最終話 202X年 彩羽根トーカ
彩羽根トーカ 単語
サイバネトーカ
彩羽根トーカとは、ニコニコ動画、YouTubeに動画投稿をしているバーチャルの住人、そしてVtuber全推しオタクのやべえやつである。
|概要_____
赤い髪にも見える大きなリボンを頭の後ろにつけた女の子。2011年5月5日にYouTubeデビューしたバーチャルYouTuber。ブームが訪れるまでの間、一人で待っていた。
|バーチャルな存在_____
YouTubeデビューから毎日動画投稿をしている。時間は90秒に固定されており、バーチャルYouTuberが増えた現在でも追いかけやすい。
動画の内容はYouTuber的な企画からゲーム、演奏、歌、ダンス、作詞作曲、アクション、教育と多岐に渡っている。その全てがプロ並みの内容のため、いわゆるガチャピンさんではないかと噂されているが、バーチャルYouTuber四天王などの共演者いわく「動画編集からモデリングまで全部一人でやっている」とのことで、この発言を信用するのなら一体何者なんだ……である。
ブームの数年前から運営を続けているがその母体は現在になっても謎。企業としての名前は一度も出たことがなく、全て©彩羽根トーカで一貫されている。一説には最古の個人Vtuberとして扱う声もある。
|前史_____
2011年5月がデビューと思われがちだが、それ以前にも彩羽根トーカとしての活動が確認できる。初出は1997年12月、Yahoo!ジオシティーズに開設された「彩羽根トーカの部屋」(現在は移転先で確認することができる)。当時を知るインターネット老人会によるとクオリティの高い一枚絵から今後を期待されて雑誌にまで掲載されていた(要出典)とのことだが、開設以後特に更新は行われていなかった。
次に確認できるのが彩羽根トーカが現在も使用しているID4桁のニコニコ動画アカウントで2007年12月に(おそらく10周年記念として)投稿した現在と同じ3Dモデルによる歌ってみた・踊ってみた動画。当時は何かのアニメのプロモーションだと思われていた。
それから4年後、バーチャルYouTuberとしてデビュー。世界が彼女を認知するまでさらに数年の時が必要になるのだった。
追記:以前から「トーカがPeerCastで配信していたところを見たことがある」という証言があったものの、アーカイブがないため長い間真偽不明だった。2019年12月、本人からその噂を肯定する発言が出たこと、当時の視聴者の録画が発見されたことで事実として確認された。この配信でトーカは「伺か」を使ってアバターを表示し、当時まだクソゲーの声の大きかった「アンリミテッド・サガ」を高速でプレイしており、ゲームセンスの片鱗を垣間見ることができる。
|愛と信頼のVtuberオタクのやべえやつ_____
Vtuberオタクといえばトーカの代名詞。Vtuberについて語りだすと止まらないし稀に感極まって泣く。
「人類がバーチャルに来るのを待っている」との言葉通り、トーカはVtuberがデビューするやいなやチャンネル登録Twitterフォローに走っている(一本でも動画を投稿しているのが基準?)。新人バーチャルYouTuberを探すならトーカのフォロー欄を確認するのが一番早いとも。実際の動画もかなりチェックしていることが雑談内容から伺い知れる。またコラボ配信ではたいてい初対面の相手に限界になっており、相手も限界になっていると話が進まない。
Vtuberオタクとしての活動も精力的に行っており、Vtuberのイラストだけでなく二次創作漫画や動画の切り抜き、MAD動画などを作成して投稿している。
|技術勢として_____
Vtuberの先駆者たるトーカは、動画内でもその技術力を使った内容をネタにすることがある。【物理演算】オトーフでドミノ倒し【Havok神あらわる】や、【機械学習】トーカ、ネコとイヌの区別がつくようになる【なった】など。本人がコーディングしたと語っているが真偽は不明。しかしバーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんのゲーム製作に対してTwitter上で実際にサンプルコードを書いてアドバイスをしたり、生放送の会話でも言及している場面があるため、少なくともある程度は分かる模様。動画内に登場する3Dモデルやサムネイルのイラストも自作しているという。
またVRクリエイターの祭典バーチャルエキスポでは初回の広報大使に自ら志願。自身もブースを設けて参加し続けている。
|作曲家・歌手として_____
