【トーカと】高難易度ゲームに挑戦!【オフコラボだよ!】

 白い空間に青薔薇のシュシュをしたツインテールの少女がひとり飛び出してくる。


「いっえぇぇーーーい!!」


コメント:!?

コメント:鼓膜が死んだ

コメント:テンション高いな!?


「みんなー! 見てるー!? 見て見て! 絶対見て! ミチノサキだよ!」


 テンション高く、無駄に腕を揺らし胸を揺らしながらサキは飛び跳ねる。


コメント:見てる!

コメント:みてっぞ!

コメント:ぞ!

コメント:揺れすぎて草


「今日はね! ななななんと! うぇっへっへ……あのね! コラボなの! それもね、普通のコラボじゃなくてね! オフコラボなんだよ! ヤッター!」


コメント:オフコラボ!

コメント:待ってた

コメント:ついにこの日が

コメント:サキちゃんが嬉しいと俺も嬉しい


「というわけでさっそく呼んじゃう! 今日のコラボ相手! どうぞ!」

「はーい……」


 のそのそと少し肩を落として、大きなリボンを頭の後ろに下げた少女がやってくる。


コメント:トーカちゃん!

コメント:どうした?

コメント:トーカって実在したんだな……


「こんにちは、人類。そしてミチシルベの皆さん。彩羽根トーカです」

「トーカヤッター!」

「あはは……」


 バンザイをするサキと対象的に、トーカは少し硬い笑いをする。


コメント:おや?

コメント:どうしたVのオタク


「んー? どうしたの!? トーカ、緊張してる!?」

「いや、その、ほんと……オフコラボって初めてで……しかもその、相手が、サキちゃん……でしょ? 調子がなんかくるうっていうか……」


コメント:オフコラボ初めてか

コメント:すまん先に逝く

コメント:コミュ障モードだな?

コメント:この二人がリアルで……?


「ンフー! 照れてる?」

「いやそれは、ないですけど?」

「なら大丈夫だね!」

「あの、ないけど、ないけどVRヘッドセットつけていい?」


コメント:草

コメント:照れてるじゃねえか!

コメント:オタクさあ


「ええー、ダメダメ! だってさ! ――えいっ!」


 サキはトーカと肩を組んで顔を寄せる。


コメント:!?

コメント:アッ

コメント:ウッッッ


「今日はこれぐらい近づかないとじゃん!?」

「ちのっ、ちかっ、近い! 近いから!」

「えー、平気でしょ」

「わっ、わかっ、ちょっ、待って、いったん離れて」


 トーカはなんとかサキを引き剥がして呼吸を整える。


コメント:なんだろうドキドキする

コメント:これリアルでもこの距離ってことだよな……てぇてぇ

コメント:尊死する

コメント:トーカくん本当に童貞みたいな反応するね?


「わかっ、分かったから……ちょっと心の準備をさせて?」

「ウフッ、いいよぉ!」


 トーカはスゥッ、と深く深呼吸をして、目を閉じ――ブツブツと呟きはじめた。


「サキちゃんサキちゃんサキちゃんサキちゃんサキちゃんサキちゃん金髪ツインテきょぬーのサキちゃんサキちゃんサキちゃんサキちゃんかわいいサキちゃんサキちゃんサキちゃんすきサキちゃん推せる尊い……」


コメント:???

コメント:怖ッ

コメント:病んだか?


