【コラボ配信】ゲームをして遊ぶのわよ【バーチャルラウンジ】(後)

『5枚目です!』



 めくられたカードは──ダイヤのエース。



「ファーーーーーックですわ~~~~~~~~ッ!!」

「!?」


 ガタンッ、と音を立てて立ち上がりのけ反って叫ぶライノに、シビアはビクリと震えた。しかしそんな様子を一顧だにせず、ライノはわめき散らし続ける。


「そこで引くんですの!? 残り2枚のエースを引くしかない状況で!? ビギナーズラックにもほどがあるんですわ! ハァ~! こんなの運ゲー、クソゲー、間違えたお排泄物ゲーですわよ! これならまだ坊主めくりTCGのほうがマシですわ~ッ!」

「えぇ……? これ勝ったのわよ?」

『シビアさんがエース3枚とクイーン2枚のフルハウス、ライノお嬢様がクイーン3枚とエース2枚のフルハウスで、シビアさんの勝ちですね』


 ライノ:♠Q、♣Q

 シビア:♥A、♦Q

 共有:♥Q、♠J、♠A、♠K、♦A


上位チャット:おお~!

上位チャット:ファックですわは草

上位チャット:すげえ

上位チャット:リバーでエース引くのはアツすぎるwwww

上位チャット:お排泄物ゲーwwww

上位チャット:お口が悪くってよ!


「ふ、やるな辺獄シビア。5%しかない確率をよく引き寄せた。ちなみにスペード以外の10を引いた場合は引き分けだったぞ」

「お互いオールインしていたから、ライノのチップが0になってシビアの勝利なのだわ」

『すばらしい逆転勝利を見せました辺獄シビアさん! さあ続いては大将戦です!』

「えっ」


 アナウンスを聞いて、シビアは天を仰ぐ。


「大将……? 先鋒、次鋒……の次が大将わよ?」

「ああそうだ!」


 ザッ、と。足元から土煙のエフェクトを出しながら、大男が立ちはだかる。


「この大台ケ原おおだいがはら鈴木権左衛門スズキゴンザエモンが相手になろう!」

「えっと……カラコさんは?」

「あたくし、赤鳥辛子は別名RPGお嬢様!」


 赤い幼女おじさんがポーズを決める。


「RPG耐久配信で勝負するわけにもいかないから、直接対決はパスなのだわ! その代わり、鈴木権左衛門のサポートをするのだわ!」

「な、なるほど……」


上位チャット:草

上位チャット:みんないちいちジョジョっぽいポーズで草

上位チャット:カラコちゃんの耐久配信好き

上位チャット:やりこみ配信だから見てて楽しいけど、勝負には使えんなw


 シビアはちらり、と鈴木権左衛門の顔を見る。


「えっと」

「この俺は大将の大台ケ原鈴木権左衛門! 二つ名を、俺ルールお嬢様!」

「……お嬢様」

「ああ、お嬢様だッ!」


上位チャット:俺ルールお嬢様wwwwwwww

上位チャット:なんなんだよお前はwwwwwww

上位チャット:お嬢様の概念 壊 れ る


「あの、ヨウセイさん」

『あ、自分はツッコミたくないです』

「アッハイ」


 シビアはスルーすることに決めた。


「えーと、ということはこれが最後の戦いわよ? 種目は?」

「俺がお前に挑む種目は、麻雀だ!」

「麻雀」


 シビアはライノを見る。


「……ギャンブルお嬢様?」

「若干の被りは否定しないですわ」


上位チャット:草

上位チャット:属性かぶってんよ~


「だが普通の麻雀じゃない! 俺ルールを適用した麻雀を打たせてもらう! その名も!」


 鈴木権左衛門は、バッと手を開いて前に突き出し、宣言する。


「無役麻雀!」

「無役麻雀……!」


 シビアは驚愕の声を出し──


「……とは何わよ?」


 訊いた。


上位チャット:草

上位チャット:まあ知らんわなwww

上位チャット:俺も知らん


「麻雀は基本的に4面子1雀頭……つまり3組ペア×4と2組ペアひとつの組み合わせを作り、さらに何らかの『役』がないと上がれないことは知っているな?」

「まあ……麻雀自体は学生時代、先輩に付き合わされてたから少しは分かるのわよ」


上位チャット:へえ

上位チャット:麻雀よく分からん

上位チャット:面子は同じ図柄の連番(順子)か同じ図柄の同じ数字(刻子)の3個

上位チャット:雀頭は同じ図柄同じ数字の2個。字牌は刻子か雀頭にしかならない

上位チャット:ドンジャラなら分かる

上位チャット:シビアちゃんと付き合いたい(難聴)


