私と推したちのステージ~Vtuber Fes~(6/終)

「はい。楽しいライブもね、そろそろ──」


 えぇ~! いかないで! と会場がざわめく。


「早い! まだ言い切ってないですよ、人類! まだ、まだもうちょっとあります! 今のところオンスケです、オンスケ!」


コメント:草

コメント:お前らw

コメント:トーカのことだからぴったり終わらせてきそう

コメント:だってドームだぞ(¥)


「ラストスパートに向けてちょっとね、ゆっくり聞いてほしいなと思います。はい座って座って。それじゃ、お呼びしましょう! バーチャルJKシンガー! 雨天乃うてんのちゃいむちゃん!」

「はいっ!」


 ぱっ、と。トーカの隣に制服を着た女子高生が現れる。


コメント:キター!

コメント:俺の彼女が来た

コメント:ここでか!


「ぴーす! みんなの彼女! 雨天乃ちゃいむです! よろしくお願いします!」

「ちゃいむちゃん、緊張してる?」

「全然です!」

「そっかぁ!」


コメント:草

コメント:さすが図太いwwwww

コメント:緊張の意味が分からない可能性も微レ存

コメント:ぴーす!


「ではしっとりと歌い上げてもらいましょう! 雨天乃ちゃいむちゃんで、『雨請あまごい』!」


 ちゃいむはトーカに手を振ると──スッ、と動きを止めて、顔を少し伏せてマイクを持つ。しっとりとしたバラードが始まった。


「──……

 今日は晴れのち曇りだとテレビが言って

 私はちらりと画面を見る


 降水確率は20% 鞄に傘を忍ばせる


 いつもの通学路 誰もが手ぶらで

 いつもの教室 あの人の鞄を見る


 そろそろ放課後 曇り空


 降水確率は20% 鞄の傘に触れて


 祈るよ

 ……──」


コメント:(天使の顔文字)

コメント:かわいいな……歌も

コメント:ガチ歌唱力

コメント:普段のイメージと違うのもまた

コメント:おしとやかで引っ込み思案な子なんやろうなあ(棒)


 ちゃいむは歌いきると──急にぴょんぴょん跳ねて手を振り始めた。


「いえー!」

「ありがとうございました! 切ない!」

「ありがと! すっごくドキドキしちゃった!」

「それは緊張では……?」

「緊張してないよ!」


コメント:そうだな

コメント:うん

コメント:してないな


「さすがちゃいむちゃん……そういうところも推せる……」

「あはは。それじゃーまたねー!」


 手を振って駆けだしたちゃいむが、その途中で消えていく。


「はぁー好き……はい! さあ! 次ですね! 曲から入っていきましょう! どうぞ!」


 琴を中心とした曲が始まり、奥から黄色い着物をたすき掛けにした少女がやってくる。頭の右にはキツネ耳、左にはタヌキ耳の、ちょっと抜けた顔の女の子。


「こんにちは きつねたぬきです」


コメント:たぬ姫ちゃん!

コメント:きつたぬ!

コメント:この流れはソバニだ!


「歌います 聞いてください」


 曲名が『いつもあなたのおソバに』と表示される。


コメント:バラードタイム

コメント:かわいい

コメント:生歌じゃないんだ

コメント:生歌は無理だよwwww

コメント:腹が減ってくるな


「──……

 あなたのソバに あなたのおソバに

 いさせてください


 夏も冬も あなたのおソバに

 いさせてください


 いつまでも この日々が 伸びていくように

 ……──」


 ぺこり、とたぬ姫が頭を下げ、拍手が会場に広がっていく。


コメント:涙でソバが伸びる

コメント:サムライ蕎麦でエンドレスリピートされてるぞ

コメント:蕎麦食いたい


「きつねたぬ姫ちゃん、ありがとうございました! それでは次はこの方!」


 たぬ姫が消え、トーカが次の演者を案内し──ステージの端っこに、緑色が現れる。


「ァッ……ァッ、ども……」

「スミちゃん、こっちこっち! みんなに聞こえてないですよ!」

「しゃーねーな! ほら、いくぞスミ」

「ァゥッ」


 横から現れた石花ノトが、緑髪緑ジャージの少女の腕をとって引っ張っていく。


「ほれ、挨拶!」

「ど、ども……こんばんは……ハシノスミです(汗)」

「あのさ、この舞台でジャージはねぇだろジャージは。ほら」

「ぇっ」


 ぽんっ、とノトがスミの肩を叩くと、まばゆい光と共にスミの衣装がアイドル風のものに変化した。


コメント:おおおお!?

