【流せ!】バーチャル技術者が集まって夢をかなえてみた【そうめん!】
上位チャット:待機
上位チャット:プレミア公開か
上位チャット:事前発表されてるメンバーのつながりが分からん
上位チャット:だってトーカだし……
上位チャット:そろそろだ
上位チャット:キターーー!
金髪ツインテールに青薔薇のシュシュをした少女。バーチャルYouTuberのミチノサキ。しかしその色彩が反映されないモノクロの画面で、『※7月7日の放送』と表示される。
『それは、七夕のことだった』
ナレーションが言うと、動画から音声が流れる。
「もう夏になるよね!」「いろいろやりたい!」「海とか、山もいいけど」「あっ、アレ! あれやってないなー!」「そうそう、アレ!」
テンポよく編集された動画。スゥ、と息を吸い込む様子がスローモーションで流れ──
「流しそうめんを、やってみたーーーーいっ!」
集中線とエコーでこれでもかと強調された叫び。ブラックアウトする画面。
『ミチノサキの叫びが、仲間たちを動かした』
特徴的なイントロと共に、ロゴが表示される。
プロジェクトVR -バーチャルたち-
上位チャット:草
上位チャット:バーチャルたちwwwww
上位チャット:プロジェクトXじゃねーか!
上位チャット:地上の星wwww
歌声と共に、次々と人物紹介の動画が流れていく。
「そうめんを流す必要性がわからん」
包帯でぐるぐる巻きにされた宙に浮くリーゼント犬。字幕で『イヌビス』と紹介される。
上位チャット:犬!
上位チャット:あれ、イヌビスもか
上位チャット:いきなり否定されてて草
上位チャット:これ歌ってるのトーカか
「え、そうめんですか?」
茶髪の三つ編みを下げたオレンジ色のドレスの少女。字幕で『神望リリア』と紹介される。
上位チャット:リリア様!
上位チャット:そうめん食べなさそう
上位チャット:「そうめんおいしいですわ!」とか言って……言わないな
「でも流しそうめんやってるとこは楽しそうですよね。準備は大変だし、個人じゃできる規模も限られてますけど」
白Tシャツと藍色のジャージの男。字幕で『九六曜星』と紹介される。
上位チャット:お、ヨウセイ
上位チャット:月曜日か珍しいな
「何言ってるんですか。私たち、バーチャルですよ!」
ガタン、と音を立てて椅子を蹴り、机に身を乗り出す大きな赤いリボンを頭の後ろに下げた少女。字幕で『彩羽根トーカ』と紹介される。
「──普通の流しそうめんなんかやってどうするんですか!」
上位チャット:トーカキター!
上位チャット:トーカちゃん!
上位チャット:え、何?
上位チャット:草
『それは、気づきだった』
「なるほど! バーチャルならなんでもアリアリでしてよ!」
笹色のドレスにめでたいものがごちゃっとついたバ美肉お嬢様。字幕で『物理演算お嬢様
上位チャット:オジ連のひと!
上位チャット:アワビ様じゃん
「もっと攻めようぜ! 常識なんかに囚われんなよ!」
黄色髪の学ラン褐色ギャル。字幕で『
上位チャット:ノトちゃん好き
上位チャット:ギャルかわ
上位チャット:技術系つながりか?
「通っちゃいけないところを通るとかどうですか!?」
「食べ物だし最低でも食べられそうというラインは守らないと」
「ギミックが動くか動かないかなんて知ったこっちゃないのでしてよ~!」
「行くか行かねえか、それが醍醐味ってヤツだろ!」
「フッ、いいだろう。システム側で対応しよう」
「え、そうめんとにゅうめんは同じなんですか? というかなぜわたくしに話を?」
上位チャット:リリア様wwwww
上位チャット:イヌ偉そう
上位チャット:実際偉いから……
上位チャット:お嬢様(偽物)VSお嬢様(本物)
『少女の夢をかなえるため。バーチャルラウンジを舞台に、バーチャル技術者たちの暑い夏が始まった』
曲が終わって、画面が暗くなった後──
「はい本日の司会を務めさせていただきます、九から飛んで六と書いて
白い空間に、ヨウセイが立つ。
上位チャット:お
上位チャット:本編開始か
上位チャット:ヨウセイくん!
