EXEC Devstream #32(前)
※全編英語で会話しており、コメントもほぼ英語です。
白い空間にソファが二つ。その片方には、カジュアルな恰好をした男性アバターが一人。
「こんにちは、EXEC Devstreamの時間です。今日は初めて、バーチャルラウンジを使用してお届けしています」
上位チャット:始まった
上位チャット:今回を楽しみにしてたんだ!
上位チャット:日本から
上位チャット:ケヴィン、ちょっと痩せた?
上位チャット:HAHA、ナイスアバター
「映ってますか? ああ、コメントが見えました。どうも、EXECアシスタント・ディレクターのケヴィン・ハンソンです。本日のDevstreamはいつもとは違ったことをしようと思います。予告していた新キャラクターについての続報ですが、彼女に関するゲストをお呼びしたいと思います」
ケヴィンは胸に手を当て──大きく息を吐き出す。
「すいません、緊張しているんです。この配信に普段の何倍も人が来ているということは、この気持ちを分かってくれる人も多いと思いますが」
上位チャット:分かる
上位チャット:俺も同じ気持ちだよ!
上位チャット:待ちきれない、早くしてくれ!
上位チャット:なんで今日は実写じゃないんだ?
「それではお願いします。彩羽根トーカさんです!」
「Hello Humankind」
大きな赤いリボンを頭の後ろに下げた少女が、挨拶をしながらやってくる。
「I'm Cyberne Tooka!」
上位チャット:トーカ!!!
上位チャット:トーカ、愛してる!
上位チャット:KONNITIWA!
上位チャット:WTF!?
上位チャット:かわいい!
上位チャット:トーカ!?
「今日は大人気ゲーム、EXECの開発者ストリームにお邪魔することになりました! ケヴィンさん、よろしくお願いします!」
「オ、ア、近い、近い……」
握手をしてくるトーカに、ケヴィンは上体を引く。
上位チャット:ケヴィン、君は緊張しているみたいだ。僕と席を替わろう
上位チャット:Devstreamにも来てくれるとは思ってもいなかったよ
上位チャット:こんな日が来ることを予測していた
上位チャット:トーカ、愛してるぞ!!
上位チャット:これは本人?
上位チャット:トーカは英語ができる。本人以外ありえない
「ンッ、はい、というわけで、今日のDevstreamはいつもの開発メンバーではなく、僕とトーカさんでお届けします」
「ゲームの魅力を伝えられるように精一杯頑張りますね」
上位チャット:今日をどれだけ楽しみにしていたか
上位チャット:トーカのEXECのプレイ動画を見たかい?
上位チャット:あれはポンコツ・トーカだったね。お気に入りさ
上位チャット:俺は最新情報を知りたくて見に来たんだ。それはともかく、トーカはかわいい。
「さて先日お知らせしたように、EXECの次の追加キャラクターは初のコラボレーションキャラクターとなります。キャラクター名は、彩羽根トーカ!」
「私です!」
「世界初のバーチャルYouTuberにして、世界的に人気の彼女を我々のゲームに採用できたことはとても光栄です」
「こちらこそ、スマートフォンのアプリとのコラボはこれまで色々やってきましたけど、EXECみたいなコンソール向けにここまで本格的にやっていただくのは初めてです! ありがとうございます!」
「いえいえいえいえ、こちらが感謝するところですよ!」
上位チャット:すばらしい
上位チャット:トーカ、愛してる
上位チャット:どんな性能かだけが知りたいんだよ、早くしてくれ
上位チャット:素直になれよ
上位チャット:トーカの出ているゲームは全てやっているよ! 日本語よく分からないけど
「んんッ。話を戻しましょう。まずなぜコラボが実現に至ったかお話したいと思います。皆さん、キャラクターとコラボする時に気をつけなければいけないことは何でしょうか?」
「それは、キャラクターのデザインですね?」
「その通り。キャラクターには守らなければならないデザインがあります。しかしEXECでは主にスキン販売で収入を得ています。ということは、デザインを守るのが難しいということです」
上位チャット:確かに
上位チャット:ゲストに変な格好させるわけにはいかないしね
上位チャット:製作費も高くなりそうだ
「でも私はバーチャルYouTuberですからね!」
「トーカさんにお声をかけたところ、快く了承していただき、また協力もしていただきました。つまり、一部の方は心配されていましたが――トーカさんにもスキン販売はあるということです!」
「よっ」
ぱちぱち、とトーカは拍手する。
上位チャット:まじかよ!
