逆行転生したおじさん、性別も逆転したけどバーチャルYouTuberの親分をめざす!(改稿版)

ブーブママ

プロローグ

第1話 20XX年 おじさん死す

【20XX年】


 蓮向はすむかいナルトは死んだ。


「まあ、なかなか珍しい死にっぷりだったよ」


 そしてどういうわけか、目の前の暗い不定形の存在から評価を受けている。


「アイドル……? のライブを見ている最中に、落雷に打たれて死ぬとはね! この僕に選ばれようともいうものさ!」


 不定形の存在は喜びのような仕草をする。


「だからその珍しさをたたえて、特別に、特典をあげよう! 君だけに! 人生をやり直す機会を!」


 蓮向ナルトは――俺は事態をまあまあ理解した。なので。


「選出理由に無理があるだろ」

「えっ」


 反論した。


「落雷で死ぬのがそんなにレアだと思えない。日本でも年に何人かはいるって聞いたことがあるぞ」

「え? ……あーまあ、年間10人ぐらいだね。いやでも、10人ならレアでしょ?」

「日本の年間死者数に対する比率はどうなんだよ?」

「100万人だから、10万分の1だよ! レア!」

「でも寿命による自然死とかを抜いたらどうなんだ?」

「えーと……災害や事故、事件などのアクシデントに限ると1万人以下だね。その中の10人だから1000分の1、0.1%、ほら、君たち人間の大好きなゲームの、SSRキャラ以上の珍しさじゃないか!」

「それは単発で引く時の確率だろ。100連ぐらいしたらもうちょっと確率上がるだろうし……そもそも、年間10人もこういう『特典』を与えているのか? いや世界レベルで考えたら600人ぐらいか?」


 猜疑の目を向けると、不定形の存在はひるんだように見えた。


「こういうのの選出理由が死亡理由のレアさなら、もっと変死系のヤツが選ばれるだろ。和式トイレの便槽内で死ぬとか」

「何それ怖い」

「神様の癖に知らんのか」

「いや待って検索するから。……ああ、これか、うん……うわこわ」

「……ツッコミどころが渋滞してるが、とにかく、納得できない。つまり疑ってる。嘘をつくやつには何らかの理由がある――何かの裏があるだろ? 特典? 受け入れがたいな。素直に成仏したほうがよさそうだ」


 不定形の存在は……両手をあげたように見える。


「分かった。認めよう。君を選んだ理由にはちょっと嘘がある。ただ理由があってどうしても君には特典を受け入れてほしいんだけど……どうしたらいい?」

「正直に話せよ。信頼されるってそういうことだぞ」

「だよねえ……わかった、話そう。まずは自己紹介からか」


 顔もないそいつが、なぜか笑ったように見えた。


「さっき君は神様って言ったけど、違うんだ。僕はね、悪魔だよ」



 ◇ ◇ ◇



「悪魔だとして」

「あ、そこに感想はないんだ? ちょっと寂しいんだけど」

「特典を受け入れてほしい理由は? なんで俺を異世界転生させたい?」

「あ、ごめんごめん。君に与える特典は異世界転生じゃないんだ。僕もそうしたいところなんだけど、位階不足でねえ……」


 悪魔はため息を吐く。未だにその姿はぼんやりしていてよくわからないが、だんだん仕草が理解できるようになってきた。


「別世界の座標を設定したり、そこに対する都合のいい状態を用意するのにはもっと力が必要なんだよ。だから言っちゃ悪いけど、君は経験値稼ぎ用なんだ」

「スライム的な」

「そこまで卑下しなくてもよくない? 君のことを適当に選んだわけじゃないんだ。経験値を効率よく稼ぐには、君の転生後の人生が面白くて、他の神々に興味をもってもらう物語になることが重要でね。僕が競争に勝てる中で最上の魂を選んだつもりさ」

「競争と言ったが……」

「流行ってるんだよ、暇を持て余した神々の遊びってやつ」


 神様――も『カクヨム』に連載してたりするのか?


「……で、異世界転生でないとすると、行き先は?」

「君がこれまでいた世界さ」

「……時間は?」

「時間を進めるのもすごく力が必要なんだよね。だから、君の産まれた時間と同じさ。つまり、やり直し系ってやつだよ!」

「リプレイか……」

「何それ。検索する。……ああ、概ねその理解でいいよ。翻訳本か。古いね例えが。ま、ともかく」


 悪魔はニコニコとして首を……? 傾げる。


「人生やり直して、面白い物語を作ってくれよって話さ!」

「俺はこれまでの人生に満足してるから、やり直すなら同じことをするだけだぞ」

「え」


 悪魔は固まる。


「嘘でしょ? 低賃金で休みなく働いて童貞のまま死んだ人生が? なんの後悔もない?」

「そりゃ多少はあるが、やり直して行動を変化させたら、バタフライエフェクトが起きるだろ? そしたらその先で出会うはずのものがなくなるかもしれない。俺の好きなアニメや漫画、それに推し……それが消えるなんてゴメンだ」

「ううん……」


 悪魔は首を……? ひねる。


「北京で羽ばたいたぐらいじゃ、世界規模の変化は起きないけどね……ええと、そこはそれ、これから行く先はパラレルワールドってことで納得してくれないかな? 正直、君の今までの人生は見ててもつまらないから、パアっと変えてほしいんだよ」


