【トーカハウス】ようこそ人類バーチャルへ【2日目!】

再生リスト:毎日90秒シリーズ



「こんにちは、人類。彩羽根トーカです」


 白い空間に大きなリボンを頭の後ろに下げた少女が一人。


コメント:こんにちは!

コメント:こんにちはー

コメント:昨日の続きか


「さあ今日は引き続き、バーチャルラウンジのトーカハウスでサキちゃんと一緒に来場者とお話ししたイベントから、これはと思うシーンをピックアップする一週間の、2日目です!」


コメント:昨日の限界ムーブ面白かったw

コメント:相手だけが限界になってるのは新鮮だったな

コメント:いい人が多くてよかった

コメント:これ倍率すごかったよなあ

コメント:同じインスタンスに入るだけで運を使い果たした

コメント:今日は載ってるかな?

コメント:行きたかった……

コメント:トーカハウスは常設だしたまに収録してるの見れるからとにかく行け


「来場者からランダム選出したはずがまさかの? それではどうぞ!」


 場面が変わり、大きな窓ガラスの外にたくさんのアバターが押し寄せている家の中。トーカとサキに挟まれた場所に、抽選された来場者が転送されてくる。


「うわーどんどん楽しくなってきた! 次はどんな子かな!?」

「そろそろローディングが終わりますよー」


 光の粒子が収束し、アバターを形作る。それは海軍風のセーラー服の少年だった。


コメント:おっ

コメント:かわいい

コメント:海兵さんかな?


「わ!?」

「おっ、少年だー!」

「ようこそ、人類!」


 戸惑う少年にトーカは目を合わせて挨拶しようとし――


「彩羽根トーカです。お名前を聞いてもってああああああああ!」

「えっ、えっ!?」

「なになに、どうしたのトーカ!?」


コメント:!?

コメント:どうした!?

コメント:あっ


「待って待って。とっとっ、トモたん!? ですよね!?」

「えっ、あ、はい」

「ウワー! すごいすごい! アッオッ、推しです!」


コメント:草

コメント:Vtuberいたのかwwww

コメント:見たことないが

コメント:今日はトーカが限界のターンかw


「なになになに? Vtuberさん?」

「そうそう! アッあの、ぜひ自己紹介やってください、カメラこっちです!」

「あ、じゃあ……」


 少年はカメラを向いて手を振る。


「こんにちは。知己波ちきなみトモです」

「ありがとうございます!」


 トーカは深々と礼をする。


コメント:礼儀正しいオタク

コメント:知らないけどかわいいな

コメント:ショタボイスいいね


「えー、かわいい! セーラー服似合ってるねー。チキ……トモくんっていうの?」

「あ、はい。トモです」


コメント:ていうかこの二人で挟んでると犯罪臭がするwwww

コメント:オネショタいいよね……

コメント:サキちゃんがセンシティブすぎるからなあ!いいぞ!


「トモたん! トモたんは今日はどうして会いに来てくれたんですか!?」

「そ、その、友達に誘われて、せっかくだから抽選に並ぼうって……で、でも、まさかトーカさんがボクの名前を知ってるなんて思わなかったです。登録者数も全然なのに……」

「チャンネル登録Twitterフォローしてます! 古参です!」


 トーカは満面の笑みでアピールする。


コメント:さすがVのオタク

コメント:信頼できる

コメント:見てきたけど100人ちょっとだぞwwww

コメント:アンテナ高すぎるわこのオタク


「えー、どんなVtuberさんなの?」

「いやートモたんはですね! やっぱり容姿が可愛いところもそうなんですけど、なんといっても背負ってるものが違うんですよ! 背景がね! 軍人さんの息子さんなんだけど、お父さんは任務で他界しちゃったっていう」

「ええー!? そうなの!?」

「は、はい。父には先立たれてしまいまして」

「そうなんだ……ん? 先立たれ……?」


コメント:設定重くて草

コメント:親は先立つって普通言わないが

コメント:知己波くん! おじさんがお父さんになってあげよう!

