【年末大コラボ】チームで格に差をつけろ【格付けチェック】(上)

上位チャット:待機

上位チャット:はえーよお前ら

上位チャット:待ちきれない

上位チャット:こんな豪華なコラボある?

上位チャット:四天王コラボ助かる

上位チャット:待機

上位チャット:音量上げておくといいよ

上位チャット:ありがとう

上位チャット:おいこらやめろ

上位チャット:そろそろか

上位チャット:耳がぶっ壊れた

上位チャット:鼓膜が

上位チャット:このカウントダウンの音量ほんと

上位チャット:来るぞ!!


「みなさま、ごきげんよう」


 カッ、と。暗闇の中にスポットライトが射し込み、赤いカーペットの上のシルエットを浮かび上がらせる。


上位チャット:出たわね

上位チャット:アバタさーん!


「世界初男性バーチャルYouTuberのマネージャー、またの名を格付けマイスターのアバタです」


 スーツ姿の兎頭男はそう言って、胸に手を当てて腰を折る。


上位チャット:出番終了

上位チャット:宣伝お……宣伝してないな

上位チャット:いつものでもないな

上位チャット:お前が司会か

上位チャット:司会のアバタはたすかる


「本日は多数のVtuberの方々をお呼びしての特別企画。誰もがこのVtuber界で一流の方々ばかり。しかし、果たしてその輝きは本物なのでしょうか? そこでこの格付けマイスター、アバタが、ご招待したVtuberの方々にいくつかの問題を出題し、その格を測らせていただきます。どれも一流なら正解して当然の問題ばかり。このアバタ、みなさまが全員全問正解することを信じております」


 直立不動でそう言い切ったアバタは――しばし無言でいて――頭をキョロキョロさせてから頷いた。


上位チャット:カンペ探すなwwwww

上位チャット:いつもの

上位チャット:草


「それではさっそく、一流Vtuberの方々をご紹介しましょう」


 アバタがスッと手を上げると、『パチン』という効果音がして、暗闇がなくなる。そこにずらりと並ぶVtuberたちが、歓声を上げたり叫んだり拍手をしたりした。


上位チャット:うおおおおお!

上位チャット:キター!

上位チャット:泣けてきた

上位チャット:四天王だ!!

上位チャット:ねえ指パッチンできてなくない兎?


「それでは最初はこちらのチームから自己紹介を」

「こんにちは、人類。彩羽根トーカです」

「みんなー! 見てるー!? ミチノサキだよ!」


 大きな赤いリボンを頭の後ろに下げた少女と、金髪に青薔薇のシュシュをつけたツインテールの少女が挨拶する。


上位チャット:見てるー!

上位チャット:こんにちは!

上位チャット:サキトカいいぞ

上位チャット:てぇてぇ

上位チャット:もう泣いた


「チーム名は『人類案内人』です!」

「いえーい!」

「はい」


 アバタは頷く。


「……ええー! そこはもっと掘り下げてよアバタさん!? 由来とか聞いて!?」

「え?」

「あっはっは、虚空芸いただきました!」


上位チャット:はいじゃないが

上位チャット:アドリブの効かない兎

上位チャット:隙あらば虚空


「まあね、人数も多いので! サクサク行くのにアバタさんが適任かもしれませんね。さ、次に次に!」

「あ、はい」


 アバタは頷く。


「バーチャル帝都からは、この四人にお越しいただきました」

「こんにちは! バーチャル帝都所属、穂之木ほののぎクヌギです!」

「同じく、バーチャル帝都所属の、七見屋なのみやアキラです」

「チーム名は『局の癒やし組』でーす」


 大正時代の女学生風の長髪の少女と、青い着物の書生風の少年が、そろってにこやかに笑って手を振る。


上位チャット:局長かわいい

上位チャット:局長とアキラか

上位チャット:アキラきゅんかわ

上位チャット:まさに癒し組だな


「おはよう、諸君! バーチャル帝都所属の、枉王院おうおういん煌真オウマだ!」

「あ、隣の人とは別の帝都から来ました。七見屋なのみやミサギでーす」

「待て待て待て」


 無関係を装うピンクの着物を着た書生風の眼鏡の少女に、大正時代の男子生徒風の、髪に赤いメッシュの入った少年が突っかかる。


上位チャット:草

上位チャット:知らない人です(棒)

