第52話 動かぬ兄との再会

ジムは、女性と子供達がひとしきり泣き終わるのを待ち、三人が落ち着いたところで、しゃがんで子供達と目線を合わせる。

「やあ、バーニー、ティナ♪」

「え?」

「パパ?」

どうやら、子供達はジムに父の面影を見たのだろう。


「ハハハ、パパに似ているかい?オレはジムって言うんだ。パパの弟さ。ヨロシクな♪」


「バーニー、ティナ、ジム叔父さんに、ちゃんとご挨拶しなさい」

「バーニーです。初めましてジム叔父さん」

ブロンドのオカッパの少年が挨拶する。

続いて、同じく腰まであるブロンドの少女が、スカートの端を軽く摘んで挨拶をする。

「ティナよ。ジム叔父さん」


二人は五歳ぐらいだろうか。

双子と言っておったが、確かに髪形と服装以外はそっくりだな。


「それで……ジム、此方こちらのお子さんは?」

どうやら、ワシの事らしい……。

まあ、生後二月ふたつきも経っておらんから、間違いでは無いのだが……。

いや、むしろ赤子と言われんだけ、マシでは有る。


「ハハハ、ジェシー、口には気を付けた方が良いぜ。俺の知る限り、旦那をガキ呼ばわりした二人の男は、もうこの世には居無ぇ」

「え、旦那?」


「ハァ~、ワシはドウマと申すものだ。ジムとは旅の途中に知り合い、まあ、色々と訳あってこの町まで同行させて貰った。この度の御不幸、お悔やみ申し上げる」

目深に冠った軍帽を脱ぎ、深々と一礼する。


「えっ猫?」

「あっ猫ちゃんだ♪」

「猫ちゃんよ♪」


子供達が駆け寄って来て、ワシの両腕にしがみ付く。

「わーい♪」

「猫ちゃん♪」


「ああ……旦那、悪いんだが……」

「ハァ~、分ってる。振り払う様な無粋な真似はせん」

恐らくこの子達は、ここ数日笑顔が無かったろう。

その事を思えば、少々子供達のにえに成るくらいは、まあ……已むを得まい……。



そしてジムと二人、家の中へ通される。

「ドウマさん。さっきはお子さんだなんて、失礼な事を」

「いや、気にすることは無い、いつもの事だ」


「それと、ジェシー。町があんな有様で、宿屋が使え無えみたいなんだ。暫く旦那も……」

「勿論良いわ。子供達も喜びますわ♪」

「御厄介に成る」


一階の在る扉の前でジムは立ち止まり、躊躇ためらう様にその扉をゆっくりと開ける。

部屋の奥にはベットが有り、その上にジムと同じ赤毛の男性が横たわっている。


扉の横には、化粧台。

夫婦の寝室なのだろう。


眠る様に目を瞑っているその男の傍らに立つと、ジムは片膝を付き、その手を握る。

八年ぶりの兄弟の再会が、この様なモノに成るとは、ジムもこの男も考えてもみなかったろう。


無言のまま兄の手を握り、弔っているジムには悪いが……いや、そのジムの為にも確認せねば成らん事が有る。


町の入り口で会ったオーウェンと言う男が言っていた。

ゴブリン共の襲来が有り、その助けを呼びに行く途中雷に打たれたと。

不運な不幸と言うモノは、残念な事だが時折起こる物だ。

だが、その不運な不幸が時期悪く重なることなど、早々無い。

それも、雷でこの男は命を落とし、彼の乗っていた馬は命を落とさず何処どこぞに立ち去った。

何とも、不自然では無いか。


両の目に魔力を集中し、横たわる男に目をやる。

やはりだ!


男の胸元に、何者かの強い残留魔力が見て取れる。

この男は、運悪く雷などに撃たれたのでは無い。

魔法の攻撃を受けておる。

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