第81話 錬成、45ロングコルト

さて、呆けてる暇は無い。

軍服の胸のポケットから無色の魔力結晶の欠片を取り出す。

非常用にいつも、一つここに隠し持つ様にしている物だ。


それを

右手に握りしめ、そのまま刀印を結び、その刀印でハルファスの魔法陣を素早くえがく。

右手の中に握り込んだ魔力結晶が、もぞもぞと形を変えて行くのが分る。


そして、その手を開くと、そこには錬成した45ロングコルト弾丸が。

「ハァ~、四発か……」

五発錬成した積りなんだが、どうもワシの手が小さ過ぎて、四発に成ってしまった様だ。

まあ、致し方あるまい。


「グワーッ!」

レナードがオーガに投げつけられた木材に吹き飛ばされ、建物の壁に強く打ち付けられる。

そして、そのまま意識を失う。


ズドン、ズドン、ズドン!

そのレナードの元へ向かおうとするオーガに、ジムが発砲。

オーガの気を引く。

が、そのジムとて、気を失っている子供を抱えていては、満足に身動きが取れておらん。

それに、今ので弾切れだ。


オーガがジムに迫る。


「ジム!コイツを使え!」

錬成したばかりの45ロングコルトを一発、ジムに投げて渡す。

「旦那!コイツは!?」

「ワシを信じろ!ソイツで、ヤツの頭を撃ち抜け!」


オーガが、その巨大な拳を振り上げる。


考えて居る暇が無い事を悟ったのか、ジムがポーカーのイカサマでカモられていた男とは思えん程の早業で、コルトのローディングゲートを開け、ワシが錬成した45ロングコルトを装填する。


迫りくる、オーガの拳。

だが、それに動じる事無く、ジムは冷静に狙いを定め、そして引き金を引く。


ズドーン!


眉間の真ん中を撃ち抜かれたオーガの、その巨大な頭の上半分が消し飛ぶ。

まあ、当然だろうな。

何しろ、ワシが錬成に使った魔力結晶の大きさは、ワシの十四年式の大の刻印の弾倉を錬成出来る大きさの物だ。

十四年式の弾倉は八発。

だが、今錬成した45ロングコルトは四発。

つまり、大の刻印の弾丸より、倍の威力は有ると言う事だ……いや、弾倉そのものを錬成する必要が無かった分、それに消費される筈の魔力結晶も弾丸に錬成されたとすれば、倍以上の威力に成った筈。


ドスーン!とオーガがのけ反る様に倒れる。

それに巻き込まれた家屋も倒壊したが、まあ、已むを得まい。


ジムは口をあんぐり開けて呆けておるが……放って置いても問題なかろう。

それよりも、レナードだ。

さっき、おかしな角度で壁に打ち付けられておった。


オーガに投げつけられた瓦礫の下敷きに成って、倒れている男の元に駆け寄る。

マズイ!

首が変な方向に曲がっておる。

間に合うか!

「許せよ!」

ゴキッ!

変な方向に曲がった首を取り合えず正しい位置に戻すと、すかさず、右手に刀印を作り、ウェパルの魔法陣をえがいて、その首筋に刀印の指先を押し当てる。

レナードの首筋が淡くオレンジに輝く。


ウェパルは人魚の姿をした悪魔。

傷を化膿させ死に至らしめる権能と、逆に傷を癒す権能を持つ。


「旦那、レナードは!?」

我に返ったジムが駆け寄って来て、旧友の様態を心配する。


首筋に当てた刀印を、そのまま頸動脈の位置まで滑らせ、脈を診る。

「ふぅー、心配無い。生きておる」

どうやら、ウェパルの治癒は間に合った様だ。

さすがに死んでしまっては、ワシとて生き返らせるのは不可能だからな。

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