第163話 【ジム、潜入】 石油の価値

「それで、オヤジ……じゃ無ぇ、お父さん。これから、どうするんで?」

「そうですね、取り合えず、あの生意気なホバートの野郎が、今の騒ぎを収めるのを待つとしましょう。それから、町に使者を送って炎龍をおびきき出し、子供を盾に丸腰にしてハチの巣です。ああ、そう言えば、ホバートがあの猫も中々の曲者だとか言ってましたね」


「ああ、あの猫はヤベェ。下手すると、炎龍よりもな」

「ハハハ、まさかゴダードさんまで。たかだか猫一匹ですよ。まあ、良いでしょう。なら、あの猫も一緒におびきき出して、ハチの巣にしてやりましょう。ああ、そうだ、ついでにあの生意気なホバートももう用済みです。ゴダードさん、宜しく頼みましたよ」

「ああ、任せろ」


ん?

また、外から激しい銃撃音。

だが、音は小せえ。

屋敷からは距離がある様だが、恐らくそのホバートと旦那がやり合ってるんだろうぜ。


「まったく、アレだけの手下を貸して、いつまで掛かるんですか。ホントに役立たずな男ですね」


ハッ、ホバートの野郎、組む相手を間違えたな。

まあ、同情する気も起ら無えがな。


「それにしても、オヤ……お父さん。何であの町にそこ迄、こだわるんですかい?油田ってのは、そこ迄価値の有るモンなんですかい?」

「その事ですか、当然ですよ。未だこの大陸の者で、その価値に気付いて居る者は少ないのですがね。あの銀行家のデュモンさんですら、価値に気付いちゃい無いほどだ。だが近く、魔力結晶の鉱山は枯渇する事に成りますよ。実際、既に欧州の鉱山では、取れなく成ったと聞いています、特に色付きはね。この新大陸では、未だ魔力結晶の取れる鉱山が幾つも有る、その為か危機感は薄いみたいですが、欧州むこうじゃあ、随分深刻だと言う話だ。ですから、欧州むこうでは既に、石油や石炭と言った物が利用され始めているとか」


「そんなに、ですかい?でも、魔力結晶だったら家畜を殺せば幾らでも手に入るんじゃぁ?」

「まあ、無色の魔力結晶なら、枯渇する事は無いでしょう。だが、色付と成るとそうは行かない。色付きの魔力結晶を持った家畜なんて、滅多に居るモンじゃ無い。野生の魔物を狩るにしろ、同じ事だ。もうじきに、大量生産品に色付きの魔力結晶が使われる事は無く成るでしょう。産業革命を担って来た、火を操る赤の魔力結晶なんかは特にね。その代替え品としての石油なんですよ」


ハハ、って事は、その油田を持ってる旦那は、今以上の大富豪にって事か。


「ですが……まあ、そんな事は二の次ですよ。あの町の奴等は、このヘルマス一家いっかをコケにしたんです。とても許せる事じゃ無い。私を差し置いて、よりにもよって、猫なんかに売るとは……」

ドン!と怒りに任せて、机を叩く音が聞こえる。

「まあ、いずれ、債券を売った張本人のデュモンさんにも、そのツケは払って貰いますよ。今は未だ力が足りませんが、今以上にのし上がって、いずれはね」

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