【年末大コラボ】チームで格に差をつけろ【格付けチェック】(中)

「さあ、一問目では一流ならではの審美眼をチェックさせていただきました。続きまして二問目で確認させていただくのは、一流ならではの知識。その幅広い知識で、正しい選択肢を選んでいただきます」


上位チャット:知識問題か

上位チャット:名画も知識問題的なところあったが

上位チャット:何やるんだろ


「二問目の解答者は、人類案内人チームより、サキさん。局の癒やし組より、クヌギさん。局の狂犬より、オウマさん。東京市民戦線より、ケイさん。平時でいこうより、アサカラさん。北方神話より、リリアさん。辺獄からの使者より、シビアさんです。それでは最初のチームから挑戦していただきましょう」


 (テロップ:1チーム目。北方神話、リリア)


上位チャット:初手リリア様

上位チャット:リリアちゃんのいる部屋を選ぶゲームはじまる


 三つ編みをなびかせて、おっとりとした少女は穏やかに笑う。


「さあ、モチさんに続かないといけませんね。問題は──」

「はい」


 アバタが読み上げる。


「こちらの図面のうち、片方が『カニ囲い』、もう片方が『船囲い』となります。将棋の『カニ囲い』はどちらになるかお答えください」

「は!? 将棋!?」


A:

 歩 歩 歩

  歩 歩

  角金銀金

 香桂 玉 


B:

 歩 歩 歩

  歩 歩

  角玉 金

 香桂銀金


上位チャット:??????

上位チャット:草

上位チャット:意味が分からないwwwww

上位チャット:リリアちゃんの叫び草

上位チャット:ガチじゃん

上位チャット:将棋勢ワイ高みの見物


「ちょ、ちょっと待ってください。こんなの未経験者にわかるわけ──」

「文化に対する一流の知識をお持ちなら問題ないかと」

「ッ……」


 リリアは──深呼吸する。


「……いいでしょう。カニ囲いと船囲いですね……」


 腕を組み、じッと盤面を見比べる。


上位チャット:がんばれ!

上位チャット:いや未経験者には無理でしょ……

上位チャット:どうなる?

上位チャット:ぐぐってこよ


「おそらく……あの上部のWになっているところがハサミとか目に見立てられているのでしょう。そうなると下部のほうでどちらがカニっぽいか船っぽいかですが……なるほど、見えてきましたわ」


 リリアは頷く。


「Aはクルーザーのような形をしています。Bはぎゅっと中央に固まっている、あれはきっとカニのフンドシですわね。つまりBがカニ囲いですわ」


 言い切り、リリアはBの部屋へと入っていく。


上位チャット:おお

上位チャット:フンドシって何?

上位チャット:カニの腹の部分

上位チャット:クルーザーかぁ……


 (テロップ:2チーム目。東京市民戦線、ケイ)


「は? いや分かんないし。えー……んじゃ右足をあげたカニってことで……」


 さっさとAの部屋に入っていくケイ。


「ってリリアさんいないのかよ……まぁいても正解か分かんないだろうけど。こんなの確率半々っしょ……」


上位チャット:適当だなチャラ男

上位チャット:右足をあげたカニ……まあ見えなくもない

上位チャット:どっちだろう


 (テロップ:3チーム目。局の狂犬、オウマ)


「わ、わからん……!」


 苦しげに言い、ダメージを受けたようにあとずさり、胸に手を当てて息を荒げる。


上位チャット:なんだよwwwww

上位チャット:ダメージ受けてて草

上位チャット:好きだわwwww


『いやいや大げさだから』

『オウマ君、いつも通りだね……』


 局のメンバーからツッコミの入る中、オウマはブツブツとつぶやく。


「くッ。考えろオウマ……カニ囲い……カニ……待てよ、敵陣から見たら上下が逆になるんだよな? ということはこの歩は足……フッ、なるほどな」


 ニヤリ、と笑う。


上位チャット:え? 考えすぎでは?

