第131話 治癒の魔道具

「ハァ~……だから、普通の魔道具じゃ無えっての、まして今から手に入れるって話でも無え。旦那の魔道具だぜ、リンドヴルムの魔力結晶に、町の南にあんな土壁を錬成する魔道具を持ってた、旦那のだぜ」

「ド、ドウマ、本当にそんな魔道具が!?」


「うむ、有る。だが、一つ条件がある」

「条件……その条件と言うのは?」

「大した事では無い。ワシはその魔道具を使っている所を人に見られたくは無い。それと、当然だが、ワシが治した事も他言無用に願いたい」


「俺も付き添ってはいかんと云う事か?」

「スマンがそう願いたい。ワシに取って重要な事なのでな」

「旦那の事は信用しても良いと思うぜ。町の買収騒ぎにしろ、オーガやゴブリンの襲撃にしろ、旦那のお陰で難を逃れたんだ。マーサの事も信用して任せたらどうだい」


オーウェンが真っ直ぐな目で、ワシを見る。

「分った……アンタに任せよう。仮に、ダメだったとしても、アンタを恨む積りは無い。マーサの事を頼む」

「うむ、承知した」


そして、ワシとベッドに横たわるマーサを残して、皆部屋から出る。


「さて、治療を始めるとするか……だが、如何どう治療したモノか……」

マーサは全身を火傷して居る。

さすがにこうなると、宙にえがいた魔法陣を患部に押し当てると言う分けにも行かん。

本来なら、床に大きな魔法陣を描いて、そこに横たえる必要が有るのだが、そうすると、当然床に魔法陣が残ってしまう。


「と、成れば、本当に即席の魔道具を作った方が早いやもしれん」

床に座り、軍服のポケットから魔力結晶の破片を二つ取り出す。

一つは一旦床に置き、もう一つを右手に握って魔法陣を描く。

手に握った、魔力結晶の破片がもぞもぞと大きく成り、一枚の羊皮紙に。


ワシが錬成した物は、何の変哲もない単なる羊皮紙。

即席の物とは言え、権能を付与する魔道具を作るには、宙に魔法陣をえがくだけと言う分けには行かんからな。


次に、軍刀の鯉口を切り、その刃に右手の人差し指を当て、指先を切る。

その滴る血で羊皮紙にウェパルの魔法陣を描く。


「うむ、魔法陣はこれで良かろう」

次に、十四年式拳銃をホルスターから抜き、その銃把グリップの底でさっき取り出した魔力結晶を叩き割る。


その米粒大に砕け散った破片を幾つか、魔法陣の上に乗せ、魔力を流す。

魔法陣がオレンジ色に輝き出し、刹那、炎を上げて灰に成る。


その灰の中、さっき乗せた魔力結晶が、そのままの形で残って居る。

ソイツを摘んで手に取る。


見掛けは単なる、魔力結晶の破片、だが溢れる魔力は、摘んだ指先から伝わって来る。

先ほど、魔法陣をえがく為に切った人差し指の傷が、跡形無く消える。

「どうやら、上手くウェパルの治癒は付与できた様だ」

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