第3話 ケットシー

水面みなもに映るのは見慣れない姿……いや、ある意味見慣れたモノでも有るのだが、そうではない。

「猫だと!」

額から八の字に毛色が黒と白に分かれておる。

所謂いわゆるハチワレ猫の顔。

顔だけではない、落ち着いて自身の姿を確認する。


額から口元、そして胸にかけて白い毛並み。

頭部から、恐らく背中に掛けては黒い毛並み。

ん?

黒い尻尾……尻尾まであるのか……。


手足は白か。

手の形は人のそれに近いが、肉球と出し入れ自在の鋭い爪が有る。


そして、ワシは二本足であの双頭の犬と戦っておった。

見た目は猫に近いが、人の様に二本足で立ち、物を掴むことが出来る手……。


つまり、妖精猫……ケットシーか。


目に魔力を集中して、自身の放つ魔力を見る。

透明感のあるオレンジ色の凄まじいまでの魔力が、ワシの体から溢れておるのが見て取れる。

オレンジ色はともかくとして、本来、人の持つ魔力には濁りが有る。

だが、ワシが放つソレは澄んだ純粋な魔力。

魔力の結晶たる精霊の証。


「そう言う事か、だからバアルの槍があれ程迄の威力と成ったのか!」

精霊の持つ魔力と人の持つ魔力には、純然たる性質の違いが有る。

人の持つソレよりも遥かに魔法に適した魔力をもって魔法を放ったが故に、あれ程迄の威力に……。


「しかし、何故ワシがこの様な姿に?」


ワシは幽世かくりよの光に導かれて……そして、目覚めた……。

「そうだ!あの殻!」

ワシは目覚めた時に、半透明な殻の中に閉じ込めれておった。

あの殻は、もしや。


「有った!」

いささか、あの双頭の犬に踏み荒らされてはおるが、ワシを包んでおったあの殻。


一欠片ひとかけら手に取って良く見ると……やはりだ。

「これは、精霊結晶」


ワシは生前、精霊結晶は単なる魔力の塊、精霊に成り損成った魔力が、結晶化したものだと思っておったが……。

名前も、顔も思い出せない孫娘の言葉が思い出される……「お爺様、精霊結晶は精霊の卵では無いかしら。何となくですけれど、わたくしはそう思いますのよ。不思議ですわね♪」そう言っておった。


「この精霊結晶の殻は卵の殻。ワシは死んで幽世かくりよに行き、そしてケットシーとして新たな生を受けた……と言う事か」


何故、前世の記憶が中途半端なりとも有るのかは分からん。

単に、精霊として転生すると言う事は、そう言うモノなのかも知れんな。


「それにしても、ケットシーか。そう言えば、孫娘は無類の猫好きであったな。ワシがケットシーに転生したと知れば、さぞ喜ぶであろうな……。ハハハ」

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