 そして目を開ける。


「ハッ、ハッ、ハァッ……ウッ、ウウッ……!?」

「トーカ?」

「あっ、まっ、まっ、待って待って待って! ウワー! サキちゃん!?」

「ミチノサキだよ!」

「ああぁぁあちかちかちか近い近い本物だアアアアアア!?」


 及び腰になってトーカが後退る。


コメント:なんだよwww

コメント:草

コメント:調子出てきたなwwwww

コメント:いつものトーカになった


「アッアッ……きょ、今日はよっ、よろしくね!」

「うん!」

「うへっ、へっへっ……ご、ごほん」


 だらしない笑顔をなんとかトーカは引っ込める。


「ンンッ! はい! えー、コラボということでですね! 今日はサキちゃんと、ゲームをやっていこうと思います!」

「イエーイ!!」

「タイトルは~?」


 二人は目配せして声を揃える。


「「社交ダンス行進曲!」」


 タイトルロゴが表示される。


コメント:かわいい死ぬ

コメント:ここ音量あげてみろ小さく「せーの」って言ってるぞ

コメント:↑たすかる

コメント:てぇてぇ

コメント:あのゲームか


「はい、このね、モーションキャプチャー必須のニッチさを攻める、いつものガブガブゲームスって感じのゲームです!」

「でーす! あっはっは!」

「これねー……Kinectでもできるんですけど、ソロプレイならそれで十分なんですが……本番の二人プレイになるとちょっと精度不足っていうね」


コメント:誤判定するよね

コメント:二人プレイ……?

コメント:ソロ専用ゲームだよ?

コメント:俺のメニューにペアはないな!!!


「そうなんだ?」

「私みたいにモーションキャプチャー機材にすっごいお金かけてないと本気は難しいかなっていう感じです」

「うんうん?」

「まあ、その、なので」


 トーカは少し顔を背けて言う。


「サキちゃんとこうして二人プレイできるのはその、まあ、ありがたいっていうか……」

「うれしい!? うれしいね、トーカ!」

「ウッ……! う、まあ……そう! ゲームできて嬉しい! そういうことです!」


コメント:はい死んだ(本日五度目)

コメント:てぇてぇ

コメント:ありがとうガブガブゲームス

コメント:ありがとう犬

コメント:このために作られたゲームなのでは?


「というわけで! せっかく二人揃って最高の環境でできるんだから、最高難易度二人プレイいきますよ!? いいですね!?」

「バッチこいだよ!」


 サキは気合を込めて頷く。


「この日のために、ちゃんと練習してきたから!」

「ほ、ほんとに?」

「めっちゃむなしかったけど頑張った!」

「あぁ……まあ」


 ワイプ画面にトーカのソロプレイ動画が流れる。社交ダンスを、一人で踊り続けるトーカが。


コメント:草

コメント:あのプレイ動画は笑った

コメント:社交ダンスソロとは?

コメント:このゲームほどむなしいプレイ風景はないよな……


「これは……一人では寂しいゲームですからね……」

「うん……」

「……き、切り替えていきましょう! それではさっそく、ゲームをやっていきたいと思います!」

「イエーイ!」


 場面が切り替わる。巨大なモニタに『社交ダンス行進曲』のロゴが表示され、その後ろに、トーカとサキが並んで立つ。基本的に、カメラは二人の背中を映していた。


コメント:きた

コメント:もうタイトル画面で面白いのズルい

コメント:厳密には社交ダンスって名前の何かだけどなこれ

コメント:初見だけどもう面白そう


「はい、というわけでスタート画面までやってきました。難易度はベリーハード! 目指せ一発パーフェクト!」

「イエーイ!」


コメント:高難易度好きねトーカ

コメント:ソロパフェするだけでも苦行なのに

コメント:サラッと言ってるけどヤバいぞ


「たぶんね、ゲームが始まると解説している暇がないので、あらかじめ……えっと、これは昔Wiiで出た『マッスル行進曲』をリスペクトしたゲームで……社交ダンスっぽいポーズを取りながら、お姫様をさらった犯人を追いかける……っていうゲームです!」

「頑張るよ!」


コメント:何それ

コメント:懐かしい

コメント:そっちの方が見たいわ

コメント:出た伝説のバカゲー

コメント:社交ダンスで追いかけるって何……?


「と、というわけで、ンンッ!」


 トーカは咳払いして――挙動不審になる。


「き、基本ポーズをですね。む、むむむむむかいあって、てっ、てぇ! 両手を繋いでてででですね」

「んフッ、こうだね!」


 サキとトーカが向かい合わせになって、お互いの手を取る。片方は上げて頭の横に、片方は画面に向けて伸ばして。


コメント:は(心停止)

コメント:エッッッ

コメント:ありがとうございます!!!