コメント:新衣装だ!?

コメント:はーこれだからノトちゃんは


「えっエッ……マジか……き、聞いてない(汗)」

「そりゃ、サプライズは事前に聞かせたら成り立たないだろ? それともその……い、イヤか?」

「い、嫌じゃない!」


コメント:スゥー(昇天)

コメント:てぇてぇ

コメント:この二人はこれだからさあ(歓喜)

コメント:トーカが死んでる

コメント:トーカwwwwww

コメント:何あの魂抜けてるエフェクトwwwww


「う、歌うから……その……そこで、聞いてて」

「おう、行こうぜトーカ先輩」

「……ッスー」


コメント:草

コメント:トーカはもうだめだ

コメント:俺もダメだ


「そっ……それじゃ、やります。『隅から君を』」


 ピアノを主体にしたバラードが始まる。


「──……

 この部屋の 片隅から 端の端から

 君を見て じっと見て 今の今まで


 ずっと側で見ているよ 苔むすまで

 ……──」


コメント:かわいいな……

コメント:部屋のカビが愛おしくなってきた

コメント:いやカビは掃除しろよ


「はぁーてぇてぇなもう!」


 曲が終わり、緑のサイリウムが振られる中、トーカはそう言いながらステージに戻った。


コメント:草

コメント:魔王wwww

コメント:俺の心の代弁をするな


「あッ、ど、ども……」

「よっしゃ、んじゃまた後でな、トーカ先輩!」


 頭を下げてまごまごしているスミを連れて、ノトが消えていく。トーカは悟ったような笑みで客席を向いた。


「いやー、人類。いいものはいい、それだけですね……」


コメント:わかる

コメント:はい

コメント:いや草


「それではね、私も一曲やりたいと思います。ギターカモン!」


 トーカは虚空からギターを取り出すと、空中に座って構えた。


コメント:いや椅子も出せ

コメント:空気椅子するなwwwww

コメント:バーチャル椅子

コメント:好きだね空中に座るの


「行きます。彩羽根トーカで、『トツキトーカ』」


 ギターを鳴らして、トーカは弾き語りはじめる。


コメント:新曲だ!

コメント:新曲3つめ

コメント:まさかソロは全部新曲か?

コメント:バラードもいいな……


「──……

 悩んでますか 悩んでばかり

 そういうものだよね


 衣装とか メイクとか

 悩みは尽きないよ


 十月十日とつきとおか 試行錯誤

 理想は遥か遠く


 君に出会うその時のために

 愛を注いでいこう

 ……──」


コメント:いい

コメント:Vになる悩み

コメント:いろいろあるんやなあ……

コメント:乗り越えて生まれてくれてありがとうの歌

コメント:つまり推しありがとうの歌だな

コメント:俺がお前にありがとうなんだが?


「ありがとう! いやー、人類のね、サイリウム見えてましたよ! 腕疲れてないですか? ここからは最後まで駆け抜けますよ? 準備はOK!?」


 わっ、と会場から声が上がる。


コメント:ラストスパート!

コメント:うおおおおおおおお!

コメント:いかないで


「よーし、それじゃあ行きましょう! モチちゃん、ドラたまさん! ヨロシクゥ!」

「はーい」

「やる」


 ぱっ、と空中に現れたドラゴン皇女と銀髪の少女が着地する。間髪入れずに曲が始まった。曲名は『もちゃっとガール』。エレクトリックなかわいい曲。


「──……

 約束していた昨日のお休み

 あなたが来たのは結局ギリギリ


 いったい誰と会っていたのかなんて

 言えない もちゃっと口の中

 ……──」


コメント:新曲だ!

コメント:モチちゃんかわいい

コメント:かわいいよモチーチカ!

コメント:おじさん無理するな

コメント:おじさん声出せ


 浮気性な相手を許しつつ追い詰めて食べちゃうぞ──という歌詞を、二人は楽し気に……ややドラたまがひきつった声で歌い上げた。そして二人がステージの脇に寄ると、奥から神望リリアと神望リエルの二人が歩いてくる。


コメント:リリア様!

コメント:おっ、姉妹デュエットか?