上位チャット:あれ曜日変わってるな別日か
「本日はゲストのためのサプライズ企画! バーチャルラウンジを運営するガブガブイリアルさんをスポンサーに放送させていただいております! それではさっそくゲストをお呼びしましょうこの方です!」
「みんなーーーー!」
ダダダーッ、とサキが一周走り回ってからカメラに向かってポーズをとる。
「見てるー!? ミチノサキだよ!」
上位チャット:見てるぞ!
上位チャット:見てるよ~
上位チャット:ぞ!
上位チャット:はいかわいい
「なんかね、今日はお祝い? サプライズ? なんだって!」
「はい、バーチャルラウンジでサキさんの夢をかなえよう、という企画です!」
「えー! すごいすごい!? 何だろう!? 何の夢かなっちゃう!?」
「そちらは見てのお楽しみということで、それではさっそくスタート地点へ移動しましょう!」
「イェーイ! レッツゴー!」
サキがノリノリで手を挙げると、場面が転換する。
やってきたのは──見渡す限りの青空。そびえたつ尖塔。
上位チャット:!?
上位チャット:ここは?
上位チャット:屋上?
上位チャット:スカイツリーか?
「はい! やってまいりました東京スカイツリーっぽい塔の展望台の屋上です!」
「おおー、高い高い!」
サキは拍手して辺りを見回す。
「ん? 何これ? 水の流れてる……パイプ?」
「はい、こちらがスタート地点になります!」
「スタート?」
「では本日の主役の登場です!」
サキが首をひねる中、神望リリアがトレイに銀の丸い蓋を載せてやってくる。
上位チャット:リリア様!
上位チャット:かわいい給仕してほしい
上位チャット:サキちゃんよく分かってなくて草
「あ、リリアちゃん! ……リリアちゃんが主役?」
「いえ、わたくしではなく、こちらですわ」
リリアは丸い蓋を取る。そこには、ガラスの器に入った白い糸の塊が水に浮かんでいた。
「……ん? 何、これ?」
「はい、こちらはそうめん玉になります!」
「そうめん……玉……?」
上位チャット:そうめん玉|(とは)
上位チャット:ソウメンボール……?
上位チャット:リアルなそうめんだな
「それでは説明に入る前に、さっそくそうめん玉を流していただきましょう! サキさん、お願いします!」
「え、あ、うん。えっと、これを? ここに?」
「はい!」
「えっと……こう? 傾ければいい? じゃ、じゃあ、いきまーす」
サキはガラスの器を、水が流れ続けるパイプの上で傾ける。するとそうめんの塊は、すぐさま流れに乗り──
「わっ!?」
ものすごい勢いで下方に、らせん状に配置されたパイプの中を走り始めた。
上位チャット:はや
上位チャット:はっやwwww
上位チャット:早くて草
上位チャット:吸い込まれていった笑
「さあスタートしました! そうめん玉は今ぐるぐるとらせんを下って加速しています! ものすごい勢いだ! しかし距離もそこそこありますので、この間に製作者のコメントを取りましょう!」
カメラがどこかのビルの屋上を映す。そこには、おそろいのベージュの作業着を着た面々が並んでいた。
上位チャット:いや草
上位チャット:工事の人かな?
上位チャット:何やってるのトーカちゃんwwww
上位チャット:めっちゃプロジェクトしてる
ヨウセイがワイプ画面越しに呼びかける。
「そうめん玉を担当された、彩羽根トーカさん。どうでしょうか、スタートからの様子は」
「順調そうで安心してます」
トーカは目を細めて見上げながら応える。
「安心……というと?」
「実は、あれは玉でひとつのオブジェクトじゃなくて、そうめん一本一本が独立したオブジェクトなんですよ。だからうまく玉になって移動しないと、バラバラになって消えてしまうので」
上位チャット:どういうことなの……
上位チャット:めちゃくちゃ手間かかってて草
上位チャット:はい?
「なぜそういう仕様に……?」
「それはもう」
トーカは力強く頷く。
「困難を乗り越えてこそのドラマですから! 水を吸って膨張したり、玉になってビッタンビッタン転がって移動したり……そういうのを応援することこそ、醍醐味でしょう!」
上位チャット:えぇ
上位チャット:わかる
上位チャット:あー、流しそうめん企画でよくあるやつ
「なるほど。今、そうめんは飛び出しそうな勢いで下って行っていますが大丈夫でしょうか」
「そこは全面ガードしているパイプ型だから大丈夫! いやあ、人類はコストとかの問題から竹を半分に割ってるみたいですけどね、ここはバーチャルなので! 材料費はかかりませんから! ほら、だからああいうこともできますよ!」
「なるほど、さあ第一の難関がやってまいりました!」
高度がだいぶ下がった位置で、パイプがらせんを描くのをやめる。いや──水平方向ではなく、垂直方向。ぐるりとジェットコースターのようにループする構造に。ループの先はパイプが切られ、水が勢いよく噴出していた。
上位チャット:!?