「無役麻雀とは! 4面子1雀頭を作り、かつ役がひとつもない状態でのみアガることができる俺ルール麻雀ッ! 参加者の持ち点は5点! 無役で上がれば1点を獲得! 逆に役有りで上がってしまえば1ハンごとに1点を減らす!」

『えーいただいたルールブックによりますと、ツモは自分にだけ加点か減点、ロンは相手から点を貰うか渡すかするとのことです』


上位チャット:変則ルールね

上位チャット:満貫で即死か

上位チャット:なるほど?

上位チャット:あえてクソ手を作るのか

上位チャット:これは俺ルールお嬢様だわ

上位チャット:役って何?

上位チャット:牌の揃え方によってつくポイントみたいなもん

上位チャット:例えば4面子をすべて刻子で揃えたら、対々和っていう2飜の役になる

上位チャット:白發中は刻子にするだけで役になるから捨てないといけないなこれ


「勝負は俺、お前、ライノ、カラコの四人による東風戦! 最後にお前と俺の得点を比べて多い方が勝利! お前か俺が飛んだ場合はその時点で勝敗が決定、ライノかカラコが飛んだ場合は人数を減らして続行! 俺はライノとカラコからアガっても得点できない! 終局時、俺とお前が同点なら、それは引き分け、ということでいこう!」


上位チャット:麻雀漫画とかでよくある特殊ルール

上位チャット:これってどうなの有識者

上位チャット:やりたくはないかな!

上位チャット:間違えて役作りそう

上位チャット:通常ルールと交互にやったら死にそう

上位チャット:まあこれなら1対3でもいいかな


「どうだ辺獄シビア。普通の麻雀と勝手が違って恐ろしいだろう? ──何を隠そう、俺もだ! 一晩でルールを考えてテストプレイもしていないからな! ワハハハハ!」


 鈴木権左衛門は豪快に笑う。


上位チャット:おいwwwwwwwwww

上位チャット:いや草

上位チャット:思い付きかよwwwwwwwww


「テストプレイはして欲しいわよ……まあ、イメージは掴んだのわよ」


 シビアは少し考えこむ。


「ちょっと質問したいんだけど、いいわよ?」

「いいだろう、来いッ!」

「ツモは1飜じゃないのわよ?」

「ツモとリーチは、この無役麻雀においては0飜だ!」


上位チャット:ツモって?

上位チャット:ポンとかチーとかしないで自分で引いた牌でアガるとつく役

上位チャット:リーチはあと1牌でアガれますよって宣言するとつく役

上位チャット:リーチ宣言した後は手牌を変更できない


「……リーチをする意味があるのわよ?」

「リーチをすると、通常の麻雀では裏ドラをめくれるようになるが──無役麻雀では裏ドラはリーチ時以外は常にめくるのだ!」


上位チャット:なるほど、意味あるな

上位チャット:ドラって?

上位チャット:その回におけるボーナス牌、1個もってるだけで1飜の役

上位チャット:裏ドラは普通はリーチしてアガった時だけついてくるドラで、アガるまでどの牌がドラなのか分からない

上位チャット:役なしと思ってアガったのに裏ドラついて減点されるより、リーチした方が安全ってことか

上位チャット:正確には役とは違うがここでは役扱いか


「親は? 流局時は流れるだけわよ?」

「親による得点の加増はない。ただし連荘はある。そして流局時だが……流局時に聴牌テンパイしている場合は1点減点される。恐れるならさっさとオリるんだな!」


上位チャット:なるほど……

上位チャット:意外と遊べそう、か?

