NRTALs 2020【4日目】(後)
「さあ飛行船が上昇しきるまで待ち時間と言うことで、インタビューしていきたいと思います。トーカさん、どうですか調子は?」
「えーと」
トーカはちらりとタイマーを見る。
「自己ベストには近いですけど、世界記録は遠いですねー」
「これで!? ずいぶん超人的な動きをしてましたけど!?」
「いやープロにはかないませんね」
「なんのプロだ!?」
ヨウセイがツッコミ、観客から笑いが漏れる。
コメント:草
コメント:speerdun.com見てきたけど全一はもっと早いな
コメント:引退軍人ニキが本気出してやってるからなこれ
コメント:何やってんのその人……
「でも今日は秘策を持ってきているので! もしかしたら出ちゃうかもしれませんよ、ワールドレコード!」
「それは楽しみですね! こちらに渡されている台本も『ここは秘策!』とだけ書かれているので生の反応をお届けしたいと思います!」
コメント:おっ?
コメント:マジ?
コメント:さすがトーカちゃん!
コメント:期待
コメント:有言実行ウーマン見せてくれ!
コメント:本番で新ルート披露とか度胸あるなあ
「えー、視聴者の皆さんの中には超能力者のゲームなんだから空を飛ぶぐらい普通にできないの? と思っている方もいると思いますが、トーカさん」
「自分に対してはサイコキネシスが使えない、って設定なんですよ。あと、自分と直接接触しているものにもですね。なのでこの飛行船を持ち上げるのも、飛行船に対してじゃなくて、わざわざ武器を操作して持ち上げてるんです。ゼルダのマグネキャッチみたいなものですね!」
コメント:ゼルダwwwww
コメント:言っちゃったよ
コメント:ブレワイは神ゲー
コメント:なるほどね
コメント:ゴミ箱でいけないの?
コメント:ゴミ箱は上下に挟まれると弾け飛ぶ。飛行船ぐらいデカくないと安定しない
「有名作品が出てきましたね。ちなみにこのゲーム、他にもいくつかの超能力があります」
「ありますね! 楽しいですよ! SFの、不死身の超能力者気分の味わえるゲームです! いやーやっとね、こういう前に見たことない……あ、えーと、斬新なゲームが……出てきて、嬉しいですね!」
「なるほど。ちなみにサイコキネシス以外の超能力の出番は?」
「RTAでは、あと1個しか使わないですね!」
「超能力アクションゲームとは!?」
コメント:草
コメント:RTAあるある
コメント:開発者さん……
コメント:かっこいいゲームなんだけどなwwww
コメント:光の剣ぶっぱするの楽しいよ
コメント:超人ロック参考にしたってインタビューで言ってたな
そうこう言っている間に、ビルの屋上が見えてくる。
「さあそろそろ到着でしょうか」
「マップを分ければいいものを、オープンワールドにこだわったのが運のつき! とう!」
「見事ビル屋上に着地しました!」
コメント:草
コメント:まあ確かにw
「さあドアを開けて通路を進み、なんだか豪華な部屋にやってきた! このステージのボスです! ムービーが入ります!」
コメント:後ろから入って来たのに前に移動してるの草
コメント:ムービーの都合で移動してるw
「さあトーカさん、銃は飛行船を持ち上げるのに使ってしまって武器は何も持っていません! ここで超能力が炸裂か!?」
ムービーがカットされ、ピチピチのスーツを着たロンゲのオジサマが椅子から立ち上がる。次の瞬間、トーカは素早く前に飛び出し――
「いいえ、蹴りです!」
「蹴ったー!」
ダメージを受けてロンゲのオジサマが仰け反る。
コメント:蹴ったwwwwwwww
コメント:草
コメント:超能力キック!
「ハアァァァタタタタタタ!」
そして片足立ちのまま、蹴りとパンチを高速で繰り出し続けた。
コメント:!?
コメント:は!?
コメント:オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!
「早い! いやマジで早い! 1秒間に何回パンチとキックを繰り出した!? いったいどういう体幹をしているんだ!? あっという間にボス、このビルの会社の社長が倒れた!」
観客がどよめきつつ拍手をする。
コメント:8888888888888
コメント:一切軸のぶれない高速パンチ&キック
コメント:これマジで本人がやってるの?
コメント:本人なんだよなあ……
コメント:フィットネスという名のガチ訓練動画とかな……
「さあボスが先程トーカさんが入ってきた扉から屋上に逃げます。これを追いかけて屋上に出るとステージクリア。いや、早かったですねトーカさん! 自分、結構苦戦したんですけどこのボス」
「フルトラ対応がゲーム発売後の突貫工事みたいで、蹴りに対する対処が弱いんですよね~。銃はもちろん、パンチだけでもハメられないんですけど、蹴りのノックバック量が大きいのでいける感じです! ある程度の速度の蹴りを当て続けるだけで勝てるので、皆さんもぜひ!」
「できるか! 一発蹴るだけでフラフラですよ!」
コメント:へー
コメント:確かにキックでノックバックするけど、ハメられるほど人間はキック連打できません
コメント:速度とか軌道が威力に関係してるらしいんだけど、こんな完璧なキックでないよ
コメント:仕様の隙をつくのはRTAプレイヤーのたしなみ
コメント:軍人ニキはサンドバッグ蹴ってやってた
コメント:トーカちゃんのサンドバッグになりたい
「はいムービースキップとロードが完了して最終ステージに入りました。人工の要塞惑星ですね。先程の会社の社長が逃げ込んだところです。えーラスボスのいる中心部に行くのにいろいろ手順があって時間がかかるんですが、チャートに書いてある予定ではあと5分でクリアとなっていますね」
コメント:は?