上位チャット:オウマ君……


「曲がりなりにも同じチームだろうが」

「あーなんであそこでグー出しちゃったんだろー。サイアク」

「ハァー? こっちのセリフだがアホ眼鏡?」

「何よダサメッシュ。だいたいチーム名もおかしいじゃん。『局の狂犬』って何よ」

「かっこいいだろうが。というか発案者は局長だが?」

「クヌギちゃん!?」

「あっ、えーと、アバタさん次に行ってくださーい」

「あ、はい」


 はいじゃないよ!? という後ろの叫びを無視してアバタは進行する。


上位チャット:狂犬wwww

上位チャット:ミサギちゃんすき

上位チャット:この二人好き

上位チャット:運営ありがとう

上位チャット:局長?

上位チャット:目をそらす局長ワロタ


「Vtuber実験バラエティショウからは、こちらの二人にお越しいただきました」

「はいこんにちは、九から飛んで六と書いて九六はなぬき曜星ヨウセイです、よろしくお願いします!」

「チーッス。内弁慶系Vtuberの、武蔵野むさしのケイでーす」


 木曜日と書かれたTシャツを着た藍色ジャージの男性と、デニムジャケットにジーパンで、ショートボブの髪の毛をあえてプリン配色にした糸目の男子大学生が挨拶する。


上位チャット:クソダサTパイセン!

上位チャット:Vバラもでかくなったなあ

上位チャット:声もでかい

上位チャット:ケイ君がコラボとか珍しい


「チーム名は『東京市民戦線』です! よろしくお願いします!」

「よろしくしすぎじゃないッスかパイセン?」

「うるさいよどう考えても自分らがこの中で一番格下だよ!?」

「いやいや下剋上狙ってくださいよパイセン。そういう企画なんだから。ねえ」


 ケイがアバタに向かって呼びかけて――


「………」

「……あれ?」


 反応がなくてお互い固まる。


上位チャット:振るなよwwwww

上位チャット:草

上位チャット:虚空送りチャレンジ成功

上位チャット:今のはチャラ男が悪い


「アバタさん、次のチームの紹介をどうぞ!」

「あ、はい」


 トーカに促されて、アバタは動き出す。


「続きましては、大調和弊国だいちょうわへいこくよりこのお二人にお越しいただきました」

「弊国民よ、好調であるか。余はヨルニナルト・ヘガデル。大調和弊国のちょうである」


 豪奢な金髪を揺らし、氷の瞳をもった詰襟軍服のイケメンが言う。


上位チャット:へ!いか!

上位チャット:陛下好き

上位チャット:かっこいい


「弊国のへい、アサカラ兵士長です」


 こちらはいくらか簡略化された軍服を着た赤髪の男が言う。


上位チャット:Twitterで暴れてた兵士長

上位チャット:よかったな兵士長……

上位チャット:念願のコラボ


「チーム名は、『へー時でいこう!』です。よろしくお願いします」

けい、少し緊ちょうしていないか?」

「いやそりゃ……しますよ! だって、とっとっ……推しがいるんですよ!」

「リハで挨拶していたであろう」


上位チャット:ガチガチで草

上位チャット:リハやったんだ

上位チャット:そりゃするでしょ

上位チャット:トーカ最推し勢


「しましたけどそれとこれとは違うんですよ陛下!」

「ところで兎頭の卿よ」


 緊張で声のひきつるアサカラを捨て置いて、ヨルニナルトはアバタに呼びかける。


の名があるとはすばらしい。余の配下とならぬか」

「陛下!?」

「えーダメダメ! アバタさんはサキのマネージャーだから!」

「そうか。ならば仕方ない」


 ヨルニナルトは引き下がり──誰もしゃべらなくなったのを見てアバタが進行を続ける。


上位チャット:間よw

上位チャット:拾っていく陛下VS虚空に送る兎

上位チャット:サキちゃん嫉妬かわいい


「続きましては、一流にふさわしいVtuber。ディフェンディングチャンピオンチームをお呼びしました」

「初回で防衛もなにもあったものではありませんが」


 大きな三つ編みをさげたワンピース姿の少女が、それでも余裕の笑みを見せて言う。


「ごきげんよう。みなさまを天に導く、一流バーチャルYouTuberの神望リリアですわ」

「ズドラーストヴィチェ」


 リリアの腰ほどの背丈で手を上げる、もこもこダッフルコートを着た銀髪の少女。


「北方少女モチです」


上位チャット:ごきげんよう!