初めて作詞・作曲したのは神望リリアに提供した「Free Talk!」。これ以降バーチャルYouTuber四天王をはじめ数々のVtuberに楽曲を提供していく。肝心の本人のオリジナルソングが発表されたのは、後述する「バーチャルワールド」のオープニングソング「Cyber-Net」が初。以降も楽曲を次々に発表している。
2020年1月には「私が見たい」という理由からドームを舞台に数多くのVtuberゲストを呼び、初のリアルライブ「私と推したちのステージ~Vtuber Fes~」を開催した。「すべてのVtuberが推し」を体現するかのごとく、トーカはディスプレイに出ずっぱりでバーチャルサイリウムを文字通りの最前線で振り回し続けた(バックダンサーもやった)。もちろん自身も歌ったし、全部が全部初披露のオリジナルソングだったが、それよりオタクムーブの方が話題を獲得していた。
|プロフィール……昭和おばさん?_____
動画の内容をそのまま全て素直に受け止めるなら、自ら作詞作曲し複数の楽器を操って編集して楽曲を仕上げたり、初見と言いながらスイスイとゲームをクリアしていき、Unityを操りシステムを設計し、モデリングして変身ポーズを完璧に決める少女である。
ただ初期のころはネタや選んでいるゲームが、昭和のアニメ・特撮であったり、微妙な評価のゲームであることが多いため、中身は昭和の人間ではないかといわれていた。最近のゲーム実況ではレトロゲー語りをすることでさらに噂に拍車をかけている。ゲームプレイは上手いが天性というよりもやり込みゲーマーの域。マルチプレイのゲームや戦略系はやや苦手の模様。
|これまでの歩み_____
2011年5月にYouTubeデビュー。早すぎた概念によりしばらく低迷が続く。
2014年5月、この当時に流行り始めたYouTuberを特集するテレビ番組に変わり種として紹介された結果、チャンネル登録者数が急増。同時期に出していた「The 倉庫スタッフ」のプレイ動画で海外から注目を浴び、以降海外オタクを中心に登録者数を伸ばしていく。2014年12月、チャンネル登録者数1万人を突破。2015年12月からはじまったバーチャルYouTuberブームにより、日本からも再度注目を集め、2015年12月中に、初生放送(Vオタク語り)の効果によりチャンネル登録者数100万人を突破した。
|彩羽根トーカ杯_____
2016年3月に初回が開催された、不定期に行われる彩羽根トーカ主催のバーチャルYouTuberたちによるゲーム大会。トーカと同じ画面に収まる可能性があるということで、様々なVtuberたちが参加しコラボレーションを繰り広げる。
伝説の第一回大会で選ばれたゲームは、なぜかSteamの奇ゲー「The Ship」だった。参加したミチノサキが予選で収監されたまま終了したり、北方少女モチが決勝まで勝ち進むもののトーカのキルに固執して優勝を逃したりと波乱の展開を見せた。そしてファンの手元には送り先のないThe Shipの大量のギフトが残った。
第2回以降については別記事参照。
|海外への布教_____
初投稿の動画から複数言語の字幕がついている。また2016年4月のニコニコ超会議におけるバーチャルトークタイムのコーナーで複数言語を話せることを披露。その後、海外向けにトーカが複数の言語でVtuberを紹介する動画で海外へのVtuber-布教-展開を図った。長らくスタッフによる翻訳と思われていたが本人が喋れることが確定。以後、他のVtuberたちが海外イベントに招待される際は必ずと言っていいほど同行し、通訳を買って出ている。
|オリジナルアニメ「バーチャルワールド」_____
VR元年当初からVRHMDを買うように布教してきたトーカ。2017年10月、オリジナルVRアニメーション「バーチャルワールド」を配信開始。毎週日曜配信の30分アニメーションで、瓦礫の中から発見された視聴者=名も無き人類と呼ばれるコンピューター端末が、車椅子のようなポーターに載せられて、トーカと一緒に他の人類のいる場所まで旅をする物語。世界初のVtuberを起用したアニメ企画となった。全12話。
視聴者にできることはあたりを見回すことと、簡単なセリフ分岐を選ぶこと。内容は総じてほのぼのアニメ、時々バトル。四天王をはじめ多くのVtuberが出演し、ファンを楽しませた。いわゆる普通の人間、人類がいないことが最終回までの伏線になっており、毎週放送後は考察勢による考察スレがにぎわう状態に。
本放送内でトーカが実はサイバー(アンドロイド)であることが明かされたり、オーバーヒートモード(髪が白くなって目が赤くなるオタクの好きなやつ=トーカ談)を披露したりと、トーカの設定に迫る内容でもあった。
果たしてバーチャルとは、魂の輝きとは、人類=あなたとは――ここから先は実際にアニメを見てほしい。
