私と推したちのステージ~Vtuber Fes~(2)

「スゥー……はい。それじゃあね、次にいきましょう。次の人ー!」

「はーーーーい!」


コメント:アッ

コメント:来たぞ!!!

コメント:サキちゃん!


 ディスプレイの端から、青薔薇のシュシュをつけた金髪ツインテールの少女が駆け込んでくる。


「みんなーーー! 見てるーーー!?」


コメント:テンションたっかwwwww

コメント:みてっぞ!

コメント:ぞ!

コメント:かわいい


「ミチノサキだよ! それじゃあ歌っちゃうね! 見ててよねトーカ!」


 トーカはスッと専用応援席に移りサイリウムを構える。


コメント:行儀良くて草

コメント:オタクの鑑

コメント:てぇてぇ


「いくよみんなー! 『エモーショナル☆ファンタジア』!」


コメント:うおおおおおお!

コメント:エモファンだ!


 電子音を交えたテンション高く賑やかな曲が始まる。


「──……

 ねえ 君 見えてますか?

 こっちの道でいいですか?


 見知らぬ 道の先へ

 一緒に行ってくれますか?

 ……──」


コメント:いくぞ!

コメント:いくぞ!

コメント:ぞ!

コメント:コールすご


「──……

 エモーショナル☆ファンタジア

 不思議と未知に満ちた世界


 エモーショナル☆ファンタジア

 君とだったら怖くないよ


 だからずっと見ていてね

 一緒にずっと進もうよ

 ……──」


コメント:エモい

コメント:まってトーカの動きがキモイ

コメント:トーカの動きが草

コメント:邪魔にならないところにいるけど一度見ちゃうとダメwwww

コメント:キレッキレだなwwww

コメント:口動いてるけど声聞こえないな

コメント:ミュートして配慮するオタクの鑑

コメント:バーチャルは邪魔にならずオタ芸できていいなあ


 サキのエモい歌とトーカの全力のオタ芸が繰り広げられ、曲が終わる。


「はー、エモい、無理、好き……」

「あたしもトーカが好きだよ!」

「ウッッッアッッ」


コメント:アアアアア

コメント:ジュワァ(消滅)

コメント:死んだ

コメント:会場で悲鳴上がってて草

コメント:隣のオタクの呼吸がやばいんだけど@現地

コメント:両隣が泣いてて気まずい@現地


「はッハッ……スゥ……はい! ミチノサキちゃんで、『エモーショナル☆ファンタジア』でした! エモファンはいいぞ!」

「あっはっは! でしたー! それじゃあトーカ、また後でね!」


コメント:いかないで

コメント:あっ

コメント:あれ、デュエットないの!?

コメント:また後でってことはまだ出番がある

コメント:期待

コメント:たのむぞ……!


「はい! もうね、推しの摂取でめちゃくちゃ元気がでてきましたね。人類はどうですか?」


コメント:心臓替えたところです

コメント:最後まで見届けられるかな(瀕死)

コメント:すでにニッコニコして顎が痛いわ

コメント:家でよかった。現地とか帰れる気がしない


「まだまだ続くので休憩は取ってくださいね! 通路にも中継用のディスプレイありますから、トイレは早めに!」


コメント:マジかwwww

コメント:配慮の塊か

コメント:マジです@現地

コメント:MCはカットして注意事項が流されてるからさっさと会場に戻らないとだぞ@現地


「それでは続いては、おうたの双子! ソファラアンドミレーシーで、『ロマンチストクローザー』!」


コメント:きたああああ!

コメント:うおおおおソファミレだああああ!


「物語は」「終わる」


 小さな少女が、並び立つ。青いワンピースを着た少女、ソファラ。黄色のパーカーを着た少女、ミレーシー。二人が鏡合わせでポーズをとると、画面全体にエフェクトがかかり、『ロマンチストクローザー』の文字がバババババッと一文字ずつ表示される。


「──……

 あなたの見たすべては 夢 幻 泡沫

 甘いロマンスのすべては 嘘 偽り 空言


 もう終わりにしましょう

 これ以上は惨めなだけ


 物語は終わる

 ……──」


コメント:かっけぇ

コメント:同じ動きしてない?

コメント:一人二役だからね

コメント:さすがバーチャル

コメント:曲も歌も自分でやってるから二役どころじゃないんだよなあ

コメント:トーカ並みにヤバいやつ

コメント:一連のシリーズの最新のやつだから初見の人はあとで最初から見てほしい……


「──……

 それでもあなたは続けるの?

 惨めなあなたをさらしてまで?