コメント:神ゲー


「アッ、ああああ、マッ」


 トーカは背を反らす。


「マッ、ちょっ」

「んも~! もっとぴったりくっつこうよ!」

「バッ、だっ、だってサキちゃん、胸! 胸が……!」

「おっぱい? ――アッ!」


 サキは胸元を見下ろして――パッと離れる。


「あ、あははは、あっはっは……!」

「は、ははは、はぁ……」


コメント:替えの心臓が足りない

コメント:(成仏している顔文字の連投)

コメント:ガブガブゲームスの株買います

コメント:壁になりたい


 効果音と共に場面が切り替わる。再びゲーム画面の前の二人。


「じゃあトーカ!」

「はい!」

「女の子同士! 気にしないでいこう!」

「そうしましょう!」

「いざ!」


 二人が向かい合わせになって手を組む。その間で、ミチノサキの胸部はばるんばるんに押し潰されていた。


コメント:やば

コメント:眼福

コメント:これは草

コメント:女の子同士ならセーフ!!!


「サキちゃん痛くない?」

「だっ、大丈夫」

「よし、やるよ!」


 二人のポーズを認識し、ゲームがカウントダウンを始める。前方にはお姫様を手錠で繋いで似たようなポーズをとる怪盗。


「ステージ1、行きますっ!」


 ファンファーレとともにBGMが鳴り始めて、怪盗とお姫様が基本姿勢のまま足だけ優雅にシャカシャカと動かして猛スピードで前に進んでいく。半透明に表示される自機も、同じようにものすごいスピードで進み始めた。


コメント:草

コメント:な に こ れ

コメント:社交ダンス……?

コメント:ひどいwwwww

コメント:腹痛い


「はい来るよ!」

「オッケー!」


 やがて前方から柱や壁や車等の障害物が迫る。それを。


「右! 左! 左! 前! 後ろ! 前! 右! 後ろ!」


 トーカとサキは息を合わせてステップを踏み、立ち位置を変えてかわしていく。加算されていくスコア。


コメント:おおおお

コメント:なるほどね

コメント:華麗!

コメント:いいぞ!


「左! 右! 左! 右! 来るよ!」


 障害物に続いてやってきたのは、二人のダンサーが決めポーズをしているシルエット。怪盗と姫がくるりと回り、後ろに倒れ込む姫を怪盗が腰に手を添えて支える。効果音と共に通過する怪盗と姫。


「ピクチャー!」

「ポォォーズ!」


 続いてトーカとサキも同じ動きをしてポーズを決め、通過する。爽快なサウンドと共に、画面に表示される虹色に光るグレート。


コメント:ピカグレ!

コメント:なにこれ なにこれ?

コメント:やべぇ楽しい

コメント:トーカが男側か

コメント:掛け声何?

コメント:社交ダンス用語で決めポーズっていうか決めシーン。見得。

コメント:このゲームにおいては同じポーズを決めるゲートだな


「右! 右! 後ろ! 前! 3連続!」

「せーの!」

「はい!」


 片手だけつなぎ、お互い離れて腕を伸ばして翼を広げるようなポーズ。


「チャチャ……はい!」


 くるりと回って近づき、頬をくっつけて前を向く。


「タタ……はい!」

「イエーイ!」


 腰を落とさず、前の手を下に、後ろの手を上に。


コメント:うまい

コメント:息ぴったり

コメント:これポーズ名前あるの?

コメント:スタンダードって種類ではある程度ある

コメント:ゲームと本物は違うから


「はい、左! 前! 前! 右! 後ろ! 後ろ! リフトくるよ!」

「えっ、何あれ知らない!?」

「私に任せて! はい、ジャンプ! で、ポーズ!」


 脚を開いて飛んだサキを、トーカは片手で支える。グレート判定。


コメント:おおー!

コメント:トーカちゃん力持ち

コメント:すご

コメント:ジャンプ……?

コメント:ここを決めるか

コメント:社交……?