上位チャット:ありえない! やった!!
上位チャット:固定スキンかと思ってたが、本当か!?
上位チャット:開発、愛してる
「ありがとうございます。では……皆さんお待ちかねのようですので、さっそくゲーム画面を表示していきましょう」
ケヴィンとトーカの間に、ゲーム画面が浮かぶ。いくつかの顔アイコンが並んだ、キャラクター選択画面。その最後に、ニッと笑うトーカの顔があった。
上位チャット:かわいい
上位チャット:夢みたいだ
上位チャット:これが見たかったんだよ!
「こちらは開発サーバーになります。リリース時に異なる点があるかもしれませんが、ご了承ください。さて、この一番最後に追加されたキャラクターが、彩羽根トーカさんです。さっそく選択してみましょう」
顔アイコンをクリックすると、トーカの3Dモデルが立ち、セリフが再生される。
『こんにちは、人類。そう、私はバーチャルですからね? 油断しちゃいけませんよ!』
「はー、いい……」
「ケヴィンさん?」
「失礼」
上位チャット:LOL
上位チャット:ケヴィン?
上位チャット:ありがとう開発
上位チャット:わかる。これはとてもいいものだ
「えー、こちらはデフォルトスキンで、表示されるのは近未来用です。そしてもうお気づきかと思います、そう、もちろん、セリフはすべて本人収録です!」
上位チャット:いいね
上位チャット:最高
上位チャット:そうこなくっちゃ
上位チャット:トーカ愛してる!!
「しかも、これはちょっとゲームを再起動しないといけないので今は紹介できませんが、英語、日本語に加え、EXECがサポートしているすべての言語で本人にボイスを収録してもらっています!」
「いやー、頑張りました!」
上位チャット:は?
上位チャット:なんだって?
上位チャット:さすがトーカだ
上位チャット:何の冗談だ?
上位チャット:トーカならこれぐらいの言語は余裕だろう
上位チャット:英語を喋るトーカもかわいい。もっと英語圏の企業はトーカに案件を!
「スキンは他のキャラクターと遜色ない量を用意しています。すべてをお見せすることはできませんが……今日はこちらを」
ササッ、とケヴィンはUIを操作する。トーカのスキン着せ替え画面に入ると、『女子高校生』を選択した。スッ、とセーラー服姿に着替えるトーカ。
「レジェンダリーのスキンです。いいでしょう、最高じゃないですか? その他は……ぜひアップデート後にご自身でお確かめください!」
上位チャット:開発は神
上位チャット:うおおおおおおおお!
上位チャット:ありがとう開発
上位チャット:かわいい!
上位チャット:課金してきたよ。いつでも来い
上位チャット:待ってくれ、これは本当か? 彼女が普段着ないような衣装だぞ。つまり何が言いたいかって言うと、開発ありがとう。
「キャラクター性能の話に移りましょう。適性武器はカタナ。パッシブスキルは『柔軟』で、ジャンプ、スライディング、パルクールの初動のスピードが増加する、新規のパッシブスキルです」
「いやー、普通の体の柔らかさだと思うんですけどね!」
「普通の人間は体を折り畳めませんから」
「人類の体は硬いんですね!」
上位チャット:カタナ! YES!
上位チャット:センパイと同じか
上位チャット:新パッシブだって!?
上位チャット:ぶっ壊れスキルの予感
上位チャット:ノー、そうじゃない。もっとトーカにふさわしいパッシブがあるはずだ!