上位チャット:敵陣からの見え方を気にするのは新しいな


「答えはAだ。金を中心にハサミが二つあるだろう。これは貰ったな。ハーッハッハッハ!」


 Aの部屋に向かうオウマ。


『いやめっちゃ腰ひけてるじゃん』

『オウマ君……』


上位チャット:草

上位チャット:めっちゃ自信なさそうで草

上位チャット:言動不一致wwwww


「じゃ、邪魔する」


 オウマは中に入り──ケイを見て。


「……いや、わからんな」

「あ、ども」

「あ、ああ、どうも」


 よそよそしく座った。


『いやいや仲良くしなさいよ男の子同士!』


 ヨウセイが遠くからツッコむも、二人は微妙な距離感をあけて座ったままだった。


上位チャット:わからんは草

上位チャット:まあ誰がいてもわからんでしょw


 (テロップ:4チーム目。平時でいこう!、アサカラ)


「うわ、知らない……」


 アサカラは苦々しくつぶやく。


「あーでも、将棋の囲いって確か、王様を中心に見立てしてるんじゃなかったっけ?」


上位チャット:おっと?

上位チャット:いい線いってる


「そうなると歩がハサミっぽいからB? でもAが船かって言われると、違うんだよなぁ。Aは家とか城っぽい感じ? Bは……角と王様を載せた船?」

『!?』


 ひとりしかいないBの部屋で、リリアがびくりと肩を揺らす。


上位チャット:なるほどなあ

上位チャット:リリアちゃん?


「あーあー。そうなるとBが船囲いって感じですね。Aは、カニ……金がハサミとか? うん、じゃあAにしよう」


 Aの部屋に入っていくアサカラ。


「あ、どうも、よろしく」

「フッ、歓迎しよう!」

「ッス」


上位チャット:よそよそしいwwww

上位チャット:もうちょっと仲良くしろよw

上位チャット:まあケイ君は内弁慶だからね……


 (テロップ:5チーム目。局の癒し組、クヌギ)


「えー!? 全然わかんない! ていうか知らないよ……!」


 クヌギは問題を前にオロオロと行ったり来たりする。


「えぇ……これ、間違えたら変な恰好させられるんでしょ? ヤダヤダ、間違えたくない」


上位チャット:クヌギちゃんがんばれ!

上位チャット:局長……

上位チャット:自分で作ったアバターだもんねえ


「カニ? カニって何? 船……何が船なの!?」


 その後倍速でグダグダと悩む様子が流され──


上位チャット:長いwwwww

上位チャット:めっちゃウロウロしてるwwww

上位チャット:局長優柔不断すぎて草


「うわぁー! だめだー!」


 Aの部屋に入ったクヌギは崩れ落ちた。


上位チャット:草

上位チャット:ハズレと決めつけられてて草

上位チャット:腹痛い


「いやいや局長、まだ不正解と決まったわけでは」

「だってリリアさんいないじゃん!? え、それとも誰かこれが正解って分かってるの?」


 Aの部屋の面々は顔を見合わせて……無言で顔をそらした。


「やっぱりだめだー! 嫌ぁー!」


上位チャット:局長……

上位チャット:かわいそう


 (テロップ:6チーム目。人類案内人、サキ)


「えー、どっちだろ?」


 サキは体ごと首をかしげる。


「どうしよ、トーカ。わかんない。失敗したらごめんね?」

『大丈夫だよ、サキちゃん!』

「うん、よし! じゃあーえっとー……こっちにする!」


上位チャット:てぇてぇ

上位チャット:聞こえないのに通じ合ってるように見える

上位チャット:まあ知らないのはしょうがないでしょ……


 サキはさっさと解答の部屋に向かい──


「あ、やったーいっぱいいる!」

「あぁぁぁ……!」


 脳天気に喜ぶサキを迎えたのは、絞り出すようなクヌギの悲鳴と、微妙な空気のAの部屋の面々だった。


上位チャット:草

上位チャット:気持ちは分かるがw


「もうだめだぁ……」

「いっ、いや、局長。次、次を見ましょう」

「つぎぃ……?」

「シビア氏は将棋経験者ですから」

「あ、そうなんスか?」

「あー、将棋配信とかしてるらしいですね」


上位チャット:そうなの?