コメント:ここからあと5分?
コメント:無理だろ……?
コメント:こっから10時間ぐらいかかったんだが
「まずは牢獄に向かいます!」
「はいおなじみリアルバニーホップで進んでいき下水から侵入。相変わらず敵は総スルーです。違法エスパーがウロウロしていて危険地帯なんですが、超能力を使わなければ見つかりづらいという。いやこの高速移動は超能力やろがい! って感じですが」
「普通に走ってるだけでーす」
コメント:普通にはとても見えないwwww
コメント:超能力・普通の走り!
コメント:違法エスパーってなんだよ……
「なんて言っている間に目的地の牢に到着して、はい会話スキップして折り返しました、早い! えー何をしていたか解説しますと、主人公の師匠的な超能力者が囚えられていたんですね。そこで新しい超能力をラーニングして、この牢獄を支配している強力な狂った超能力者を倒すクエストなんですが」
「ゲームクリアしたら助けますね師匠!」
「はいクリアには関係のないサブクエストなので助けない、必要なのは新技だけ! 人間的にどうなのか!? いやタイムが何より最優先! RTAあるあるですね!」
コメント:草
コメント:師匠……
コメント:早さは何にも優先する
「さあ要塞中心部に近づいてきました。ここでトーカさんが秘策を用意していると聞いていますが、いったい何が起こるのか? 自分も知らされていません! 世界記録との差は約60秒。巻き返せるのか!?」
コメント:1分か……
コメント:この長さで1分は巻けないだろ
コメント:ドキドキ
「到着!」
「やってきたのは通気口のある一室。ここから目的地のかなり先まで覗き見できるというスポットですが、え、は、えぇ!? トーカさん何を!?」
特殊な走法を披露していたトーカは、キャラクターを部屋の隅、通気口の前に立たせる。
そして自身は――体を折りたたみはじめた。
「へ!? は!? 足が背中から出てきて耳の横に!?」
コメント:ヒッ
コメント:?????
コメント:いやこわいこわいこわい
中国雑技団もびっくりな体の柔らかさを見せつけ、身を縮める。よく見ればお腹にトラッカーがある以上床に体を預けることができず、両手でプッシュアップしたままだった。
やがて足が肩を通り越して地面につく。
「位置調整しまーす」
「ひぃ!?」
両足が前、両手が後ろという格好のまま、トーカはそれを動かしてゲーム内のプレイヤーの位置を調整する。
コメント:なにこれ??なにこれ????
コメント:エクソシストかな?
コメント:えっこれマジでやってるの? バグじゃなくて?
コメント:あばばばばばば
「ん、ここかな。じゃあ行きますよー! まばたき禁止! せい!」
「ひっ!」
ぐりん。
床につけた足を起点に、トーカが円を描くようにして体を引き出し、直立する。
コメント:!?!?
コメント:何が起きた
コメント:嘘だろwwwwwww
コメント:は? ……は?
コメント:100歩譲って柔軟まではいいんだけど、どうしたらそこから一気に立てるのか
「はい成功です!」
「え!? はっ!?」
ゲーム画面の中で、プレイヤーは壁の中にいて落下していた。
コメント:壁抜けは乙女のたしなみ
コメント:おおおおお
コメント:いや早い
コメント:バグだー!
「壁抜け成功! 驚きました? って、ヨウセイさん、ちゃんと見てましたかー?」
「いやトーカさんの動きのほうが驚きですが!?」
「おっ、わかりますか。いやー実はですね、ここの壁抜けはキャラクターの体をうまく畳むとできるんですよ。でこれまではみんなトラッカーを外してうまくごまかして通して、壁を抜けたらまたトラッカーをつけ直す、ってやってたんですけど、気づいたんですよ! これ普通に体をたためばいいんじゃない? って!」
「普通はたためませんからね!? なんだあの柔軟性! クラゲ人間か!?」
「いやーこれぞ高能力!」
「なるほどねエスパーだねって、そうじゃあないんですよ!」
コメント:エスパー伊東wwwww
コメント:ちな軍人ニキはトラッカー外して模型につけてやってる
コメント:なるほどこれは時間短縮だわ、ってできるか!
コメント:軍人ニキ、マッチョだからこれはできないだろうな……
「はいそんなこと言ってる間にラスボスでーす」
語りながらも少しずつ移動してポリゴンの隙間をすり抜けていたトーカが宣言する。いつの間にかプレイヤーは広い円形の部屋の中で一人の超能力者と対峙していた。
コメント:早い!