コメント:てぇてぇ……


 モニタに『(We'll)make your wish come true』と曲名が表示される。


「──……

 聞こえるよ あなたの声が

 届いてるよ きみの祈りが

 ……──」


コメント:美しい

コメント:いいね

コメント:リエルちゃんも登録しよ


「──……

 あなたにもらった幸せを

 きみから受けた優しさを


 これからきっと返していく

 望み 望まれ 望みのままに

 ……──」


コメント:ありがとう

コメント:こちらこそなんだが!

コメント:これからも応援していくぞ!


「みんなーーーーーー!」


 リリアとリエルの曲が終わると、二人が脇に避けるのも待たずに、大きな声を上げてサキが飛び込んでくる。


「見てる!? 見てたね!? ライブ楽しい! みんなはどう!?」


 会場が歓声と青いサイリウムで応える。


コメント:見てるぞ!

コメント:ぞ!

コメント:四天王ラッシュ

コメント:体が震えてきた


「うわー、すごい! すごいね、トーカ! トーカ、ありがとう!」

「いやあ、私だけじゃなくてね、いろんなスタッフさんたちの力あってこそですから」

「それでもこうしてみんなが集まってくれたのはトーカのおかげ!」


コメント:だな

コメント:トーカもっと自信もって


「ね、トーカも楽しい!?」

「……もちろん!」

「じゃあもっと楽しくなろう! 一緒に歌おうよ! ずっと歌いたかったの!」

「ッ……ウッ、うん!」


コメント:ウッ!!!

コメント:もう死んだ

コメント:耐えろこっからだぞ

コメント:トーカとサキ……来るぞ遊馬!

コメント:デュエット来る!!!


「ゴホン。それでは、ミチノサキと彩羽根トーカで、曲名は」


 二人は声をそろえる。


「「『なってるね!』」」


コメント:アッ

コメント:あああああああああああ

コメント:死んだ

コメント:泣いた

コメント:はえーよオタクどもwwww

コメント:ファンメイドのやつ!

コメント:なつい

コメント:サキトカは神話


「──……

 この世界に一人 生まれたときから

 きみをずっと待っていた


 窓越しに想い伝えて

 新しい私見つけて


 飛び込んだ 世界の中で

 きみの声を聞いたよ

 ……──」


 トーカとサキが歌い踊り、赤と白と青のサイリウムが会場に舞う。


「──……

 これまではずっと 友達なんて

 いないと思っていた


 人づきあいが苦手だって

 諦めきっていて


 想っていた あたしの中で

 きみに会いたいよと

 ……──」


コメント:うおおおおおおお!

コメント:どうして俺は会場にいないんだ!

コメント:涙で前が見えない


「──……

 怖いけど もう止められない

 この想いを 打ち明けよう


 ねえ 私と あたしと

 友達になって なってるね!


 ねえ いつの間にかもう

 友達になって なってるね!?

 ……──」


コメント:はーかわ

コメント:顔合わせるフリかわいすぎない……?

コメント:なってるね!!!

コメント:ありがとう……ありがとう……

コメント:泣かないで


 曲が終わり、サキはグシグシと目元をこすりながら後ろに下がる。トーカは、それを隠すように前に立った。


「はい゛……んんッ。はい、人類! ここまでどうもありがとう! ライブはね……なんとあと2曲でおしまいです!」


コメント:えええええええ

コメント:いかないで

コメント:やだやだ!

コメント:もうなの……?

コメント:体感5分

コメント:リスナーの体感時間狂いがち


「はいはい、泣いても笑っても2曲で終わりです! アンコールはないですよ! フリじゃないですからね! 理由はおわかりですね、人類?」


 トーカがオッケーマークを作り、会場が笑う。


「でもね、人類。ライブは終わったって、私たちはまだまだこれからです! 終わらせないぞ! 行くぞっ!」


 トーカは前に出て、指を天に突きあげる。


「『Virtual Immortal -仮想不滅-』!」


 バンッ、とステージがすべて白く、真っ白になり――その光の中から、6人が衣装を変えて現れた。


コメント:は!?

コメント:うおおおおおおあああああ

コメント:新衣装だあああああああ!!!

コメント:統一衣装!?

コメント:あがががががが


 デザインの統一され、白にそれぞれのイメージカラーとモチーフにアレンジされたサイバーでキュートな衣装。トーカが前に出て歌い、サキ、モチ、リリア、リエル、ドラたまがコーラスで参加する。


「──……

 夜空に 散らばる綺羅星たち

 またたいて はかなく消えそうで


 観測を 失った星々は

 忘れられ あえなく消えるのか?


