第110話 苦しい、言い訳

「それで、旦那……コイツはどうやって町に戻れば良いんだ?」

壁は、延々と東西に伸び、町の南面を覆って居る。

町に入れる切れ間なぞ存在せん。


「はぁ~……まさか旦那、町の端まで回り込めって事かい?」

「うむ、その必要は無い」


地面を力強く蹴って飛び上がる。

すかさず隣に立つジムの襟首を掴んで、そのまま壁の上へ。

オーガの魔力結晶を両断する為、アモンの術を施しておる。

その強靭な脚力と、腕力を駆使すれば、大の男を一人引っ掴んで三メートル程度の壁を飛び上るなど、造作も無い。

「うわっ!」


「フッ、どうした。これしきの事で腰を抜かすなぞ」

「ハァ~……まったくオレで無くても、腰を抜かすっての!」


ちょうど、そこへ向こうから人影が近付いて来る。

「おい、お前ら、此処ここで何してる?それに……コイツはいったい……!?」

異変に気付いて確かめに来たオーウェンが、突如壁の様に現れたスロープを昇り、その向こうの三メートルほどの切り立った段差を覗き込む様にして尋ねる。


「ああ……オーウェンの旦那、ソイツは……」

ジムが先ほど話し合った口裏通り、オーウェンに説明する。

ワシが説明するよりは、この男に任せた方が上手く誤魔化せそうだ。



そして、一通りジムの話を聞き終えたオーウェンはと云うと……やはりどうも、スッキリとは納得して居らん様だ。

「ハァ~…………ドウマが黒の森で、手に入れた魔道具ねぇ……。で、その魔道具は、発動と同時に壊れて消えたと……。ドウマ、アンタは知らんだろうが、ジムという男は、子供の頃から口先だけで生まれてきた様な男でな。コイツがゲティスバーグの炎龍とかなんとか、英雄に祭り上げられて、大佐殿に上り詰めたのも、その口先のお陰だと、俺は思っている。今の話も、正直いまいち嘘くさい。だが、まあ、アンタの事は信用出来る。何しろ町にアレだけ投資してくれたんだからな。だから、今聞いた話は、そう言う事にしておこう。アンタも、話せない事も有るだろうからな」


フッ、なかなか鋭い男だ。

伊達に、自警団の団長を名乗ってらんと言う事か。

ともかく、今はこの男の器量に甘えるとしよう。

「そうして貰えると助かる」


「まあ、それに、ドウマが黒の森に入ったって話は、嘘じゃ無い。あの黒の魔力結晶。あんなモノが手に入るとすれば、この大陸広しと言えど、あそこぐらいなものだ。アレは先ず間違いなく十王の物だ。差し詰めあの森で、運良く十王同士の縄張り争いにでも出くわしたんだ。そして、その負けた十王の魔力結晶をアンタがかすめ取った。どうだい、違うか?」

さすがにワシが、その十王の一匹を仕留めたとまでは思い至らん様だな。

「フッ、まあ、そんなところだ」


「やっぱりな。で、興味本位で聞くが、アンタが持ってた黒の魔力結晶の持ち主は、どんなヤツだった?」

「うむ、巨大な蛇の姿をしておった」


「と成ると、アレはリンドヴルムの物か!で、たおした方は」

「確か、獣の姿をしておったよ」

嘘は付いて居らん。

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