第32話 2016年 仮想の世界

【Vtuber】バーチャルYouTuberについて語るスレ 180【誰推し?】


521 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

今日もトーカちゃんのピアノライブ動画見返してしまった


522 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

お前は俺か。いいよな、あれ。ゲームがテーマだから知ってる曲ばっかりで楽しい

MC中のゲームについての語りもいいよなあ・・・


523 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

権利交渉とかめちゃくちゃ大変そうなセトリだったよなー。まあ事務所が頑張ったんだろうけど


524 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

ピアノだけじゃなくていろんな楽器使うし歌うし、どっかの音大の人かね


525 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

そういうのどうでもいいから

トーカちゃんは地上に舞い降りたミューズ


526 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

女神とかいうガラかよあのVtuberオタクがよ


527 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

オタク語りの動画がピアノライブと同じぐらい伸びてて草なんだ


528 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

自分でバーチャルYouTuberを始めてVtuberって言葉も作って、そしてVtuberのオタクになる頭のおかしいヤツ


529 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

どうしてそうなったって感じだけど、全力でオタクしてるところは評価する

案件の動画も毎日動画とは別枠にしてて配慮が効いてるわ


530 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

信頼できるオタクだよな・・・トーカのフォロー欄Vtuberばっかりだし


531 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

新人発掘もめちゃくちゃ早いぞ。トーカのフォロー欄が増えた=新人が増えた だぞ


532 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

ニコニコの方でよくばりセットとかスターターセットとか言ってまとめ動画作りまくってるの本当オタク


533 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

お前登録者数っていう影響力考えろよ! もっとやれ!


534 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

愛があるから許されてるところある


535 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

彩羽根君はオタクなところがかわいいから仕方ないね


536 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

トップが一番オタクムーブしてる業界なんだよなあ・・・


537 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

企業コラボ案件も増えて忙しそうね。グッズとか出るのは嬉しいんだけど


538 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

スマホゲーもCMだけじゃなくキャラとして参戦するようになったしな!


539 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

「今なら彩羽根トーカもらえる!」じゃあないんですよ。事前登録した


540 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

やっとトーカの動画全部見終わった。他にお勧めある?


541 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

新人のニワトリ面白いぞ。声となまりのギャップがウケる


542 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

農家のニワトリな。たぶん次のトーカよくばりセットにまとめられそう


543 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

技術勢のノトちゃんもいいぞ


544 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

昨日ぽちゃおじとのコラボ動画公開していたモチちゃん推しです


545 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

イキッて即焼かれてダウンするぽちゃおじかわいかった。モチちゃんタンク封殺うますぎ


546 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

おじさんやぞ


547 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

おじさんだからいいんだろうが!


548 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

モチちゃんはなー・・・顔以外も動いてくれたら・・・


549 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

昔からやってる3DのVtuberの中で、ひとりだけ首から下動かないよな

運営の技術力不足では?


550 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

3Dは全身動かしてナンボでしょ。おじさん効果で多少伸びても10万の壁は超えまいよ


551 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

FPSうまいのは好きなんだけど、FPSに興味ない人には勧めにくい


552 名前:名無しさん@推しがいっぱい 2016/01/11(月)

トーカは無駄にジャンルが手広くてその点サンプルとしては……――



 ◇ ◇ ◇



【2016年1月 ルカ・ウラジミルヴィッチ・スミルノフの記録】


「ふう」


 収録を終え、ルカは狭い自室で息を吐く。


 シューターゲームばかりやってると視聴者が飽きる……という指摘を受け、最近は別のジャンルのゲームをやったり、体の動く必要のない企画をこなしている。今日はニコライが提案した『ミリしら』という企画で、ネットに公開されている一切わからない言語のニュース番組にアテレコをした。需要があるのかどうかは、ルカにはよくわからない。


