上位チャット:ウマキラもいいぞ


「あっ、どうも。やっぱ動いてない方だったか~。自分わかりま――」

「よおっしゃあああああ!」

「!?」

「ッンン! 楽勝わよ、アナタ、動きに癖があるのわよ」


 突然叫んだと思いきや、シビアはキリリとして言う。


上位チャット:ビビったwwwww

上位チャット:草

上位チャット:急に野太い雄たけびで草

上位チャット:シビアセーフ!

上位チャット:通じ合うおじさん


「こっち、選ぶと思ってた」

「当然ですわ、モチさん」


 モチとリリアは静かに対面する。


上位チャット:さすが

上位チャット:四天王の絆だな

上位チャット:これは神話


「はぁー最悪ッスね」

「いや成功だろなんでだよ!?」


 げんなりするケイに、ヨウセイは鋭く突っ込みを入れる。


上位チャット:草

上位チャット:チャラ男はよーw


「トーカ! ヤッター! 大好き!」

「ウッ。う、うん。やりましたよ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるサキに、トーカは一瞬心臓をおさえる。


上位チャット:ウッッ

上位チャット:はい死んだ

上位チャット:やっぱ特別なんだよなあ

上位チャット:結婚式には呼んでくれ(遺言)


「──以上が、最終問題正解のチームです」


 白い空間に一人、アバタが立って一礼する。


「まずは正解チームをこちらにお呼びしましょう」


 アバタが片手を上にあげると『パチン』という効果音がして、正解した12人が現れる。


上位チャット:かっこいい

上位チャット:だから指パッチンできてないが


「おお、局長。そちらも正解ですか」

「ミサギちゃんとオウマくんも。よかったー!」

「何拝んでるんスかパイセーン」

「うるさいよてぇてぇんだよ!」


上位チャット:ヨウセイwwww

上位チャット:俺たち代表

上位チャット:気持ちは分かる


「ちなみにこの中に、ニセモノの動画を二人とも選んで正解したチームがございます」

「おっとー?」

「えーっ、だれだれ!?」


 ミサギが煽り、サキが身を乗り出す。アバタはゆっくりと頷いた。


「局の癒やし組、局の狂犬の2チームです」

「ええー!?」

「あ、あれぇ……?」

「はぁ!? なんで!?」

「おいっ!?」


上位チャット:草草の草

上位チャット:帝都組さん?

上位チャット:仲良しか?wwwww


「んふっ、んはははは! 帝都のみんな間違えたの? ふっふふふふ」

「あっはっはっは。いやー、ポンコツ仲良しって感じでいいですね」

「い、いや……そうっ、これは高度な作戦というやつでしてね。ミサギが失敗すると思って、あえて自分も間違いの方を」

「はぁー!? めっちゃドヤ顔してたじゃん! 王の目がどうとか!」

「う、お、う……そうだな……」


上位チャット:秒で言い訳看破されてて草

上位チャット:ぼくはウマサギ派!

上位チャット:オウマ君弱くて草

上位チャット:基本いいやつだからなオウマは……


「ところでアバタさん。1チーム足りないみたいですけど?」

「はい。不正解チームが1チームあります。罰ゲームが終わったところですので、動画をどうぞ」


 動画が切り替わり、ヨルニナルトとアサカラが扉に手を当てている場面になる。そして先ほど同様に扉が開くエフェクトが入り──


「あれ」


 アサカラは真っ暗な空間にいた。


上位チャット:お?

上位チャット:虚空かな?


「あれ、え、陛下?」

『不正解。罰ゲームです』

「えっ?」


 アバタの声がしたかと思うと、アサカラの足元が明るくなる。広がったのは大地──それも上空からの視界。


「ちょ、うわっ!」


 ゴオッ、と風切る音が鳴り響き、大地が近づいてくる。スカイダイビングのVR映像。


「うわ怖い怖い怖い……えぇ……ガチじゃないですか!?」


上位チャット:アバタ棒読みで草

上位チャット:ヒッ

上位チャット:俺これ2Dでも怖いわ

上位チャット:タマヒュン


「はー……」


 着地し、アサカラは深く息を吐き出す。と、横にヨルニナルトの姿が現れた。


「あ、陛下! 無事でしたか」

「フ。余はヨルニナルト・ヘガデル」


 ヨルニナルトは腕を振る。


「ついうっかり高貴が漏れ出てしまったにすぎぬ」

「……それ、高貴だけですよね? あ、いや、いいです! 答えなくて!」


 アサカラは手を振ってヨルニナルトを押しとどめる。


上位チャット:あっ……

上位チャット:これは陛下……

上位チャット:そっくりアバターでもまあまあ違和感ないな


「はぁ、しかし、失敗でしたか。陛下なら俺の動画を当ててくれるかと思ったんですが」

『ニセモノの動画を選んだのはアサカラさんです』

「って俺ぇ!? えぇ!? 嘘、あっちが本物!?」


上位チャット:おやあ?

