第86話 自主独立の精神と言う分けか

「頼みと申されますと?」

「油田の事だ。石油や油田に付いての知識が有るとて、ワシは世情にうとい。とても、ワシ一人で商売など、上手く行く筈も無い。それに、ワシ自身、この大陸をあちこち見て回りたいとも思っておってな。故に、信用のおける人物にビジネスパートナーに成って貰って、ある程度経営を任せたいと考えて居る。で、それをお前さんにお願いしたいのだが」


「な、なんと、私に!?で、ですが、それ程の大事業、私などより、デュモンさん辺りにお願いした方が……」

「うむ、まあ、彼に含む所が有るわけでは無いのだがな。昨日、しばし商談しただけではな。お前さんならば、商人としても、友としても、その人となりは信用出来る。まあ、この話は急ぐ話でも無い。じっくり考えて、返事をしてくれて構わんさ」


「はぁ~、何とも、猫の旦那にそこ迄言われては、仕方有りませんな、ハハハ。今すぐ、ご返事出来る事では有りませんが、じっくり前向きに検討させて頂きますよ」



トマスと別れ、ジェシーと双子達を牧場まで送り届けた後、ジムと二人、オーウェンに自警団事務所まで呼び出される。

「ところでジム、自警団事務所と言うが、この町には保安官はおらんのか?」

「ハハ、こんな小さな町だぜ、皆顔見知りさ。悪さすれば、どいつの仕業かすぐにバレる。町の者で悪さする奴なんて、そうそう居ないさ。だから保安官が常駐するまでも無く、平和なモノさ、普段はね」

ゴブリン共や、ヘルマス一家いっかが現れる迄は、いたって平和な町だったのだろう。


「ときに、よそ者が悪さすれば?」

「ハハハ、仮によそ者が悪さすりゃ、目立つからな。町の者総出でリンチって事に成る。だから、自警団と言うわけさ」

フッ、成るほど、この厳しい大地を生き抜く上での、自主独立の精神と言う分けか。


「それで、昨日オーガ共を解き放った奴隷商とやらは?」

その問いに、ジムが肩をすぼめる。

どうやら逃げられたか……。



自警団事務所に到着すると、オーウェンと数人の男達、それと……。

「レナード、砦に帰ったんじゃ無えのか?」

「まあな、オレだって、ガキの頃エドには世話に成ったからな、葬式にも出ずに砦に戻るなんて事はし無えよ。それに、まだ休暇も残ってるしな」

何やら首筋に、濡れたタオルを当て冷やしておる様だが、昨日の後遺症の様なものは、他に見て取れない。

どうやら、ウェパルの権能は上手く効いたようだな。

首筋の痛みもその内、取れよう。


「どうした、首が痛むのか?」

「ああ、昨日はひどい目に合ったぜ、まったく……付いて無えぜ」

フッ、いや、むしろこの男は付いておる。

何しろ、首を骨折して即死せんかったのだからな。

お陰で、ワシの術が、どうにか間に合った。

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