 カレンダーを確認すると、今日はニコライが出社している日だった。引きこもり過ぎはよくない。データを直接渡すため、ルカは身だしなみを整えて出かける準備をする。


「………」


 長い手足。ふう、と息を吐く。画面の中の少女との違いを思い知らされる。収録中も、ふとこちら側の自分の体が目に入ると黙ってしまう。理解しているつもりでも、心はついてこなかった。



 ◇ ◇ ◇



「確かに。じゃあ、あとは編集しておきますので」


 データを確認したニコライはそう言うと、端末に向き直って作業を続ける。ルカは北方協働と看板を掲げるダミー会社の中を見渡した。


「人が多い」

「ああ」


 つぶやきを聞きつけたニコライが、画面から目を離さずに言う。


「バーチャルYouTuber業界が盛り上がってきて、仕掛け時ですからね。モチに対する仕事の依頼も多少増えましたし。何人かこっちの仕事を優先するように配置換えをしました」

「忙しそう」


 電話で何か打ち合わせしていたり、猛然と端末を操作していたり、ペンをタブレットに叩きつけていたりと、ルカに気づく余裕もなく仕事をしている。


「本隊に増員を検討してもらってますよ。でも厳しそうですね。事情は隠して、現地の人間を雇うべきかもしれません。せめて事務員だけでも……ああ、そうだ」


 ニコライは机の下に押し込んでいたスーツケースのようなものを取り出す。


「ちょうど送ろうかどうしようかって考えてたんです。他に荷物もなければ持ち帰っていただいても?」

「問題ない。……これは?」

「ガブガブイリアルって会社知ってますよね。神望リリアちゃんの運営の。あそこから貸してもらった開発者向けキットです。VR用のヘッドマウントディスプレイと、キャプチャー用のカメラに、両手用コントローラ。こちらは自分が用意した、少佐のPC用のセットアップ手順書」

「……なぜ?」

「開発中のバーチャルラウンジってソフトの動画を撮ってほしいと」

「それは」


 ルカは口ごもる。


「……向こうのスタジオにはいけないから、断ったはず」

「確かに。北方少女モチの正体が少佐だとは明かせませんからね。アイドルの女の子が実は男だったなんてなんてご褒美――もとい、スキャンダルの元ですから、知る人は少ないほうがいい」

「ではなぜ」

「一度断ったんですが、スタジオに来なくてもいいからやってほしいと」


 ニコライは肩をすくめる。


「こうして貴重な機材も、ベータ版のソフトも送ってきましたからね。それなら仕事として受けても問題ないだろうと……嫌ですか?」


 ルカは首を横にふる。任務に貴賤はない……限度はあるが。


「迷惑をかけている。仕事を選んでいるから」

「え? ああ、正体を隠さないといけないことですか?」

「そう」


 ルカは自分の体を見下ろしてポツリと言う。


「やはり、今からでも現地の協力者に、変わって……」

「何を言ってるんです!」


 ニコライが血相を変えて立ち上がる。


「モチの登録者数も10万人目前、ようやく人気が出てきたところじゃないですか、今更やめるなんて」

「中の人が、普通なら……もっと色々な仕事を」

「……交代したいと?」

「モチは変わらない」


 誰が操ってもモチはモチだ。ならもっと自由の効く人間が中に入った方がいい。


「馬鹿なことを!」


 ニコライは立ち上がって叫び……事務所中の視線を集めているのに気づいて、咳払いして座りなおす。


「……失礼。しかし少佐、それだけは絶対にありえません。少佐が辞めたいのなら、モチは消します。そして他のモデルをいちから用意する」

「なぜ」


 コストがかかりすぎる。今ある登録者数を引き継いだほうがいいにきまっている。


「オタクをなめないでください少佐。中の人が変わったなんてすぐに気づきますよ」

「似たような声の人を……」

「それでも気づきます。いいですか、少佐」


 ニコライはルカの胸に指をつきつけながらまくしたてる。


「モチのファンはね、モチの姿や声だけを見て好きになったわけじゃないんですよ。ファンは、『少佐の』モチが好きなんです。確かに入れ替わることはできる。けれどね、台本があって演出家がいて監督がコントロールするアニメキャラクターと、バーチャルYouTuberは違うんです。例えば見てください、ミチノサキちゃんを」