上位チャット:兵士長?

上位チャット:エリートリーマン?

上位チャット:トーカオタク?


「卿……」

「しっ、失礼しました陛下!」

「──許す」


 ヨルニナルトは頷き、跪いて頭を垂れたアサカラに立つよう促した。


「では、高貴なる義務を果たしに行こう」


 ◇ ◇ ◇


「というわけで、最終問題が終わってみなさまの格は次のようになりました」


 メイン会場に戻り、アバタが言うとテロップが表示される。


 一流:東京市民戦線

 本物:人類案内人 北方神話

 そっくり:局の癒やし組 局の狂犬 辺獄からの使者(略)

 ニセモノ:平時でいこう!


「このVtuber格付けチェックにより、正しく一流と認められたVtuber、それは東京市民戦線チームの、九六ヨウセイさんと武蔵野ケイさんになります」

「おめでとー!」

「ありがとうございます!」


 周囲から祝福され、ヨウセイはペコペコと頭を下げる。


上位チャット:おめでとう!

上位チャット:意外なところが残った

上位チャット:企業勢を差し置いて個人勢がwwww

上位チャット:こういうコラボ本当にうれしい


「そして一流と呼ぶのも論外。このアバタが呼んでしまいましたニセモノを、この場に引き出そうと思います。ニセモノと判明したのは、平時でいこう!チームです」


 アバタの言葉に応じて、空間に二人が転送されてくる。その姿は──


「うわっ、ニセモノだ! ニセモノだよこれトーカ!」

「コレジャナイ感さえないですね、これは!」


 もさっとしたくすんだ金髪、普通の長袖のシャツとズボン、のっぺりした顔のヨルニナルト。

 赤じゃなく茶髪で、こちらも似たような服を着て、のっぺりした顔のアサカラ。


上位チャット:これはwwwwwww

上位チャット:ニセモノだー!