上位チャット:Здравствуйте!

上位チャット:見目麗しいペア

上位チャット:かわいい

上位チャット:ディフェンディングチャンピオンとは

上位チャット:リハで優勝でもしたのかな?


「チーム名は『北方神話』ですわ」

「ありがとうございます」


 アバタは丁寧に礼をして言う。


上位チャット:まさに神話

上位チャット:モチリアは神話

上位チャット:守りたいこの笑顔


「ここまで6チーム。次が最後のチームになります。このイベント最大のダークホース。それではどうぞ」

「おはようございまーす。バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんのドラたまです」


 角と尻尾の生えた少女が、少女らしからぬ声とがに股で挨拶する。


上位チャット:おじさんきちゃー!

上位チャット:ぽちゃおじ久しぶりだなワレェ!

上位チャット:がに股やめろwwwww

上位チャット:安心できる

上位チャット:おじさん好き


「はいそしてぇ!」

「辺獄からごきげんよう」


 ばさり、と背中の金と黒の螺旋を振って、ドクロの眼帯に手を当てて和ゴスの少女が男の声で名乗る。


辺獄りんぼシビアわよ」


上位チャット:シビア様!

上位チャット:シビアちゃんうれしい

上位チャット:伸びたよなあ

上位チャット:応援してるのわよ

上位チャット:バ美肉ペアいいぞ


「チーム名は『辺獄からの使者! ドラターマッ!』」


 よろよろとドラたまは片手を地面に手をつけるポーズをする。


上位チャット:草

上位チャット:wwwwwww

上位チャット:?

上位チャット:おい

上位チャット:ターマッ! じゃあないんですよ

上位チャット:バ美肉する男! ドラターマッ!


「こうねこう。うん。はい。いやー、『おじん様ズ』と悩んだんですけどね、こっちで。今日はね。この二人で本当の一流ってやつを見せてやりますよ」

「あら、ドラさん? そちらのまがいものの肩を持つと?」

「いやいやいや、その、まあね、ほらそのー」

「ワテクシが本物のお嬢様わよ」

「あらあら、言いましたわね?」


 びたっ、とポーズをつけたまま動かないシビアに、リリアがススッと近づいて顔を寄せた。シビアは動かない。


「意外と早く白黒つけることができそうで、わたくしも楽しみですわ」

「アッ、ウッ……カッ、かかってこいわよ」

「うふっ、ぶはははは!」


 やりとりを聞いていたサキが笑い転げる。


「あはっはっは! おもしろいぃ……! こいわよ! いっひっひっひ!」


上位チャット:サキちゃんwwww

上位チャット:シビア緊張して固まってて草

上位チャット:相変わらずリリアちゃん推しだからなあ。キャラ的にあんま言わないけど

上位チャット:いいね欄とかね

上位チャット:プロレスいいぞ


「いやー、これは強敵ですね!」


 トーカはニコニコしながら言った。


「それじゃアバタさん。全7チーム出揃ったところで、ルール説明をお願いします!」

「あ、はい。かしこまりました」


 アバタが頷くと、場面が転換する。

 先ほどまでの横並びの状況とは違って、チームごとに分かれて机に向かって座っていた。


上位チャット:テレビっぽくなった

上位チャット:一流なのに普通の机と椅子だな?


「それではルールを説明いたします。先ほども説明しました通り、これからいくつかの二択問題を出題いたします。どれも一流なら正解して当然の問題ばかり。これをチームから1名ずつお呼びいたしますので、順番に挑戦していただき、正解と思った方の部屋で待機していただきます。全7チームの解答が終わりましたら、私が正解の部屋の扉を開けてお知らせいたします」

「不正解の場合はー?」

「はい。不正解の場合はですね」


 トーカに促され、アバタは──ちらりとあらぬ方を見てから説明を続ける。


上位チャット:だからwww

上位チャット:虚空を見るな

上位チャット:一瞬の動作を見逃さない兎組がこわい


「格付けマイスターとして、不正解チームの格を下げさせていただきます。現在みなさまは『一流』。一段下がって『本物』。そして『そっくり』、『ニセモノ』と続きます。そして」