上位チャット:やってるよ将棋

上位チャット:嘘から出たまことっていうかまあ……


 (テロップ:7チーム目。辺獄からの使者、シビア)


『シビアさんって将棋経験者なんですか?』

『うん、まあ、リスナーさんと対局とかやってますよ』


 ワイプ画面でミサギの問いに、トーカが歯切れ悪く答える。


上位チャット:へえ~

上位チャット:ただの設定だったのにモノにしたよな

上位チャット:シビアちゃん努力家で好き

上位チャット:いまだになんでオーディション落ちたのかわからん


 そんな中、問題を前にしたシビアは、ビタリと身動きを止める。


 そして──ティアラから将棋の駒を引き抜いた。


「謎は全て解けたわよ」


上位チャット:草

上位チャット:いや何?

上位チャット:それする必要はあったの?

上位チャット:顎が痛くなってきた


 そう宣言し、早々に解答の部屋に向かう。そして開いた扉は──


「……あら、あなたが来ましたか」


 リリアのみが待つBの部屋。


上位チャット:!

上位チャット:えー!?

上位チャット:そっち?


『うわー! だめだー!』

『きょ、局長、落ち着いて』

『だってだってリリアさんと将棋経験者でしょ!?』


上位チャット:そうだよねえ……

上位チャット:経験者ではあるなあ


「き……来たわよ」


 シビアはぎくしゃくと動く。


「ふふ。ここで雌雄を決することができなくて残念ですわね」

「そッ、そうわね」

「それでは結果を待つこととしましょうか」


 リリアは優雅に腰掛ける。シビアは立ったまま固まっていた。


上位チャット:シビアちゃん緊張してて草

上位チャット:推しと二人っきりとかうらやましすぎる


「さあ、すべてのチームの解答が終わりました」


 アバタが司会台に立って言う。


「それではこれより正解の部屋へ一流Vtuberの方々をお迎えに参ります」


 (テロップ:果たして正解は、Aの囲いか? Bの囲いか!?)


 どんよりとした空気の漂うAの部屋、沈黙の支配するBの部屋。


 アバタはスタスタと歩きノータイムで部屋の扉を開けた。


上位チャット:だからwwwww

上位チャット:溜めろよ

上位チャット:お約束を知らない兎

上位チャット:って、ええ!?


「こちらが正解です」

「えっ、嘘!? やった、助かったぁー!」

「よぉッシ!」

「いえーい!」


 Aの部屋の面々が歓声を上げ、拍手をする。一方──


『なッ──』


 Bの部屋で、リリアは愕然としていた。


『あッ……あなた、分かってこちらの部屋に来たのでは……!?』

『………』


 リリアに指を突きつけられ──シビアは眼帯に手をやるポーズをする。


『……さっぱりわよ!』


上位チャット:草

上位チャット:堂々と言うなwwwww

上位チャット:そうわよね


 そしてカメラがメイン会場に戻る。


「二問目の結果、みなさまの格はこのようになりました」


 アバタが言うと、各出演者の頭上に文字が表示された。


 一流:人類案内人 東京市民戦線

 本物:局の癒やし組 局の狂犬 平時でいこう! 北方神話

 そっくり:辺獄からの使者(略)


上位チャット:すでに2組しか一流じゃない

上位チャット:どうなるんだこれ


「えー結果として辺獄からの使者チームが……」

「ちょっと待ってください。わたくし納得できないのですけど」


 アバタの進行にリリアが待ったをかける。


「シビアさん。あなた将棋には詳しいのではないのですか? 何度か将棋を配信しているのを確認していますよ。まあチラッと見た程度ですが……とにかく、なぜ間違った方を?」

「ウ、ア……」

「あ、はいはーい、私から解説しますね!」


 シビアが固まった横から、トーカが割って入る。


「いやーシビアちゃんはね、『高飛車の構え』使いなので」

「高飛車の……?」

「飛車って駒があるじゃないですか。あれをね、さっさと前方に送り込んじゃう……現代では浮き飛車って呼ばれる奇襲戦法があるんですけど、昔は高飛車って言われてて、タカビーな『高飛車』の語源でもあるんですよね」

「へえー」


 出演者たちが感心した声を漏らす。


上位チャット:マジ?