上位チャット:陛下と言い張っている一般人

上位チャット:これは一般人wwww


「いやっていうかこれ陛下が金髪じゃなかったらどっちがどっちか分からないな!?」

「ニセモノじゃなくてコレジャナイでいいんじゃないスか?」


上位チャット:コレジャナイっていうよりコスプレできてないコスプレ

上位チャット:似せる努力をしろwwww

上位チャット:いやニセモノだなあ……文句なくニセモノ

上位チャット:むしろこのコスプレが次のコミケで出るわwwww


「ちょっと喋ってみていただきたいですわね」

「我が名はヨルニナルト・ヘガデル。大調和弊国の長である」

「んははっ! ニセモノだニセモノー!」

「言ってるだけ感がすごい」

「いやーこれはニセモノを見てみたかったかもしれませんね! ちなみに、アサカラ兵士長はどうですか?」

「アッ、はッ、はい! ごほん。弊国の兵、アサカラ兵士長です!」

「あ、まったく違和感ないッスねソルジャー」

「なんでだよ!」


 アサカラがツッコむとサキを中心にゲラゲラと笑いが起きた。


上位チャット:兵士長……

上位チャット:せっかくトーカに声かけてもらったのにw

上位チャット:気合い入れたのにこの言われよう

上位チャット:でも兵士長はなんかコレでもいいかって気になる

上位チャット:確かに


「それでは最後に各チーム感想を聞いてまいります。まずは本物の、人類案内人チーム」

「めーっちゃ楽しかったです! ね、トーカ!」

「そうですね。いやー、スタッフさんの用意したアバター後で全部見せてほしいです」

「不正解だったのは三問目の高級みかんジュースでしたが」

「うッ」

「いやー、あれはね! ちょっと深読みしすぎちゃいました! 上品な味わいだと思ったんですけどねー、あっはっは」


 アバタの質問にトーカが笑って答える中、サキは言葉に詰まって固まっていた。


上位チャット:あれは残念だった

上位チャット:全問正解が見たかったな

上位チャット:まあトーカも人間だったってことよ

上位チャット:ロボやぞ


「では続いて、本物の北方神話チーム」

「トーカに勝てなかった。残念」

「モチさんには助けられましたわ。まさか特定競技の知識を出されるとは……次回があれば、完璧な勝利をお見せいたします」

「モチのスタッフにはあとで話がある」


上位チャット:スタッフ、許されません

上位チャット:忘れられてなかった

上位チャット:色水はいけませんよ


「続いて、そっくりの局の癒し組チーム」

「いや~……お互いまだまだだね、アキラ君」

「えっ。あ、そうですね。お互い一敗ずつですもんね。はい」

「じゃがいもを深読みしちゃったな、っていうのが反省点です。アキラ君は、あれはしょうがないよ。むしろゴッホを知ってたのがすごい!」

「で、ですよね!?」


上位チャット:経緯はともかくちゃんと覚えてたのは偉い

上位チャット:俺映画見たはずだけど思い出せなかったしw

上位チャット:家庭菜園を選んだ局長……


「続いて、そっくりの局の狂犬チーム」

「えっと、その……ごめん」

「なんだ? 珍しくしおらしいなアホ眼鏡。さすがに二敗はこたえたか」

「う……うっさいな!」

「王者の格はこの程度では傷つかないからな。ミサギは次の機会に挽回すればいい。まあ? 次も同じチームとは限らないから、このオウオウインオウマがフォローしてやれるとも限らないけどな」

「ん……アリガト」


 ミサギはぽそりと呟く。


上位チャット:ウッッッッ

上位チャット:オウマいいやつ

上位チャット:はーしんどいつらい好き


「続いて、そっくりの辺獄からの使者チーム」

「いや~なんとか踏みとどまった感じでしたね」

「余裕なのわよ」

「んっ、あっ、そう! 余裕だったー、のだだぞー」


 ポーズをとるシビアの横で、ドラたまも慌ててポーズをとる。


上位チャット:草

上位チャット:余裕だったのわよ?

上位チャット:ノダダゾノルマ達成


「それでは次は、ニセモノの平時でいこうチーム」

「アサカラ兵士長、卿のこう献に応えられず、すまぬ」

「いや、カニ囲いは運でしたからね。最終問題も俺がやらかしたようなものですし、運がなかったということで」

「運ならついている」

「陛下!?」


 ヨルニナルトの周囲にいた者たちが、少し距離を取った。


上位チャット:あっ

上位チャット:運が……

上位チャット:陛下の落下中の動画見たいな

上位チャット:見せられないってことはそういうことだろ?

上位チャット:屁以下……


「それでは最後に、一流Vtuberとして認められた、東京市民戦線チーム」

「いやまさか自分たちが一流になるなんて、その、ねえ? ここにいる人たちを差し置いて、いいのかなーって感じなんですけども」

「そこは素直に喜ぶとこっしょパイセーン。ホント小心者ッスね?」

「うるさいよ武蔵野市民!? そういうお前はどうなのよ?」

「パイセンとじゃなければ光栄ッスよね」

「お前、お前な~! 覚えておきなさいよ!?」


上位チャット:いつも通りで草

上位チャット:これが一流の漫才かー

上位チャット:胸を張れよwwwww


「それでは一流Vtuberのお二人に、締めの挨拶をしていただきます」

「あっ、ハイ、わかりました。えー、ということで! ここまでご視聴ありがとうございました! 大型コラボということでね、もう見所もたくさんだったと思います! えーと……えっと……あ、あのー! 告知とかある人います?」


上位チャット:おいwwww

上位チャット:草

上位チャット:一人でやりきれよwwwww


「あっ、それじゃあ私が!」


 トーカが手を挙げて前に出る。


「来年、2020年1月は! 今回のコラボ以上にVtuberの集まるライブイベントがあります! 題して『私と推したちのステージ』! もう現地のチケットは完売しちゃいましたが、ネットチケットはまだ受け付けていますので、お早めに!」

「そうだそうだ! 早めにだぞ! トーカさんの初ライブなんだからな!?」

「あっはっは、まあ売り切れませんけどね。サーバーがパンクしないように、お早めに!」


上位チャット:買いました!

上位チャット:そうだった

上位チャット:現地行きます!

上位チャット:落選したからネットチケット買わなきゃ

上位チャット:ドームですよドーム


「えー告知は以上です! それではまた次の動画で! さよ~なら~!」


上位チャット:さよなら~!

上位チャット:高評価忘れんなよ

上位チャット:満足した

上位チャット:最高の年末だった

上位チャット:もう一回見よ

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