上位チャット:地味なスキルだな
「そして、アクティブスキルは『ドア貫通』です。効果時間中、ドア属性のオブジェクトを突き抜けて移動できます。バーチャルらしいスキルだと思いませんか?」
「いやー、バーチャル芸がスキルになってしまいましたね!」
「なおドアを通り抜けるとわずかにダメージを受けますので、ドアの中に隠れ続ける、といったプレイはできませんね」
上位チャット:ドア貫通!
上位チャット:失望した
上位チャット:LOL
上位チャット:クールダウン次第だね
上位チャット:おいおい、壁も貫通させてくれよ
上位チャット:スニーキングが強そうだ
上位チャット:オーバーヒートじゃないの?
上位チャット:ヘイ、カモン! 冗談だろ? オーバーヒートは?
上位チャット:まだアルティメットがある
「さてアルティメットスキルは……先程から皆さん予想しているようですね。もちろん、我々もトーカさんのファンなので、気持ちは同じです。アルティメットスキルは――『オーバーヒート』!」
上位チャット:やったああああああ!
上位チャット:YES!
上位チャット:オーバーヒート! いいぞ!
上位チャット:バーチャルワールド大好き
上位チャット:トーカ愛してる!
「このアルティメットを発動すると、効果時間中ジャンプ力と『柔軟』の効果が強化され、わずかに体幹を強化します。もちろん、外見も変化しますよ!」
上位チャット:攻撃力は?
上位チャット:ええ、攻撃力はないのか
上位チャット:体幹!? ヤバいぞ
上位チャット:ちょっと弱いかな……でもトーカだから使うよ
上位チャット:移動しているところが見たいね
「いやー、こんなに私のこと再現してもらって、感無量です」
「スタッフにトーカファンは多かったので、開発はスムーズでした。最も難しいのは権利関係だと思っていたぐらいですよ。それもトーカさんのご厚意ですぐに解決しましたが!」
上位チャット:ありがとうトーカ
上位チャット:トーカ、愛してるぞ
上位チャット:トーカはいろんな世界に遍在するんだ
上位チャット:どのゲームでも質の高いコラボをしているから、EXECでも丁寧にやっていて嬉しいよ
「さて、ここからは実際のプレイに移りたいと思います。もちろん、操作していただくのはトーカさんです!」
「頑張ります! こういう対戦バトルロワイヤル系はあまり得意じゃないんですが、今日のために練習してきましたよ!」
「ありがとうございます。それではトーカさんにプレイしていただきましょう」
上位チャット:来たぞ!
上位チャット:やっとか
上位チャット:トーカ、がんばって!
上位チャット:初回以来プレイ動画ないけど大丈夫か?
上位チャット:Vtuberのプレイ動画はよく見ているらしいぞ
上位チャット:いつものことじゃないか
上位チャット:トーカの忙しさを考えれば、ゲストに出てくれただけでもうれしいよ
ゲーム画面とトーカだけが表示される構成になる。
「改めまして、こんにちは、人類。彩羽根トーカです。今日はね、大人気オンラインバトルロワイヤルアクションのEXECの新バージョンを先行プレイさせてもらえるということで! 張り切っていきたいと思います」
上位チャット:こんにちは!
上位チャット:トーカ、愛してる!
