【一流ご褒美コラボCM】タオル、売ります【超豪華!】

『ここはトーカハウス。バーチャルラウンジにある私の家』


 電脳空間にある広場に面した2階建ての一軒家が映る。廊下をあくびしながら歩きだす、大きな赤いリボンを頭の後ろに下げた少女。


コメント:トーカちゃん!

コメント:こんにちは!

コメント:トーカハウスじゃん

コメント:あれ? チャンネル間違えたかな?

コメント:あくびかわいい

コメント:この間のコラボの一位のご褒美か

コメント:トーカちゃんからのご褒美いいなあ


『今日はコラボ配信の収録でミチノサキちゃんが泊まりに来ています。さあ身支度をして収録の続きをしよう……』


コメント:アッ

コメント:てぇてぇ

コメント:お泊り!?!?

コメント:はー好き

コメント:同居して

コメント:俺の中では同居してるが?

コメント:妄想乙


 洗面所で顔を洗い、タオルを顔に当てて――


「ん?」


 穏やかなBGMが止まる。トーカはタオルから顔を離して、むーっと顔をしかめる。


「ちょっと、サキちゃーん」

「なにー?」


 ひょこっと顔を出す、金髪を――普段のツインテールではなく下ろしたままの少女。


コメント:アアアアアアアアアアアアア

コメント:かわ

コメント:見てるぞー!

コメント:髪結ってないのかわいい

コメント:レアバージョンたすかる

コメント:今日だけは声でか男のこと褒めてあげるよ……ありがとう……


「何、じゃないよ。このタオル昨日のだよ。替えておいてって言ったじゃない」

「えっ、ホント? ごめーん」


 サキは手を合わせて謝る。


「でもさでもさ、タオルの交換って難しくない? これ昨日も使ったっけー? みたいな? ねっ、だからうん、タオルが悪いんだよ!」

「――そんな、タオル交換が苦手なあなたに!」


 トーカとサキはカメラ目線になる。


コメント:おっ?

コメント:ん?


「今日ご紹介するのは一流Vtuberの開発した新しいタオル! ハナヌキタオルです!」


コメント:本編終了

コメント:そういえばCMだったwwwwww

コメント:よしもういいかな

コメント:お前ら見てやれよwwwww


「すごい、一流なの!? いったいどんなタオル?」

「こちらです!」


 バッ、とトーカはタオルを出現させる。


 その白地のタオルには――『金曜日』と書かれていた。


コメント:はい

コメント:い つ も の

コメント:知ってた

コメント:ダッッッッッ


「わー! 曜日が書いてある!」

「そう、このハナヌキタオル、なんと曜日が書いてあるんです! これを使う曜日と合わせてかけておけば……?」

「今日は土曜日だから……あっ、昨日のだ! 替えなきゃ! ってわかるね!? すごい!」

「もちろん一週間分そろってますよ!」


 ずらりと7枚のタオルを並べるトーカ。


コメント:いらねえwwwwwww

コメント:ちょっと欲しい

コメント:あ、便利じゃん

コメント:ダサい


「やったー! これなら毎日タオルが交換できるね!」

「新しいタオルを使って、洗顔の仕上げをきれいにできるって寸法ですね」


 飛び跳ねて喜ぶサキの隣で、トーカはウンウンと頷き――ニヤッと顔を上げる。


「けどねサキちゃん。それだけじゃないんですよ。今日はね、よりお得な情報を仕入れているんです!」

「えーっ! なになに!? 聞きたい!」

「なんとこのハナヌキタオル、バーチャルの私たちだけじゃなく! 人類のみなさんも購入することができるようになったんです!」


 テロップに『リアルで発売決定!』と表示される。


コメント:!?

コメント:発売おめでとう!

コメント:コラボグッズがタオルの男

コメント:え、マジでやるの?

コメント:買います!


「有名タオルメーカーさんとのコラボレーション! ハナヌキタオルがあなたのお手元に!」

「すごいすごい!」

「しかも曜日バリエーションだけではありませんよ!」


 トーカはさらにタオルを呼び出す。


「こちら、『顔』柄、『手』柄、『トイレ』柄、『台所』柄の4種類!」


 大きく曜日の文字、その背景に延々と『顔顔顔顔顔』とプリントされたタオル。


コメント:草

コメント:トイレトイレトイレトイレトイレ

コメント:ゲシュタルト崩壊するわ

コメント:あっ欲しい


「4種類も!? えっと、ということは……全部で?」

「無地バージョン、曜日なしバージョンと合わせて、5かける8で40種類!」

「すごーい! これならどこのタオルかすぐにわかるね!?」

「それでは愛用者のお話も伺ってみましょう!」


 パッ、と画面が切り替わる。画面右上にワイプで『開発者の九六はなぬき曜星ヨウセイさん』と顔が、テロップに『愛用者の声』と表示される。

 最初に画面中央に映ったのは茶髪を大きなみつ編みにしたお嬢様、神望じんぼうリリア。


『えっ、マジ!? リリアさん!?』


コメント:マジか

コメント:豪華すぎる

コメント:ごきげんよう!

