第2話 記憶

「くっ……」

視界がはっきりせん。

耳鳴りも鳴りやまん。

一体何が起こった?


徐々に視覚が戻って来て、目の前の状況が見えてくる。

だがしかし、これは……。


密集して立ち並んでいた筈の、背の高い常緑樹の森が、幅二十メートル……いや三十メートル近いか……。

長さは……良く見えんが恐らく一キロ以上に渡って、木々が薙ぎ倒されておる。


そして目の前には、さっきまで双頭だったモノの胴体。

二つの頭と、両方の前足は、見当たらん。

吹き飛ばされている様だが……一体。


「まさか、バアルの槍か!?」

馬鹿な、確かにバアルの槍は凄まじい破壊力を持つが、これ程の物では無い。

精々、奴を稲妻で黒焦げにする程度の筈だが……。


一体、何が起こっておるのだ?

「まずは、状況の整理と把握だ」


「そもそも、ここは何処どこだ?ワシは、確か家族に看取られ、人生を終えて幽世に向かった筈だ……ん?家族?ワシの家族とは誰の事だ……思い出せん。妻子の事、親戚に知人、誰一人思い出せん……」


家族がったと言う事は覚えておるのだがな……記憶喪失か?

「いや、そうだ!一人、孫娘がったのは覚えておる。ワシの魔道の極意全てを受け継いだ孫娘が。聡明な孫娘であった。名前は確か…………いかん、やはり思い出せん。顔も曖昧にしか……だが後ろ姿は何となく思い浮かべることが出来る。矢絣の着物に袴姿、ふたひの愛らしい後ろ姿は……」

家族の事で思い出せるのは、此処ここまでか……。


「だが、身に着けた魔道は覚えておる。悪魔を召喚し、その権能を振るって戦ったことも。帝都の魔人と二つ名されておった事も」


「そう言えばワシの名は……ドウマ……名前はドウマだ。苗字は…………ハァ~、やはり思い出せんか」

どうも、ワシの家族に繋がる記憶だけは、思い出せん様だ。

唯一、孫娘の後ろ姿のみか……せめて、その孫娘の名前だけでも思い出したいものだが……。


「それにしても、喉が渇く。奴と一戦交えたせいか」

周りを見渡すと、幸い小さな池が有る。


生水は良く無いのだがな、仕方あるまい。

池の淵にしゃがみ、水をすくおうと手を伸ばすと、水面に自身の顔が映る。

「ん?何だこれは!!」

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