上位チャット:せめてアルティメットを見せてくれ
「ところで人類、私知ってるんですよ。この放送をね、EXECのことを知らないまま見にきている人もいるって。なんならインストールもまだとか?」
上位チャット:おっと
上位チャット:HAHA
上位チャット:バレてるぞ、君たち
上位チャット:今日インストールしたよ
上位チャット:新規プレイヤーが増えると嬉しい
「いいでしょう、そんな人類のためにEXECをやりたくなるような解説プレイをしていきます!」
上位チャット:いいね
上位チャット:ありがとうトーカ
上位チャット:初見への配慮ありがとう
上位チャット:これを機にプレイヤーが増えてほしいな
「EXECは不死の運命を背負った英雄たちが、最後の一人になるまで戦うバトルロワイヤルゲームです! ほら、このヴァンプおじさんとかね、義眼義手のクリムゾンさんとか、雪妖精とのハーフのスノウちゃんとか、緑の髪のスキャナーとか、魅力的なキャラクターがいっぱい! 日本的なキャラクターもいますよ、モモタロ先輩とかね!」
上位チャット:HAHA、モモタロセンパイ
上位チャット:クリムゾンはどうしてシルバーって名前じゃないんだろうな
上位チャット:いろんなキャラがいるんだな。難しそう
上位チャット:そこまで性能に差はないよ
「で、この人たちは不死なわけです。長い時間を生きているんですね。それを表現するシステムが年代ジャンプ! このゲームはバトルロワイヤルのジャンルっぽく、時間とともにマップが狭くなっていくんですが、そのたびに時代が進むようになっているんです。古代、中近世、近現代、近未来の4区分! そのたびにキャラクターの装いも変わっていくので、ちゃんと紹介できたらなと思います。お楽しみに!」
上位チャット:なるほど、興味深い
上位チャット:スキンも時代ごとだからな……目当てのスキンは課金した方が速いぞ
上位チャット:トーカの古代服はどうなるんだ?
「それではさっそく開発サーバーで、開発者の皆さんに接待されたいと思います! 私を選択してっと」
トーカを選択すると、セリフが再生される。
『推して参る! あ、推しっていうのはですね、好きは好きなんだけど独り占めしたいわけじゃなくて、その活動を応援するためにみんなと好きを共有したいとかそんな感じの――』
上位チャット:LOL
上位チャット:長いな、HAHA
上位チャット:トーカらしいセリフだ
上位チャット:これ好き
上位チャット:OSHI
「さあマッチングが終わって、スポーン位置を決めますよ」
『我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか』
トーカではない、不思議な感じのする女性のボイスが流れると、全体マップが表示される。あちこちの海岸線にたくさんのピンが建てられ、そのうちの一つをトーカが動かした。
上位チャット:ポール・ゴーギャン
上位チャット:始まった
上位チャット:いい位置じゃないか?
「この全体マップにランダムで割り当てられたポイントから、足跡みたいなのを引いていくの、『人類移動の歴史』みたいで好きですね。なるべく初期体力が欲しいので、食料のありそうな経路を通って、でも他の人とは被らないように……」
トーカは地図の上に足跡を刻む。時間経過により、マップが暗くなり──3Dの世界にトーカが降り立った。
「線引きターン終了して、スポーンしました! はい、これがデフォルトスキンの古代衣装です! 毛皮のフードがかわいいかなっと思いますが、どうですか、人類?」
緑の濃い森の中で、トーカはアバターをくるりと回す。毛皮の服を着たトーカが画面の中でキョロキョロしていた。
上位チャット:オー
上位チャット:かわいい
上位チャット:毛皮なのか
上位チャット:亜麻とかリネンの服は基本課金スキンだからね
上位チャット:どうして! どうしてズボンなんだ!
上位チャット:スノウがセクシーすぎるだけでこれが普通だろう
「さてさて、せっかく開発者さんと一緒に放送しているので、アドバイスなどもらえたらなと思うんですが、ケヴィンさん?」
「もちろんです。それではまず周辺を探索して物資を集めましょう。ああ、できれば『柔軟』の効果を見せたいので、ジャンプやスライディングをしていただけると助かります」
「わかりました! ジャンプ、スライディング、ジャンプ、スライディング」
トーカは跳ね、落下と同時にスライディングして滑り、その加速が終わらないうちに跳ねて、落下と同時にスライディングし──
「ドゥエドゥエドゥエドゥエ……」
「トーカさん?」
「あ、何でもないです。なかなか機敏に動けてる気がしますね! あ、木箱ありました。開けましょう」
上位チャット:LOL
上位チャット:DOEDOE?
上位チャット:これ違い分かる?
上位チャット:かなり早いなコレ
上位チャット:よく分からないけど早いんじゃないか?