 この先には何もない ロマンスは終わり

 きれいなあなたのまま 眠りにつけばいい

 ……──」



 嫌 だ !



コメント:おお

コメント:文字が出てくるのかっこよ

コメント:画面全体も演出に使えるのはバーチャルならではだよなあ

コメント:さすが元ボカロPだよね


「──……

 物語は終わり 終わらない

 ロマンスは終わり 夢は夢


 それでもあなたは あきらめず

 続けるって言うのなら


 倒れ 転んで 這いつくばって

 惨めをさらして 続けるといい


 滅びの美学はいらない

 終わりは美しくなくていい


 ロマンチストを終わりにして

 物語は 無限に続く──

 ……──」


 双子がポーズをとり、曲が終わる。


コメント:うおおおおおおおお

コメント:いい曲

コメント:かっこよかった

コメント:礼だ受け取れモザンビークだ

コメント:モザンビークヒア!

コメント:なんで……?

コメント:作曲講座動画とかもいいぞ!


「いやー人類、痺れましたね。ソファラちゃん、ミレーシーちゃん、ありがとうございます!」

「ライブはまだまだ」「続く」「楽しめ」「また会おう」


 双子はそれぞれ別の手を高く上げて振ると、スッと消えていった。


「はー、この消える演出心臓に悪いですね。決めたのは誰だっていうと私なんですが。はっはっは」


コメント:草

コメント:お前かよwwww

コメント:どうして自爆するのよ!


「では次にいきましょう! ヤバい格好のヤバいヤツ! しろいぬッ!」

「ヒィャアアアアアアッハアアァァァー!」


 ばしゅっ、とスモークが炊かれる演出と共に飛び出してきたのは、ヤバいヤツだった。


 顔を覆うはガスマスク。頭の上から生えたのは犬耳。

 スタイルのいい体は白いモフモフの毛で覆われて、マイクロビキニとホットパンツが逆にカラダを意識させてくる。


コメント:ヒェ

コメント:出たな

コメント:何だコイツ!?

コメント:白い人?


「姉御ォ! 今日はライブ開催おめっとうございまァァァァス!」


 しろいぬは土下座しながら言う。


「今日は! 今日はこの下僕めがッ、イヌめがッ! 全力でやらせていただきやっすゥゥゥウ!」


コメント:バ美肉?

コメント:元超美麗低画質3D勢だよ

コメント:なつかしいな犬料理配信……

コメント:どう見ても犬の飯だったよな……

コメント:え、男?

コメント:どうしてあの3Dからそのまま3Dにしてしまったのか

コメント:毛は生えたろ!


「よぉーし、いっぱつかましちゃってください!」

「ヒャァー! いくぜェェエ! 姉御に捧げるッ! 『Whiter than Virtual』!」


 ギュイーン! とエレキギターの音がライブ会場をつんざき、曲が始まる。


「──……

 次元を超えても 夢は遠く

 憧れを抱いても 近づきやしない

 ……──」


コメント:いい声やん

コメント:歌はいいんだよ歌は


「──……

 この身を白く 真っ白に

 憧れの世界になるように


 踏み出せば始まるのさ Whiter than Virtual!

 ……──」

 

コメント:アガる!

コメント:こんな変態なのに! 悔しい!

コメント:わいたーざんばーちゃっ!

コメント:女性パートは誰?

コメント:本人だよ

コメント:両声類すご

コメント:かっこいいけどガスマスクなんだよなあ


 曲が終わり、白いサイリウムがわちゃわちゃと振られ、拍手が鳴る。

 しろいぬはトーカが応援席から出てくると──


「姉御ッ! このイヌめを壁か天井かドアマットにお使いくだせェェェ!」

「あ、お帰りはあちらでーす」

「ヒャァァァ……!」


 土下座で滑り込んでいき、トーカにひらりと避けられ、そのまま滑って画面外に消えていった。


コメント:いや草

コメント:変態だー!

コメント:変態だよ

コメント:どうして呼んだのwwwww

コメント:トーカの推しだからだろ

コメント:推しに塩対応とは


「いやーここまで含めてね、しろいぬさんって感じでいいですね。推してます。でもドアマットは結構です」


コメント:草

コメント:そりゃあね

コメント:残念でもないし当然


「それでは続いては! 父を亡くして三千里! バーチャルみなしご少年、知己波ちきなみトモたん!」


 セーラー服の少年が小さく手を振りながらやってくる。


コメント:誰だ?

コメント:トーカちゃんの動画で見たことある

コメント:かわいいじゃん


「さてね、私も応援してばっかりではいられないので! 伴奏で参加させていただきます!」


 トーカはそう言うとグランドピアノを呼び出し、その前に座る。


コメント:おおお、マジか!