上位チャット:決着は早くつきそうだな

上位チャット:そうそう流れないやろこれ


「だいたい分かったのわよ」

「詳しいルールはこれを見てくれ。基本的なアリアリのルールだ」

「……確かに」


 鈴木権左衛門は虚空から出したフリップをシビアに渡す。一読して、シビアはゆっくりと頷いた。


『準備はよろしいでしょうか! それでは大将戦の始まりです!』


 東1局

 東:雷小路(5点) 南:赤鳥(5点) 西:大台ケ原(5点) 北:辺獄(5点)


「この雷小路雷乃が親ですわよ~っ! 連荘してあっという間にひん剥いてやりやがりますわよ!」

「……これ脱衣麻雀じゃないのわよ?」


 高笑いするライノにツッコミを入れつつ、俺ルールな麻雀が始まる。しばらくは穏やかに場が進むかに見えたが──


「ポンですわッ!」

「!」


 ライノが、動く。


「オホホホホ! あえてクソ手、じゃなかったお排泄物手で上がるこのルールでは鳴きこそ最強最速の手段ですわ! 裏ドラなんてそうそう乗らないのですわ~ッ!」

「よくぞ気づいたなライコ! 俺もそれポン!」

「いやそこは普通気づくのだわ。チーなのだわ!」


上位チャット:確かに

上位チャット:鳴かないことが条件の役があるから普通はやりません

上位チャット:手がクソすぎて混乱するwwwww

上位チャット:見るからに役なしの鳴きで草

上位チャット:鈴木がポンして手番飛ばされるのつらい

上位チャット:初心者卓かな?


 三人による鳴き攻勢の中、シビアは自分の手番でなんとか手を整える。そして。


「……リーチわよ!」


 タン! と牌を卓の上に叩きつけて宣言する。


上位チャット:よし!

上位チャット:耐えたかいがあったな!

上位チャット:アッ

上位チャット:あちゃー


「ほう。果たしてアガれるかな?」


 鈴木権左衛門が余裕を見せる中、リーチ宣言から3巡後──


「そこッ! ロンわよ!」


 ライノの出した牌に、シビアはロンを宣言し手牌を公開する。


「4面子1雀頭で役なし……──んッ?」

「タンヤオだな」


上位チャット:え?

上位チャット:はい

上位チャット:やっちまったな

上位チャット:タンヤオis何

上位チャット:一九字牌なしでアガるとタンヤオって役。1飜

上位チャット:これは綺麗なタンヤオ


「プフーッ! 無役麻雀初心者にありがちなやらかしですわ~! 1点献上まいどありですわ~ッ!」

「言うてあたくしたちも今日初めて遊ぶのだわ」

「なんなら俺も初めてだぜ!」

「いや鈴木権左衛門はテストプレイしておくのだわ?」


 東2局

 東:赤鳥(5点) 南:大台ケ原(5点) 西:辺獄シビア(4点) 北:雷小路(6点)


 2局目。シビアは早い段階で仕掛ける。


「……よし、リーチわよ!」

「おお、早いな。いいのか?」

「今度は間違いなく無役わよ」


上位チャット:タンヤオなし、平和なし、ドラなし、OK!

上位チャット:やっぱ役なしだとテンパイ早いな


「フッ。そんなことを聞いたんじゃないぜ。無役麻雀の恐ろしさはここからだ!」

「!?」

「ライノ、カラコ!」

「心得ているのですわ、鈴木権左衛門! ここで手牌からカン!」


 手番になったライノが、手牌から同一牌を4枚公開する。すると──


「……! ドラが!?」


 ボーナス牌──ドラが、増える。


上位チャット:あッ

上位チャット:やべえ

上位チャット:何が起きたの

上位チャット:同じ牌4つそろえるとカンが宣言できて、カンするとドラと裏ドラが1枚ずつ増える

上位チャット:つまり?

