第28話 2015年 初コラボ

@cyberne_to-ka

 みなさん、バーチャルYouTuberに興味がおありで? 結構! 私も大好きなんです! だからすいません、しばらく連投させてくださいね! みんなにもっといろいろなバーチャルYouTuberを知ってもらって、推しを見つけてもらいたいので!!


@cyberne_to-ka

 それでは、まず初めに紹介するのはミチノサキちゃん! 私の次にバーチャルの世界に来てくれたバーチャルYouTuber! もうなんといってもね、かわいい! 元気だしテンション高いし顔がいい! 青薔薇のシュシュがチャームポイントですよね! でもやっぱり、おっぱいですかねえ! このボリューム! そして動画で確認してほしい揺れ! けしからん! ベルトでいろんなところ締め付けているのも、こうひとつひとつ外していきたくなりますね! ここすき! ここーすき! それから……――


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@cyberne_to-ka

 北方少女モチちゃん! 見てこの愛らしさを! そして顔の良さを! ムッとしたところの口元がキュート! フード少女っていいよね? いい(自己完結)。モチちゃんはですねー、バーチャルな北の国から動画投稿してるんですけど、お部屋の雰囲気がいいですよね! 私とかはもう真っ白な部屋で収録することが多いんですけど、モチちゃんの部屋のあったかそうな感じ、好き! 暖炉の音が実はしてるんですよ! 音量上げて聞いてみて! そしてモチちゃんといえばこの見た目でFPSが得意というのも大きな魅力! 敵に銃撃されている中、冷静にスモークの中で耐え続けるロリがどこにいるんでしょう? ここです! かわいいよモチーチカ! ……――



@cyberne_to-ka

 雨天乃ちゃいむちゃん! かわいいシトシト系の女の子! この子は別の配信プラットフォームで放送してるけど、YouTubeにアーカイブを投稿してくれてるんですよ! たすかる。なんといってもねJKですから、JKは無敵でかわいいんですよ。あとお歌もうまくて耳が溶ける。アーカイブが長い? わかった任せてちょっとまとめてくる! ……――



@cyberne_to-ka

 神望リリアちゃん! 天使なお姉さんは好きですか? 好きです! お胸も自然な感じで、いややっぱり大きくていいですね! 動きがね、すごい、分かってるって感じです。男心、くすぐられるんじゃないですか? 私はくすぐられました! あと注目してほしいのは胸だけじゃなくて髪ですね、この三つ編み、すごくきれい。これは職人芸ですよぉ! まだまだいろんな魅力が隠れてると思うんですよね! 相方のイヌビスと漫才してるところから、どんどん出てきてる感じです! そうそうリリアちゃんの所属してる会社はガブガブイリアルっていうんですけど、『The 雪山』を出したガブガブゲームスの子会社で……――



@cyberne_to-ka

 きつねたぬ姫ちゃん! お蕎麦屋さんのところの子! お蕎麦屋さんの仕込みの様子とかを教えてくれるしなんか蕎麦が打ちたくなりますよ! 動画の数は少ないですけど見て、このケモミミを! キツネ&タヌキ! 一粒で二度おいしい! あと和装もとってもかわいくてもうぜひこんな定員さんに配膳されたいって感じがしますねぇ! あとシステムも地味に凝っていてですね……――


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@cyberne_to-ka

 バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさんの、ドラたまさん! もう何も言えない! 全人類見ろ! もうね、かわいいかわいいドラゴン娘です。角とかおなかとかおなかとか、こだわりがすごい! 細かいことはいいんだよ! 推しが伸びるか伸びないかなんだ、推してみる価値はありますぜ! おじさんをすこれ!



 ◇ ◇ ◇



トーカちゃんが壊れた

 RT:@cyberne_to-ka


勢いがすごい

 RT:@cyberne_to-ka


すこれ! じゃあないんだよwwww

 RT:@cyberne_to-ka


ヤベえぞこのオタク

 RT:@cyberne_to-ka


めちゃくちゃオタクで草

 RT:@cyberne_to-ka


愛が重いよトーカちゃん

 RT:@cyberne_to-ka


中の人面白すぎでしょ

 RT:@cyberne_to-ka


ありますぜ! で自分の顔でコラ画像つくるの好き

 RT:@cyberne_to-ka


こんなにいるんだバーチャルYouTuber

 RT:@cyberne_to-ka


一緒に投稿してる画像めっちゃいいとこ切り抜いてるな

 RT:@cyberne_to-ka


北方少女とかいうの外見めっちゃ好み

 RT:@cyberne_to-ka


リリアちゃんのことを推してくれてる! ありがとう!

