私と推したちのステージ~Vtuber Fes~(5)

 パンッ、とトーカが手を叩くと言い争っていたイヌビスとルグロズが消え、一面真っ暗になる。

 そして音もなく唐突に、中央に白いウサギ頭をしたスーツ姿の男性が現れた。


「皆さま、本日は彩羽根トーカさん主催、『私と推したちのステージ~Vtuber Fes~』へようこそ」


 胸に手を当て、腰を折る。


「世界初男性バーチャルYouTuberのマネージャーの、アバタです」


コメント:アバタさーん!

コメント:出たな

コメント:隣の女子がすごい声出してるんですが@現地

コメント:兎組こわ


「ここから先も多数のVtuberの方々、そして私がマネージャーをしておりますミチノサキさんの出番もまだまだありますので、どうぞお楽しみください」


コメント:出番終了

コメント:宣伝乙

コメント:ずっとマネージャーでいろ


「えー、でもアバタさんの歌も聞きたい! 人類も聞きたいですよね!?」


 会場から歓声が上がり、白いサイリウムが振られる。


「ほら、どうですかアバタさん!」

「はい」


コメント:はいじゃないがwwww

コメント:コメント力ぅ

コメント:歓声を一言で終わらせる男

コメント:これがアバタなんだよ(兎組面


「それではアバタさんに歌っていただきましょう! 『Avatar's Dimple』!」


 ノリノリのディスコチューンが鳴り──しかしアバタは微動だにせず、背景も真っ暗なままだった。


コメント:えぇ

コメント:虚無

コメント:演出分かってるじゃん

コメント:MAD完全再現wwww

コメント:これ歌えるかアバタ?


「──……

 ……ッ初男性バーチャルYouTuberマネージャー

 アバタと申します サキさんのマネージャーをしております

 ……──」


コメント:歌いだしwwwwww

コメント:歌いだし虚空送り成功

コメント:出番終了

コメント:宣伝乙

コメント:ていうかこの後高速ラップだけどできるのか?

コメント:大丈夫か……?


 アバタは──大きく息を吸い込む。


「──……

 バーチャル世界で生きる体

 それが十人十色のアバター

 現実にはありやしない姿

 それが理想を映すアバター

 ……──」


コメント:おおっ

コメント:やるじゃん

コメント:すごい必死だwwwww

コメント:息切れしそうで草

コメント:練習したんだろうな……


「──……

 き~み~の~す~べ~て~は

 ア~バ~タ~の~エ~ク~ボッ

 ……──」


 そっ……と。アバタは右手を動かして頬を指した。


コメント:草

コメント:唯一の振り付け

コメント:振り付け終了

コメント:あああああかわいいいいいい

コメント:アバタニキと結婚したい(22歳男性)

コメント:すごく頑張りを感じた

コメント:親戚のお兄ちゃんって感じだったな


 曲が終わり、アバタはお辞儀をする。そのままスゥ……と吸い込まれるように消えていった。


「いやー、アバタさんありがとうございました! 私の熱もね、すっかり冷めたということで」


 トーカは頭の上に載せていた氷袋を消す。


「ここからはまた上げていきましょう! 次は~……」

『こらっ、彩羽根くん!』

「あっ……部長!」


 天からの声にトーカは背筋を伸ばす。


コメント:何だ?

コメント:茶番始まった

コメント:誰だこれ


『例のシステム、明日納品の話はどうなっているのかね!』

「えっ、明日? 納期は来週って話じゃ……」

『聞いてないのかね。それは先月までの話だ。とにかく、頼んだよ!』

「ええ~! う、ぐぐぐ、え、営業め~!」


コメント:営業許さん

コメント:許せねえ……

コメント:何の話だよwwww


「ダメだ~、こんなの今日中には終わらないよ……そうだ、こんな時こそ!」


 トーカは空に向かって呼びかける。


「助けて! 超機能要件ロボ! ナオランガーッ!」

「よっしゃああああああ!」


 ズズン、という地響きの効果音と共に、モニタが一面砂煙に包まれる。


「ようお前ら生きてっか? 縮んだ納期は叩いて伸ばす! 無頼少女ぶらいしょうじょ石花せっかノトだ!」


コメント:なおら……伸びねえよ!

コメント:伸びんが?

コメント:ノビンガー!

コメント:営業を叩けば伸びるかなあ……

コメント:ノトちゃん!