 アバタはもう一度どこかを見る。


「えー、『本物』より下は、その資格なしとして現在のアバターから、『そっくり』はこちらで作成したちょっとそっくりなアバターに。『ニセモノ』はあきらかにニセモノだろうというアバターにチェンジしていただきます」

「ええー!?」「ウソ!」「ヤダ!」


 参加者から悲鳴が上がる。中でも大きな声を出していたのがクヌギだった。


上位チャット:映す価値なしないんだ

上位チャット:なるほど

上位チャット:クヌギちゃんwwww

上位チャット:局長必死だな


「ヤダヤダ絶対ヤダ! アキラ君がんばろうね!?」

「もっ、もちろんですよ局長」

「フッ。局長、要は選択を誤らなければいいんですよ。落ち着いていけばできるさ、アキラ」

「アンタ間違えたらタダじゃおかないからね」


 横から余裕そうに言ったオウマに、ミサギはジト目を向けた。


「なお、いずれの問題も、正解したところで昇格はございません。もちろん一流の方々は一問も間違えることがないと信じております。全問正解し、一流Vtuberの称号を確たるものにしてください。ルールは以上ですが、ご質問はありませんね? ──それでは、さっそくはじめましょう」


上位チャット:何問あるのかな

上位チャット:昇格なし、いいね、ガチ

上位チャット:リリアちゃん強そう


「第一問の解答者をお呼びします。人類案内人チームより、トーカさん。局の癒やし組より、アキラさん。局の狂犬より、ミサギさん。東京市民戦線より、ヨウセイさん。平時でいこうより、ヨルニナルトさん。北方神話より、モチさん。辺獄からの使者より、ドラたまさん」

「ドラターマッ!」

「………」

「あ、何でもないでーす、はい……」


 ツッコミを入れたドラゴン娘はすごすごと引き下がるのだった。


上位チャット:おじさんwwwww

上位チャット:草

上位チャット:ながいもんよ

上位チャット:この虚空送りはファインプレー


 ◇ ◇ ◇


「一問目は小手調べ。一流ならではの審美眼で、価値ある名画を見抜いていただきます。解答順はくじ引きで決めさせていただきました。それでは最初のチームからどうぞ」


上位チャット:絵画か

上位チャット:定番


 (テロップ:1チーム目。局の狂犬、ミサギ)


「なんで最初になるかなあ……」


 ぼやきながらも解答のためのステージに立つ。ワイプ画面では今回の解答者に選ばれなかった各チームのメンバーが見守っている。


「こちらが名画と、そうではない絵になります。果たしてAの絵画とBの絵画、どちらが価値ある名画でしょうか?」

「えーと」


 アバタに促されて、ミサギは宙に浮いた二つの絵を見比べる。


「Aは……これなんだろ。花の花瓶? 色汚くない?」


 黄色より少し茶色みがかった大きな花が15本活けられている花瓶。


上位チャット:ミサギちゃん?

上位チャット:おいwwww

上位チャット:汚いとかいうなよwwwww

上位チャット:超有名作品だぞw


「Bは……」


 ミサギは首をひねる。


「……ついったー?」


 波打ち際のどんよりとした空に、羽ばたく鳥型にくりぬかれた白い雲の浮かぶ青空。


上位チャット:草

上位チャット:確かにTwitterだわ

上位チャット:まあこれはなあ

上位チャット:何これ?


「えー、なんだろう。わっかんない。勘でいい?」

『いいわけあるか!』


 ワイプでオウマがツッコむが、その声は届かない。


「Aの方が描くの難しそうな気がするし、じゃあAで」


 一人Aの部屋に入っていくミサギ。


「あーどうしよ、はやく誰か来てほしい……トーカさんに来てほしい……」


上位チャット:俺もこっちかな

上位チャット:ひっかけ問題かどうか

上位チャット:トーカちゃんもさすがにわからんやろ


 (テロップ:2チーム目。局の癒やし組、アキラ)