 RT:@cyberne_to-ka


わかりみがすごい

 RT:@cyberne_to-ka


バーチャルYouTuberのオタクのヤベェやつが紹介してくれてるけど、ミチノサキちゃんは~……――

 RT:@cyberne_to-ka



 ◇ ◇ ◇



@cyberne_to-ka

 ああああああああああああああああああああああああ!?


@cyberne_to-ka

 あああああ・・・うううう・・・・


@cyberne_to-ka

 失礼。取り乱しました。それよりも人類! ミチノサキちゃんの新作動画の予告を見てください! ゲストが来るそうですよ! この孤独なSilhouetteは……!? RT:@mitino----->>



 ◇ ◇ ◇



【スペシャルコラボ】ドラちゃんが来てくれました!【ご挨拶!】


「いえーい! みんな、見てるー!? ミチノサキだよ!」


 金髪ツインテールを青薔薇のシュシュでまとめた、際どい衣装の少女――ミチノサキが大げさに手を振る。


「今日はね! すごい企画なの! みんな最近有名なバーチャルYouTuberって知ってる? うんうん……サキ? そりゃーそうだけど! 違うんだなー! 正解者なしっ!」


 腕をバッテンにしてぴょんぴょんと跳ねる。胸も跳ねる。


「はいっ、ここでスペシャルゲストと電話がつながってまーす!」


 画面に表示されたのは大きな黒電話の受話器のイラスト。画面が分割され、片側に大きなハテナが表示される。


「もしもし、もしもーし!」

『ハッ、はァーイ!』

「ブフッ」


 電話口から緊張でひっくり返った裏声を聞いて、サキが噴き出す。


「フッフッ……ごめ、ごめーん! やり直し、やり直しで! もしもーし!」

『あっはっ、はっ、はい』

「はじめまして! 自己紹介してもらってもいい!? アレ聞きたい!」

『あっ、わかりました』


 電話口でおじさんは……息を整える。


『……スゥ……おはようございまーす。バーチャルぽちゃロリドラゴン娘Youtuberおじさんっの、ドラたまでーす』

「ンフッ!」


 聞いて、サキは再び噴き出してお腹を抱える。


「ちが、違う~! むすめじゃないでしょ!」

『あ、えっと……あー、は、はい。皇女でーす』

「語尾語尾!」

『わ、我ー、なのだぞー』

「ワレナノダゾ――ぶははは!」


 サキが笑い転げている間に、ハテナだった画像がドラゴン皇女Youtuberおじさんのものに変わる。静止画であった。しばらくしてサキの笑いがおさまり、対談に移る。


「いやー、もうサキね、バーチャル……おじさんが面白すぎて! ぜひ! 共演したいなって思ったの!」

『あっ、こ、光栄……なのだぞ』

「んふッ」

『あのーでも、ぼっ、我ぇーでよかったんですかね? 初めてのコラボの相手がおじさんで』

「ええー、面白くない? いいじゃん!」

『いや、ミチノサキさんには、アバタさんもいますしぃ……』

「えー、アバタさんとコラボするのはなんかちょっと……気まずくない?」

『あっそっ、そうなんですか……』

「嫌なわけじゃないけどさー……マネージャーだし……そんなことよりお話ししよっ! かわいーよねー、バーチャル……えっと」


 サキは言葉に詰まり――首をかしげる。


「なんて呼んだらいい?」

『あ、なんでも、お好きなように、へぇ。ぽちゃロリでも……おじさんでも、ドラたまでも』

「ドラ……ドラちゃんでいい!?」

『あーえっと、マズくないですかね、お台場? じゃないか、えっと、ロッ、六本木のほうから抗議されたり……』

「あっ、じゃあドラさまだ! なんたって皇女だもんね! ドラさま!」

『あっじゃあ、それで……』

「じゃあね、ドラちゃんもサキのこと、サキちゃんでいいよ!」

『えっ、あれ?』

「遠慮しないでよ、ドラちゃん!」

『えっと……その、サキさんで勘弁してください……なのだぞ』

「ンフッ。しょーがないなー! 勘弁しちゃうっ!」


 サキはフフンと胸を張る。


『いやまあその、ね、いくらこう……女の子同士でも、礼儀ありっていうか』

「女の子同士! フフッ、ダメだ面白い! これがドラちゃんの人気の秘訣か~! 大人気バーチャルYouTuberだもんねっ」

『いや、なんかその、すいません、全然状況についていけなくて……ていうか、自分なんてサキさんに比べたらまだまだで……』

「そんなことないよ! この動画もドラちゃん目当ての人たちで絶対人気でるから! まったくも~、ドラちゃんってば奥ゆかしくてかわいいね! 自分的なチャームポイントはどこなの~?」

