私と推したちのステージ~Vtuber Fes~(1)

コメント:待機

コメント:待機

コメント:そろそろかな

コメント:現地組いいなあ

コメント:ドームだもんなドーム

コメント:そこかしこからVの話しか聞こえないよ@現地

コメント:ここが天国か@現地

コメント:初めてライブに課金した

コメント:わかる、俺も

コメント:来るか?


 待機画面が消え、会場の様子が映される。

 照明に照らされた、白いパネルの広がる天井──ドーム球場。バックスクリーンに位置するところはステージとなり、巨大なディスプレイが設置されている。そして、会場を埋め尽くす、人、人、人。


コメント:うおおおおお

コメント:すげえ、ドームだ

コメント:ディスプレイでっか

コメント:見渡す限りの俺たち

コメント:これ内野席とかネット裏は超遠いな

コメント:直接オペラグラスで見てもいいけど、どこも近いところにサブディスプレイあるよ。グラウンドの方。その分グラウンド席狭いけど@現地

コメント:天井にディスプレイあるからそこ見てもいいし@現地

コメント:マジだ天井にある

コメント:あれどうなってんの。天井に釣れないでしょ

コメント:バルーンで浮かしてるんだってさ。前説で言ってた@現地

コメント:前説あったのか

コメント:ごめん前説っていうか入場中の列で見れる動画でトーカが説明してた@現地

コメント:な に そ れ

コメント:え、見たい

コメント:列の横にモニタ置いてくれてるんだよな@現地

コメント:ごめんな現地特典なんだ@現地

コメント:ええええええええ

コメント:死んだ

コメント:嘘つくなトーカちゃん後日公開って言ってたぞ@現地

コメント:生きた

コメント:物販もあとで通販あるし至れり尽くせりよな

コメント:遠方のオタクへの配慮ありがてえ……

コメント:まるでベテランのような配慮(初ライブ)

コメント:初ライブでドームなんだよなあ

コメント:単独ライブじゃないしまあ

コメント:現地民からの書き込み多いな

コメント:まだ無料枠だからね

コメント:もう泣きそう

コメント:始まるか!?


 照明がスゥ、と暗くなる。察した訓練されたオタクたちは、一斉に静まり返った。そこへ。


「『私と推したちのステージ~Vtuber Fes~』にようこそ、人類! 会場! ネット配信! 見てますよ!」


コメント:来たああああああああ!

コメント:トーカちゃん!!!

コメント:うおおおおおおおお!


 会場のオタクたちがサイリウムを白と赤とに点けていく。


「人類、私の名前は知ってますね? もしかして初見? いいでしょう、それならあなたの推しと一緒に、名前だけでも覚えていってください。一曲目──彩羽根トーカで、『魔王推参!』」


 バン! と音楽が始まり、ステージ上のディスプレイに大きな赤いリボンを頭の後ろに下げた少女が飛び出してくる。横のディスプレイにはアーティスト名、曲名が常に表示され、上部のディスプレイには歌詞が表示される。


コメント:うおおおおおおおおお!

コメント:新曲だ!

コメント:魔王キター!


「彩羽根トーカ、推して参る!」


 アップテンポな曲に、サイリウムの波が揺れる。


コメント:かっけぇ

コメント:推して参るのか……(困惑)

コメント:90年代アニメの匂いがする!

コメント:さすが昭和おばさん

コメント:90年代は昭和じゃない定期


「──……

 浮かない顔して うつむいて そう

 何もないんだって 決めつけてるなら


 僕が手を引いて連れていくから

 溢れんばかりの輝きを見に行こう!

 ……──」


コメント:僕!?

コメント:僕っ娘トーカちゃん

コメント:新鮮だな


「──……

 ひとの魂に触れること その輝きを知ることで

 変われるよ 君も 僕も 明日を!

 ……──」


コメント:アツい

コメント:アゲていけえええええ!!

コメント:うおおおおおお!


「──……

 輝き求めて東へ西へ 出会いはもう無限大

 知って触れて求めて 仮想の窓の向こう側へ


 さあ 君の 愛を 叫べよ!