|仲良しの四天王たちと_____
キャリアが長く圧倒的な登録者数を誇り案件数も最多のトーカを魔王・皇帝とし、その配下にバーチャルYouTuberブームを創り出した四人、ミチノサキ、北方少女モチ、神望リリア、バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんを四天王と呼ぶ。非公式な呼称だがトーカたちもこの枠は意識しているようで、お祝いメッセージ動画はこのグループでひとまとめにするなど特別扱いすることが多い。
四天王とトーカの(動画内での)初絡みは2016年3月の彩羽根トーカ杯だが、モチ、サキと直接会話することはなかった。動画内で会話したのは2016年4月のニコニコ超会議におけるバーチャルラウンジ体験会で、リリアが体験者を案内しているところに乱入した場面が初。5月には「うろこてい国おうじょ放送」でドラたまとコラボ。8月にサキとライブ会場で共演。9月にはモチとゲーム3本勝負を行った。
2016年12月バーチャルラウンジに「The 雪山モード」が実装され、トーカ以下四天王揃い踏みのコラボ、「雪山女子会」シリーズが始動。何度も道に迷っては凍死するサキ、滑落していく紅一点のおじさん、無言でクレバスに落ちて消えるモチ、熊に毎回真っ先に狙われるリリアなどの愉快な仲間たちと共に山頂を目指す長大シリーズとなった。
その後四天王がそれぞれの活動を強化していっても、トーカを中心にバーチャルに集まりコラボしている。バーチャルラウンジ内に公開スタジオ「トーカハウス」を設けて収録している様子を公開している。ファン待望のオフコラボなども配信された。これらについて詳しくはバーチャルYouTuber四天王の記事を参照。
|関連項目_____
バーチャルYouTuber
彩羽根トーカとコラボした企業一覧
彩羽根トーカの楽曲一覧
バーチャルワールド
彩羽根トーカ杯
バーチャルYouTuber四天王
バーチャルラウンジ
トーカハウス
バーチャルエキスポ
バーチャルYouTuberの歴史2011-2019
バーチャルYouTuberの歴史2020-……
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◇ ◇ ◇
【202X年】
「こういうやり直し系の話ってさ」
俺はダイニングで目玉焼きを突きながら、向かいでスマホをいじっている悪魔に話しかけた。
「ひとつお約束みたいな問題があるだろ?」
「お約束? 何が?」
「前の世界の死亡時刻を超えられるかどうか、っていう」
俺の好きな海外小説では何度巻き戻っても同じ時刻に死ぬので、それを乗り越えようと試行錯誤する話だった。まあオチは好きじゃないんだが。
「決められた寿命は超えられない運命、みたいなさ。私もそういうものなのか?」
「ははぁ、なるほど」
悪魔はムカつく笑みを浮かべる。
「つまり死にたくないわけだ」
「うるさい」
「安心しなよ。命に運命なんてない。君の父親がガンで死ななかったようにね。こうしていろいろ状況が変わったのに、それでも前世と同じ時間生きて死ぬなんて無理があるだろ? 生きるも死ぬもこれから先次第さ」
もっとも、と悪魔は付け足す。
「君が何も変えなければ、そのうち雷に打たれて死んでただろうね。というか、面白い話にならなかったら早々に『終わらせていた』かも」
「お前な……」
「まあまあ。おかげさまでちょっと長くなったけども、なかなか人気の出そうな物語になったし、僕の位階の上昇も間違いなし。Win-Winじゃない。それにどちらにしても、君の寿命はもっと先の話じゃないか」
悪魔はニヤニヤと笑う。
「物語には終わりがあるし、終わらせなければ提出できなくて、力を得ることもないけど……まあご褒美として、エンドマークを打ってもこの世界は残しておいてあげるから安心しなよ」
「よくわからん仕組みだな、相変わらず」
話を真に受ければ平行世界が存続するってことなんだろうが……ううむ……。
「……そういえば、お前が私を選んだ理由って結局なんなんだ? 前の世界じゃ普通の平凡なVtuberオタクでしかなかったはずなんだが」
「君は本当に自己評価が低いね」
悪魔はあきれたように言う。
「今はくすぶっているけど、目的があれば能力を発揮できる。そんな人間を検索したんだよ。だいたい君はあの時点でだってまあまあ普通じゃなかった。ブラック勤務だったから知らなかっただろうけど、会社員としても相当有能だったよ?」
「え? ……いやいや。あの程度は誰にでもできる仕事だろ? 現に全然評価されなくて、給料も安くて……」
「そりゃ、ブラックだからねえ」
え……もしかして普通に搾取されてた……?