 失礼なヤツだな。


「あ、そうか! 言い忘れていたよ! もちろん、特典はやり直しだけじゃないんだ。君でも劇的な人生が送れるよう、願いを三つ叶えてあげるよ!」

「……ほー」

「……うん、ゴメン。これも力を使うからさ、最初はなしで進めるつもりだったんだ。節約しようと思って」


 だと思った。後出しの餌に理由がないわけがない。


「そんな目で見ないでよ。わかった、できる限りやらせてもらうよ。で、何がいい? あくまで君の元いた世界での基準で与えられるもので頼むよ」

「三つの願いというと典型的なのは金とか名誉だが」

「うーん、君の産まれた瞬間に干渉してできることじゃないと無理なんだよね……君の両親が宝くじに当たるとか、『新婚さんいらっしゃい』に応募して大ブレイクするとか、そういう方法なら」


 なんかみみっちいな。まあ力を使うということだし、お約束の『願いを増やせ』もなしだろうな。


「まあ、その二つはいい。……物語として、それらは俺が勝ち取ったほうが神々も喜ぶだろう?」

「お、分かってきたね! そうそう。願いはそのためのツールを用意することに使ってほしいね」

「俺の生まれに干渉するということは、遺伝子とか精神性みたいなところで影響が得られるということか?」

「そういうこと! ……何か思いついたかい?」

「ああ」


 せっかくやり直せるなら……やり直すしかないなら、パラレルワールドを作るというなら……ひとつだけ。やりたいことがある。


 そのためには何が必要か?


「……まず、芸術系の才能がほしいんだが、できるか?」

「絵や歌や踊りとかかい? なるほど、君のカラオケの点数も学校に提出した絵もひどいもんだからね、気持ちは分かるよ」


 余計なお世話だ。


「えーと、才能ね。悪いんだけど与えたからってポンとできるものじゃないって理解はしてもらえるかな? 芽吹かせるには相応の努力が必要だよ」

「そうなのか」

「特化系なら努力も不要にできるけど、そうする? 例えば、歌のラップだけに絞るならいきなり世界レベルになるけど」


 ヒップホップよりさらに狭いのか。


「いや。できるだけ広い範囲をカバーしたい。努力をするのは構わない。才能があるとわかっている、報われるとわかっているだけで相当なチートだろうしな」

「お、いいね前向きで。わかったよ、次は?」

「理数系の才能がほしい」

「おお、なんか真逆に来たね。しかし君は文系の出だから知らないだろうけど、理数系といっても幅広いよ?」

「……プログラミングの才能で頼む。自分でソフトウェアを作れるレベルになれればいい」

「芸術とプログラミングね……何がしたいんだい?」

「ネタバレが必要か?」

「おっと」


 悪魔はニヤリと笑う。


「やる気だね。これは面白いものを見せてくれるのかな?」

「ああ、そのつもりだ」

「じゃあ聞かないでおくよ。その方が僕も楽しめそうだ。それで、三つ目は?」


 正直もういらない気もするんだが……ああ、いかん、肝心なことを。


「記憶の引き継ぎを」

「あ、それは基本サービス。まるごとやり直してもおもしろくないでしょ」


 なんだ。


「未来の知識を持って葛藤するのが面白いんじゃん」

「悪趣味か。……しかしそうなると、あとはいらないな」

「ええ……」


 悪魔は妙に焦ってみせる。


「ちょ、やめてよ。三つって言っただろ」

「いいじゃないか。力を節約できるだろ」

「契約をたがえるとそれ以上にペナルティを受けるんだよ!」


 ふうむ。そちら側の制約みたいなものか。


「なんかないの? 早くしてよ、実はこの場所の維持もタダじゃないんだ。さっさと決めてくれないと全部ご破算になって、僕の存在も消えちゃうんだ!」

「ぶっちゃけたな」

「信頼のためだよ! それよりほら、適当でもいいから何か!」


 そうは言っても必要なパーツは揃った気がするし……。


「……あ」

「何!?」


 ……そうか。活動のためにはソレができたほうが都合がいいぞ。


「思いついた」

「何さ!?」

「完璧な女声を出せるようにしてくれるか?」


 悪魔はキョトンとし――


「ははぁ」


 ニマニマと笑った。


「なるほどね。言いにくかった? 恥ずかしがらなくたって、ここには僕と君しかいないのに」


 何か勘違いされてる気がするが、それこそこいつに弁明する必要はないな。


「そうだな。もう会わないわけだし」


 そう言うと――悪魔はふと、考え込んだ。


「……気が変わった」

「何だ、やめるのか」


 少し残念だが仕方ない。いい人生だったな……。


「ああこら勝手に成仏しようとしない! そうじゃないよ。僕はこのあと、君が物語を終えるのを外で待つつもりだったんだ。多くの神々と同じようにね。ただ……それじゃもったいないと思って」

「何が」

「リアルタイムで物語が見たくなった。君のそばでツッコミを入れてからかうのも面白そうだし」


 悪魔は目を……? キラリとさせる。


「僕も君の物語に参加して構わないかな? 邪魔はしないよ、むしろできる限り協力してあげる。事情が分かってるやつがいた方がはかどるだろ?」

「……協力、するなら、まあ」


 やり直しについて口裏を合わせる相手がいた方が便利だろう。あるいは、愚痴を吐き出すだけでも、楽になる時があるかもしれない。


「よかった! それじゃ三つの願いも決まったし、早速行こうか!」

「ああ待て、流石にゼロ歳からやり直すのは辛いんだが」

「いや僕だって君が延々と排泄を処理されているところを見るのは嫌だよ。君の自我が確立する……4歳ごろでどうだい?」

「……まあそこぐらいだろうな」

「オーケー、それじゃ」


 悪魔は笑う。


「面白い物語を作ってくれ!」

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