【同時配信】番組史上初、地上波とネット同時配信。スペシャルゲストをお見逃しなく!

上位チャット:最近の歌手わからん

上位チャット:オタク、テレビ見ろ

上位チャット:オタク向けの番組が減ったから……

上位チャット:夕方……家に帰ってきて見るアニメ……

上位チャット:やめてくれ懐かしくて死ぬ

上位チャット:久しぶりに歌番組見てるなあ

上位チャット:よく聞く曲の歌手の顔初めて見たwwww

上位チャット:テレビないから配信してくれて本当助かる

上位チャット:テレビの見方講座動画作ってくれたからそれ見てテレビ買ったわ

上位チャット:CM明けっぞ

上位チャット:次だっけ?

上位チャット:キター!


「はい、では次のゲストの紹介に移りましょうか」


 CMが開けると、少しいかつい顔をした男性の司会者が、VRヘッドセットを手にして語り掛ける。


「えー次のゲストはね、今日この番組が、急にインターネットに向けて全世界同時配信とかやりだし始めやがった元凶と言っても過言じゃないですね。で、これ。何だかわかります? これかぶってやれって言うんですよ。正気じゃないねスタッフ。じゃあかぶりますか……」


上位チャット:正気じゃないwwwww

上位チャット:辛口なの面白

上位チャット:VR!


 男性がVRヘッドセットを装着すると、周囲の光景が少しだけCGっぽくなる。


「あー、はいはいはい。まあ、いつものみなさんが見てるスタジオですね。実際ね、番組の収録ってグリーンバックでやってるんで、むしろ俺が新鮮だね、放送してる画面と同じスタジオを見てるから」


上位チャット:そうなんだ

上位チャット:今時はだいたい合成だね

上位チャット:セット組むより安上がりなのかな?

上位チャット:バーチャルラウンジは無料!


「はい、というわけでゲストをお呼びしましょう。バーチャルYouTuberのユニット、『出禁のオタク』です、どうぞ」


上位チャット:きたあああああああああ

上位チャット:うおおおおおおおおお!!!

上位チャット:こんにちは!


 スタジオに設置された階段の扉から、三人のアバターが貫通して現れて階段を下りていく。


 先頭に立つのは、ギザギザの歯にワインレッドのサングラスをかけた男性。ピンクアッシュの髪と黒ジャージからは、いたるところから英字の書かれた黄色いテープが生えている。


 危険な香りのする男。彼は──


「よろしくお願いします~」


 いの一番に、おしとやかな声と物腰で頭を下げた。


上位チャット:キンちゃん!

上位チャット:相変わらずのギャップ

上位チャット:キンジ様~!

上位チャット:想像と違う声でワロタ

上位チャット:シャウトが上手い男!

上位チャット:司会だけVRゴーグルかけっぱでシュール


「ああ~、ずいぶん見た目の印象と違って丁寧なのね。まあ、おかけください」


 司会に勧められて三人が椅子に腰かける。


「えー、改めまして、『出禁のオタク』の皆さんです。それぞれ自己紹介をお願いできますか」

「はい。立入たちいり禁治キンジです」

「キンジさんね。お隣の、えーと……布団かぶってる子は?」

「アッ、そっ……」


 緑色の長い髪を、古びた布団のような柄のロングベールで被う、緑色のジャージを着た女性。


「そっ、えとっ……ハ、ハシノスミです」


上位チャット:布団wwwwww

上位チャット:スミちゃんかわいい

上位チャット:MVの衣装やん!

上位チャット:ジャージもキンちゃんと同じテープ貼っててかっこいい


「こんにちは、人類」


 そしてその隣。頭の後ろに赤い大きなリボンを下げた、桜色のジャージを着た少女。


「彩羽根トーカです!」


上位チャット:こんにちは!

上位チャット:こんにちはー!

上位チャット:キターーー!