上位チャット:バフ希望
上位チャット:コントロール上手いな
「えーと、ルーンとスリング、あと矢ですね」
「次に行きましょう、まずは剣を確保しないといけません」
「了解です!」
トーカは山の斜面をスライディングで滑りおりていく。
「次の木箱発見! ありました、ロングソード、レベル1!」
上位チャット:いいね
上位チャット:カタナ来てくれ!
上位チャット:スライディング速くないじゃないか
上位チャット:話を聞いていたか? 初速の話だぞ
上位チャット:ロングソードはいい武器だ
「ここからどうしたらいいですか? 剣を見つけたので、他のプレイヤーを倒しに行く?」
「できれば物資をもう少し集めたいですね。特に古代でしか手に入らない、ルーンとエッセンスは集めておきたいです」
「わかりました!」
上位チャット:古代で交戦は避けたいね
上位チャット:いや古代こそ戦いに行くべきだ
上位チャット:ルーンは奪えばいい
「あっ、敵! いい位置!?」
「いいですね、やりましょう!」
「スリングで投石!」
トーカは木箱を覗いて背を向けているキャラに向かって、石を投げつける。石は緩い放物線を描いて──敵の後頭部に当たった。崩れ落ちる敵。
「やった! ヘッドショット! スタン取りました!」
「距離を詰めて! トドメを刺しましょう!」
「フィニッシャー!」
『もう接着剤じゃくっつきませんよ、不死の人!』
専用のカメラに切り替わり、トーカが明るく言いながら振りかぶって剣を振るモーションが流れる。
上位チャット:YES!
上位チャット:いいぞ!
上位チャット:LOL
上位チャット:かわいい
上位チャット:スリングでヘッドショット!?
上位チャット:エイムは上手いな
「やった! 1キル取りましたよ!」
「ナイス。犠牲になったスタッフも喜んでいることでしょう」
上位チャット:スタッフ、代わってくれ
上位チャット:俺もトーカと一緒にプレイしたい
上位チャット:トーカの首が欲しい!
「EXECに登場する英雄はみんな不死の運命を背負っているので、ちょっとやそっとでは死にません。与えたダメージもすぐに回復しちゃいます。死に至る方法はただひとつ。同じ不死の運命の持ち主に剣で首をハネられて、初めて存在が滅ぶわけですね」
上位チャット:説明ありがとう
上位チャット:この設定大好き
上位チャット:ハイ……ハイラ……
上位チャット:俺はもっとシューターに寄せたほうがいいと思う
上位チャット:首を切らなきゃEXECじゃない
上位チャット:トーカの首は取り外しできるはずでは?
上位チャット:それじゃ無敵になってしまうだろう
「よしよし、お相手からアイテム回収完了。次の獲物を探して移動しましょうか」
「そうしましょう。あーっと、ちょっと失礼、しばらくお任せします」
「わかりました!」
ケヴィンの声が遠く離れていく。
「いやー、どうでしたか、人類。通常フィニッシャーのボイスは? これね、最後に勝ち残った時のボイスをね、ぜひ皆さんに聞いてほしいので! 接待されていこうと思いますよ!」
上位チャット:かわいかったぞ!
上位チャット:トーカ愛してる
上位チャット:全ボイス課金して買うよ
上位チャット:LOL
「……と、そろそろ時空嵐ですね。次のエリアに移動しましょう。今いたエリアもね、時空嵐の調子によってはまた戦場になることがあります。その時は違う時代の姿を見ることになるので、それも面白いんですよね」
上位チャット:時空嵐? へえ?
上位チャット:このシステムを俺は愛してる
上位チャット:自然破壊がよく分かるよ
「時空嵐に飲まれると、英雄は世を儚んで永遠の眠りについちゃうんですよね。つまり、どこかに棺を残してゲームオーバーです。その後、他のプレイヤーが棺を見つけるとただで物資が手に入るという感じです。さすがにそれは情けないのでちゃんと移動したい!」
上位チャット:時空嵐で死ぬ奴なんているか?