「あ、これアレじゃん。え、言っていいのかな?」

『えっ、えっ?』


 見た途端、アキラがAの絵画を指し、ワイプに映るAの部屋のミサギが声を上げる。


「これアレですよ。Aはゴッホのひまわり。見たことありますもん」

『マジ!? やった!』


上位チャット:おっ

上位チャット:やるじゃんアキラ君

上位チャット:有名だよね


「それではBはいかがでしょう?」

「Bは……」


 アバタに言われて目を向けたアキラは、首をひねる。


「……ツイッター?」


上位チャット:草

上位チャット:双子さあ


 場面切り替わり、Aの部屋に入っていくアキラ。


「あっ、ミサギ」

「やったじゃん! ゴッホとか超有名でしょ。これはもうこっちだよね」

「う、うん。まあひっかけかもしれないけど……」

「でも意外よねー、アキラが絵画に詳しいなんて。どこで見たの?」

「えっ、その、映画で」

「へー、何の映画?」

「……コナン……」


上位チャット:ああ

上位チャット:そういややってたな

上位チャット:コナンかよwwwww


「……コナン見てるの?」

「ウン……」

「いや、いいけど……教科書とかで見たんだと思った」

「あぁぁあああ! そう言えばよかった!」


上位チャット:アキラ君……

上位チャット:まあほら金ローでもやったし

上位チャット:ええやろコナン! 面白いし!

上位チャット:せやかて工藤


 (テロップ:3チーム目。東京市民戦線、ヨウセイ)


「ああ、Aはたぶんひまわりですよね? ゴッホの。Bは……」


 ヨウセイは首をひねる。


「ツイッター?」

『パイセンそれみんな言ってるッスよ』


 ワイプからケイがツッコむ。


上位チャット:草

上位チャット:ダサTしか個性のない男

上位チャット:声も大きいだろ!


「いやでもひまわりとか有名すぎでしょ。Bは見たことないけど、逆にそれが怪しいっていうか。……よし、Bにしよう」


 Bの部屋へ移動し──誰もいないことに気づいたヨウセイは崩れ落ちた。


「裏読みしすぎたかー!?」


上位チャット:さよならヨウセイ君

上位チャット:どうなるかなー?

上位チャット:意外といい選択かもしれない


 (テロップ:4チーム目。辺獄からの使者、ドラたま)


「あーなんかAは見たことありますね。Bは……いや、知らないなあ」


 ドラゴン娘はうろうろする。


「えー、でもどっちも雰囲気はありますよね。難しい、難しいなーこれ。あーでも、こういうのってこう、有名っぽい作品をあえてね、選ばせるっていう、裏の裏みたいなところがあると思うので……Aにしまーす」


上位チャット:長い

上位チャット:おじさん話が長いよ

上位チャット:裏の裏を読むおじさん


 Aの部屋に入るドラたま。


「あ、どうもー」

「ドラたまさん、いらっしゃい」

「心強いですー」

『えぇ……』


 ひとり頭を抱えるヨウセイ。


上位チャット:元気出せヨウセイ

上位チャット:まだわからん

上位チャット:次だな


 (テロップ:5チーム目。人類案内人、トーカ)


『ここは注目ですね、局長』

『そうだね。トーカさんだし』

『トーカ、がんばれー!』


 ワイプ画面がうるさい中、トーカは二つの絵を見て──ぽそりとつぶやいた。


「あぁ……けっこうガチなやつなんですね」

『!?』

『えッ!?』


 騒然とする解答者たち。


上位チャット:!?

上位チャット:おっ?

上位チャット:トーカちゃん?


「いやー、すごいですね。うん。私、Aの絵好きですよ」


 よいしょ、と絵を持ってまじまじと眺めるトーカに、Aの部屋の3人が湧く。


上位チャット:おや

上位チャット:あ、解答部屋から見れるんだ

上位チャット:反応は多いほうが楽しいね

上位チャット:本家とはちょっと違うのな


「じゃ移動しますね」


 そう言ってトーカが入っていったのは──


「よっしゃあああああああああ!」

「うわっ」


 雄たけびを上げるヨウセイのいる部屋──Bの部屋だった。


上位チャット:これはwwwww

上位チャット:俺もBだと思ってたわ

上位チャット:最初からBでした!