 推せ! 推せ! 君の好きを もっと!

 推せ! 推せ! 僕の好きを もっと!

 ……──」 


コメント:草

コメント:推せ! 推せ! は草

コメント:推せ推せコールwwwwwwww

コメント:推せ! 推せ!

コメント:Vはいいぞ(要約)

コメント:好きだー!


「──……

 綺羅星の中から 見つけた君の輝きを

 シェアして広めて推していこう


 君と僕の好きを 端から端まで並べて

 無限遠点の彼方まで……!

 ……──」


 最後に音楽が無音になると、トーカは指を観客席に向けて言った。


「さあ聞かせてもらいましょうか──人類の推しへの愛を!」


 改めてステージ上のディスプレイに、『私と推したちのステージ~Vtuber Fes~』のタイトルロゴが表示された。ドームが、揺れる。


コメント:うおおおおおおおおお!

コメント:愛してるぞ!!!!!

コメント:トーカちゃん!!!!!!

コメント:8888888888

コメント:おま推し

コメント:アツい曲だった

コメント:でも8割がた推して行こうぜって話だったなwww

コメント:いろんなVが推しだということはよくわかった

コメント:ゾクゾクした


「あらためまして、人類! 彩羽根トーカです。今日は『私と推したちのステージ』にようこそ。このライブはね、文字通り、私と、あと私の推しにいっぱい参加してもらうイベントです!」


コメント:はい

コメント:知ってた

コメント:トーカちゃんかわいい

コメント:俺はお前が推しなんだが?

コメント:ありがとう、ありがとう……


「Vtuberもたくさん増えましたよね。もうね、全員推し。全員呼びたいわけです。が、いいですか人類。……コレですよ」


 トーカは右手でオッケーマークを作ると、スス……とO側を上に向けた。会場から笑いが湧く。


コメント:はい

コメント:草

コメント:まあねえ

コメント:むしろよく捻出できたよな

コメント:無料枠終わるぞ。買ってないやつネットチケット急げ


「コレによる時間の都合があるので、仕方なく! 涙を飲んで! 出演者を決めさせていただきました。でもね、みんな推しです。なので私は幸せですよ、人類。なんたってね、ほら、ここです!」


 トーカはステージ上の不自然な位置に置かれた透過ディスプレイを指し、パッと移動する。


「そう! 今日私はね、ここから! 推しを! ずっと応援できるんです!」


 サイリウムを装備し、ステージの方向を向き──観客には背を向けて、ブンブンとサイリウムを振る。


コメント:ほー

コメント:あっ

コメント:なるほどね?

コメント:おい私欲じゃねえか!


「いやー、特等席ですよ。これはね、主催者特権ですからね! 主催者特権!」


コメント:アッハイ

コメント:金を出したやつが一番偉いからねしょうがないね

コメント:このために金を出したまである

コメント:トーカだもんな……

コメント:これギリ端の席だから見えるけど、逆側からだとトーカの顔が見えるwwwww@現地

コメント:ネットチケットまで買ってる現地民がいる


「はい。ご理解いただけて何よりです。もちろんね、推しのために来てくれた人類たちを最後まで楽しませたいと思ってます。さあそれじゃあトップバッターの責任は果たしましたので! 次のVtuberに登場いただきましょう!」


コメント:来たぞ!

コメント:(トーカにとっての)本番開始

コメント:出演者リストは公開されてるけど順番は分からないからな

コメント:セトリも非公開だし何が来るかわからん

コメント:シークレットゲストもあるみたいだしな

コメント:ドキドキ


「最初に登場いただくのは……『Virtual World Singers』チャンネルで活動する五人の歌手から、日本担当! 千鶴ちづるちひろちゃんで、曲は『いつもの鞄で』!」


「まいりま~す!」


 声と共に、一人の少女が上空から舞い降りる演出が入る。鶴と和をモチーフにした衣装の、白く長い髪の女の子。


コメント:ツルツルちゃん!

コメント:いきなり実力派きたな!