 砂煙が晴れ、巨大ロボの足があらわになる。そこに飛び降りてきた黄色髪学ラン褐色ギャルは、ニヤリと笑った。


「それじゃあ飛ばしていくぜ! 石花ノト、『絶対納品・ナオランガー!』」


 昭和なロボットアニメの主題歌風の曲が流れ始める。


「──……

 コードに潜む 全角スペース

 悪のはびこる 2バイト文字を


 つないだバトンは何次請け?

 まっさらコードをレビューせよ

 ……──」


コメント:つらい

コメント:やめてくれ

コメント:笑う

コメント:あるある……


「──……

 唸れ 回せ コンパイル

 走れ 通れ コンパイル


 明日の朝日を知るために

 絶対納品 ナオランガー!

 ……──」


コメント:ナオランガー!

コメント:熱かったな……曲は

コメント:歌詞が胃に悪すぎるwwww

コメント:職場で流したいですね


「ありがとう、ナオランガー!」

「トーカ先輩、また後でな!」


 巨大ロボ・ナオランガーに乗り込んだノトが、飛翔音と共に去っていく。


「次はこちらのお二人です!」

「はいこんにちは!」


 舞台袖から二人組の男性が歩いてやってくる。


「九から飛んで六と書いて九六はなぬき曜星ヨウセイです!」

「チーッス。内弁慶系Vtuberの、武蔵野むさしのケイでーす」


 土曜日と書かれたTシャツを着た藍色ジャージの男性と、デニムジャケットにジーパンで、ショートボブの髪の毛をあえてプリン配色にした糸目の男子大学生。


「いや、本当にね。こんなビッグイベントに呼んでもらっちゃっていいのか!? っていう感じなんですけど」

「パイセーン、ビビリすぎっしょ」

「いやビビってないし!? ていうか内弁慶系を名乗るならそっちがビビるべきだろ!? キャラがブレてるんだよなあ武蔵野市民!」

「なんスかぁ三鷹市民? 喧嘩売ってるんスか?」

「おうおう、やってやるよ。ブチ上げていくぜ! 『市民紛争ラップ』!」


コメント:プロレス

コメント:草

コメント:仲いいなこいつら

コメント:市民紛争は草


「──……

 三鷹市民から武蔵野市民へ

 今日こそ白黒つける自信で

 格の違いを見せてやるぜ

 はっきり認める準備はOK?

 ウチにあるのは三鷹駅

 そっちにあるのは武蔵境駅

 余計な境がついてるな?

 市名をそのまま使えないんだ?


 ひとこと言わせてもらっていいッスか?

 市名を冠する三鷹駅? ッスけど

 北半分は武蔵野市なんで

 むしろほとんど武蔵野駅ッス

 そもそも路線数じゃこっちが圧倒

 住みたい街ランキングでも圧勝


 ランキングの常連は吉祥寺

 武蔵野より知名度ある感じ

 他に誇れるもんはなんもないのか?

 ジブリ美術館に連れていこうか?

 ……──」


コメント:何を争っているんだwwwww

コメント:争いは同じレベルの者同士でしか発生しない!

コメント:吉祥寺って武蔵野市なんだ

コメント:へー井の頭公園も三鷹市と武蔵野市にまたがってるんだ

コメント:路線数て1本しか違わないんじゃ

コメント:トリビアラップ

コメント:むしろ仲良しなのでは?

コメント:いやこの二人が争ってるだけで別に対立してないし……

コメント:ごく一部の人間ぐらいかなあ……気にしてるのは……


 ラップは最後に「俺たちそろって24区だよな」という結論に達して去って行った。


「ヨウセイさん、ケイさん、ありがとうございました! いやー、24区になるとしたら何て名前になるんでしょうね? 武蔵三鷹区? 三鷹武蔵野区?」


コメント:やめろwwwww

コメント:煽るなwww

コメント:草


「バーチャルならそんな争いとも無縁ですね! ではバーチャルな土地から来ていただきましょう! バーチャル帝都から、どうぞ!」


コメント:うおおおおお!

コメント:来た!

コメント:帝都組だー!


「フゥーハハハハ! バーチャル帝都所属ッ、枉王院おうおういん煌真オウマ参上!」

「おっ、同じくバーチャル帝都所属の! 七見屋なのみやアキラです!」


 黒髪に赤メッシュの入った大正風学生服の少年と、青い書生風着物の少年が並び立つ。


「今日はなっ。バーチャルを引っ張るトーカ氏の主催のライブということで、ひとつ! 盛り上げさせてもらおうじゃないか!」

「がんばります、聞いてください。『Tick Bang Friends』」


コメント:ウマキラいいぞ

コメント:アキラきゅんがんばれ!