コメント:お巡りさんこっちです


「それでトモたんが一家の長として配信してるんですよね! 知己波家の再興のために!」

「すごい……よくご存じですね」


 フフンとトーカは胸を張る。


コメント:雑なよくある設定もよう覚えとるな

コメント:Vの生き字引

コメント:チラ見程度じゃないのよくわかる


 編集が入り、少し話が進んだのであろう場面に。


「トモたんはどうしてVtuberを始めたんですか?」

「えっと、そのー……友達がVtuberっていうのがあるよって教えてくれて。それで、その後、あのー……トーカさんのコラボがあったじゃないですか。コンビニの……」

「あったあった! トーカがコンビニ店員になってるやつ! くじひいたー!」

「おっ、ありましたね!」


コメント:あったあったwwwww

コメント:めちゃくちゃクオリティ高かったやつ

コメント:一番くじもう一回やってくれ……

コメント:制服バージョントーカもっかい見たいなあ権利的に難しいんだろうけど


「あれでトーカさんを知って、Vtuberを思い出して。それで、やってみようかなって。だから今日、会えてとても嬉しいです」

「そうなんですね! いやー、コラボやってよかったです!」

「あれ、動画もとっても良かったです。コンビニのことよくご存じだなって思いました。フェイスアップ・タイムアタック・チャレンジとか、先入れ先出しまでやっていて細かくって」

「いやー基本ですからねあれは! 大事大事!」

「そうですね。やっぱりやるとやらないとでは違って」

「えーなになに? 何のこと!?」


コメント:二人とも詳しくて草

コメント:マジで何のこと? 呪文?

コメント:動画見ろ。まあ商品陳列の決まりみたいな感じ

コメント:トモたんもコンビニバイトの経験が?

コメント:あのタイムアタックのためにシステム組んだんだよなあ……

コメント:バーチャルラウンジで期間限定で公開されてたけど難しすぎて草だった

コメント:物理を制しないといけないからなwww


 編集が入り、少し先の場面へ。


「いやートモたんもコンビニに詳しいですね!」

「うんうん、びっくり! こんなちっちゃいのに!」

「うふふ……父が存命なら褒めていただけたでしょうね」

「もー未亡人ジョークやめてくださいよ!」

「みぼーじん……?」

「あっ……みなしごジョークでしたね!」


(テロップ:(いけないネタバレだった……))


コメント:草

コメント:みなしごトモたん

コメント:スッと重い設定出すのやめろよw

コメント:ネタバレってなんだ?


「あ……ははは。まあ、母は存命ですから」

「あ、お母さんはいるんだ? よかったー」

「いるいる、いるんですよねーこれが。ね、トモたん」


 トーカはぐっと体を横に向けてトモの顔を覗き込む。


「そろそろ次の抽選の時間ですけど、トモたんの時間は大丈夫かな~?」

「ええっ。ボクはまだまだ……ンンッ」


 トモは小さく咳払いして直立し──別の声を出した。


「トモちゃん? そろそろご飯の時間よ? 今日はママの手作りハンバーグですよ~」


コメント:!?

コメント:かーちゃん!?

コメント:ママwwwww

コメント:えっ?


「ちょっとママ今配信中……あっ。ゴホン! すいません、母が呼んでいるので、これで!」

「はい、はい! いただきました定番! ありがとうございます!」

「あっはっはっは! 面白い~! ンフッ、フフフフ」


 あわあわするトモを前に、サキは腹を抱えて笑う。


コメント:これは草

コメント:一人二役?wwww

コメント:ママ呼びワロタ

コメント:なるほどね


「はい、知己波トモさんでした! ありがとうございました!」

「またねー!」

「ありがとうございましたー」


 場面が変わり、白い空間にトーカひとり。


「いやーなかなかね、みなさん恥ずかしがり屋で動画の許可がでなかったので、助かりました! あらためて知己波トモさんありがとうございました! 人類、分かってますね? 概要欄にトモたんのリンクがありますからね! 私が古参ですよ!」


コメント:御意

コメント:興味を持ったら登録!

コメント:あーなんか動画掲載の許可出ない人が多いって言ってたな

コメント:会いたいけどこの規模のチャンネルに出るのは勇気いるよ

コメント:仕方ないね

コメント:トモくんよく考えると闇が深いな……

コメント:いつもの古参ムーブ

コメント:トーカが古参ムーブしないVなんているのか……?


「それでは人類、明日の動画でお会いしましょう!」



 ◇ ◇ ◇



「うーん」

「どうしたんだい、変な顔して」

「うるさい、お前の方が変な顔だろうが」

「えぇ……相変わらず自己評価低くない……?」

「事実だしな。いや今日の動画を見返してたんだが、ちょっと気になることがあって」

「ふうん、何が?」

「検索してくれないか? 『前』の世界に知己波トモがいたかどうか」

「へえ。いいよ。うん……うん、いないね。この世界にしかいないVtuberだ」

「そうか! だよな! あーよかった。なんかさぁ、トモたんを前から知ってる気がして、でもVtuberじゃなかったよなあって。そうかそうか、ただの勘違いか。いやーよかった、スッキリしたわ」

「……君って本当に、ポンコツだよね」

「は? 何か言ったか?」

「君が物語の主人公でよかったよ、って話さ」

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