上位チャット:熱い手のひら返し


「ありがとう! ありがとうございます、トーカさん!」

「あ、あはは。まあ正解とは限らないので」

「いやもう絶対これ勝ちですよ! いやー、よかった!」

『ぐぬぬ……ギリギリギリ』


 ワイプ画面上でアサカラが歯ぎしりするのにわざわざ字幕が当てられていた。


上位チャット:草

上位チャット:兵士長嫉妬は見苦しいぞw

上位チャット:組み合わせ的にね……

上位チャット:ギリギリギリギリ


 一方、Aの部屋も騒然とする。


『えっ、えっ、ウソ!?』

『マジかー……』

『い、いやでも、トーカさんでも絵に詳しいとは限らないし』

『じゃあアキラ、トーカさんより詳しい自信あるの!?』

『それは……』


 アキラは詰め寄るミサギから顔をそらす。


『ない、ね……』

『あぁぁ……!』


上位チャット:部屋からも他の様子は見れるのな

上位チャット:いやーいい反応ですねえ

上位チャット:まだ可能性はあるよ!!


 (テロップ:6チーム目。平時でいこう!、ヨルニナルト)


「フム」


 絵を前に顎に手をやって考え込むヨルニナルトの姿は、なかなかサマになっていた。


『陛下……順番変わってほしい……』

『ソルジャーはそんなにトーカさんと一緒になりたいんスか』

『当たり前だろ! いやそれもあるけど! 俺、あれは分かるから──』

「Aはゴッホのひまわり」


 アサカラとケイがやりあう中、ヨルニナルトは絵画を指して言う。


「Bはルネ・マグリットの大家族か」

『陛下!?』

『え、マジで?』


上位チャット:陛下!?

上位チャット:さすが陛下

上位チャット:妙なところで知識のある陛下

上位チャット:なんで知ってるんだよwwww

上位チャット:誰ルネって


「フッ。どちらかが贋作ということになるが、このヨルニナルト・ヘガデル」


 ヨルニナルトは腕を組んで宣言する。


「さすがにそこまでは、さっぱりわからん」

『陛下……!』


 ワイプ画面でアサカラが崩れ落ちた。


上位チャット:草

上位チャット:まあね

上位チャット:題名分かっただけでもすごい


「フ。しかし我が大調和弊国にふさわしい色合いをしているのはこちらだ」


 そして入っていくAの部屋は……微妙な空気が漂っていた。


「……卿らはいったいどうした」

「だってトーカさんいないし……」

「いや、でもミサギ、陛下は作品名当ててるし」

「そうそう、まだ分からないっていうか」


上位チャット:どうかなあ?

上位チャット:五分五分だな(思考放棄)

上位チャット:信用の差w


 (テロップ:7チーム目。北方神話、モチ)


 モチは二つの絵を手に取ると、両手を動かして交互に見比べる。


『モチーチカかわいい!』

『さて、モチ氏はどう出るか……』


 モチは絵を見比べて──


「わからない」


 ぽつりとつぶやいた。


上位チャット:わからんかわいい

上位チャット:モチちゃん分からないか……


『かわいい……』

『あぁ、これは仕方ないッスね──』

「でも下手なのはこっち」

『モチちゃん!?』


上位チャット:草

上位チャット:ひどい言い草で草


 辛らつな言葉を吐いて向かった先は──


「あ、モチちゃん」


 トーカとヨウセイのいるBの部屋。


「チッ」

「モチちゃん!?」

「勝ったと思った」

「あぁ……いやあ、簡単には負けられませんからね!」


 舌打ちしてぽつりと言うモチに、トーカは胸を張って応える。その横でヨウセイは「てぇてぇ」とつぶやきながら拝んでいた。


上位チャット:投げキッスたすかる

上位チャット:モチちゃん不服

上位チャット:果たして


「さあ、すべてのチームの解答が終わりました」


 アバタが司会台に立って言う。


「それではこれより正解の部屋へ一流Vtuberの方々をお迎えに参ります」


 (テロップ:果たして正解は、Aの絵画か? Bの絵画か!?)


