第167話 【ジム、潜入】 研ぎ澄まされた世界

「ど、ど、どう云うことです!?」

「オ、オヤジ、奴は丸腰なんかじゃ無ぇ、どこかに銃を隠し持ってやがる……間違い無ぇ……」

「な、何でそんな事が分るんですか!?」


「殺気ですぜ、ルパートの旦那。アレは、撃ち殺される奴の殺気じゃ無ぇ。撃ったヤツは撃ち返されて、まず命は無ぇ」

「な、何を馬鹿な!こっちは既に銃口を向けてるんですよ!先にハチの巣にすれば、撃ち返されることなんて有りませんよ」


「わ、分って無ぇな……ルパートの旦那。頭にでも弾が当たら無い限り、人は即死なんかし無ぇ。死ぬ前に、銃を抜いてぶっ放す事ぐらい出来ますぜ。まして、奴は炎龍。ファニングショットの名手だ。結果的に奴を殺せてたとしても、ここに居る俺達も全員……」

ジャコビーがゴクリと息をのむ。


「だ、だったら、その頭をぶち抜けば良いじゃ無いですか!」

「オ、オヤジ、頭をぶち抜かれる事が分かってて、棒立ちに成る奴なんか居無ぇ……」


「ゴ、ゴダードさん、アナタは?」

「この近さだ、他の雑魚なら頭をぶち抜くなんざぁ、容易たやすい。だが、目の前に立つ男は炎龍だ……」


「チッ!どいつもこいつも!え、炎龍さん。もし、未だ銃を持っているんなら、さっさと捨てて下さいよ!さもないと!」

突き付けたライフルの銃口で、バーニーの頭を小突く。


「おいおい、オレは丸腰だっての。妙な憶測を並べてんのはそっちだぜ。さっさと、ぶっ放したらどうだい?」

ハハ、ゲティスバーグの炎龍なんて言う、大層な二つ名は柄じゃ無えが、まあ、それなりにハッタリには成ってる様だぜ。


ん!?

階段を昇る微かな足音。

どうやら、下の連中が来たか。

慎重な足取りだが、あまり時間が無えな……。


さて、ヤルか……!


まばたき一つぜず、ヤツ等を睨みつけたまま、精神を集中させる。

オレの五感は研ぎ澄まされ、近付く足音、目の前のヤツ等の呼吸、心臓の音まで良く聞こえる。

視野が広がり、より鮮やかに、そして、ヤツ等の挙動が手に取る様に分かる。

時も止まったかのように、ゆっくりと感じられる。


この感覚だ、この感覚で、オレはどんなヤバい状況も切り抜けて来た。

どんな危険な戦場でも、どんな強敵を相手にしてもだ。

だが、今はオレの事なんざ、どうでも良い。

絶対、バーニーを助けて見せるぜ。


左手の人差し指と中指に挟んだソレ……旦那との賭けに勝って受け取った十ドル金貨。

ソイツを僅かに指を開いて落とす。


金貨は手の甲から手首、腕へと転がり、そして肘の先から床へと落ちる。


コットン!

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