<ヌアザの攻防>

第85話 エドの葬儀

翌朝、未だに瓦礫に溢れるヌアザの町を、喪服が列を成す。

その先頭で、棺を担ぐ一人にジムの姿もある。

兄の棺を担ぐ、彼の胸中、おもんばかられる。


そして、その棺の後ろで、ベールを被り目頭にハンカチを当てているジェシーと、その彼女にすがる様に歩く双子。

彼らの想いは更に……。


昨日、オーガが暴れ、その傷跡痛々しい町で葬儀が行われる事に成ったのは、町長とオーウェンがもう先延ばしにする訳には行かんだろうと、音頭を取って執り行われる事になったからだ。


参列者の中には、ゴブリンやオーガの襲撃で、住む家が破壊された者も多く居ると言う。

それでも、それを置いて、葬儀に参列するのは、エドと言う男の人徳なのだろう。


そして、参列者は皆、ジェシーや双子達も含めて、そのエドが殺害された事を知らん。

恐らく、ワシとジム意外、そう疑念をいだいておる者すら居ないだろう。

だが、それで良い。


恨みと言うモノは無駄に連鎖し、悲劇を招くものだ。

つつましく生きていく上では、無用のモノ。


そのかたきは、ワシかジム、何方どちらかが人知れず撃てば良いだけの事だ。



墓地に着くと、神父が祈りの言葉をつむぎ、深く掘られた墓穴に、その棺が納められる。

彼の魂は、ワシ同様、幽世かくりよに向かい輪廻の輪に戻ったであろう。


ワシはこの世界に生まれ落ち、未だ日は浅いが、存外充実してる。

ジムを含め、駅馬車の乗客やこの町の者達との出会い。

前世では見た事も無い魔物共との闘い。

それに、ワシの知らん魔道の技術。

前世でも飽きるほど相まみえた小悪党共も含めて、なかなかどうして、楽しんでる。


前世も充実したモノで有った……まあ、記憶が定かで無いところもあるが……。

だが、前世は宮仕みやづかえしておったからな、それに比べ、今はまさに自由な物だ。

それもあって、今を楽しめておるのだろう。

この猫の姿も含めてな。


彼の来世もまた、ワシ同様、充実したものである事を祈ろう。



葬儀の後、トマスがワシの元に歩み寄ってくる。

どうやらこの後直ぐ、ヌアザをつらしい。

「昨日、デュモンさんからヌアザ再建に必要な資材の調達に付いて、相談されましてね。もっとも、ウィルバー商会うちの独占と言う訳では無いですがね。規模が大きすぎますからな。ですが、出来るだけ急いで手配させて頂きますよ」


「そうか、では宜しく頼む。あと、出来れば銃や弾薬、医薬品も急いで手配して貰えんか?」

オーガ共は退治したが、ゴブリン共の巣は未だ健在だ。

ヘルマス一家いっかとやらがこのまま、諦めるとも思えん。

ゴブリン共を使って、何ぞ仕掛けて来るかも知れんからな。


「確かに、ゴブリン共がまたいつ襲って来るか、分かりませんからな……こんなことなら、猫の旦那とジムから買ったスペンサーをヌーグに送らず、手元に残して置くべきでしたな」

「まあ、銃に関しては、ニーリーの盗賊共から調達した物が有る。だが弾薬がな」

まあ、いざと成ればワシが錬成するしか無いか……。

「承知致しました、店に戻り次第、手配いたしましょう」


「それと、もう一つ、お前さんには折り入って頼みたい事が有る」

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