上位チャット:相手の手牌がドラになれば、アガれなくすることができるわけだな


「そしてカン! さらにカン!」

「ッ……!」


 ドラが増える。めくられた4枚目のドラは──シビアの当たり牌。


「しまッた……!」


 そして雷小路雷乃は──止まらない。


「最後にカン! そしてツモ!」


 バンッ! と勢いよく手牌を公開する。


四槓子スーカンツ、役満ですわ~~ッ! 神ィ~~~ッ!」

「って、オイ!? 役満をアガってどうする!?」

「あぁぁぁぁぁああああしまったぁ~~~! 明槓ミンカン連打の嶺上開花リンシャンカイホウで四槓子とかいう人生初の展開でテンション爆上がりすぎてついツモを宣言してしまったのですわ~~~~ッ!」


上位チャット:!?

上位チャット:wwwwwwwwww

上位チャット:馬鹿かな?

上位チャット:草

上位チャット:まあ四槓子なら気持ちは分かるwwww

上位チャット:役満って?

上位チャット:アガるのが難しい特殊な揃え方。四槓子は一番難しい

上位チャット:四槓子すげぇ初めて見た

上位チャット:飜では数えないけどこのルールだと13飜ってことになるのかな?


『えー……ルールを確認したところ役満はいかなる得点でも飛びということで……ライノお嬢様は飛びになります』


 奇声を上げて暴れていたライノが、ピシリと固まる。


「……ギャンブルお嬢様……?」

「クッ……! なんて卑劣な罠ですわよ、辺獄シビア!」

「いやこれ自爆わよ……?」

「覚えていることですわ~ッ!」


 捨て台詞を吐いて、ライノは席を立つ。


 東3局

 東:大台ケ原(5点) 南:辺獄(4点) 西:× 北:赤鳥(5点)


上位チャット:いやあライノお嬢様は強敵でしたね

上位チャット:あ、飛びってもう参加できないのね

上位チャット:この回は静かに進むな

上位チャット:捨て牌わけがわからないなあ


「リーチだ!」

「リーチなのだわ!」

「ウッ……」


 中盤になり、カラコと鈴木権左衛門が続けてリーチすると、シビアは呻いた。場に捨てられた牌を何度も見直す。


「く……当たり牌がさっぱりわからないわよ……」

「ふふふ、この無役麻雀ではいつもと違う読みが必要になる。この短時間でそれが分かるかな?」


上位チャット:わかりません

上位チャット:いやお前もはじめてやろがい!

上位チャット:鈴木もわかってなさそう

上位チャット:ザエモンも絶対分かってない


「……む、ぐ、ぐ……安牌アンパイがない……いや……」


 シビアが牌に手を伸ばす。


「これなら通るのわよッ!」

「残念それロンなのだわッ!」

「アッ!?」


 パタン、とカラコの手牌が公開される。


「よくやったぞ、カラコ!」

「お嬢様としてトップ目を目指すのは当然なのだわ!」


上位チャット:見事に役なし

上位チャット:いやこれは分からんわ

上位チャット:こんなの予想できないよ!

上位チャット:ちょっと待っておかしくない?

上位チャット:これってアレだよね


『すいません、盛り上がってるところ申し訳ないんですが!』


 ドヤるカラコと褒める鈴木権左衛門に、ヨウセイが天から割って入る。


『視聴者からそれリーチ一発で1飜ついてね? との指摘がありまして。俺ルールお嬢様、いかがでしょうか?』


上位チャット:一発って?

上位チャット:リーチして次の自分の手番までにアガったらつく役だよ

上位チャット:どうなんだろ?


「………」


 鈴木権左衛門は──ゆっくりとカラコに向き直った。


「──1飜! カラコ、マイナス1点だッ!」

「おのれなのだわ辺獄シビア~~ッ!」

「えぇ……」


上位チャット:とばっちりで草

上位チャット:シビアちゃんは悪くないのにwwww

上位チャット:ということはリーチ直後は何でも通るのか、なるほどな


『えー、ロンなので、カラコお嬢様が1点減点、シビアさんに1点加点されます』


 東4局|(オーラス)

 東:辺獄(5点) 南:× 西:赤鳥(4点) 北:大台ケ原(5点)


『さあ最終局までやってきました。ところで大台ケ原鈴木権左衛門お嬢様』

「なんだ?」

『先ほど視聴者から、これって3点以上負けてると逆転の目がないクソゲーじゃね? との指摘が寄せられたのですが』

「………」


 鈴木権左衛門は首をかしげ──ポン、と手を打った。


「なるほど! 確かにな!」

「えぇ……」

「ハハハハ! 次回の課題として考えておこう! まあ今回は俺とシビアが同点だ。何も問題はないな!」

「それはそうだけどわよ?」


上位チャット:考えておけよwwww

上位チャット:どういうこと?

