猫は銃と魔法の荒野を往く ~魔人と呼ばれた男、妖精猫に転生す。異世界で振るうは、天魔の権能~

春古年

<生誕と弱肉強食の森>

第1話 生誕

良い人生であった。

幼少より魔道を極め、悪魔どもを召喚し、その権能を振るって激動の人生を送って来た。

幕末から明治、大正と三つの時代を駆け抜け、帝都の魔術的かなめとして、帝都の魔人と恐れられ尊敬も得た。


そして、良い家族にも、後継者にも恵まれた。

あの優秀な孫娘に、我が持てる魔道の全てを受け継ぐことが出来ただろうか……。


光が見える。

アレが幽世かくりよの光か。

我は今一度、輪廻の輪に戻る。

次なる人生もまた……良い人生を……送りたいものだ……。




グルルルルー。

「はっ!ここは……?」

確かワシは、布団の上で家族に看取られて……そして、幽世かくりよの世界に……。


しかし何だ、この半透明な膜の様な、殻の様なモノは?

手を伸ばし触れてみる。

「固い。が、相当薄いようだな。破れなくは無さそうだが……」

どうやら、ワシはこの殻の様なモノに閉じ込められておる様だ。


グルルルルー。

ん?

背後を振り返ると、半透明の殻の向こうに、いかにも獰猛そうな双頭の犬が牙を見せ、唸り声を上げている。

ガァウ!

奴と目が合った刹那、獰猛な唸りを上げて、飛び掛かって来た。


ワシを覆う薄い殻を突き破り、すんででかわす。

奴の鋭い牙は、空を噛む。


だが、すかさず奴の爪がワシを襲う。

それもかわすが、更に執拗に攻撃は続く。


「いつまでもかわしていられんな」

反撃に出たいが、どうやらワシは丸腰だ。

小枝でも拾って、奴の目にでも突き刺すか……いや、無駄だな、奴は双頭。

四つある目の一つを潰したとしても、突破口には繋がらん。


木々が生い茂る森の中を、左右にバックステップを繰り返し、左右の爪と、左右の頭の攻撃をかわし続ける。

思いの外、身が軽い。

奴の猛攻は凄まじいが、何故か当たる気はせん。


だがしかし……。

「ともかく、なんぞ魔法を繰り出すしかあるまい」

悪魔を召喚するのには手間がかかる。

権能を直接叩き込むか。


右手の人差し指と中指を立て刀印を結び、魔力を込めバアルの魔法陣を宙にえがく。

指先に、えがいた魔法陣が浮かぶ。

準備は整った。


奴の前足の鍵爪が迫りくる。

しゃがむ様にかわし左に回り込む。

目標を捉え損なった鍵爪が、ワシの背後に有った木の幹を抉り取る。


今だ。

「貫け、バアルの槍!」

奴の左側の頭に、魔法陣を突き付け、悪魔バアルの権能、稲妻の槍を放つ。

ズドーン!

轟音が鳴り響き、閃光に視界が一瞬ホワイトアウトする。

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