コメント:ピアノだ!

コメント:ありがてえ

コメント:ここでコラボか!


「トモたん、いいですか?」

「はい。それじゃあ、行きますね。『月並みな僕』」


 トーカがピアノを弾き、トモが歌い始める。


「──……

 君と初めて話した あの教室で

 僕は何を言ったか 覚えてない


 きっと月並みなことを言ったんだ

 だって君は笑顔でいてくれたから

 ……──」


コメント:ラブソングかな

コメント:意外

コメント:ピアノがいい

コメント:なんか歌詞が変じゃね?

コメント:まって結婚してそれで?

コメント:子供???

コメント:もしかして:中の人の歌

コメント:闇が深いwwwwww

コメント:深読みしすぎだぞお前ら

コメント:いやこれトモのママ(本人)の歌やん……

コメント:夫死んだぞwwwww

コメント:強く生きていくねじゃねーんですわwwwwwww

コメント:いい話だなー……?


 曲が終わると、トモは一礼して消えていった。


「いやあ、いい曲でしたね、人類。トモたんはしっかりした子供だなあ!」


コメント:そうだね?

コメント:ハイ

コメント:ちょっと背伸びした歌だったね!!


「さあライブはまだまだ続きますよ、人類。次はこの人!」

「みなさま、ごきげんよう」


 天から光が降り注ぎ、その中から長い茶髪を三つ編みにしたオレンジのワンピースの少女が現れる。


「みなさまを天に導く、バーチャルYouTuberの神望リリアですわ」


コメント:リリア様!

コメント:ごきげんよう!

コメント:キター!

コメント:もしかしてFree Talk!か!?

コメント:セトリ非公開だからわからんがFree Talk!希望


「リリアちゃん! 来てくれてありがとう!」

「もちろん、トーカさんのお呼びとあれば喜んで。でもわたくし、歌は苦手なんですよね」

「お任せください! 私がリードしちゃいますよ!」


コメント:おっ

コメント:きたああああああああ

コメント:やったああああああああああああ!

コメント:きたぞ!!!


「それでは聞いてください! 神望リリアと彩羽根トーカで、『Feather Falling』!」


コメント:ふぇざー……!?

コメント:新曲!?

コメント:新曲だ!!!

コメント:うおおおおああああああああ!


「──……

 重さのない空で 羽ばたくあなたを

 遠く見上げては 耳を澄ませてた


 舞い落ちる羽根を 拾い集めては

 落とし主の姿を 思い描いてた

 ……──」


コメント:いいね

コメント:二人声を合わせてるのてぇてぇなあ……

コメント:ふたりで作詞したんか

コメント:ほんとだ作詞リリア&トーカだ


「──……

 ひらり ふわり 舞い落ちる

 あの鳥の羽根のように


 ひらり ふわり 舞い落ちて

 わたしの手の中に

 ……──」


コメント:これはトーカちゃんがリリアちゃんに落ちるフラグ!

コメント:妄想乙

コメント:フェザーフォーリング……羽根が落ちる……アッ

コメント:深読みオタクくんさあ

コメント:振り付けもかわいくてよかった……

コメント:天に召されそう

コメント:上から羽根が降ってくる演出、いいね

コメント:羽根止まってなくね?w

コメント:ミスかな?

コメント:羽根もっさもさで草


「はいっ、『Feather Falling』でした! いやー二人で一緒に歌詞を考えた成果が出ましたね!」

「ええ、歌詞に迷うことなく歌えましたわ」

「うんうん。……あれ?」


 トーカは上を向く。上空からは、歌の最中ずっと降り注いでいた鳥の羽根が、いまだにひらひらと落ちて来ていた。


「おかしいですね。スタッフさーん?」

「ああ、申し訳ありません。こちらの不手際ですわ」

「え?」

「まったく」


 リリアは頬に手を当ててため息を吐く。


「手が焼けるったらありませんね」

「???」


コメント:なんだ?

コメント:トラブル?

コメント:?


「トーカさん。アレをこちらに呼んでもよろしいですか?」

「え、アレ? えっと、アレとは?」

「不肖の妹ですわ」

「──えッ!?」


コメント:!?

コメント:は?

コメント:妹?


「きっとわたくしたちが仲良くしているのが羨ましかったのでしょうね。さあ」


 リリアはパンパン、と手を叩く。


「降りていらっしゃい──リエル」

「えぇぇーッ!?」


 そして天の光の中から、量を増して舞う羽根と共に──顔のないデッサン人形が降りてきた。

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