コメント:えっもう
コメント:ゲームが壊れる
「あっ、はいえーと壁抜けから何もかもすっ飛ばしてラスボスの部屋に一直線。ラスボスはガチンコの超能力バトルを繰り広げる強敵です。特に不用意な接近はサイコキネシスで弾かれたりバリアを張られたり短距離テレポートで逃げられたりと、近づいて戦いづらい敵となっています。かといって銃は銃でバリアされると。通常プレイでは地道に超能力、サイコスピアを投げるのが勝ち筋ですが、RTAではどうなるか!」
「超能力を使いますとも!」
演出が終わり操作可能になって、トーカは手を素早く動かす。
「超能力、『超能力封じ』!」
「炸裂! 師匠直伝の超能力封じ! 自分も相手も超能力の使用が一定時間禁止されます!」
コメント:超能力を使ったな確かにな
コメント:超能力ゲーで超能力を封じる……
コメント:草
コメント:ズルか?wwww
「さあそして特殊演出。ラスボス、レーザーソードを装備してプレイヤーにも与えてやります。超能力なしの、剣での勝負をしてやろうというわけですね。このね、剣での戦闘は正直超能力戦より難しいんですが――」
「レーザーソードキック!」
「はい蹴ったー!」
レーザーソードを構えて近づいてきたラスボスの頭を、きれいにトーカが蹴り抜く。
コメント:レーザーソードキックwwwww
コメント:草
コメント:超能力とは
コメント:(?)GET IT!
コメント:(?)プラズマの方が強いし
ノックバックするラスボスを素早く追いかけ、追撃の――
「レーザーソードキック! キック! キック!」
「はい蹴り! 蹴りですねえ! レーザーソードを捨てるとイベントで超能力封じが解除されてしまうのでパンチはできません。またレーザーソードで切ると一撃ごとに強制演出で距離を取られて仕切り直されてしまうんですが……」
「キック!」
「蹴りならノックバックのみでハメられると! 蹴りに甘いゲームだな本当に!」
「キック!」
「そしてHPの減りが早い! 蹴りとパンチのダメージは加速度で計算しているという話ですがつまりトーカさんの蹴りがヤバいということです!」
コメント:早いwwwww
コメント:これはひどいw
コメント:ラスボスさんどんな気持ち?
コメント:剣を手放すと仕切りなおされるのでパンチなしです
コメント:キックこんなにダメージでねーよwwww
「とどめもキーック!」
「はいレーザーソードでトドメを入れると長い演出が入るので最後まで蹴りでした! 今ムービーをスキップして、はいここでタイマーストップ!」
うおおおお、と歓声があがり、拍手が鳴り止まない。
コメント:888888888
コメント:GG
コメント:GG!!!
コメント:やべー!
コメント:gg
コメント:世界きた!
「タイムは29分14秒! こんな時間でクリアできるゲームじゃないんだぞホントに! そして記録は……世界記録から5秒更新! 文句なし、ワールドレコード更新だー!」
「やったー!」
トーカは飛び跳ねて喜ぶ。会場から祝福の声があがり、それに向かって手を振って応える。
コメント:おめでとう!
コメント:やるじゃん
コメント:ガチすぎて草
コメント:チャンネル登録しに行こう
コメント:V興味なかったけどこの子は見てみようかな
「トーカさん、お疲れさまでした! そしてワールドレコード更新おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「決め手はやはり例の秘策ですか、あの壁抜けの」
「ですね! これまでの記録ではあそこでトラッカーを外した後、用意しておいた模型にトラッカーをつけて動かすんです。で、その後はまたトラッカーをしっかりつけ直さないといけないので、結構時間がかかるんですよね」
「なるほど、そこを体の柔らかさで着脱の手間を省いたと」
「いやー世界1位の人、あ、今世界2位の人はマッチョな軍人さんなので、この方法はちょっと難しいでしょうね。私、ちょっといいですか?」
トーカはカメラの前でキリリとして言う。
「多分これが一番早いと思います」
「言ったッッッ! 大丈夫かな!? いや、少なくとも今この時点では王者の言葉だッ!」
コメント:あっ
コメント:フラグ
コメント:多分これが一番早いと思いますwwwww
コメント:RTA勢がアップを始めました
コメント:壁抜けRTAはじまる
「えー、というわけで改めまして、サイバーコズミックウォー、any%のRTAでした! 走者は彩羽根トーカさん、タイムは29分14秒、世界記録達成です!」
「応援ありがとうございましたー!」
「この後もNRTALsは引き続き様々なゲームのRTAが披露されます。チャンネルはそのままでご覧ください!」
「バーチャルラウンジのスペースでも視聴できますよ! 私たちと一緒にバーチャルで応援もいかがですか?」
「はい、このスペースはイベント中常に開けておりますので、インスタンスは別になるかもしれませんがぜひ! バーチャルに!」
コメント:行ってみよう
コメント:会場の空気が好きなんだよなあ
コメント:バーチャルラウンジインストールした
「それでは引き続きNRTALsをよろしくお願いします! またお会いしましょう、人類!」
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