第15話 潜む強敵

「折角いい具合に焼けておるのだがなぁ」

已む無くウサギの肉を一旦置いて、腰のホルスターから銃を抜き一度コッキング、弾が薬室に装弾され戦闘準備が整う。


辺りは暗く、星明りさえない。

空に星が出ていないと言う事ではない。

それだけ背の高い常緑樹が密集し、その枝葉が夜空を覆い隠している。

仮に、今が昼間だとしても、大して変わらんだろう。

焚き火替わりにしていたウィルオウィスプの光だけが、唯一の光だ。


ん?

ヒゲがチリチリする……来る!

人には到底不可能な距離を跳躍し、茂みに隠れる。

刹那、ドーーン!と、破裂音が轟き、毛が焼けそうな程高温の爆風。


一瞬、視界に移ったアレは火球。

何者かが、火球を放って来おった。


ドサッ!と重い音と共に、先ほどワシが背をもたれ掛けていた木が倒れる。

よく見ると、折れた断面が灰と成って崩れ落ちている。

あの火球が焼いたのか……いや、炎を上げて燃えているわけでは無い、一瞬で灰にしたのだ。


炎を上げて燃やす様な魔法ならば、森に燃え広がり、最悪自身まで焼いてしまう事に成りかねん。

ゆえに、一瞬で対象を灰にする程の火球なのだろう。

直撃すれば、ケットシーの体とてひとたまりもあるまい……。


さて、如何どうした物か、稲妻を放つネズミの時もそうだが、姿を見せん敵は厄介だ、しかも、あれ程の火球を放つとあれば脅威だな。


更に、今度はウィルオウィスプに向け火球が放たれる。

しめた、敵の居場所はあそこか!


すかさず、銃弾を三発叩き込む。

それとほぼ同時に火球の破裂音が轟き、その銃声をかき消す。

ウィルオウィスプが火球に吹き飛ばされ、辺りは真の暗闇に包まれる。


手応えは有った……が、向こうからワシに放たれる殺気は消えん。

この暗闇の中、敵の姿は闇に紛れて見る事は出来んかったが、火球は結構高い位置から放たれておった。

恐らくワシより、五倍は背が高い筈。

言い換えれば、結構大きなまとだ。

ワシの放った銃弾は三発、全てとは言うまいが何発かは当たったハズだが……。


それにしても、凄まじい威力だ……ウィルオウィスプの炎を、火球を持って吹き飛ばすとは……。


完全なる暗闇の中、僅かに気配だけを感じる。

敵はどう来る……ん?

まただ……また、ヒゲがチリチリする。

まさか!


咄嗟に暗闇の中を走り出す。

ケットシーの目をもってしても付近の様子を見る事も出来んが、どう言う分けか障害物に近付くとヒゲに違和感を感じ、避けて走り抜けることが出来る。

まったく、便利なヒゲだ。


ドーーン!

ワシが潜んでいた個所に、それも実に正確に火球が着弾する。


そしてさらに、暗闇の中を走り抜けるワシに向かって火球が放たれ、直ぐ後ろに着弾。

轟音と熱風が襲う。


ヤツはこの暗闇の中で、ワシが見えておる様だ!

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