 ニコライは端末でミチノサキの動画を再生する。くだらないことを言い、馬鹿笑いするサキ。


「姿や声、台本。どんなにヴェールで覆っても、ひとかけらでも誰も制御しないアドリブがある限り、個性は隠せないんですよ。その個性を、ヴェールの後ろ側にあるものを――魂を信じて、ファンはついてくるんです。少佐、北方少女モチは、あなたなんだ。交代なんてありえない」

「………」


 モチは自分。ルカは自分の長い手足を見下ろす。本当にそうなのだろうか。


「……まあ、これはだいたい、トーカちゃんとぽちゃロリちゃんの受け売りですが」

「ぽちゃロリさんの……?」


 ニコライは端末を操作する。


「このわずか二ヶ月でバーチャルYouTuberへの世間の理解はだいぶ進んできましたからね。彼女たちへのインタビューも深いものが増えてきました。で、トーカちゃんもぽちゃロリちゃんも、それぞれ別のメディアではありますが、似たようなことを答えているんです。バーチャルYouTuberはキャラクターではなく、バーチャル空間にいるだけの、人間と同じようにすべての要素を含めて成り立つ存在だとね」


 ぽちゃロリさんが人間と同じ。確かに。完成されたキャラクターとは程遠い、生の反応を返す人間だった。……トーカの方は人間離れしている気もするが。


「そういうわけで、モチを辞めるなどと二度と言わないでください、少佐。ルサールカ作戦に関わらず、我々は少佐にモチをやってほしいと思っています。これは部隊の総意です」

「……わかった」


 ニコライはほっと息を吐くと、椅子を回して端末に向き直る。


「……バーチャルラウンジの収録の本番は、ここのスタジオでやります。少佐のアパートじゃ狭くて場所が確保できないでしょうが、それでも多少は動かせるはずなので、VRの操作に慣れておいてください」

「わかった」


 ルカは頷いた。隊員の想いに応えたいという気持ちに偽りはなかった。それにVR機器は初めてだ。これまでモチはまるで動かない上半身だけしか披露してこなかったが、今回はVRで全身を使うという案件だ。


 研鑽を、積まなければならない……。



 ◇ ◇ ◇



【2016年1月 ニコライ・ダニーロヴィッチ・ポロンスキーの記録】


「それで少佐」


 ニコライはスタジオで正座する上司を問い詰めた。


「あれから一週間、音信不通だった理由を教えていただけますか? 隊員がようやくトラップを解除し、バリケードを排除して部屋に突入したら、ベッドの上で寝ていたと報告がありましたが」

「バリケード……?」

「玄関から部屋まで荷物でぎっしりだったと」


 上司の顔色は良くない。元々痩せ気味だが、さらに消耗しているように見えた。


「それは……」

「これが原因ですか?」


 ニコライはスーツケースを持ち上げる。上司を発見したときに装着されていたというVR機器。上司の目が無意識にそれを追う。


「返して」

「これは借り物です。返却の約束は2日前です」

「そんな」

「少佐、理由は」

「……バーチャルの世界にずっといたかった」


 ぽつりぽつりと話し始める天使の話をまとめるとこうだ。


 VR機器を持って帰ったその日、さっそくセットアップしてバーチャルラウンジを起動する。そこに設置された鏡に映るのはモチで、見下ろした手足もモチだった。感動し動き回ろうとしたが部屋の荷物にぶつかってしまう。そこでワンルームのアパートから、PCとベッド以外を廊下に詰め込む。


 ……そして今日までずっと、ヘッドマウントディスプレイをつけたまま生活していたのだという。緊急時に備えて用意していたカンパンと水だけで。寝るときもヘッドマウントディスプレイをつけたまま。