上位チャット:シビア3点、スズキ6点だと、スズキを直撃してもシビア4点、スズキ5点にしかならない

上位チャット:スズキが自爆すれば勝てるけど、スズキがアガらなければいいだけだし

上位チャット:親なら連荘でまくれるけど、親以外は逆転できないな

上位チャット:俺ルールを真剣に考察してて草なんだけど


「ルールの心配をしている場合かな、辺獄シビア! 敗北すればお嬢様オブお嬢様、神望リリアの不興を買うことになるぞ!」

「バリバリに虎の威を借られてもって感じわよ……? でも、負ける気はないのわよ」

「その意気だ! それでは始めよう!」


 牌がそれぞれに配られる。


「手牌は……」


 シビアは手牌を確認し──


「ッ……!?」


 目を剥いた。


上位チャット:!?!?!?

上位チャット:は???????????

上位チャット:嘘だろオイ

上位チャット:あああああああああああああああああああ

上位チャット:え? 何?


「こッ、これ……は……」

「フッ、どうした辺獄シビア! 初手から役がありすぎてお困りか? ハハハハ! さあ早く切るがいい!」

「ハッ、ハヒッ……ッ、ぐ……、ぅぅ……」


 シビアの手が、迷う。揺れる。そして──


「アッが……がああああああ!」



 タァン!



 荒い呼吸から、呻き、歯を食いしばり、震える指を伸ばして叩きつけた牌は──2萬。


「……わよ」

「ん?」

「クソわよ……クソゲーわよ……」


 シビアは、ブルブルと震えながら呟き──キッと顔を上げる。


「この勝負ッ! 何が何でも勝ってみせるわよ!」


上位チャット:ええええええええ!!!

上位チャット:漢を見た

上位チャット:マジかよ!?!?!

上位チャット:もったいねえ……

上位チャット:ウッソだろお前

上位チャット:俺なら絶対アガるわ

上位チャット:すげえな……

上位チャット:負けてもいいからアガりたい

上位チャット:アガらせてやってくれよ……

上位チャット:うわああああああああああああ


 リスナーが悲鳴を上げる中、シビアは淡々と牌を切り続ける。そして──


「リーチだ!」

「ロンわよッ!」

「何ッ!?」


 鈴木権左衛門がリーチ宣言した捨て牌をロンし、手牌を晒す。


 1m1m1m3m4m5m6m7m8m9m9m3s4s5s


「ドラ、裏ドラなし──役なしッ!」

「……確かに役なし! 俺が4点、お前が6点!」


 鈴木権左衛門はシビアの手を確認して頷く。


「フ、しかし親は連荘があるから、まだ勝負は続いているぞ。俺がお前から上がれば同点引き分けに──」

「……ちょ、ちょっといいですわ?」


 食い下がる鈴木権左衛門に、飛んだので勝負を外から見ていたライノが割って入る。


「鈴木権左衛門、これ……」

「ん?」


 ライノは──震える手でシビアの捨て牌を示す。


「これ……初手、九蓮宝燈チュウレンポウトウ天和テンホウですわ!?」

「は? ──はッ!?」


上位チャット:はい

上位チャット:人類史に残る奇跡が無に帰した瞬間

上位チャット:いやあひどい川だ……

上位チャット:なになにどういうこと?

上位チャット:天和は初手でアガる形ができているっていう役満

上位チャット:九蓮宝燈は3番目に難しい役満な

上位チャット:アガったら死ぬという噂の役が九蓮宝燈


「てっ……天和の出現率は33万分の1。九蓮宝燈でアガれる確率は22万分の1と言われているが、その組み合わせとなると……」

「天文学的な数字なのだわ」


上位チャット:ちな四槓子は43万分の1

上位チャット:この卓おかしいよ!!!