上位チャット:この配信が棺で終わったら笑うよ
上位チャット:移動能力は高そうだから大丈夫だろう
トーカは解説しつつ、マップを確認して移動していく。山を越え、時空嵐が収まると、遠くの平地で藁で作られていた家が木造に変わっていくところが見えた。
「オッケー、無事時空嵐に飲まれることなく移動できました! 時代は古代から中近世に! 出現するアイテムも変わってきますが、何よりマップにドア付きの建物が増えるのがポイントです。ドア貫通のスキルをね、うまく使っていきたいと思いますよ」
上位チャット:ようやくスキルのお披露目か
上位チャット:古代のドアは少ないから、スタートダッシュには向かないキャラだね
「でもそれより先に、服を手に入れないと! 今は古代じゃないですからね、こんな格好の人がいたら目立つでしょう? それを表す『噂話』システムっていうのがあって、一定時間時代にふさわしくない装いをしていると、マップに位置が表示されるようになってくるんですよね」
トーカは遠くに見えた町に向かって移動する。
「うーん、服、服。あの町にはあるかな? っと、あの家! 誰か入って行きましたよ!」
木造二階建ての家に、女性キャラクターがスッと入っていく。
「ご丁寧にドアまで閉めてくれたので、ここはチャンスですね! 足音を立てないように近づいて……スキル発動! ドアをスルー!」
ぬるっ、と。ゲームの中のトーカがドアを貫通して家の中に入る。
上位チャット:LOL
上位チャット:HAHAHA
上位チャット:トーカの配信でよく見る光景だ
上位チャット:俺はこれ好き
上位チャット:バグか?
上位チャット:わずかにダメージがあるな
上位チャット:これは強い
「お邪魔しまーす。よし、背中を向けて物色中! スノウさん、お命頂戴!」
木箱を前にして背を向ける青い肌の女性──スノウに斬りかかる。
「よし当てた、ダウンとった! フィニッシャー!」
何回か攻撃を当て、スノウが膝をついたところで特殊モーションに入る。
『首ぐらい取り外せないんですか、人類? ま、今回は私も同じですけどね!』
「よっし、気持ちいい! しかも相手の力を奪って剣がレベルアップ!」
上位チャット:いいぞ
上位チャット:開発は彼女に甘すぎないか?
上位チャット:フィニッシャーかわいいな
「いい感じですね。これはね、EXECのストーリー設定でもあって、英雄を倒すと相手の力を我が物にできるんです。最後の一人になって力を独り占めして願いを叶える、というのが英雄たちの目的でもありますね」
上位チャット:トーカ、ちゃんとストーリー把握しているんだな
上位チャット:知らなかったよ
上位チャット:俺はこの話を映画で知っている気がする
上位チャット:トーカ、愛してるぞ!
「とりあえず死体から物資をいただきましょう。お、服を持ってましたよ。中近世服! どうです? 日本農家の娘っぽくなったでしょう!」
トーカが昔話に出てくるような服を纏う。
上位チャット:かわいい
上位チャット:日本だ
上位チャット:デフォルトスキンでこのかわいさってマジ?
「ちなみに英雄が死ぬと、その強さに応じた光の柱が空に向かって伸びるので、長居は無用ですね。漁り終わったことですし、家から出て移動しましょう!」
トーカは今度は貫通せずにドアを開け、外へ踏み出し──次の瞬間、自動で抜刀して飛来した矢を叩き落とす。
「げ! 狙撃!? 矢避けのルーンで助かった! 逃げよう!」
上位チャット:逃げろおおおおおおお!
上位チャット:矢避けがあってラッキーだったな
上位チャット:矢避けのモーションは好き。システムはあんまり
トーカはダッシュで駆け出し、家の間を縫って移動する。
「……はー、無事逃げ切れたみたいですね。追撃が来なかったのは開発スタッフの忖度でしょうか? それにしても、こっちもいい遠距離武器が欲しいですね……とりあえずエッセンスで矢避けのルーンを再利用可能にして……ん?」
トーカが立ち止まる。
チャットウィンドウに、赤文字でメッセージが流れ始めていた。
宛先は──サーバー全体。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます