第43話 2018年 北方少女モチ
北方少女モチ 単語
ホッポウショウジョモチ
北方少女モチとは、株式会社北方協働が運営・プロデュースするバーチャルYouTuberである。
|概要_____
北方の国から配信している、小さな銀髪のかわいいクールな女の子。焚き火のついた部屋の中でももこもこのダッフルコートを着る寒がりさん。2015年5月1日から活動を開始。夢はアイドル。特技は射撃。愛称はモチーチカ。ファンの呼称はシベリア組。
|配信スタイル_____
かわいらしくおとなしそうな見た目に反して、配信開始当初は人間を撃ったり悪魔を撃ったりゾンビを撃ったりとFPSゲームの動画ばかり投稿していた。対人系のゲームではガチのスナイパースタイルで、狙った獲物を仕留めるまでポイントで微動だにしないこともしばしば(いわゆる芋スナと違い必要な場面では前に出る)。生放送ではガチで(配信中に関わらず)8割以上の時間を無言待機したことがある。エイム力は高く、狙った獲物は画面にさえ入れば逃さない。バトロワ系のFPSでは配信中に何度もドン勝している。サバゲーの経験もあるらしくけっこうなミリオタで、軍事や銃器について語る際だけは饒舌。
なおアイドル活動として歌動画の公開も行っていたが、FPSに比べれば頻度は低かった。
配信機材の環境から長い間下半身が動かない病に侵されていたが、その病から解き放たれたとき、モチーチカは新たなる舞台に踏み出した。
|kawaiiムーブの化身として_____
長い間FaceRigのみを用いた配信を行っていたが、VRコントローラーを得てからはモーショントラッキング機能を用いて全身を動かす様を見せている。その動きはまさに小さな女の子そのもの、VRでここまで自然にかわいい動きをするモチーチカに視聴者のみならず同じVtuberたちも魅了され、いつしか「kawaiiムーブの体現者」「kawaiiの師匠」と呼ばれるようになる。
現在はほぼすべての配信で全身のモーショントラッキングを行っており、機材のアップデートに伴ってトラッキングポイントが増え、さらにkawaiiが進化している。モチーチカのkawaiiは留まることを知らない。
|ぽちゃロリさんとの絆_____
2016年1月10日、初めてのコラボ放送としてバーチャルぽちゃロリドラゴン皇女YoutuberおじさんをL4Dに招待した。なぜかモードはCoopではなく対戦。わりとゲームは得意だとイキるおじさんをモチは楽しそうに馬乗りになったり首を絞めたり、燃やしたり燃やしたり燃やしたりして歓迎?した。
この放送で親交が深まり、以降ぽちゃロリさんとモチの共演の機会が増えていく。2016年10月に行われた「芸術の秋、Vの秋、バーチャルカラオケ大会」ではソロ曲のほかデュエット相手にぽちゃロリさんを指名。アドリブで指名したものもあり、仲の良さを伺わせる(おじさんは他のVtuberからも指名されて大人気であったが、2回以上指名したのはモチのみ)。
その仲の良さについて彩羽根トーカにツッコまれた際は「お兄ちゃんみたいだから」と答えたが果たして?
|念願のファーストライブ_____
2017年5月。アイドルを目指すモチとして初の大舞台となるファーストライブを敢行。タイトルは「北方少女生誕祭2017」。バーチャルYouTuber四天王をはじめ多くのVtuberがお祝いの動画を贈った。サプライズゲストには彩羽根トーカがピアノ伴奏で登場(毎度おなじみ)。ネット上の同時配信も1万人以上の視聴者数を記録した。
|ライブにおける注意喚起(ロシアジジイについて)_____
ファーストライブ以降、モチはアイドル活動を本格化させ、リアルでのミニライブをほぼ毎月のスケジュールで行っている。近場のシベリア組にはぜひ体験してほしいが、ロシアジジイという危険人物には十分注意していただきたい。軍服のコスプレをしたヒゲのガタイのいいロシア人の老人で、すべてのライブで目撃されているモチの狂信的なファン。ファーストライブでは号泣しながらサイリウムを振る姿が見られた。暴力を振るわれたという報告は今のところないが、ちょっとでもマナー違反が見られるとロシア語でガチ詰めしてくる。なるべく近づかないように、そしてマナーは守るようにしよう。
|男の娘?_____
ハスキーで低めの、声変わり前の少年のような声にも聞こえることから、初期の頃から男の娘疑惑が絶えない。しかし訓練されたシベリア組なら、モチがついていようとついていまいと、モチはモチであることには変わりない-むしろついていたらご褒美です-。
そもそも北方少女と題されている以上、結論はそこで出ている。バーチャルとはそういうことである。
|関連項目_____
株式会社北方協働
