第80話 猛り狂う、オーガ

ん、そうだ!

こ奴、ゲティスバーグの炎龍殿に英雄に成って貰うのも悪く無い。

どうせ、この町は、その炎龍殿の生まれ育った町だからな。


「ジム、それと、猫のアンタ!早く逃げた方が良い。アレは手が付けられん」

さっきのレナードとかいう砦の士官か。


それと、他にもう一人、声を掛けて来る者が居る。

「クックック、そうされた方が宜しい。見た所、この町は終わりだ。あのオーガ、やたら家を壊してるでしょ。アレ何してるかお分かりですか?」

ん?意味無く暴れてる様にしか見えんがな……。

この小男何が言いたい?


「クックック、アレはですな。巣作りの材料を作っているのですよ。ああやって、木材を打ち砕いて、彼らのベットにでもするんですな。クックック、御覧なさい。あのつのの大きいのが雄です。で、小さいのが雌。此処ここを彼らのコロニーにする積りなんでしょうな。悪趣味な事だ。ハハハ」

「で、お前さんは逃げんのか?」

「クックック、私は紳士ですからな、慌てたりはしませんよ。それに、人には親切にする様に心掛けているのですよ。どうです、ドウマさん。最後のチャンスを差し上げよう。此処ここがオーガのコロニーに成れば、先ほどお買いに成った債券は、不渡り確定だ。今なら、私が、そうですな……三十万ドルで買って差し上げよう。一割でも戻ってくるんですよ。悪い話じゃないでしょう。クックック」


まったく、しつこい男だ。

まあ、手間暇かけて、この町にちょっかいを出していた分、引くに引けんのだろう。


五体のオーガのうち三体が北に、一体が南に方向を変え、一体が此方こちらに向かって来る。

そして、そのオーガが左手に見える家の屋根をひん剥く様に破壊する。


「キャャャーーー!」

刹那、悲鳴が上がる。

あれは、オーガに壊されている家の中から逃げ遅れた子供。

その、半壊した家の玄関先で、オーガに睨まれ腰を抜かしておる。


マズイ!

咄嗟に飛び出そうとした矢先。


ズドン!

ジムが銃を抜き、オーガに向かって走り出す。


グオォォーーー!

ジムが放った銃弾を左目に受け、オーガが此方こちらを睨んで雄たけびを上げる。


「ヒィッ!」

小男が、その雄叫びに小さく悲鳴を上げる。

「ド、ドウマさん。私の好意を無下むげにした事、こ、後悔しますぞ」

そう捨て台詞を残して、小男は集会所の裏口へと向かう。


オーガが雄たけびを上げている隙に、ジムが子供を抱えて走り出す。


ズドン!ズドン!

レナードと云う男も銃を抜き、ジムと対峙しているオーガを撃つ。

その銃口からは、凄まじい炎と爆音。

見覚えがある。

以前ジムに見せて貰った魔弾だ。

確か、ファイヤーブレットと言っておったか。

トロール・ベアにあれ程の深手を負わせたその魔弾も、目を庇う様に覆ったヤツの左手の甲で弾かれる。


「ちっ!まったく歯が立た無え!あんたも早く逃げな!」

レナードはそう言うと、ジムに向かうオーガの気を引く様に、銃撃を加えながら向かっていく。

中々勇敢な男では無いか。

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