上位チャット:マジだぞ


「シビアちゃんの将棋配信は、高飛車の構えでのみ戦い続けるのが面白いんですよ。先手じゃないと奇襲にならないのに後手でも必ず高飛車に構えて。で、ここがさらに面白いところなんですけど、奇襲戦法なので序盤で有利を取らないと不利になるんですが、対局の耐久配信とかやった結果、メキメキ実力を伸ばして高飛車対策をしてない相手にはめっぽう強くなっちゃったんですよね! リスナーの中にも高飛車を使い始める人があらわれて高飛車党とか呼ばれて相高飛車戦法なんかが生まれて……」

「すいませんが要点をお願いできますか?」

「急戦の戦法でしか戦わないので、囲う機会がないんですよね。お互い。だからシビアちゃん、囲い知らないと思いますよ」

「そんな……」


 リリアはシビアを見て──シビアは眼帯に手を当てて言う。


「シビアシステムに囲いの文字はないのわよ!」


上位チャット:居玉・高飛車・シビアシステム!

上位チャット:藤井システムじゃないんだからさあw

上位チャット:辺獄の王は引かぬ、こびぬ、かえりみぬ!

上位チャット:なんだよ高飛車党ってwwwwww

上位チャット:相高飛車とかひどすぎるwwww

上位チャット:対局配信やってるんだ。こんど行ってみよう

上位チャット:回転率高いから面白いぞ


 がくり、とリリアが顔を伏せる。シビアはポーズをとったまま、固まった。


「……あ、よろしいですか?」


 そこへアバタがあっさりと声をかける。


上位チャット:空気を読まない兎

上位チャット:Good虚空

上位チャット:まあ進めないとね


「えーというわけで、残念ながら一流のはずのVtuberの方々の中に、それ以外の方が含まれていたようです。『そっくり』に格付けされたチームは、アバターをチェンジさせていただきます」


 アバタが片手をあげ、『パチン』という効果音がすると──


「うわ、そっくりさん感ある!」

「あ~、なるほど、なるほどねー」


 ドラたまとシビアの姿が変わった。サキが声を上げる中、ドラたまはまじまじと体を見下ろす。


上位チャット:そっくりだwwww

上位チャット:ユーザー再現っぽい感じ

上位チャット:兎やっぱり指パッチンできてないよね?


「あのー、確かにね、あの自分のモデルってフルスクラッチなので。バーチャルラウンジの既成パーツだけ使って再現するとこんな感じですねー」


 ドラゴンの角は羊の角で代用され、王冠は黄色い帽子。竜の尾はふさふさの犬尻尾をカラーチェンジしたものに。トーガ風だった服は同色のTシャツとミニスカートで再現されていた。


「ちょ……ちょっと待ってください」


 そしてまたもや待ったをかけたのは、リリアだった。


「シビアさんのその、それ……それは……いったい誰に似せているんですか!?」


 シビアの二重ドリルの髪色は金と黒だったが、それは今茶髪に統一されていた。赤と黒だった和服は、オレンジ色の着物に。ドクロの眼帯は無地のガーゼの眼帯になり、もう片方の目はたれ目がちに。


上位チャット:これはwwwww

上位チャット:おやおや?

上位チャット:スタッフの悪意wwww

上位チャット:○○アちゃん?


「あー、リリアちゃんに似てる! あははは!」

「なるほど、そういう趣旨……」

「スタッフ!? スタッフさん!?」


 ばしばし、とリリアは机をたたく。シビアはポーズをつけたまま固まって──


「え……ワテクシがリリアちゃんに……?」


 ぽつり、とつぶやいた。


上位チャット:草

上位チャット:やめろwwww

上位チャット:なりかわろうとするなwwww


 それを聞きつけたリリアは、キッとチーム辺獄からの使者(略)を指す。


「いいですか、ドラさん、シビアさん! それ以上格を落とすことは許しませんよ!? 『ニセモノ』になることは、わたくしが許しませんからね!?」

「お、おー、りょ、了解でーす、のだだぞー」

「ッ……と、当然わよ」


 二人はガクガクと頷くのだった。


上位チャット:やばいなニセモノが見たすぎる

上位チャット:リリアチームも失敗してニセモノになってくれ!

