2019年 発見
【2019年10月分】発見新人Vtuber【ゲスト:しろいぬ】 / VVPPチャンネル 2019年11月
様々な色の帯が宙を飛び交う空間に、モニタを背にして男性が一人。
「こんにちは、Vtuber専門Webニュースサイト・VVPP編集長のヤキグリです。今月も新人Vtuberが多数現れました。今回は2019年10月に登場したVtuberのご紹介。それではさっそくVtuberさんをゲストにお呼びして進めたいと思います。今回のゲストは、白いボディのヤバいヤツ、しろいぬさん、です!」
「ヒィャアッハアァァー!」
ずざーっ、と膝で滑り込みながら、白いモフモフがやってくる。顔を覆うはガスマスク。頭の上から生えたのは犬耳。モフモフした白い体に食い込む、マイクロビキニとホットパンツ。
「バーチャル界のイヌ! しろいぬ、だ、ゼェ!」
「よろしくお願いします」
「いいのかよォ編集長! この番組にこのイヌを呼んでさァ!」
「今ちょっと後悔してますね。スタッフを問い詰めたい」
「ヒャア! たまんねェな!」
「それでは登場順に紹介していきましょう」
百人単位のVtuberの動画の切り抜きと共に、二人がコメントしながら番組が進む。
「……はい、以上ですね。いやあ、今月も多い」
「これを当然のように追う姉御ッ! 尊敬しかねェゼ! 姉御ォ!」
「数が多いので数秒ずつしか紹介できないのが心苦しいですね。それでは続いてピックアップ──」
特に取り上げるVtuberについて動画を流しコメントをする。そして番組の終盤。
「──……という感じでした。しろいぬさんはどうですか、今月の注目は」
「注目っていうか、ちょっと気になったVtuberはいたな! あの、(仮)ってヤツ!」
「えーっと……どれかな」
「バーチャルラウンジのデフォルトアバターだったヤツだゼ!」
「ああ、準備中というか練習中の方ですね」
「まだアバターがないのに丁寧な作りの動画ッ! 気合いを感じるゼェ!」
「基本的にデフォルトアバターの人は取り上げないんですが、完成度が高いので選出したとのスタッフのコメントがありましたね」
「それに、このイヌにもああいう時期があったからさァ!
◇ ◇ ◇
【蔵野冬音の視点】
2019年11月。
「聞こえますか~」
カメラとマイクに向かって話しかける。
「バーチャルYouTuber練習中の者です」
上位チャット:やあ
上位チャット:待たせたね
上位チャット:待たせたね
「いえ待ってないです」
どういうわけか私のチャンネルでの挨拶が「やあ」とか「待たせたね」になっていて、悪魔さんが増殖しているように見える。
上位チャット:草
上位チャット:一般悪魔はこれだから
そのうえなぜかリスナーの呼称が悪魔になっていた。……これじゃ私が悪魔さんに話しかけてもわからないんだけど……まあ、いいか。
「それじゃあ今日も、オレクロの感想を話していきますね」
上位チャット:待ってました
上位チャット:7話よかったよなあ
上位チャット:もうあんな絵なんだと思い込むことにした
上位チャット:パン様、人を殺せそうな顎してたよな
私が週に一度、オレクロについて話すだけの生放送。そこには同じようにオレクロについて話したい人たちが集まるようになっていた。特に先週から人数が増えたような気がする。
なんだか練習なのに申し訳ないな……と思って、話だけじゃなくてその場面の簡単な模写も用意することにした。クオリティが上がったと悪魔さんも評価してくれたし、やってよかった。
上位チャット:オレクロの話ここでしかできないから助かる
上位チャット:どうしても作画が強いからなあ……
上位チャット:練習中ちゃんの作画で放送したほうがいいまである
上位チャット:わかる
上位チャット:初見です。名前はないの?
「初見さん、どうも。練習中なので名前はないんです」
こうして基本のことを聞かれることも前回から増えた。対応にも慣れてきたと思う。
上位チャット:細かいところまでよう見とるね
上位チャット:パン様の新技ほんと悶えたわ
上位チャット:わかる~
上位チャット:スプリング・ブレッドタイム! さあ踊れ、祭りの始まりだ!
上位チャット:やめろやめてくれ
上位チャット:春のパン祭りは草
練習の成果は、出ている。
生放送は事故無くこなしているし、生放送をまとめる動画も手早く編集できるようになった。
悪魔さんも成果を認めてくれているし、この調子なら……きっと、神望リエルをやり直すことができるはず。
「7話は演出で時間をとった回なので、話すことがちょっと少ないですね。次回がたぶん原作的にアツいんですけど。時間ちょっと余っちゃいましたね……」
上位チャット:雑談しようず
「雑談と言われても……」
上位チャット:暇なら週にあげる動画をもう一本増やそうか
「って悪魔さん!? 無理無理無理ですよぉ! 今ので限界ですっ、バイトもあるんですよ!?」
上位チャット:悪魔さんキタコレ
上位チャット:相変わらず無茶振りをする悪魔
上位チャット:キャー悪魔さーん
上位チャット:悪魔って彼氏なの?
「彼氏とかじゃないですが!?」
上位チャット:おっ?
上位チャット:からの~?