上位チャット:ミニ四駆かな?
上位チャット:流しそうめんとは?
「このスカイループを無事に通過し、そうめん玉、空に飛ぶか!? 今ループに入った!」
ギュンッ、とものすごい勢いで白い塊が回転し──飛び出す!
「飛んだァッ!」
そうめん玉は青空を、放物線を描いて飛び──
「着地!」
ベシャッ、と急な角度のついた斜面に叩きつけられる。
上位チャット:草
上位チャット:着地か?wwwwww
上位チャット:ベチッ
上位チャット:ええ……
上位チャット:なんで空中に滝がwwww
「よっしゃ、やったぜ!」
「見事に第二ステージ、『そうめんの滝』に到着! ものすごい勢いで滝を下っています!」
一瞬張り付いて停止していたそうめん玉は、上から流れてくる大量の水に押されて斜面を転がり始める。
「さあこの空中に設置された人工の滝ですが、担当の石花ノトさん! なぜ滝を!?」
「そうめんって白い糸じゃん。で、白糸の滝ってあるだろ?」
「ありますね。固有名詞じゃなくて、各地にあるそうですが」
「だから滝を作ろうってなったわけよ。東京の上空に滝作っても、バーチャルなら怒られねえし」
滝からこぼれた水は、バーチャルでは街の上空で消えている。
上位チャット:へえ
上位チャット:いっぱいあるよ白糸の滝
上位チャット:上空に滝を作る発想よ
上位チャット:ノトちゃんらしいわ
上位チャット:てか速い
「デコボコがあって、パチンコみたいにどこに落ちるかわかんねーようになってる。最後は3つのルートに分岐するぜ」
「なるほどそれでは順番に説明を──」
バシャッ、と大きな水音がする。
「──してもらうのが間に合いませんでしたね! 中央ルートのザルにそうめん玉が落下しました!」
「ロープウェイルートだな! そうめん玉が入ったのを検知して、ザルをロープウェイみたいに移動させるぞ」
ザルに載ったそうめん玉は、空を横切っていく。
上位チャット:流し……そうめん……?
上位チャット:あるある
上位チャット:某番組でよくやってるやつwwwww
上位チャット:もはや流れてなくて草
「ああっと、しかしその先はオフィスビルだ! このままじゃ激突する!?」
「問題ないぜ! ……うまくいけば!」
シャーッと音を立ててロープを滑ったザルは、オフィスビルにぶつかる直前でガクンと急停止する。そして慣性の乗ったそうめん玉は、ザルから飛び出し。
「入れ!」
窓からオフィスの中に飛び込んだ。
「着水確認! 成功です!」
「よっしゃ!」
そうめん玉は、オフィスの中に設置されたパイプの中で流されていく。
上位チャット:もう無茶苦茶だよwwww
上位チャット:入れ! とか成功! とかおかしくね?wwww
上位チャット:無茶苦茶で草
上位チャット:おじゃましま~す
「さあ吉兆院アワビお嬢様担当部分、ビジネスマンが働いているオフィスの中! そうめん玉が流れていく! 通路を横切ったり机の上を通過したりとやりたい放題、迷惑なコースだ! ペーパーレス化されていないみたいだし、現実でやったら怒られるぞ!」
「これぞバーチャルならではでしてよ~ッ!」
吉兆院アワビが高笑いをする。
上位チャット:迷惑すぎて草
上位チャット:絶対許可出ないよこんなのwwwww
上位チャット:バーチャルを免罪符にしていけ
「オフィス内の装飾にも手間をかけましてよ! そして渾身のピタゴラ装置! じっくりご覧あそばせやがれでしてよ!」
「なるほど、だからそうめん玉の進みが遅いんですね!」
「オ~ホッホ……ん? 遅い?」
アワビは書類の山が積まれたデスクの上を通過しつつあるそうめん玉を見る。それは確かに、これまでと違ってゆっくりと移動──
「いや、これは……重いッ!?」
──ゆっくりと移動しているのは、そうめん玉だけでなく、オフィス内をウロウロしているビジネスマンたちもだった。ゆっくりというより、ガクガクと引っかかりながら動いている。
上位チャット:重っ
上位チャット:Laaaaaaaag
上位チャット:これはカクカク
上位チャット:おもすぎる
上位チャット:コマ送りで草
「しまった……! 見栄えを気にしてオブジェクトを置きすぎて処理に時間がかかっていましてよ!」
「あれ、これヤバくねトーカ先輩」
「ここまで重いとそうめん玉やピタゴラ装置の物理演算が荒ぶるかもしれませんね……」
一瞬の沈黙。そして。
「が、がんばれ! がんばれがんばれそうめん! あぁたに企画の成功がかかっていましてよ~!」
「そうですね、応援しましょう! がんばれ、そうめん玉!」
「いっけー! 動けーっ!」
「見たことあるようで理由の違う場面だ!? とにかく自分も応援しましょう! がんばれ! サキさんのために!」
「う、うん? がんばれ! うん! がんばれー!」
上位チャット:がんばえー!
