第107話 サブナックの城壁

「さて、魔法陣は出来た。で、錬成に使う魔力結晶だが……」

持ってきたのは、先日のオーガのそれだが、結構な大きさがある。


まあ、今から錬成するものも、とてつも無いものだ。

それを考えれば、それなりの大きさが必要なのだが、それでも、いささか大きすぎるか。


魔力結晶を地面に置いて、軍刀を抜き放つ。

左手で刀印を結んで、アモンの魔法陣をえがき胸に押し当てる。

そして、軍刀を上段に構え、一刀に両断する。


「フッ、我ながら見事な切り口だ。まあ、半分も有れば事足りよう」


その魔力結晶を持って、えがいた巨大な魔法陣の図を崩さぬように慎重に中心に置くと、魔法陣の外に出て、魔力を流す。

強大な妖精猫ケットシーの魔力が体を駆け巡る。


錬成するものが巨大なだけに、敢えていつもの様に力を抑え付ける必要は無い。

「ほう、なかなか爽快な物だ。だが、気を付けねば、自らの力に溺れてしまうやも知れん。その必要が無い限りは、自重せねばな」


魔法陣の中央に置いた魔力結晶が白く輝き、溶け込む様に地面に吸い込まれる。

この魔法陣は、いつもえがくモノとはまた異質なモノ。


サブナックと呼ばれる獅子の頭を持つ悪魔の魔法陣だ。

そして、この悪魔の権能は……。


目の前の魔法陣の中の土が盛り上がり、高さ三メートルほどの土の壁に成る。

更にその壁は、左右に広がる様に延々と伸びて行く。


サブナックは建築に秀でた悪魔。

故に、その権能は、城郭・城壁を生み出す権能。

まあ、と言っても人が住めるほどの物は生み出せんがな。


前世では、咄嗟に防御の為に小さな土壁を盛り上げるのが精一杯であったが、ケットシーの魔力、それと、オーガの魔力結晶が有ればこそだ。

ほどなく、術が収まる。


目の前には、高さ三メートルの垂直の壁が東西に伸びておる。

恐らく、この町の南面を囲ってる筈だ。


「うむ、もう少し高く作れると思っておったが、いささか魔力結晶をケチり過ぎたか」

とは言え、これでゴブリン共が町に雪崩れ込む事は避ける事は出来よう。

もっとも、オーガ並みに大きいと云うクイーンやエンプレスとやらには通じまいが、致し方あるまい。


因みに、この反対側はスロープにしておる。

これでこの壁の上から、炎の罠を潜り抜けて来るゴブリン共を、オーウェン達に狙撃させることが出来よう。


「さて、迎え撃つ準備は万端と言ったところだが、しかし、問題はコイツをどう説明した物か……」

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