第118話 ゴブリン・クイーン、二体

その人影は、壁の上を東に向かう。


そして、目線を東の方に向けると、巨大な影が二体。

その大きさはともかく、姿形すがたかたちには見覚えがある。

間違いない、女王クイーンだ。


一体は炎を避ける様に、東の方へ。

もう一体は、その炎を踏み消す様にこっちに向かって来る。


あの男が、これ見よがしに、壁の上を東に向かって走り出したのは、東に向かった女王クイーンは、自分が始末すると言っておるのだ。

そして、向かって来るもう一体は、ワシに任せると。


「うむ、承知した」


十四年式の空に成った弾倉を捨て、新たに弾倉を差し替える。

刻印は大と描かれたものだ。

この弾倉を使うのは、森を出て以来か。


今、眼前から向かって来るのは人では無く、まごう事無き化け物、遠慮は必要あるまい。

それに、壁からはいささか距離もある、そうそう目立つ事も無い。


「さて、いざ参る!」


あえて、女王クイーンの気を引く為に、殺気をぶつける。

あれ程の巨体、壁に近付ける分けには行かんからな。


女王クイーンの姿は、下半身が蜘蛛の様に成って居る。

その為か、先日のオーガより頭一つ分背が低く見えるが、その巨大な下半身の分、オーガより重量感がある。

実際、女王クイーンの方が重かろう。


アレが壁にぶち当たれば、まずひとたまりも無く突き崩され、ゴブリン共に雪崩れ込まれてしまう事に成る。

だが、そうは、させるモノか!


巨大な女王クイーンがワシに気付き、ガラスを引っ掻いた様な、耳障りな甲高い咆哮を上げ、向かって来る。

燃え盛る炎など、まるで意にも介して居らん。


ターン、ターン!

バン、バン、バン!


女王クイーンに従う様にはべるゴブリン共が、手にした銃を撃って来る。

思いの外、正確な射撃だが、ワシを捉える事など出来ん。


ズドン、ズドン!

ワシの放った弾丸は、ゴブリン共を数体まとめて薙ぎ払う。


だが、この大砲を以てしても、あの女王クイーンの巨体、一撃で撃ち抜けるとも思えん。

「と成れば、今一度」

ゴブリン共の銃撃を、飛び跳ねかわしつつ、左手に刀印を結んで、アモンの魔法陣を描き胸に押し当てる。


「くっ!」

一瞬、全身の筋肉に痛みが走る。

さすがに連続で三度もこの術を掛けると成れば、体に掛かる負荷は結構なものだ。

まあ、耐えられん程では無い、今のところはな、だが……明日は少々、筋肉痛に悩まされる事には成るだろうな……。


ズドン!


更に、女王クイーンの取り巻きのゴブリン共を薙ぎ払い、そして、十四年式の照星を迫りくる女王クイーンに重ね合わせ、引き金を引く。

ズドン!

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