上位チャット:シュールで草
上位チャット:やりすぎたアワビ
上位チャット:ピタゴラ装置がガッタガタwwww
上位チャット:がんばれ!
上位チャット:進めー!
上位チャット:うまく動くのかどうか別の意味でハラハラするわ
声援を受けて、そうめん玉は不器用に転がり、オフィスの中に設置されたピタゴラ装置をじりじりと進んでいく。そして。
「抜けた! オフィスから脱出してそうめん玉が速さを取り戻しました!」
「ヤッター!」
「ヨシッ! ンンッ! 物理演算お嬢様として当然! 綿密に計算してギリギリのエンタメを提供しましてよ!」
「その割にはめちゃくちゃ時間かかったな!?」
上位チャット:おっそうだな
上位チャット:計算通り
上位チャット:アワビ?
上位チャット:成功したからよかったものをさあw
その後そうめん玉は電車に乗り込んだり、スクランブル交差点を渡ったり、ペットボトルロケットに乗ったりして移動し──
「いよいよゴール間近! サキさん、箸のスタンバイをお願いします!」
「オッケー!」
流れてきた小さくなったそうめん玉を、サキは──箸ですくう。
「取ったよ!」
「完走、完走です!」
「やりましてよーッ!」
「やりましたね!」
「よっしゃー!」
技術班が歓声を上げてバーチャルなハイタッチを交わす。その横で、リリアが控えめに拍手をしていた。
上位チャット:やったー!
上位チャット:8888888888888
上位チャット:感動した
上位チャット:いやーよく詰まらずに流しきったわ
上位チャット:そうめんボロボロだしガチガチで草
「おめでとうございます。無事完走して、ガブガブイリアルのスタッフも喜んでいますわ。都合で同席できなかったイヌビスからもお祝いのメッセージがありましたが、長いので省略しますわね」
上位チャット:草
上位チャット:イヌ……
上位チャット:まあイヌはうん
上位チャット:スタッフありがとう
「というわけで見事、流しそうめん完走です! サキさん、いかがでしたか!」
「もーすごかった! いろいろあって面白かったー!」
「いやー、これで夢がひとつかないましたね」
ヨウセイやトーカたちがウンウンと頷き──
「……夢?」
サキが首をひねる。
「……夢って?」
「ほらサキちゃん、この間の放送で流しそうめんやってみたい、って言ってたじゃないですか!」
「ん? んん? ……うん……うん、言ったね?」
「それで私たちで協力してその夢をかなえよう、という企画が立ったんですよ!」
トーカはドヤッと胸を張る。
「うん……」
サキは、箸の先にぶら下がるそうめん玉を見て。
「……嬉しいけど、普通に食べてもみたかったかも?」
「でしょうね」
ぽつりとつぶやき、リリアが同意した。ドヤ顔をしていた三人は固まる。
上位チャット:はい
上位チャット:せやろね
上位チャット:そりゃそう
上位チャット:草
上位チャット:どうしてこうなった
「……その発想はなかった」
「原点を忘れてたぜ……」
「あぁしは一体何を……」
上位チャット:反省して
上位チャット:ノリと勢いで進めるから
上位チャット:ポンコツトーカかわいい
「アッ、はい! はいというわけでね! プロジェクトVR、流しそうめんに挑戦してみた! 結果は大成功でした! ご視聴ありがとうございました! またお会いしましょう!」
上位チャット:乙
上位チャット:おつかれ~
上位チャット:笑ったお疲れ
上位チャット:楽しかった
上位チャット:あとでアバタさんはサキちゃんにそうめん食べさせてあげて
上位チャット:流したやつなちゃんとな
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