コメント:すげえ……


「ごきげんよう。みなさまを天に導く、神望リリアですわ。ヨウセイさん、コラボタオル発売決定おめでとうございます。さすがは一流Vtuberですわね?」

『あっ、ありがとうございます!』


 くすっ、とリリアが笑うと、ヨウセイはワイプ画面で頭を下げた。


「ちなみにわたくしは愛用していませんわ」

『ってオォイ! 愛用者の声じゃないんかい!』


コメント:草

コメント:ですよね

コメント:よかった


「さすがにこのデザインはちょっと」

『あれこれ販促だよねディスられてない!?』

「わたくしの分は必要な方のお手元に届くことをお祈りいたしますわね」

『お祈りされた!? いやでも出演ありがとうございます!』


 次に登場したのは、豪奢な金髪に軍服のイケメン。


「余はヨルニナルト・ヘガデル。大調和弊国だいちょうわへいこくちょうである」

『陛下!』


コメント:陛下好き

コメント:へーこくまでwwwww

コメント:いや豪華コラボだな


「ハナヌキタオル。フッ、こんな話を知っているか? かの天才スティーブ・ジョブズは、毎日同じデザインの服しか着なかった。服を選ぶことに費やす労力を他に回すためだ」

『あー有名な話ですね』


コメント:そうなんだ

コメント:決断の数を減らすってやつね


「もちろん余もそうしている。この服と同じものが何着もあるのだ」

『いやそれはアバターでしょうがい!』

「このタオルはジョブズの思想の発展系といえよう。タオルを選ぶ手間も省け、清潔さも保つことができる」

『おお、まともに褒められている!?』

「フッ、このヨルニナルト・ヘガデル」


 ヨルニナルトはポーズを決める。


「弊国にふさわしいカラーであれば購入したかもしれぬな」

『いや愛用してないんかい! 買ってくださいよ! あと色付きは高いしそもそも黄土色は陛下以外に売れないでしょうが!』


コメント:草

コメント:へいかブレないなwwwwwww

コメント:買ってあげて……

コメント:黄土色はちょっと

コメント:色の種類がない代わりに柄がたくさんあるって感じか


 続いて登場したのは、背の低い薄紅髪の、角と尻尾の生えた少女。


「こんにちはー。バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんのドラたまです!」

『ドラたまさん! ありがとうございます!』


コメント:おじさん!

コメント:好きです

コメント:ありがとう、ありがとう


「えっと、このハナヌキタオルなんですけど、あのー、アップルのスティーブ・ジョブズって人がいたじゃないですか」

『すいませんその話は陛下がもうしました』


 同じ話のため省略、というテロップの中、早送りで飛ばされるドラゴン娘。


コメント:草

コメント:おじさん……

コメント:話題のかぶってしまったおじさん


「あのこのね、コラボグッズって普通再販とかしないんで。この機会にしか入手できないわけですよ。でぇ! タオルの寿命って、あのーホテル業界とかだと30回の洗濯で取り替えるらしいんですよ」

『へぇー』


コメント:そうなんだ

コメント:らしいな

コメント:え、うちのタオル10年ぐらい使ってるけど

コメント:いや買いかえろよ


「つまりこのハナヌキタオルの寿命って約210日で、まあね、ホテルクオリティを家でやる必要もないんで、まあ1.5倍もたせるとして1年ぐらいと考えるじゃないですか。つまりこの機会にね、7種類のタオルセットを寿命年数分買っておくと、一生タオルの交換に悩まなくなるわけですよ!」

『おお、なるほど!』


コメント:なるほどね

コメント:頭いい

コメント:論理的だわ


 ヨウセイは感心したように頷く。と、そこにトーカの声でガヤが入った。


「ドラたまさんは何セット買うんですかー?」

「あっはい、えっとー……そのー……一人暮らしなのでぇ……節約して使うんで……懐もあまりね、余裕がないので……1セット買いまーす!」

『アッハイ、いや、でもありがとうございます!』


コメント:草

コメント:おじさん生きて

コメント:さすがに最後は愛用者だったなw

コメント:愛用者(予定)


 画面が切り替わり、トーカハウスのリビングの中で、トーカとサキが並んで立つ。


「はいっ、というわけでハナヌキタオルの告知でした!」

「イエーイ!」

「販売時期、申込方法などはこちらと動画の概要欄をご確認ください!」


 テロップで諸情報が表示される。


コメント:予約するか

コメント:実家に贈ろうかな

コメント:柄のやつだけのもあるじゃん。トイレのやつ買おう


「ハナヌキタオルが売れるとー?」

「Vバラが豪華になる!?」

「好評なら商品が定番化したり!? いやあ、楽しみですね!」


 ニコニコとしながらトーカは――


「まあ似たコンセプトの商品は世に溢れているんですけど!」

『オォイ!?』


 爆弾を放り込み、遠くからヨウセイのツッコミが入る。


コメント:草

コメント:おいwwwwwww

コメント:知ってた

コメント:オサレ系であるね、曜日ごと色違いとか

コメント:あるんだ……


「それでも利用シーン別とか、こういう漢字表記であるとか、あとは安価なところとか、いろいろ差別化されていますので! タオル管理に悩む方はぜひお買い求めください!」

「くださーい!」

「それではタオルに悩む人類、また次の動画でお会いしましょう!」

「バイバーイ!」


コメント:なるほどね

コメント:俺はこれを買う

コメント:トーカちゃんありがとう!

コメント:Vバラのために買うか

コメント:タオルは微妙だけどVバラには投資したい

コメント:豪華だった。さすが一流Vtuberですわ

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