コメント:オウマくーん!


「──……

 Tick Bang Friends

 いつのまにか隣に


 Tick Bang Friends

 並んでいた僕ら


 チグハグな 性格も

 ジグザグな やりとりも

 君の強さを知っているから

 ……──」


 お互いに相手のすごいところにかなわない、そんな気持ちのすれ違いを二人は歌いあげる。


コメント:いい

コメント:エモいわ

コメント:普段の寸劇とは大違いだな……

コメント:歌だけはガチ

コメント:やっぱウマキラなんだよなあ


「やるじゃないか、アキラ」

「オウマくんこそね」

「よォーし、それではバトンを渡すとするか。局長、お願いします!」

「がんばってね、ミサギ!」


 二人が脇に寄ると、曲が始まる。曲名が『かくあらまほし・乙女』と表示されると、大正時代の女学生風の長髪の少女と、ピンク書生風着物に眼鏡の少女が手をつないで現れる。


コメント:あッ

コメント:てぇてぇ

コメント:ほのサギいいよね……


「──……

 乙女 調べ 奏でながら

 乙女 届け 想いながら


 恋に恋せよなんて言われない

 わたし 遊べ 花のように

 ……──」


 バーチャルな帝都を舞台に、おてんばに遊ぶ二人。恋とか知らないし今は二人でいいよね、と歌うと一部で黄色い悲鳴が上がった。


「改めまして! バーチャル帝都所属、新式放送局の局長、穂之木ほののぎクヌギです!」

七見屋なのみやミサギです!」

「トーカさん、今日はこんな大きな舞台に誘ってくれてありがとう!」


 トーカが応援席で赤、青、オレンジ、ピンクのサイリウムを振る。


「見てオウマ君、すっごい期待されてるよ」

「フッ、ではそれに応えなければなるまい!」

「はいはい、馬鹿言ってないでやるよ」

「それじゃあみんなで歌います! 『帝都・桜吹雪』!」


 和楽器を中心にしたアップテンポな曲が始まる。


「──……

 新しい夢見て集った僕らが

 がむしゃらに走って飛び出して


 手さぐりで夢を作り上げて来たよ

 いつ果てるとも知らないまま

 ……──」


コメント:いい歌だよなあ

コメント:帝都こんなに続くとは思わなかったもんな

コメント:学生サークルが卒業しても続くってすごい

コメント:ありがたいよな

コメント:一時期活動頻度落ちてたのは心配したよなあ

コメント:推して行こうぜ


「──……

 いつの間にか夢の続き 私たちで

 終わりたくない夢の果て 僕たちで


 さあもう一度 咲かせ続けよう


 帝都に咲いた桜は 君の僕の瞳に

 帝都に咲いた桜は 映り続けてる


 帝都に咲き 続ける桜は 僕らの道標

 ……──」


 最後に四人が手をつないで並び、揃ってお辞儀すると、桜の花びらの嵐の中に消えていった。


「はー、いい。いい曲でしたね、人類。心がね、満たされました。この気持ちを燃やしたい──ついてきてくれますか、人類!」


 オオーッ! と会場が揺れる。


コメント:おっ、トーカか!

コメント:来たぞ!


「それでは行きます! 彩羽根トーカで──『魂の輝き』!」


コメント:新曲だ!

コメント:うおおおおおお!

コメント:ソロ2曲目も新曲!


 ギターのソロから、J-POPなアニメ主題歌風の曲が始まる。


「──……

 退屈な日々と 見切りをつけて

 流されるままに 平凡と信じて


 君の可能性 閉じちゃってない?

 コミュ障だって あきらめてない?


 本当の自分はこうなんだなんて

 いったい誰が分かるのかって


 分からないよ 分からせてよ

 すべてを変えて 試そうよ


 何もかも君が決められる世界

 たったひとつの君を携えて


 さあ──君の魂の輝きをっ! 私に見せるんだよオォォォォオオオッ!

 ……──」


コメント:うおおおおおおお!

コメント:草

コメント:見せるんだよは草

コメント:シャウトアツい

コメント:魔王推参がVを推す話なら、こっちはVになろう、か

コメント:とりあえずVやってみようぜ!(要約)


 トーカは歌いきり、会場からは拍手が鳴り響く。汗をぬぐいながら、トーカはそれが静かになるのを待った。


コメント:バーチャル汗

コメント:トーカちゃんの汗prpr

コメント:いやーいい曲だったな

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