上位チャット:トーカかわいいよトーカ

上位チャット:MVの衣装助かる

上位チャット:統一感あるぅ


「三人そろって、『出禁のオタク』です!」

「そのネーミングはどうかと思いますけどね。ええ」


上位チャット:草

上位チャット:確かにw

上位チャット:どうして三人で話し合ってその名前になったのか

上位チャット:ほぼトーカのことじゃねーか!


 自己紹介が終わると、トークタイムに移行する。


「えー、トーカさんはYouTubeで活動していて、登録者数ってやつもトップなんですよね?」

「そうですね。嬉しいことに、バーチャルYouTuberの中では一番です」

「そこの布団かぶってる子はどんなもんなんですか?」

「ハヒッ。そ、わたしは、それこそ隅っこの方の……」

「僕もスミさんも、二人足しても足元にも及ばない、まさにVtuber界の親分ですよ」

「へえー、親分。なるほどね?」


 キンジがスミをフォローするように言うと、司会の男はフムフムと頷いた。


「やっぱりアレですか、親分ともなると忙しいんですか、トーカさんは」

「いやー、そうですね、忙しいです。バーチャルなのでね、体はいくらでもあるんですけど、魂は一つなので」

「いやいや増えてる増えてる! おそろしいなバーチャル!?」


 ひょいひょいと虚空からボディを出して踊らせたり手を振らせたりするトーカに、司会はおののく。


上位チャット:トーカちゃんwwwwww

上位チャット:バーチャル芸

上位チャット:増やしすぎでしょ! ひとつ持っていくからね!

上位チャット:遠慮しないなこの魔王は笑


「えー、で、そんな三人がユニットを組んだ経緯ってどんなもんなの?」

「いやー、キンジさんの所属してる事務所のVlliardヴィリアードから楽曲の製作依頼が来たんですよ」

「へー、トーカさんはそういうお仕事もやられている?」

「仕事ではやってないですね。趣味で推しに曲を贈ることはあるんですけど」

「趣味」


上位チャット:趣味だよなあ

上位チャット:気まぐれに送り付けてるよな

上位チャット:プロ級の趣味


「Vlliardさんは私が仕事でやってるもんだと思って、キンジさん用の楽曲を依頼してきたんですよ」

「あらら」


上位チャット:Vlliardくんは業界に疎いからね……

上位チャット:いい意味で恐れ知らずだよなVlliard

上位チャット:キンちゃんを採用するような事務所だし


「いやー、忙しいし断腸の思いでお断りしようと思ったんですけど、作詞はスミちゃんに依頼したっていうじゃないですか?」


上位チャット:Vlliardwwwwwww

上位チャット:どうして

上位チャット:無邪気ムーブすぎる


「ああ、あなたが作詞なの」

「あッ、はひっ。その、他の人のを書いたことはないんですけど、自分の曲は書いてます……はい」

「キンジさんとスミちゃんの異色コラボですよ!? そうなったらもう、私もやるしかないじゃないですか!?」

「いや分かんないよ急にテンション高いな!?」

「混ざるしかないじゃないですか、このビッグウェーブに!」

「いやいやあなたが親分でしょ!? あなたと比べたら二人ともこわっぱじゃないの?」

「二人とも私の推しですよ! いいですか登録者数もそりゃあ大事だしモチベですけども大事なのは魂の輝きなんですよ! その点で言うとキンジさんなんかはあふれ出すほど輝いちゃってますしスミちゃんは押し隠した輝き、秘めた輝き、そうまさにですねダイヤモンドの原石──」


 テロップで「長々と語り始めたのでカットしました」と表示される。


上位チャット:トーカwwwwwww

上位チャット:自重しろオタクwwwwwwww

上位チャット:これがトーカちゃんなんだよなあ……

上位チャット:一般視聴者すまねえ……

上位チャット:これがVのトップの姿やぞ


「そういうわけで、気づいたら3人でユニットを組んで歌うことになってました。あっはっは」

「あーはい、なるほど」


上位チャット:司会疲れてるぞwwwww

上位チャット:どれだけ語ったんだ……

上位チャット:カットしないで


「いろいろあって実現した一曲限りのユニット、ということですね。えー今回お三方に歌ってもらう曲名は『(awaiting)』。若い人には社会に真っ向から反発する歌詞なんかが人気ですが、これもまた変わった歌詞の曲ですね。ハシノスミさん、どういう着想から作られた歌詞なんでしょうか?」