「バーチャルは、すごい」

「……それはわかります」

「VRを入手してほしい」

「……検討しますが……仕事が先です、少佐。ガブガブイリアルに依頼されている動画の提出日まで日がありません。企画は用意しておきました。今から収録して、すぐに返却しますよ」

「……わかった」


 ニコライは不安だった。基本的な操作はマニュアルに書いておいたが、果たして上司は読んでいるだろうか? この調子だとバーチャル空間で食っちゃ寝していただけのようだが……。


 しかし、ニコライの不安は一瞬にして霧散する。


 ニコライはスタジオで――否。正確にはスタジオに設置されたモニターの中に、天使を見たのだった。



 ◇ ◇ ◇



【体験してみた】バーチャルラウンジで動いた【歌ってキル】


「ズドラーストヴィチェ。北方少女モチです」


 いつもの暖炉のある部屋の中でなく、白い空間に、モチが全身で立つ。


コメント:Здравствуйте!

コメント:ずぼらーびちぇ!

コメント:いつもの部屋じゃないぞ!?


「今日は。3月にリリースされる、バーチャルラウンジを体験しています。ここが、バーチャルラウンジ、です」


 ふわふわと手足を動かしながらモチが言う。


「全身が、動くんです。ほら」


 くるり、ふわ、ぴた。ふりふり。


コメント:うわかわ

コメント:かわいい

コメント:ついに半身石化の呪いから解放されたのか!


「動画は、バーチャルラウンジで撮ってます。あと、アイテムも、持ち込めます。これとか」


 スッと懐から精巧なモデルの拳銃を取り出す。


コメント:!?

コメント:トカレフのクォリティたっか

コメント:女の子が持つもんじゃない


「今日は……歌います。ゾンビが、襲ってくるので、倒されないように頑張ります」


コメント:どういうこと……

コメント:歌? ゾンビ?

コメント:一体我々は何を見せられているんだ?


 モチはスゥ、と息を吸い込むと、細い声で歌い出す。


「大きな栗の木の下で~」


 ふりふり、と両手を振って体を左右に揺らして歌う。


コメント:やだかわいい

コメント:目覚めそうになった(なってる)


「あなたと、わたし~」


 かわいらしく手を胸の前で交差し――


『ヴァー』


 ありがちな声とありがちな姿でゾンビが現れ、モチに向かって歩き出した。


「仲良く」


 パンッ! 流れるような動きでの射撃。それすらもかわいくコミカルに。大げさな反動を再現して。


「遊びましょう」


 パンッ! パンッ! パンッ! レベルバランスなど何も考えられていない唐突な出現で押し寄せるゾンビを、モチはヘッドショットを決めながら歌い続ける。


コメント:えぇ……

コメント:エイムうますぎワロタ

コメント:モチーチカくん! おじさんとも遊ぼう!

コメントへの返信:モチちゃん標的こっちです

コメントへの返信:シベリア送りだ


「大きな栗の木の下で」


 モチの周りにはゾンビの死体が山積みにされていた。


「……以上です。……ばいばい」


コメント:めっちゃかわいかった!

コメント:モチはかわいくて強い、わかったか人間

コメント:今日からシベリア組になります



 ◇ ◇ ◇



【2016年1月】


「いかないで!」

「また動画見て叫んでる。今度はなんだい」

「モチちゃんのバーチャルラウンジの紹介動画だ」

「ああ……君がスタジオ行けないから断ったやつ」

「そんなことはどうでもいい。モチちゃんを見ろ。初めて全身を動かしてこの動きだぞ……かわいい……天使か……? kawaiiムーブの申し子か? どう見てもハンドコントローラーだけだが、それでこの威力とかフルトラになったらどうなってしまうんだよやっべ想像したらかわいすぎてかわいいむり殺戮天使モチーチカかわいい撃たれたい」

「えぇ……」

「あああああ10万人! シベリア組が10万人突破してるじゃん! kawaiiムーブ効果か、いいぞモチーチカ! よしモチーチカにお祝いツイートを……いや! お祝いファンアートもいくか!? うおおおおお!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る