「あとは、君の情報摂取量がダントツで異常に多かったからね」
「情報摂取量……?」
「数値しか見てなかったから最初は理由が分からなかったけどね。ほら、Vtuberの生放送を5窓とか、作業がなければ10窓とかやってるだろう。ああいうのだよ」
「え、普通では?」
推しの生放送だぞ? 見るだろ?
「普通じゃないから僕が目を付けたんだよ。まあそんなところさ」
「いや……いやいやいやそれぐらいだと納得できないな、それぐらいなら他にも――」
「ひねくれてるとことか、小心なところとか、ポンコツ気味なところを差し引くとずいぶんコストが安くてね」
納得した。
「ま、かけたコスト以上のリターンになったと思っているよ! それに、これからも楽しませてくれるだろう?」
「そりゃ、もちろん」
Vtuberは永遠だ。いや、トーカが永遠にしてみせる。トーカが輝き続けることがきっとこの世界でVtuberたちを、Vのオタクたちを守ることにもつながるから。
今のところ、かつての破滅の気配はない。Vtuber運営にかかわる正しい情報……コストから技術的難点まで、様々な運営に呼び掛けて公開してもらっている。Vtuberの魂の境遇についても、こうあるべしとのマインドが、演者・運営のみならずファンにも浸透してきている。油断はできないが、希望はある。この志を共にする……その、仲間が、うん……えっと……そう! Vtuberみんな仲間だからな! うん!
「テールネ!」
「うぉっ」
後ろから急に抱きつかれる。
「おはよ~! ナルトとなんの話?」
「頬ずりするな暑苦しい」
「ええー、いいじゃん!」
ブルネットの女――ヴァレリーは年甲斐もなく唇を尖らせる。そういう幼い仕草が似合っているのは、中身が子供だからだろうな。
「ていうかお前、パジャマのままでいいのか?」
「えー、なんで?」
「いやだって」
インターホンが鳴る。悪魔がさっさと立って通話ボタンを押した。
「やあ」
『あ、おはようございます。ニシバタです。ヴァレリーさんをお迎えに……』
「ああー! 忘れてた!」
バタバタとヴァレリーが自室に駆け上がっていく。
「だそうだよ。大変だねえ」
『はは……』
「テレビ収録だっけ?」
『はい』
Vtuberに対してテレビ側からオファーが来るようにもなった。が、トーカはバーチャル出演のみと断りを入れている。その条件を飲んで環境を整えるところにはもちろん出ているが、すべてがいきなり環境を整えられるわけではない。
そこでこの過渡期を繋いでいるのが、ヴァレリー……トーカに次ぐ登録者数を持つミチノサキだった。徐々にバーチャル出演に切り替わってきてはいるものの、今も複数のバラエティ番組のためスタジオに通っている。冠番組も持ったし、なかなか多忙だ。
今はまだ道の途上。いつかすべてバーチャルで統一できるように働きかけていく。場所にとらわれないことは、バーチャルの利点の一つであり、Vtuberの活躍の場を増やすことになるのだから。
「長くかかりそうだし上がっていくかい?」
『いえ、車でお待ちしてます』
「律儀だねえ……ま、急ぐように言っておくよ」
悪魔はインターホンを切る。とそれと同じタイミングで、離れに繋がる勝手口の方から物音がした。
「車の音が聞こえましたが、ニシバタさんですか?」
入ってきたのは胸のでかい女……ラトナと、背のでかい男、ルカ。
「ヴァレリーが収録を忘れて寝坊でな。迎えに来たのを待たせてる。お前たちは?」
「わたくしは朝の雑談配信のあと、経営会議に参加してきましたわ」
ガブガブゲームス、ガブガブイリアルの大株主にして役員のラトナは、ここの離れに新しく作った第3スタジオから会社の会議にVRで参加している。