『あ、お、お腹で~す』

「ンフッ、やだ、揉みたい~!」


 ケラケラと笑うサキに対して、終始おどおどとしたおじさんの受け答えが続く。


「ああ~、もうお時間! ドラちゃんドラちゃん! またこうやってお話、えっと、そう、コラボ! またコラボしてくれるかな~?」

『え、あ、い、いいとも~、なのだぞ~』

「やったやった! 言質とーった!」

『いやでも、それ以外言えなくないですかそのフリ……』

「確かにー! あっはっは! でもね、サキにも恩返しの機会が欲しいかなって!」

『あ、は、はい?』

「んふー、なんでもないっ! 今日は本当にありがとね! それじゃ、またねー!」

『あ、はい、ばいばーい』


 黒電話の受話器と、おじさんの静止画が消える。


「あー楽しかった! ということで! スペシャルゲストはドラちゃんでした! 動画概要欄にリンクがあるから、ドラちゃんの動画もぜひチェックしてね! それじゃまたねー!」



 ◇ ◇ ◇



【2015年12月13日】


「うおぉぉ……サキぽちゃてぇてぇ……ギリギリギリギリ」

「えぇ……動画見て笑顔で泣きながら歯ぎしりしてる……怖」


 そんな顔面にだってなる。


「推しの……推しと推しのコラボほど尊くて嬉しいものはない。ないが……ないがッ! おじさんの……おじさんのコラボ童貞がとられてしまったというのもまた事実なんだ……!」

「あぁ~……なんかそういうことも言ってたね」


 悪魔はのんきに言う。


「このおじさんとコラボするって。というか、なんで彼なんだい? これまでもいろいろVtuberが出てきたんだし、そういうのとコラボするという手もあったんじゃない? なのにしてこなかったのはなんでだい?」

「……前も言ったと思うが……順番ってものがあるだろ」


 初めてのVtuberとのコラボ。それだったらミチノサキちゃんとのコラボが見たいとオタクは思うはずだ。


「サキちゃんを置いて他のVtuberとコラボしたら、やっぱりサキちゃんに失礼じゃないかと思って」

「そのミチノサキが、このおじさんとコラボしたわけだけど」

「うぐぐぐ……」


 ……サキちゃんには結局まだ認知してもらってない。だからこそこのタイミングで……推しではあるけども、おじさん同士なら多少は気が楽かもしれないと、コラボしようと思っていたのに……先を越された。


「さっさとやればよかったのに」

「……ドラたまさんがバズって、登録者数が増えた余波で、トーカのチャンネルも登録者が増えて……」


 Twitterのフォロワーも爆増した。


 なんか、バズった。TwitterでいろんなVtuberの紹介を連投したら、それが。


 連投して、そのあと切り抜き動画もぶら下げて、あといつもの90秒動画に加えてVtuberを語る動画を投稿した結果……。


 ……彩羽根トーカだけが、他のVtuberの3倍ぐらいの勢いで登録者数を増やしていた。カラーリングは赤くないのに。


「たぶんいろんなVtuberへの導線を意図せず集約してしまった結果……めっちゃ登録者が増えた」


 Vtuberを紹介したかったら俺のツイートや動画にリンク貼ればそれでなんとかなる、みたいな感じで。実際そうしてるアフィリエイトブログが多い。


「とにかく、なんかすごい勢いでバズったので……キリ番突破の動画を作り続けないといけない流れになって……忙しい」


 ここにきて海外からの登録者もさらに増え、結果――予測線からすると年内に100万人突破記念動画を撮影しないと間に合わない。


 そんな中で悠長にコラボの申し入れなどしている暇はなかった。なかったが――


「それでもコラボしないかとDMは送ったんだ! 勇気を出して!」

「暇がないと言っておいてよくやるよ。で?」

「いやー恐れ多いのでー……あ、そうなんだー……って感じで有耶無耶に終わった……」


 俺に対してはそんな回答なのに、サキちゃんとはコラボしたんだな。くそう。トーカとサキちゃんの何が違うって言うんだ。……親しみやすさとか……? やばい、ちょっとへこむ。