「いや本当に。その、この……えーっと、Vtuber活動の相談にのってもらっているだけの人、それだけです」
上位チャット:いやあ、まいったね
「顔も好みじゃないですし!」
上位チャット:草
上位チャット:悪魔フラれてるwwww
上位チャット:って会ったことあるのか
上位チャット:不意打ちの言葉のナイフ草
上位チャット:辛辣なの好き
「いや、本当に、相談にのってもらってるだけで……そういうのは絶対にないです」
上位チャット:悪魔元気出して
上位チャット:かわいそう
上位チャット:えぇ……まあいいけどさ。ちょっと席を外すから、あとはがんばってね
上位チャット:悪魔おつ
「あ、はい。えーと……そうだ、その、動画を……増やすならどんな動画がいいでしょうか?」
上位チャット:好きなのでいいよ
上位チャット:やりたいことをやろう
上位チャット:黒歴史詠唱
上位チャット:MMDでダンスとか
上位チャット:歌はどう?
「歌……そうですね、あとで悪魔さんに相談しておきます。権利とか、あると思うので」
上位チャット:任せたぞ悪魔ニキ
上位チャット:好きなものの話とかどう? アニメ以外に何かない?
上位チャット:動物の話とかは? 犬は好き? 俺のチワワ見る?
「漫画とかゲームとか……あと猫派です。犬はちょっと」
上位チャット:うーんオタク
上位チャット:こんにちは。DM開放されてなかったのでここで。練習中さんのファンアート描いていいですか?
「こんにちは。ファンアート……あれですね、バーチャルラウンジを起動して5秒で撮影できるやつ。どうぞご自由に」
何も設定していないデフォルトアバターだから、ボタンを連打していればすぐに同じアバターの写真が撮れる。Twitterでもそれを『ファンアート』として投稿されたことがあった。オタクはそういうイジりが大好きなんだなと思う。
上位チャット:すいませんハッキリ言った方がいいですね。私をママにしてくれませんか?
「え、怖」
上位チャット:草
上位チャット:そう言われたらそうなるわなwwww
上位チャット:ナイフゥ!
上位チャット:ママってVtuberのデザインしてくれる人のことだよ!
デザイン……?
上位チャット:練習中さんは話が面白いので、ぜひ自分にアバターのデザインを任せてもらえないかと
上位チャット:おおおお、キター!
上位チャット:有名絵師じゃん!
上位チャット:すげえ
「えっ……え……」
私の話が……面白い?
「いや……私の話が面白いとか……ないと思いますね……」
上位チャット:面白いよ!
上位チャット:面白いが?
上位チャット:自信もって!
「みんな似た者同士のマイナーオタクだからそう思っちゃうだけでは……?」
上位チャット:辛辣で草
上位チャット:いやトーク力はあると思いますよ
上位チャット:時々刺してくるの好き
上位チャット:自覚はある(ある)
……本当に?
上位チャット:お願いしちゃおうぜ!
上位チャット:この人なら安心だよ
上位チャット:新しい体見たい
──新しい体。それは、神望リエルじゃない。
でも──神望リエルになる必要はあるんだろうか?
よく考え直してみる。
私は……私はクラノフユネ。根暗のフユ。つまらないオタク。こんな自分が嫌い。
だから元気で明るい人気者の、神望リエルになりたい、そう考えていた。もう一度、今度こそ、ちゃんと支援を受けてキャラクターの一部になりたいと。
でも。
上位チャット:練習中ちゃんならどんなキャラでも推します!
上位チャット:むしろ俺はこのままでもいい
上位チャット:名前を決めてオタトークしようず
ここに集まったリスナーは、私の話を聞きに来ている。こんなにたくさんの……神望リエルの時よりも多い人数で。
……明るくて、元気でなくても、人気者にはなれる……?
「あのっ……あの、悪魔さん。私、どうしたら」
上位チャット:悪魔ニキ!
上位チャット:悪魔さん、娘さんをください!
上位チャット:突然すいません、ひとつ質問いいですか
上位チャット:悪魔ー! 頼むー!
上位チャット:デザインの前に名前決めようず
私は、もしかしたら──
上位チャット:もしかしてリエルちゃん……ですか?
「………」
上位チャット:?
上位チャット:何の話だ?
上位チャット:リエルって?
上位チャット:神望リエルです
上位チャット:リリアちゃんじゃないだろ
どうして。
「……えっと。お話は、嬉しいんですけど」
上位チャット:リエルってリリアの前の名前だっけ?
上位チャット:勘違いじゃね
やめて。
どうして邪魔をするの。
私が神望リエルの中の人だってバレることだけは避けないといけないのに。
悪魔さんに慈悲の心はない。特に最近は、すごく気を付けるように言われている。きっと何か仕事の都合で……だから、それを指摘されたら、悪魔さんはきっと手を引く。そしたら、すべて終わりなのに。
「Vtuberの件は、悪魔さんと相談して、決めるので……」
上位チャット:すいません、勘違いかもしれません
上位チャット:でも、ずっと探していたんです
上位チャット:あの時は力になれなくてごめんなさい
やめて……やめてよ。
上位チャット:元気でいてくれてありがとう。それだけ伝えたかったんです。失礼しました
私は……。
上位チャット:何こいつ?
上位チャット:練習中ちゃん黙っちゃったじゃん
上位チャット:そう言われましても
上位チャット:オタクさあ
「……ごめん、なさい」
配信を切る。
それでもしばらく残るチャット欄では、リエルについて話した人を責める言葉が続いていて。
──私は、パソコンの電源を、切った。
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