 お願いお願い、という声が蔓延するAの部屋、わりと落ち着いたBの部屋。そしてスタスタと移動するアバタが映し出され──


「こちらが正解です」


 AとB、二つ並んだ扉の前で──溜めも何もなく、アバタはBの部屋の扉を開いた。


上位チャット:wwwwww

上位チャット:草

上位チャット:溜めろよwwwww

上位チャット:スタスタガチャ

上位チャット:こんなに待たされない結果発表初めて

上位チャット:待ち時間、虚空へ


「よっしゃあああ!」

「当然」

「いやー難問でしたね」


 大きい声を出すヨウセイ、フンスとうなずくモチ、にこりと笑うトーカ。


『あぁぁぁやっぱり!?』

『やっちゃったか……』

『あっちかー』

『フム……』


 ワイプ画面に映るAの部屋ではミサギが大いに頭を抱えていた。


上位チャット:正解はB!

上位チャット:ルネのほうが本物か

上位チャット:ゴッホ贋作?


「さすがは一流Vtuberの方々です。Bだと見抜いた決め手は何ですか?」

「Aはゴッホのひまわりで、Bはルネ・マグリットの大家族ですよね」

「え、Bってツイッターじゃないんですか」

「あっはっは、そうも見えますね」


上位チャット:Twitterってタイトルの名画あったら笑う

上位チャット:現代美術だなあっても

上位チャット:大家族???


「てか、大家族って感じの絵でもないんですけど」

「あー、そういう感じのタイトルをつける作家さんなんです。似たような作品に空の鳥、っていうのもあるんですけど、そっちはまあまあタイトル通りですね」

「そちら、空の鳥は画像をご用意しております」


 アバタが絵画を宙に呼び出す。それを見てヨウセイはぽつりとつぶやいた。


「やっぱりツイッターじゃん」


上位チャット:草

上位チャット:まあTwitterだな

上位チャット:これはTwitter


「え、ていうかトーカさんめっちゃ博識ですね」

「いえいえ! たまたまですよ。絵の勉強をしてるときにチラッと見ただけで」


上位チャット:さすがトーカ

上位チャット:そういやイラストガチ勢だった

上位チャット:基礎のしっかりした絵描いてるからね


「マジですか。え、じゃあなんでAじゃなくてBだと?」

「Aは、たぶんスタッフさんかな? 頑張って模写されてますよね。構図はばっちりです。ただ、私は好きな感じですけどやっぱり本物とはタッチが違って──」

「いややっぱ博識だな!?」


上位チャット:ガチ勢かな?

上位チャット:格付けチェックっぽい

上位チャット:結構うまく模写してるように見えるけどなあ


 カメラがメイン会場に戻り、出演者がチームごとの席に着く。


「一問目の結果、みなさまの格はこのようになりました」


 アバタが言うと、各出演者の頭上に文字が表示される。


 一流:人類案内人 東京市民戦線 北方神話

 本物:局の癒やし組 局の狂犬 平時でいこう! 辺獄からの使者(略)


上位チャット:一問目で4組ランクダウンwwwww

上位チャット:これはひどい

上位チャット:略されてて草


「『本物』のみなさまは、次に不正解になりますと『そっくり』となります。アバターチェンジとなりますので、次はお間違えのないようお願いします」

「あぁ~、どうしてAを選んじゃったんだろ~!」

「やれやれ、しょうがないな。アホ眼鏡の穴はオレ様が埋めてやるしかあるまい」

「うっさいダサメッシュ!」


 ギャンギャンとやりあう局の狂犬。


上位チャット:いいぞオウマ

上位チャット:有言実行してくれよ王

上位チャット:まあメッシュはダサい


「本物Vtuberの平時でいこうチームは、惜しかったですね。作品名までは当てていました」

「いや予想外でしたよ陛下。なんで知ってたんですか?」

「謁見の間に飾る絵画を探していてな。その時チェックしていたのだ」


上位チャット:あーなんかそれっぽい絵画飾ってあるよね

上位チャット:ちゃんとそういう下調べしてるんだな……

上位チャット:意外とマメな陛下


「アサカラさんも分かる、とコメントしていましたね」

「あーひまわりの方、実物見たことがあるんで、それでちょっと違うなと」

「意外と物知りッスよねソルジャー。年の功?」

「うるせえよ!?」


上位チャット:年の功は草

上位チャット:さすがエリートリーマンは違うな

上位チャット:ここからどうなるかな

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