ロシアジジイ
バーチャルYouTuber四天王
:
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◇ ◇ ◇
【2018年 ニコライ・ダニーロヴィッチ・ポロンスキーの記録】
本国と繋がるテレビ電話。この時間ばかりは、いつも忙しい北方協働の事務所から人が消える。
『それでは報告したまえ、ニコライ技術少尉』
画面に映る白ひげの老人。天使の祖父にしてこの狂った自称特務部隊の将軍から、とばっちりをうけたくないがために。
ニコライはため息を噛み殺して報告を始めた。
「それでは報告します。ルサールカ作戦の進捗ですが……」
タブレットに映した資料をスワイプする。……正直、データはすべて送っているのだから、自分で読んでほしい。
「まずYouTubeのチャンネル登録者数ですが、52万7145人。前回の報告からプラス3200人になります」
『前回の伸び率から大幅に低下している! いったい何をやっておるのだ!』
怒鳴り声が音割れする。
「……落ち着いてください、将軍。前回までの伸びは海外のeスポーツ大会に出場して好成績を残した結果、海外から注目を浴びた一時的なものに過ぎません」
『なんだと。では増えた登録者はほぼ日本以外の人間なのか?』
「そう申し上げたはずです」
数字が好調だからとご機嫌で気にしていなかっただけだろうに、この老人は。
『ムウ……ではモチーチカの海外ファン向けの施策は準備しているのだろうな?』
「え?」
『例えば、モスクワでの公演などだ』
「いや、その」
何言ってるんだこの老人は。
「失礼ですがルサールカ作戦は、日本に対する懐柔作戦で、海外、ましてや本国での活動は関係ないかと……」
『わっ、わかっておるわ! 愚か者が。これはあれだ……格付けというやつだ。海外でもライブをしたアイドル、となればミーハーな日本人どもが食いつくだろう』
言い訳くさい。この老人、毎回ライブのときは視察とかいって来日してくるが、どう見てもただの後方ジジイ面オタクにしか見えないし、自分の膝下でライブをやってほしいだけでは……?
とはいえ、多少は納得できる話だ。神望リリアもインドネシア公演が話題になっていたし。
「検討します」
『そうしたまえ。それとあれだ、もう少し大きな箱を確保できないのかね? 豚小屋のような会場ではモチーチカの品位が下がるというものだ』
「日本国内の会場はパンクしているので……これ以上となると、予算が膨らみます」
『捻出できんのか』
「リアルアイドルのように握手券のような手を使えば売上も上がるかと思いますが、そういった劇薬のような手法では今までのファンは課金疲れから離れていきそうですね」
『それはいかん。……もっとクリーンな、ファンが納得する集金方法を考えるのだ』
「わかりました」
思いつくなら苦労はしないが。上司の無理難題に、ニコライはとりあえず考えるフリだけはする。
『……ところで、あれだ。この間から疑問なのだが……作戦責任者のモチーチカ……いや、我が孫、ルカ少佐はなぜここに同席しないのだね?』
「報告は自分で十分でしょう。それに天使……少佐はお忙しい」
お忙しい。バーチャルラウンジの中に居座るのに。
ミニライブの会場もすべてリモートで対応できるように環境を整備したら、バーチャルの中から出てくることがほとんどなくなってしまった。モチとしてはバーチャルラウンジに行けば会えるが、天使としてはもうだいぶ長いこと姿を見ていない。会いに行こうと思っても、今の天使の拠点は容易には近づけないし……。
『バーチャルからの参加でも構わんが、不可能かね?』
「司令はモチとしての姿が見れればいいんでしょうね。自分と違って。良かったですね」
『う……む。その、少尉、何か……』
「はあ」
ため息を吐く。
「……いちおう言伝は預かっていますが、お聞きになりますか」
『さきほどの失言は謝罪しよう! さあ!』
それほどか。
「……今、とても楽しいと。感謝していると言っておられました。あと、ライブの邪魔をしないで欲しいと」
『うおおおおお! モチーチカァァ!』
狂人は天を仰いで涙を流す。怖っ。さっさと終わらせたい。
「あー、報告を続けても?」
『うむ……うむ、続けたまえ』
「それでは次回のライブですが……」
『チケットはいつものように最寄りの空港で受け取ろう。あとこの間のライブではサイリウムの電池が途中で切れたぞ。バックアップを用意するようにしておくのだ。ああそうだグッズだがな、売り切れは購買意欲を煽るのには有効だがやはり満足度となるとあの数では――』
「うるさいなオタク!?」
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