上位チャット:積み込みかな????

上位チャット:世界的ニュースになってもおかしくないレベル


「……天和? 九蓮宝燈? 何を言ってるのわよ?」


 リスナーも、オジょう様連合も騒然となる中──シビアは、静かに口を開き──眼帯に手を当てて宣言する。


「この無役麻雀においてッ! そんなもの一切勝利に寄与しないクソわよ!」

「ッ……!」


上位チャット:言ったッッッ!

上位チャット:いや草

上位チャット:すべては勝利のために

上位チャット:シビアちゃん……!

上位チャット:俺ならアガってた

上位チャット:推しに勝利を捧げるために九蓮宝燈を捨てた男

上位チャット:勝利のために九蓮宝燈を上がる機会を9回フイにした男

上位チャット:伝説だわ……

上位チャット:どこかのギャンブルお嬢様とは格が違うな


「負けた……完敗だッ!」


 ガクリ、と鈴木権左衛門は倒れ込んで床を叩く。


『えー、この勝負もシビアさんの勝ちということで……あ、はい、いいみたいですね。はいっ! というわけでこの三本勝負、辺獄シビアさんの全勝という結果になりました!』


上位チャット:おめでとう……!

上位チャット:全勝、完勝、圧勝!!

上位チャット:麻雀打ちとしてちょっと微妙な気持ちもあるけど、ルールはルールだもんな

上位チャット:文句言うやつは自分で九蓮アガってきてどうぞ

上位チャット:シビア、お前がナンバーワンだ……!


「ナイス……ナイスファイトだった! 辺獄シビア! 俺はお前のその行動に敬意を表するッ!」

「それは、ありがとうわよ」


 鈴木権左衛門はフラフラと立ち上がる。


「俺たちオジょう様連合は認めざるを得ない……お前もまた、一流のお嬢様だと」

「本物なのだわ」

「清々しく負けを認められるのですわ」

「あっ。アワビさんは大丈夫わよ?」

「今患部を冷やしながら配信を見ているそうですわ。心配ご無用ですわ」

「それはよかったわよ」


上位チャット:そろそろアワビちゃんの患部ってセンシティブだなって言っていい?

上位チャット:BANされろwww

上位チャット:気にしないようにしてたのに!wwwww


「辺獄シビア」


 鈴木権左衛門は、シビアに向かって手を差し出す。


「こんな出会いではあったが、真剣勝負、楽しかった。よければこれからも、俺たちオジょう様連合と遊んでもらえないか?」

「それは、もちろんいいのわよ。機会があれば是非」

「そうか!」

「ありがたいのだわ」


上位チャット:シビア様ほんといい人

上位チャット:人柄でも勝ったな

上位チャット:推しへの愛を見た。推せるわ本当に


「よし、では辺獄シビアには俺たちオジょう様連合の四天王の上に、豪運お嬢様として君臨してもらうことに」

「それはお断りするのわよ」


上位チャット:草

上位チャット:wwwwwwwwww

上位チャット:はい

上位チャット:残当

上位チャット:豪運お嬢様は間違ってない気はするwwwww

上位チャット:今度普通に麻雀配信してほしいな

上位チャット:ポーカーでもいいぞ!


『はい! なんとかね、丸く収まったということで! えー、辺獄シビアさん! ドッキリ企画にお付き合いいただき、ありがとうございました!』

「いいってことわよ」


 シビアは天に向かって頷き、そしてカメラの方に向き直った。


「それじゃあ配信を終わるのわよ。次回も見るのわよ!」


上位チャット:お疲れさまでした!

上位チャット:伝説の配信だったな

上位チャット:切り抜き来てるぞ

上位チャット:切り抜きはえーよwwwww

上位チャット:6本ぐらい上がってて草

上位チャット:無役麻雀の説明もちゃんとついてて丁寧な仕事

上位チャット:訓練された亡者たすかる

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