上位チャット:死守ですよ!


 ◇ ◇ ◇


「それでは続いてまいりましょう。二問目では一流ならではの知識をチェックさせていただきました。三問目で確認させていただくのは、一流ならではの味覚。事前に送付いたしました飲料を飲み比べていただき、正しい選択肢を選んでいただきます」

「そういう普通のをわたくしに回していただけませんか……?」


 リリアが呟く中、カメラが切り替わり、解答が始まる。


上位チャット:草

上位チャット:不得意分野を担当するように分けてるのかな

上位チャット:リリア様いいもの食べてるだろうしね

上位チャット:あーこっちにサキちゃんがよかったなあ(ニチャア)

上位チャット:結果が分かり切ってるのはちょっと


 (テロップ:1チーム目。平時でいこう!、ヨルニナルト)


「届いてからずっと冷蔵庫に入れていたのだが」


 ヨルニナルトはカチャカチャと音を鳴らしながら言う。


「黒塗りのボトルが冷蔵庫の中を占拠している様子は、珍妙であった」

『わははは。黒塗りのボトルって。あやしー!』

『そんなの届いたら毒かな? って思いそう』


 サキが大笑いし、クヌギも同意する。


上位チャット:確かに

上位チャット:あー郵送でやったんだ


「AとB、二つのボトル、それからコップを二つご用意いただけましたでしょうか」

「ウム」

「ありがとうございます。それではご賞味ください。どちらかが高級みかんジュース。もう一方がスーパーで購入した普通のみかんジュースです」


『こういう問題が続くものではないのですか……?』

『あっはっは、ドンマイ、リリアちゃん!』


 呟くリリアを、サキは笑いながら慰めた。


「では注がせていただこう」


 ヨルニナルトが虚空をつかみ、何かを注ぐしぐさをする。こぽこぽ、とわずかな水音が響いた。


上位チャット:エア注ぎ

上位チャット:虚空案件


「ウム。色合いは似ているな……しかし」


 ヨルニナルトは口元に何かを持ってくる仕草をする。


「香りが違う。より高貴な匂いのするのはAだが……」

『匂い違うんだ』

『わかるわかるー。あのね、なんか味の濃いやつはウッてぐらい匂いがするよ!』

『へえー、そうなんですね』


 クヌギとサキが語りあう中、ごくり、といい喉の音が鳴る。続いてもう一度。


上位チャット:エア水飲み

上位チャット:バーチャルならではの光景よな


「フ。……余がへい時から飲むのにふさわしいのはこちらだろう」

『うわ……気になる』

『どういう意味なんだろう……』


 ヨルニナルトはBの部屋に入っていった。


 (テロップ:2チーム目。人類案内人、トーカ)


「いやー私あんまり食にはね、バーチャルなので、詳しくないんですけど」


 トーカはそう言いながら、2つのコップとA、B、と書かれた黒いボトルのアイテムを取り出す。


上位チャット:都合の悪いときはバーチャル

上位チャット:せやね

上位チャット:お? ボトル?


「これも芸事の一種と考えればね、負けるわけにはいきません! コップとボトルにもね、トラッカーを付けたので……同期させて。ほら、この通り」


 トーカがボトルを振ってみせる。


上位チャット:おお

上位チャット:さすがこういう時のプレゼンス考えてる


「ってやってもわかりませんよね、はっはっは……ん?」


 トーカはボトルを振り……二つのボトルを両手で持って重さを比べるしぐさをする。


「何かトラブルでしょうか?」

「あ、いえ。いや、ちゃんと冷蔵庫に入れて冷やしておいたんですけど」

『ん? 冷蔵庫……黒いボトル?』


 ぽつり、とワイプ画面でサキが呟く。


「あれ……よく考えたら、軽い……?」

『あ』


 トーカはボトルを開栓する仕草をし、中を覗き込み、そして──カメラの上方を見つめた。

 ワイプ画面上では、サキが何故か両手を合わせて拝んでいる。


上位チャット:?

