第162話 【ジム、潜入】 気付かれたか……?

そっと、部屋に近付く。

両扉の向こうから、微かに話し声が聞こえて来る。


さて、どうする?

やっぱ、蹴破るか……。

って、言っても、何処に誰が居るか分かん無えんじゃ、リスクの方が大きか。


そうなると、この扉をそっと開けて、中に……ともかく、旦那の魔法を信じるしか無え。


意を決して、左側の扉のノブに手を掛け、そっと薄く開く。

中を覗くと、正面に小男がマホガニーの机に短い脚を乗せてふんぞり返っている。

手には葉巻。

その葉巻に、あの大男、ラルフって言ったか、ヤツが無駄に装飾された馬鹿デカいライターで火を着けている。


小男の後ろに、手下の二人がライフルを手に窓の外を伺っている。


で、小男がふんぞり返る机の左に、椅子に身動きが取れ無えほど厳重に縛られ、猿轡さるぐつわまでされた、バーニーだ……。

野郎、年端も行か無え子供に手荒な事しやがって!


そしてもう一人、バーニーの左手前に、椅子に座って足を組み、馬鹿デカいコルト・ウォーカーを磨いてる男。

ヤツが、そのジャコビーなんとかって野郎か。

チッ、しかし、位置取りが悪いぜ。

ジャコビーって野郎の手前に有る棚が邪魔で、ヤツの体が半分隠れてやがる。

此処からじゃあ、組んだ足と、コルトを握った手しか見え無え。

いきなり飛び込んで、皆殺しって分けにも行か無えか。


だが、ともかく、全員こっちを向いて無え。

今だ!


さっと、部屋の中に滑り込み、手前に在る三人掛けのソファーの背に一旦身を隠す。


「ん!?」

如何どうしましたか、ゴダードさん?」

「今、誰か入って来なかったか……」

チッ、気付かれたか……?。


「誰かって誰です?もし、誰かがこの部屋に入って来たとして、私達が気付かない分けが無い……ああ、又だ。扉が開いてますよ。この牧場は昔、盗賊をしていた頃に、アジトにする為に老夫婦を騙して、二束三文で買い叩いた物なんですがね。随分と古い建物ですから、ガタが来ているのでしょうな、いつもの事です。ラルフ、閉めてきなさい」

「ヘイ、オヤジ」


「オヤジじゃあ、有りません。お父さんと呼びなさい。ヘルマス一家いっかは品行方正な実業家の一家いっかで通っているんですから、いつまでも盗賊気分じゃ有りませんよ」

「ヘイ、オヤ……じゃ無ぇ、お父さん」


大男が扉に近付いて来る。

コイツに銃を突きつけて人質交換で、バーニーを……。


いや、そんな甘いヤツ等じゃ無え。

あの小男なら、実の息子だろうが平気で見捨てる……そんな目をしてたぜ。


カチャリ、と扉を閉め、大男が小男の元に戻って行く。


さて、どうする?

ヘルマス親子やその後ろに控える手下共はともかく、あのジャコビーって野郎、なかなか感が良さそうだ。

油断は出来無えぜ……。

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