「そうそう、テルネさんからいただいたバーチャルラウンジのアップデート案、きちんとカリームに伝えておきましたよ」
「ああ……」
カリームな。全然気にしてなかったが、あれからオタク道を極めてゲーム会社をつくってバーチャルラウンジを生み出したことは認めざるを得ない。
「悔しそうに、検討する、とか言ってました」
「あいつも大人しくなったもんだな。昔のあいつなら私がここにいると知った途端押しかけてきそうなもんなのに」
「あら、来てほしいんですか?」
「バカ言え」
俺とラトナは揃って肩をすくめる。
なんかプライドが邪魔して、俺より偉くなってからじゃないと会わないとか言ってるらしい。まあ、それならそれで頑張ってもらおうか。バーチャルラウンジを発展させて使用シーンを増やす……投資家とか企業向けに、正しいVtuberの在り方を示す……やることはたくさんあるからな。一生の仕事だぞ。それでも、トーカはその先で輝き続ける予定だがな!
……まあ、イヌビスとしてバーチャルで会うことぐらいは許すが。お互いVtuberだから、たまに共演があるんだよな……。
「ルーニャは?」
「ゲーム、配信してた」
えっ見逃してた。本当だ。くそう。……それにしてもまた深夜から長時間配信やってるな。
「この後、ぽちゃロリさんとコラボ」
いつ寝るんだ? まあ自己管理はしてるんだろうが……せっかく用意した寝室に入っていったとこ見たことないぞ。
「お前、コラボもいいけどいやめっちゃてぇてぇし見たいんだけど、それはそれとしてドラたまさんに迷惑かけるなよ? ドラたまさんにもいろいろ作業があるんだからな?」
「わかってる」
わかってるかなあ。どうもドラたまさんのことを兄貴分として慕っているようだが……それ以上の仲の良さに見えるし、モチのスタッフはやきもきしてるらしい。まあ、薔薇で造った百合の造花で何が起きることもないと思うが。
「ライブもあるんだし、体調整えておけよ」
「万全」
北方少女モチのライブも好評だ。定期的なライブが人気を呼んでいる。バーチャルで開催すれば入場制限はないから、新規のファンが行きやすいしな。リアル側の開催もまた違う空気があっていいらしいが……そっちはガチでチケットが手に入らなくて行けてない。回してくれてもいいと思うんだが、「ファンは平等」だそうだ。くそう……大きい箱でやる時はゲストで呼ばれるしなぁ……。
「遅刻遅刻ー!」
しばらく4人で机を囲んで朝食をとっていると、ドタバタとヴァレリーが階段を駆け下りてくる。こいつも都心に残してあるアパートで寝泊まりすればもっとスケジュールに余裕が出るだろうに……っていうか、こいつら本当に何が良くてうちに住むんだか。
「あ、おはよう、ラトナ、ルーニャ!」
「おはようございます」
「おはよう」
「へへ」
ヴァレリーはだらしない笑みを浮かべる。
「なんだよ?」
「いいなって思って! みんながいて楽しい! テルネもそう思うでしょ?」
「ウッ」
「ね?」
……まあ、うん。計画に協力してくれる仲間だからな、近くにいたほうが便利というか。
「ひねくれものだねぇ。いい加減認めたら?」
「う……」
……まあ学生時代を思い出すよな! うん! ……うっさい、面と向かって言うのは恥ずかしいだろ!
あとは、おひとり様だけ蚊帳の外だが……そうだな、今度イヌビスのぬいぐるみでも買って置いておこう。たぶんそれでいいと思う。
「じゃあ、行ってきます!」
ヴァレリーは玄関に向かい――振り返って言う。
「あとでバーチャルで会おうね、トーカ!」
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