上位チャット:なんだ?

上位チャット:サキちゃんお祈り案件


「トーカさん?」

「あ、いえいえ! なんでもないです。それじゃあ注ぎますね~」


 トーカは笑顔でボトルを傾ける。トットットッ、といういい音がして、コップの中にオレンジ色の円柱が伸びた。


上位チャット:うまそう

上位チャット:マイクが性能よすぎて音拾ってんのか

上位チャット:音で口が動いてるwwww


「うん、うん……なるほどね。じゃあ飲み比べてみましょう。んっんっ……」


 トーカはバーチャルな二つのコップを空にして──机に手をついて顔を伏せ──決意する。


「……よし、行きます」


 向かった先は、Bの部屋。


「あっ、へ! いか! ご一緒ですね!」

「ウム。許す」

『へえー、Bなんだ』

『サキ氏? どうかしたんですか? 固まっていますが……』

『あ、う、ううん! なんでもない! そっかー、Bなんだねー!』


上位チャット:トーカちゃんはBか

上位チャット:勝手な願望だけど味音痴であってほしい

上位チャット:味音痴が料理できるんですかねえ……


 (テロップ:3チーム目。局の狂犬、ミサギ)


「ええー、どっちだろ……」


 飲み比べたミサギは頭を抱える。


「うーん、でも、なんかAは喉に引っかかるっていうか、飲みづらいんだよね。その点、Bは飲みやすいっていうか、上品な感じ?」

『ほう……』


 ミサギの感想にオウマが唸る。


上位チャット:上品、あっ

上位チャット:フラグ

上位チャット:ええー


「よし決めた! B!」


 扉の前まで移動するミサギ。


「お願いトーカさんいてトーカさんトーカさん……やったー!」

「ミサギちゃん、いらっしゃい」

「来ましたー! やったー! これはもう、勝ち確っしょー!」


上位チャット:Bなのかな

上位チャット:喜んでるミサギちゃんかわいい

上位チャット:陛下もいるよ!


 (テロップ:4チーム目。局の癒やし組、アキラ)


「うーん」


 飲み比べたアキラは首をひねる。


「Aは濃くて……Bは薄い? 薄くないですか?」

『ふふーん、それはAを先に飲んだからっしょ。あれが罠だね、罠!』


 Bの部屋でミサギは自信満々に言う。


上位チャット:あ、そういうのもあるのか

上位チャット:どうかなあ?


「えぇ、どっちだろう。うーん……じゃあ……おいしかったので、Aで……」


 Aの部屋の前まで移動するアキラ。


「お邪魔します……えっ、あれ!? ええ!? 嘘!? ボク一人!?」

『いえーい、悪いわねアキラ』

「うわー、どうしよう! 局長、ごめんなさい!」


上位チャット:ミサギちゃん悪い顔で草

上位チャット:アキラきゅん……


 (テロップ:5チーム目。辺獄からの使者、ドラたま)


「いやー、普段ジュースとかあんまりね、飲まないんですよね。あと冷蔵庫が狭いので、結構、結構ね、スペースがとられて……あ、飲みます、はい」


 言いながらドラゴン娘は何かを飲む仕草をする。


「んっ、濃い」


上位チャット:エッッッ

上位チャット:濃い♡ じゃあないんですよ

上位チャット:切り抜いてくる

上位チャット:おじさんだぞ

上位チャット:おじさんだからええんやろがい!

