第180話 何も言わずに

最後に、もう一度紙とペンを取り、一通手紙をしたためる。

ジムとジェシー、それと子供達に宛てた物だ。


内容は、至って詰まらん物さ。

別れの言葉、黙って旅立つ事への詫び、そして、再会の約束……そう言った言葉の連なりだ。

それと、ワシの書いた論文を町長とオーウェンに見せる様一言書き添えて、書き上げたその論文の上に置く。


外は未だ暗く、寝静まっておる。

「さて、そろそろ行くか」


軍帽を冠り、外套を羽織って荷物を手に取る。

まあ、荷物と言ってもほとんど中身は魔力結晶だがな。


中には先日始末したヘルマス一家いっかの物も有る。

オーウェンがケニーにヤツらのアジトだった牧場跡へ取りに行かせると、ワシの脅しが効いていたのか、ちゃんと門の前に有ったらしい。


それを、ワシとジムで適当に山分けした物だ。

まあ、魔力結晶の粒となってしまっては、どれが誰のかは分からんからな。

ホバートの青い魔力結晶以外はな。


この青の魔力結晶はジムに譲ろうとしたが、胸糞の悪い魔力結晶なんぞ要らんと、受け取らず、結局ワシが貰い受ける事にした。


それと、ゴブリン供の魔力結晶に付いては、オーウェンにどうするか尋ねられたが、ワシが倒した女王クイーンの物も含めて町に寄付する事にした。

無駄に金ばかり有っても使いようが無い。

それよりも、町が復興し発展すれば、油田の事業も早く軌道に乗る事だろう。


そして、しばし世話になった部屋を後にする。

廊下は、皆を起こさぬ様足を忍ばせて進み、そっと玄関を出る。


「世話に成った、ジム、ジェシー、バーニー、ティナ。サラバだ、また逢おう」

随分と居心地の良かったその白い木造の家に、深く一礼を済ませて馬に乗り、町の南に向け歩ませる。



町の様子は、駅馬車を護衛して辿り着いた時に比べれば、見違える様だ。

オーガや女帝エンプレス率いるゴブリンの襲撃も有ったが、町の皆がくじけず努力した賜物だな。


暫くして、ワシが錬成した土壁が見えて来る。

町長やオーウェン達が協議して、この土壁は残すと決めたらしい。

未だ、いつゴブリン供や別の外敵が来るやも知れん。

故に、敢えて崩す必要も無いと。


そして、その土壁から町の南へ抜ける為のゲートが見えて来る。

ふと、かがり火で照らされる門の横から、門番らしき人影がこちらに気付き、歩み寄って来る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る