コメント:かわいい


「みなさん初めまして。『Virtual World Singers』の千鶴ちひろです。今日は精一杯がんばるので、応援してくださいね!」


コメント:知らない子だ

コメント:歌唱力はガチ

コメント:いろんな国の歌を五ヵ国語でやってるチャンネルだよ

コメント:いつカバはオリ曲だな


 明るい曲が流れ始め、ちひろはマイクを握る。


「……──

 ある日のプレゼント 思いがけなくて

 どうしたらいいのか わからなくって


 あなたは笑って 許したけど

 心のもやもやは 晴れないの

 ……──」


コメント:いい歌

コメント:声がいい

コメント:歌中心だからコラボとかあんまないんだよな

コメント:来てくれたの嬉しい

コメント:昔のアイドルソングって感じで好き


 出だしこそ少し硬かったものの、最後はその伸びやかな声を活かして歌いきり、会場から拍手を送られる。


「最高、素晴らしい、神!」

「あ、あはは……ありがとうございます」


コメント:魔王wwwwwwww

コメント:トーカ飛ばしてんなwwwww

コメント:すでに涙声で草

コメント:めっちゃ真剣にサイリウム振ってたのかわいいわ


「というわけで、ちひろちゃんには二番手をお任せしました!」

「緊張しました~……」

「お、それではね。次の曲は緊張をほぐす助っ人をお呼びしましょう! シークレットゲスト一人目カモン!」


 トーカが呼びかけると、会場の上の方から声がする。


「Here we go!」

「Yes ma'am!」


コメント:!?

コメント:なんだ!?


 そして舞い降りたのは二つ──いや、舞い降りたのは一つの影。

 鷲をモチーフにした衣装の白い短髪の少女。


「Erna Eagle is here!」

「アーナちゃん!? それと……えっと」

「HAHAHA!」


 舞わずに垂直落下して地面に刺さっていた、緑肌に乱杭歯のオーク族。


「Hi チヒロサン! オークのルグロズ、デス!」


コメント:草

コメント:いや草

コメント:オークwwwwww

コメント:どうして


「あ、ご丁寧にどうも……ってええ……」

「はい、シークレットゲストの一人目は! 『Virtual World Singers』のアメリカ担当! アーナ・イーグルちゃんです!」


コメント:おおっアーナちゃんだ!

コメント:来日したのか、すげえ

コメント:この子もガチだぞ!

コメント:で、なんでオークがいるんですかねえ……


『アーナちゃん、今日は来てくれてありがとう。歌めっちゃ好きです』(英語)

『私こそトーカに会えて光栄よ。他のメンバーは都合がつかなくてゴメンね』(英語)


コメント:なんて言ってる?

コメント:すぐ字幕出てくるから待てよ

コメント:リアルタイム翻訳のスタッフさんお疲れ様です!


「はい。オークのルグロズさんはね、ピンチヒッターです。もう一人ね、『Virtual World Singers』からお呼びする予定だったんですが、急遽キャンセルということで……低音パートを担当していただきます!」

「HAHAHA! お任せアレ!」


コメント:そうなんか

コメント:ドンタオ兄……

コメント:Twitterで風邪つってたからまあ

コメント:あ、ルグロズここだけじゃないんだな


「それでは次の曲に行きましょう! アーナちゃん、準備はOK?」

「オッケーダヨ!」

「私も一緒に歌います! 『Virtual World Singers』with ルグロズ&彩羽根トーカ、曲名は『No Border』!」


 四人が声を合わせて歌い始める。


コメント:かっこいい

コメント:バーチャル賛歌って感じでいいね

コメント:ドン兄見てるか!

コメント:まさかと思ったけど残りの3言語トーカが担当かwwwww

コメント:オークは合唱パートだけか

コメント:いきなり違う言語で歌えは無理でしょw

コメント:そうだよな(トーカから目をそらしながら)


 バーチャルならどこにでも行ける、なんにでもなれる、こうして会えている。

 だから君たちもこの世界においでよ。そんな願いを込めた歌が終わり、トーカを残して三人が退場していく。


「いかないで!」


コメント:草

コメント:いかないでは草

コメント:お前が進行役やろがい!w

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