上位チャット:おじさんの冷蔵庫小さそう


「こっちは……あー、Aを飲んだ後だと、うーん。なんというか、懐かしい味ぃ……ですかね? まあまあ、でもこういう、ほら味が濃いやつって、たくさん原材料を使ってるんじゃないかなって、あ、でも濃縮還元とかもあるしそうでもない?」


上位チャット:長い

上位チャット:あーどっちだろう

上位チャット:考えを話してくれるのは嬉しい


「うーん、いや、やっぱり基本味が濃厚な方が高価だと思うので……Aにしまーす」


 Aの部屋に入っていくドラたま。


「あっ、ドラたまさん!」

「あ、どうも~」

「こ、こっちですよね? 高い方」

「あ~……どうでしょう。飲みなれてない感じではあるんですけど」

「うぅ……」


上位チャット:年齢で味覚に違いもあるし

上位チャット:おっとそこまでだ


 (テロップ:6チーム目。東京市民戦線、ヨウセイ)


「じゃ飲みます。んっ……あ、全然違う! 全然違うなこれ!」


 飲み比べたヨウセイはウンウンと頷き──


「けど自分の貧乏舌じゃどっちもウマいなってことしか分からんなコレ!」

『パイセン、食生活改善してくださいよ~』


上位チャット:草

上位チャット:違いがあることぐらいは誰でもわかるんだよwwwwww

上位チャット:ヨウセイ君はもっといい物食べて


「えー、どっちだコレ。自分が毎日飲みたいなって思うのはBなんだけど……B……Bか? いや! 自分を信じる! 自分の貧乏舌を信じるぞ!」


 ヨウセイが向かった先は──Aの部屋。


「あ、どうも! アキラさんにドラたまさん!」

「どうも~」

「心強いですー!」

『ふふん。でもこっちにはトーカさんがいるし!』


 なごむBの部屋を見て、ミサギはふんぞり返る。


上位チャット:貧乏舌が好むBが安いとみてAか

上位チャット:ミサギちゃん……

上位チャット:ミサギちゃんフラグ建ててない?


 (テロップ:7チーム目。北方神話、モチ)


「みかんジュース。よく飲む。ライブで」

『おおっ』

『モチさん、信じていますよ』


 フンスと気合を入れるモチを見て、リリアは両手を組む。


上位チャット:モチちゃん信じてる

上位チャット:頼むぞモチーチカ!

上位チャット:そういえばみかんジュース飲んでるって言ってた


「スタッフ、楽屋に用意してる。余裕。まずはB」


 モチは飲む仕草をし、余裕をもってコップを置く。


「……おいしい。これは、いつも飲んでる。次はA」


 続いてモチは別のコップをあおる仕草をし──固まる。


「……!?」

『モチさん……?』


 モチは、ノロノロ……と腕を下ろす。


「……おいしい」


 ぽつり。


「雲泥の差。Aがみかんジュースなら、Bは色水」


上位チャット:色水wwwwwwwww

上位チャット:えぇ……


「もしAが高級なら……」


 モチは──静かにつぶやく。


「スタッフは、モチに、色水を」


 その冷えた声音に、ワイプ画面の面々は固まった。


上位チャット:スタッフに黙祷

上位チャット:いいやつだったよ……

上位チャット:許されません


「……モチは、スタッフを信じたい。だから、あえて、Aを選ぶ。外れたら、疑ったモチが悪かったということ」


 モチはそれだけ言うと、トコトコとAの部屋に向かった。


「ぽちゃロリさん」

「ど、どうも~」


 固いドラたまの横に、モチはスッと座った。


上位チャット:モチちゃん……!

上位チャット:ぽちゃロリさんの隣に座るのてぇてぇ


「さあ、すべてのチームの解答が終わりました」


 アバタが司会台に立って言う。


「それではこれより正解の部屋へ一流Vtuberの方々をお迎えに参ります」


 (テロップ:果たして高級みかんジュースは、Aのジュースか? Bのジュースか!?)


