第10話 卵の殻のかけら

パーン!

と弾ける様な音と共に、山刀が砕け散り、オレンジ色の光の粒子となって消え去る。


ユニコーンの様な角を持った鹿の魔物の首を刎ね飛ばしたと同時の事だ。

「うむ、さすがに限界であったか」


この森で、ケットシーとして生まれて丁度三十日。

初日の夜にオルトロスの魔力結晶から錬成して以来、ずっと狩で使っていたからな。

已むを得んか。


鋼から錬成するか、更に高純度の魔力の結晶から錬成すれば、もっと丈夫な刀を錬成出来るのだが。

「やはり、アレを使って刀を錬成するか」


獲物を引きずりつつ環状列石キャンプ地まで戻る。



環状列石キャンプ地周辺にはテント、椅子、鍋、ランタンなど、物資が揃いつつある。

全て魔力制御の練習を兼ねた錬成の賜物だ。


錬成の材料には、その辺りにある木材や、魔物の毛皮や骨などの他に、先ほど砕け散った山刀同様、魔力結晶も使っている。

どうも、ここの生き物は、体内に必ず魔力結晶を持っている様だ。

そのお陰か、材料に困ることは無い。


今身に着けている帝国陸軍風の軍服と軍帽、それと外套も同様に錬成したものだ。

まあ、この見た目で、しかも森の中。

服など無くても良いのだが……文明人としての矜持は忘れたくないのでな。

軍服を選んだのは、前世で着慣れていたのと、この様な地では動きやすいからだ。


ただ一つ、妙な事が有る。

時折だが、魔物の体内から採取した魔力結晶に色の付いた物が見つかる時が有る。


例えば、オルトロスの次に仕留めた、六本脚の熊の体内からは、無色の物と黄色の物、二つの魔力結晶が見つかった。

他にも赤や青など色付きの魔力結晶を持った魔物もおった。


これらがどう言った性質の物かは良く判らん。

何しろ、今は未だ魔力制御の訓練中なのでな。

ともかく色付きに付いては、もうしばらく調査は保留だな。

下手に錬成に使うと事故を起こすかもしれん。

恐らくは、ヤツらが魔法を放って来た事と何か関係あるのだろう。


一旦、獲物を置くと、テントの中に保管してある在る物をひと欠片かけら手に取って外に出る。

そして、いつも魔法陣を描いている所へ。

ここは、最初の錬成の時に、草をむしり土を剥き出しにした所だ。


そこに、山刀の時と同様、再び悪魔ハルファスの魔法陣を描き、先ほどテントの中から持ち出した精霊結晶の欠片を中央に置く。

この精霊結晶は、ワシが生まれた時の卵の殻の破片。


「薄く小さい欠片だが、これならばより強靭な刀剣が錬成出来よう」


魔法陣に魔力を流す。

精霊結晶の欠片が白く輝き変形していく。

前回はナイフを錬成しようとして山刀となった。

それも踏まえて、はなからナイフサイズの刀剣を錬成する積りで魔力を制御する。


むっ!

魔力が乱れる。

ここひと月に渡り、散々錬成の訓練を繰り返してきたが……やはり、素材が精霊結晶では、なかなか難しい……。

だが、抑えて見せる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る