「エッ、そ、その……あの……」


 振られたスミは、びくんと首を動かしてアワアワとした。


「あの……わ、わたし、実は昔ひきこもりで」

「まあそうでしょうね」

「ふひッ」


上位チャット:そうでしょうねwwwww

上位チャット:草

上位チャット:にじみ出る引きこもり感

上位チャット:事実だししょうがないね


「えぇぇっと、でも、とッ、友達がいてぇ……引きこもってる時、それを認めてくれて……嬉しかったんです」

「引きこもっててもいいよって?」

「はい。待ってるとも言わないで、ただ側にいて普通にしてくれて……。早く立ち直ってねとか、期待してるねとか、そう言われても困る……って時期だったので。も、もちろん、いい子なんですよ、わたしが歌いたいって言ったら相談に乗ってくれて(テェテェ……)……おかげで、今のわたしがあるので……(テェテェ……)」

「ごめんなんか途中途中で呪文みたいなのが聞こえるんだけど?」

「すいませんあまりにエモなエピソードが聞けたので」


上位チャット:トーカwwwwww

上位チャット:テロップ草

上位チャット:てぇてぇ

上位チャット:出禁にしろこのオタクwwwwww

上位チャット:いい笑顔でかわいい


「これが親分とかバーチャルYouTuberはどうなってるの?」

「そこもトーカさんの魅力なんですよ」


 キンジがやわらかな声で言う。表情は悪人的な笑顔だったが。


「分からん世界だな~! もう、とにかく歌って行ってもらいましょう! スタンバイお願いします!」


上位チャット:きちゃ!

上位チャット:awaitingすき

上位チャット:CDとか初めて買ったよ。再生機器ないんだけど

上位チャット:この3人で集まって歌ってくれるのが貴重すぎる

上位チャット:ありがとうTV局


 三人はバーチャルなステージに移動する。暗く、わずかな光が差し込む空間。そこに流れ始める、やけっぱちのような力強さの曲。三人がそれぞれのパートを歌う。


「──……

 陰鬱な昼過ぎに もがいた君

 知りつつも目をそらし 知らないふり


 無理矢理目をつむり 眠り求めて

 不安から逃げている

 ……──」


上位チャット:うおおおおお!

上位チャット:かっけぇ

上位チャット:スミちゃんの声好き

上位チャット:アガる~!


「──……

 君は起きてこない 立ち上がらない 目を開かない

 誰もがそれを責めると怯えているから


 君は起きてこない 立ち向かわない 目を覚まさない

 心と体バラバラになっているから

 ……──」


上位チャット:カメラワークいい

上位チャット:トーカとキンちゃんのダンスいいな

上位チャット:アツい


「──……

 そんな君を 僕は

 なにものからも守って


 眠る君を 僕は

 動かさないし呼びかけない

 ……──」


上位チャット:かけあい好き

上位チャット:声量すげえ

上位チャット:っぱキンちゃんよ


「──……

 側にいても 心寄せても

 ただそこに在るだけのこと


 君の指先に力戻るまで

 僕は僕の道を往く


 『いつか きっと』 そんな希望おもにを捨てて

 ただ一つだけのことをする


 awaiting...


 辿りついたのが破滅だとしても

 そこに必ず僕はいる

 ……──」


上位チャット:(拍手)

上位チャット:すき

上位チャット:これスミノトってマ?

上位チャット:ノトちゃんのクソデカ感情解釈なんだよなあ

上位チャット:てえてえ

上位チャット:同時配信助かった致命傷で済んだわ

上位チャット:ノトちゃん意外と繊細なんだな……

上位チャット:テレビ買ってよかった

上位チャット:ありがとう……ありがとう……

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