 Aの部屋は4名。Bの部屋は3名。ほぼ半々に分かれ、それぞれの部屋が固唾を飲んで見守る中──


 アバタはスタスタと歩きノータイムで部屋の扉を開けた。


上位チャット:はい

上位チャット:スタスタガチャリ


「こちらが正解です」

「やったー! やりましたよ局長!」

「おぉ~」

「よっしゃ! 自分を信じてよかった! ……って」


 Aの部屋の中で、アキラ、ドラたま、ヨウセイはおそるおそるモチの方へ首を向ける。


 モチは──


「粛清」


 それだけ言った。


上位チャット:草

上位チャット:Aか……

上位チャット:モチちゃんスタッフ逃げて。あるいは高級なの買ってきて


『えっ、えっ、嘘!?』

『あちゃー……』

『フ……』


 一方Bの部屋ではミサギがアワアワと手を動かし、トーカが苦笑して頭を掻いていた。


『トーカさん、ど、どうして!?』

『あはー、いやあ……バーチャルな私に味覚は難しすぎましたね!』

『トーカさん!?』


上位チャット:バーチャルだからしょうがないね

上位チャット:バーチャルを言い訳にするな

上位チャット:トーカのポンコツムーブは不意打ちすぎる

上位チャット:好き


『ごめん、トーカ……!』

『サキさんはなぜ謝っているんですか……?』


 ワイプ画面で手を合わせて頭を下げるサキに、横からリリアがぽつりとツッコミを入れていた。


上位チャット:サキちゃん?

上位チャット:何かリハで余計な入れ知恵でもしたのかな

上位チャット:なるほど


 そしてカメラがメイン会場に戻る。


「三問目の結果、みなさまの格はこのようになりました」


 アバタが言うと、各出演者の頭上に文字が表示された。


 一流:東京市民戦線

 本物:人類案内人 局の癒やし組 北方神話

 そっくり:局の狂犬 平時でいこう! 辺獄からの使者(略)


上位チャット:増えたなーwwww

上位チャット:ワクワク


「やりましたよ、局長!」

「うんうん! ありがとうアキラ君!」


 アキラとクヌギが喜び合う、一方──


「……なんか言わないの?」


 ミサギは何も言わないオウマに問いかける。オウマは、フンッ、と鼻で笑った。


「何をだ? アホ眼鏡が二連続で不正解だったことなんて、語るほどのことはない。この一流のオウオウインオウマ、それぐらいちょうどいいハンデだ。ハーッハッハッハ!」

「「おおー」」


 高笑いするオウマを、トーカとサキが拍手する。


上位チャット:オウマいいやつ

上位チャット:オウマくん好き

上位チャット:これだから王は


「……ふ、ふんっ。そんなに言うなら、次も正解してきてよねっ!」

「フッ、任せておけ」

「そういえばソルジャー、陛下も二敗ッスよね?」

「えっ。あ、ああ、しかし俺の陛下への敬愛は変わらないから──」

「許す」

「許されても困るんですよ陛下!?」


上位チャット:陛下wwwww

上位チャット:お前だろうが失敗してるのwwwwww

上位チャット:許されてよかったな兵士長感謝しろよ


 ワイワイと結果で騒ぐ一同。それを前にして兎頭は直立不動でいて──それに気づいたトーカが声を上げる。


「まあまあ、みなさん! お忘れじゃないですか? 新しく『そっくり』に格下げになったチームが2チームいることを! ねえアバタさん」

「……あ、はい。それでは『そっくり』に格付けされたチームは、アバターをチェンジさせていただきます」


 アバタが片手をあげ、『パチン』という効果音がすると──


「ああー……まぁ、まぁ、まあだな?」

「そっくり、って感じはあるね、顔は結構それっぽい」


 オウマは普通の学ラン、ミサギは普通の着物姿に。


「陛下は一見変わらないですね……」

「卿もな。軍服という要素が強いのであろう」


 ヨルニナルトとアサカラは、ディテールを失った軍服姿で立つ。


上位チャット:これはそっくり

上位チャット:再現度高い

上位チャット:遠めに見たら本物かな


「なぜ……なぜそちらはそんなに普通に『そっくり』なのに……?」

「いやー、私たちもウカウカしてられませんね!」

「うん、がんばるね、トーカ!」


 呟くリリアの後ろで、トーカとサキが気合いを入れていた。


上位チャット:トーカちゃんは失敗したがってるように見えるwww

上位チャット:リリアちゃんw

上位チャット:あと何問あるのかなwwww

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る