「はっはっは。まあ、忙しくなったならいいじゃないか。君の状況もようやく面白くなってきたよ。25年近く待った甲斐があるというものさ」

「そりゃどうも」


 正確には24年8ヶ月だチクショウ。


「確かに忙しい。登録者数だけ見れば私がVtuberの中で一番人気、ということになるからな。広告やイベント出演の依頼は増えたし……大掛かりなイベントは準備にも時間がかかる」


 宣伝動画撮りました、で終わりじゃない。出演するイベントではトラブルがないよう入念な打ち合わせも必要になる。


「そこで、お前の出番だからな。私が行けないんだから。お前のせいで」

「はいはい。まかせてよ」


 リアルでの打ち合わせに、彩羽根トーカは――蓮向テルネは向かわない。中の人はとことん秘匿する。トーカはすべての仕事をバーチャルでやる。

 ……しかしスタッフ同士の打ち合わせぐらいは顔を突き合わせてやりたい、と言われた。現地のトーカ用機材スタッフだって必要だ。そこで、俺に代わって出ていくのが悪魔だ。


「……やっぱり不安だな。何かやらかしたりしないか……」

「そこは信用してくれていいよ。僕のせいで物語が面白くなくなっても嫌だからね」


 物語、か。


「……その物語も、もうほとどんと終わったようなものだな」

「ん?」

「バーチャルYouTuberの親分になり、前の世界にはいなかった、新しいVtuberを見る……それが私の目的だった」


 この活動歴、登録者数。親分のポジションに立ったことは間違いない。……いや、実際のところそっちは別にどうでもいいんだ。俺が親分じゃなくたっていい。新しい推しからの供給さえあれば。


 この世界のおじさん――ドラたまさんの起こしたバズによって、熱意あるオタクたちのVtuber界への参戦はすでに始まっている。誰かが始めれば、それを見てまた誰かが始める。そういう連鎖ができつつある。


「そうだよ、終わりだ。よかったな? いい物語だったんじゃないか? 私もあとは、このままてぇてぇを見守って余生を過ごしていくのもありかもしれない。サキぽちゃてぇてぇ」

「ちょっとちょっと。やめてよ。君、Vtuber界を率いて盛り上げていくんじゃなかったのかい?」

「……それは、言ったけどさ」


 だが、それは俺の役目なのか? ……俺にできることなのか?


 バーチャルぽちゃロリドラゴン皇女Youtuberおじさん――巷ではぽちゃロリとか、ぽちゃおじとか、ドラたまさんと呼ばれている彼は、1ヶ月も経たずにブームを巻き起こした。

 俺には4年半かかってもできなかったことだ。盛り上がりは嬉しい……しかし、敗北感もある。


「こういう結果じゃ、心のひとつやふたつ折れるだろ? もういいじゃないか」

「……それでいいのかい?」


 俺がつぶやくと――悪魔はいつになく真面目な顔をした。


「君がこの物語を始めたのは、君が欲したのはこれだけかい?」


 俺が欲したもの。


「……私は、新しいVtuberが見たい。それは叶ったじゃないか」

「それで全部かい?」

「うるさいな。そうだよ。あとはこのてぇてぇを見続けていくだけ……」


 ……見続ける。


「……見続ける?」


 そんな贅沢が……できるのか?


「……見続けられない……引退……解散……衰退……」


 消えていく輝き。失われた希望。残され思い出に沈む推しのオタク。前の世界で起こった破滅的な出来事の後は……『見続ける』なんてことはできなかった。


「……物語は、終わりじゃない」


 勘違いしていた。


 ここはまだ道の途上。バーチャルは終わらない物語。その理想に向かって進むことこそが、人生二周目の俺の使命だったのだ。


「そうだ。示さなければいけない。生まれてくる後輩たちに、バーチャルYouTuberの姿を。理想の背中を。秘密のヴェールに隠された彩羽根トーカの作る道を!」


 推しを失って嘆くオタクを一人でも減らすために。


 なりたい自分を見失う星をひとつでも救うために。


「そうだ、やるぞ、私は! ぽちゃおじがなんだ! ブームを生み出したのはたしかにおじさんかもしれないが、その土台は彩羽根トーカあってこそ! バーチャル界隈を牽引するのはこの私に任せてもらう! ――何が何でも、この物語を永遠にしてやるぞ!」


 この灯を絶やさないためなら、なんだってやってやる!


「覚悟していろオタクども……彩羽根トーカなしの、Vtuberなしの生活なんて考えられないようにしてやるからな! はっはっはっは!」

「あっ」


 悪魔がスマホの画面をこちらに向ける。


「ドラゴンおじさん、またコラボするって。今度は北方少女モチと」

「ぐわああぁぁぁぁあ!?」

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