 それが定めというのなら

 見せてやる 私が 永遠を!

 ……──」


コメント:ウオーーーー!

コメント:トーカちゃん!

コメント:かっけえ

コメント:コーラスしびれる

コメント:この5人が同じ衣装を着てるのがもう

コメント:リエルちゃんのも用意してるのすごいな

コメント:結局全部トーカのソロは新曲かwwwwww

コメント:やっぱさあこの5人は特別なんだよ……


「──……

 たとえ誰に見られなくとも

 たとえ誰に聞かれなくとも


 ここにいる 私はここにいる

 振り返ればここにいる


 不滅の仮想はここにある


 だから お前はお前の推しを 推していけぇええええええ!

 ……──」


コメント:草

コメント:推すぞ!!!

コメント:推して行けは草

コメント:シャウトすごい

コメント:お前が推しなんだが?

コメント:そこは自分を推せって言えよwwww

コメント:これだからトーカはさあ

コメント:サキちゃんのハモりすごいよかった

コメント:リエルちゃんもよかったぞ!


「スゥ……はい」


 曲が終わり、歓声と拍手が鳴りやむと、トーカは周囲を見渡してから口を開いた。


「次の曲が終わったらね、もう終了アナウンスなので。だからここで言っておきます。今日は人類、来てくれてありがとう。ネット中継の応援も助かる! ちゃんと読んでるぞ!」


コメント:助かれ

コメント:見る余裕があるのかwwww

コメント:愛してる

コメント:ありがとう!!


「バーチャルYouTuber、すごく増えました。このステージに呼べないくらい。おかげで私の生活は推しで充実してます。人類はどうでしょう?」


コメント:充実してるよ

コメント:追ってて楽しい

コメント:配信ないとやることなくなった

コメント:ほんと十人十色で飽きないよな


「聞くまでもなかったようですね。それじゃあ、最後は──全員で行っちゃいましょうか!」


 トーカがそう言ったとたん──これまでの出演者が全員、ステージ上に現れる。


コメント:うお

コメント:すげえええええええ

コメント:こんだけ出して平気なのかwwwwww

コメント:つよつよPCすぎるwwww

コメント:うわちゃんと動いてる


「それじゃあ歌いましょう! 『Parallel Virtual』!」


コメント:おおおおおお!

コメント:パラレルバーチャル?

コメント:全体曲あるって言ってたやつ!

コメント:新曲だよ新曲だああああああああ!

コメント:もう何度作詞作曲彩羽根トーカってでてきても驚かないわwwww


 トーカがあちこちを渡り歩き、様々なVtuberたちと歌っていく。


「──……

 君が選んだ その可能性は

 無限無数の 道の一つ


 無限無数に 残した可能性は

 観測不能の 平行世界


 いくら望んだって 見えることはない

 現実はいつだって たった一つ 

 ……──」


コメント:すげー

コメント:豪華すぎる

コメント:これが未来か


「──……

 だけど今 僕らの手には

 ひとかけらの可能性


 ありえた未来 違う自分

 変われた自分 違う未来


 まばゆい過去を振り払って

 さあ 踏み出そう 仮想世界へ!

 ……──」


コメント:トーカちゃんニッコニコ

コメント:いいなあ

コメント:これいつ練習したんだろ

コメント:行ける別世界か


「──……

 見知らぬ未知を切り拓いて

 望みを叶えるため撃ち抜くんだ


 さあ続けよう 隣に並んで

 この先をずっと見続けよう


 これは近くて遠い奇跡

 君が飛び込める別世界


 さあ 次は君の番

 おいでよ Parallel Virtual 

 ……──」


 曲が終わり。


 トーカたちはまばゆい光となって──空に飛ぶ。


 そしてドームの天井に、いくつもの星が輝きを灯した。


コメント:綺羅星……

コメント:こんなん泣く

コメント:仕込みすげえ

コメント:演出神か?

コメント:あの並んでるのはトーカとサキだな!!!

コメント:オタクさあ


「以上をもちまして、『私と推したちのステージ~Vtuber Fes~』の公演を終了いたします。身の回りを確認し、お忘れ物のないようにお気をつけください。混雑を避けるため、出口付近のお客様より順にご案内いたします。まずは……──」

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