コメント:どっちかって言うとフィギュアスケート味を感じる

コメント:普通に倒れるのを支えるリフトもあるよ


「わ、すごい!」

「ベリハペアは連続リフトとかあるんで! 気を抜かないで!」

「わかった!」


 二人はステップを踏み、決めポーズを決めながら怪盗を追う。


「中盤来るよ! 3、3、5連続!」

「たたハイ! たたハイ! たったっハイ!」

「ちゃーらっ、ハイ! ハイ! ハイ!」

「ハイ、からのハイ! ――」

「――からのハイ! 引いてハイ! ピクチャー!」

「ポォォーズ!」


コメント:見入っちゃう

コメント:すごい

コメント:ピクチャー!


 息を合わせて、グレート判定を引き連れて。

 接触も際どい接近も、二人はもう何も言わずに、ただクリアを目指して進んでいく。


「怪盗に追いつきそう!」

「最後いきますよ! せーの!」


 決めポーズ10連続というしつこく執拗に体力を削る難関を――越える。


コメント:うおおおお!

コメント:いっけええええ!


「ラストォー!」

「ポォォォォーズ!」


 バンッ!


 二人がポーズを決め、その輝きに怪盗が怯み、手錠が砕け散る。自由の身となった姫が座り込み、怪盗は苦々しい顔をしながら逃げていく。


「ステージ、クリアー!」


コメント:88888888

コメント:すごい!!

コメント:運動神経バリバリやん

コメント:サキちゃん練習頑張ったな……


「ヤッター! どう、どう!?」

「スコアは!」


 ババババババ、とこれまでとった決めポーズが評価と共に表示され、最後に表示される――


「「パーフェクト!」」


 二人は歓声をあげてハイタッチした。


コメント:アッ

コメント:てぇてぇ

コメント:お前らまだ現世にいるの?

コメント:浄化される


「やったやった! トーカやったよ!」

「やりましたね……! ベリハペアクリア!」

「ね!」


 トーカは「ンンッ」と咳払いして少し離れる。


「ま、まあ、ステージ1ですからね。初見でもなんとかなる、いいバランス調整ということで。ここから先はこうはいかないですよ」

「どんなに難しくたって大丈夫だよ!」


 そんなトーカに、サキは一歩踏み込んで下から顔を覗き込む。


「トーカと一緒なら頑張れるから! ……ね!」

「ウッ……ま、まぁ、じゃあ、行きますか、ステージ2!」


コメント:ああ^~~

コメント:神ゲーをありがとう

コメント:がんばれ!!

コメント:教えてくれあと何度尊死すればいい?



(中略)



「8連! ハイ! たたハイ! くるっとハイ! 倒れてハイ! 回してハイ! 離れてハイ! ジャンプ・リフト! からの――あぁ……!」

「だぁ~めだぁ~!」


 判定ミスからコンボが途切れ、細かいポーズの違いにケチがついてスコアが削られ、行進曲が止まる。ステージ途中での失敗。


コメント:あぁああああ……

コメント:鬼畜コンボ

コメント:これはなあ

コメント:判定厳しすぎワロタ

コメント:ステージ3でこれって鬼か


「ごめ、ごめんトーカ……も、体力、体力が」


 へろへろでジャンプの踏切りも怪しかったサキが、ばったりと床に大の字に倒れる。


「これはもう、サキちゃんは限界ですね」

「うぅ~、悔しい……! コツがつかめてきたのに~! クリアしたいよ~!」


 じたばたとサキが地面を叩く手足の動きも力がない。


コメント:かわいい

コメント:だだっこかわいい

コメント:クリア見たいなあ


「まあまあ、今日クリアしないといけないわけじゃないですから……」

「次回もあるの!?」


 がばり、とサキが身を起こす。トーカは、少したじろいだ。


「ウッ、ま、まあ……もうちょっとでクリアできそうですし……ここまでやったのに、もったいないっていうか」

「じゃあまた遊べるね!?」

「そ、そういうことに、なり……ます……ね?」

「ヤッター!」

「うわ!」


 サキはトーカに飛びかかって抱き着く。


「トーカ大好き!」

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