第4話 オルトロスの魔力結晶

もう一度落ち着いて辺りを見わたす。

「ん?これは、環状列石……いやこれは結界だな」

ワシの精霊結晶たまごが有った場所を中心に、円をえがく様に岩が並べられている。

恐らく、これはワシの卵を守る為の結界の役目を果たしておったのだろう。

何者がこの様な結界を作ったかは分からんが。


だが、既にその効力は弱まり、ワシの目覚めが今一瞬遅ければ、ワシはヤツの餌食に成っておったろう。

あまり、ゾッとせん話だがな。


そう言えば、ヤツは何者だ?

「双頭の犬と言えば、ギリシャ神話のオルトロスを思い浮かべるが……ヤツもまた、今のワシ同様その様な存在か、それとも単なる奇形か……」


何が分る訳でも無いと思うが一応、ヤツの死体を確認してみるか。

「うん?尻尾が蛇に成っておる。やはり、こやつ魔物であったか。確かオルトロスも尾が蛇であったな」


胸元から上は、バアルの槍で吹き飛ばされておる。

頭部じゃ無く、胴体を狙っておれば、恐らく肉片一つ残っていなかったろう。


「何だこれは……?」

ヤツの胸元、吹き飛ばされた断面に、何やら光るものが見える。

手を伸ばし、それを肉の中から引き抜き、先ほどの池の水で血を洗い落とすと、無色透明な石。

いや、目に魔力を集中し、その石を見ると、やや濁りが有るが魔力が溢れているのが見て取れる。

「魔力結晶か」


精霊結晶ほどに純粋な魔力の結晶と言う分けでは無いが、生物の持つ魔力が結晶化したものだ。

魔導士が自身の魔力を結晶化させて人工的に精製することもできるが、此処まで大きいのは初めて見る。

天然ものだな。

こヤツの魔力が結晶化した物なのだろう。


「直径は……はぁ~、ワシ自身の縮尺が分らんでは、正確な大きさなど分からんか……」

まあ、ワシの頭より一回り小さい程、と言ったところか。


ともかく、ここが何処で在るかは分からんが、こヤツの様な魔物が存在する地と言う事か。

もっとも、偶々たまたま珍しい存在と出くわしたと言う可能性も今のところ無いでは無いが、甘い考えは持たない方が良いだろうな。

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